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美の壺「いろり」<File 436>

<番組紹介>
白川郷で合掌造りの家を160年守り続けてきた、
いろりとは?
 ▽落語家・林家たい平さんの、
  スタイリッシュないろり初公開!
 ▽都心の家が、いろりで大変身!
 ▽いろりでパリっ!
  バケットサンドやトーストの朝食…
  「いろりライフ」を楽しむ家族の1日に密着!
 ▽いろりに欠かせない魚の形をした
  「自在鉤(じざいかぎ)」。
  留め具なしで上下する驚きの仕組みとは?!
 ▽金沢の旧家で、当主が描く灰アートの美!
 
<初回放送日:平成30(2018)年2月9日>
 
 
 
炉を切って、火を起こし、暖を取り、煮炊きをする
「いろり」。
揺らめく炎の移りゆく表情は、心も和ませてくれます。
身も心もポカポカ暖まる、
懐かしくて新しい「いろり」の魅力をご紹介します。
 

 

美の壺1.ぬくもりを伝えて

 

岐阜・白川郷の合掌造りの家の囲炉裏

 
大自然に囲まれた秘境「白川郷」は日本有数の豪雪地帯にあります。
ここで見られるのが、
平成7(1995)年にユネスコ世界遺産にも登録されたことでも有名な
急勾配の茅葺屋根を持つ「合掌造り」(がっしょうづくり)の建物です。
 
厳冬の豪雪に耐えるために工夫された茅葺屋根の「合掌造り」。
通気性、断熱性、吸音性、保温性に優れており、
屋根が約50~60度に大きく傾斜させてあるため、
雪が積もりにくいというメリットもあります。
また毎日、囲炉裏から立ち上る煙で屋根裏の部材が燻される
「燻蒸効果」(くんじょうこうか)によって、
建物の強度が増し、防虫・防カビ作用も。
人が生活を営むことによって、
住居が長持ちするという仕組みです。
 
 


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とりわけ、長い歴史を秘めた一軒は、
白川村を代表する4階建ての大型の合掌造り住宅、
国指定重要文化財の「旧遠山家民俗館」(きゅう とおやまけじゅうたく)です。
 

 
この家が建てられたのは、
今から およそ170年前の嘉永3(1850)年です。
ここではかつて、養蚕業を営む大家族が
「囲炉裏」と共に暮らしていました。
広い座敷の一角には、客をもてなすための「囲炉裏」があります。
その隣には家族が生活していた部屋があり、
そこにも「囲炉裏」があります。
 
「囲炉裏」の上には、「火棚」(ひだな)が吊られています。
「火棚」は地方によって様々な呼び方がありますが、
白川郷では「火天」(ひあま)と呼ばれています。
 
囲炉裏の炎の熱は、一気に上階に達してしまうため、
囲炉裏のある1階には暖かさが残りにくくなります。
「火棚」を設けると気流が乱れて、熱や煙を拡散し、
1階部分での滞留時間が長くなるだけでなく、
拡散した熱や煙を均等に上階に伝える働きもあります。
 
煙の拡散は木材や茅葺の保存にも役立ちます。
上昇気流で舞い上がる火の粉が
一気に茅葺にまで達することを防ぐ、防火の働きもあります。
魚や穀物など食品を乾燥・燻煙して保存する棚としても
使われていました。
 
「火棚」の形状は一般的には、
煙が抜けるよう「格子」になっていていますが、
白川郷の「火天」は、
格子状ではなく「板張り」になっています。
上階は養蚕の場として使っているため、
白川郷では囲炉裏の熱の拡散が特に重要だったのです。
 
「火天」は煙で燻され、黒光りしています。
 

 
 
遠山家の囲炉裏は今、村の人の手で守られています。
その一人、新谷円(あらたに まどか)さんに
囲炉裏に火を入れていただきました。
焚き付けには、秋のうちに拾っておいた小枝や杉葉を使います。
 
「風が下から入るように、
 木を組むように気を付けながらやってます。
 薪によっては火のつきが悪かったりするので、
 今日は火がつくかなって、心配しながらつけてます。
 今日は上手い事ついたなあと思って、ちょっと安心してます。」
 
 火が熾きると、暖かい空気が上がっていきます。
ですが暖気がすぐに天井に昇ってしまっては、
部屋全体が暖まりません。
そこで力を発揮するのが「火棚」です。
火の粉が飛び散らないための「防火」の役目と
暖かい空気を横に拡散させる働きがあります。
「火棚」の一枚の板が上昇気流を遮って、
効率良く部屋を暖めてくれるのです。
 
煙は建物の2層、3層、4層、全てに隈なく巡っていきます。
煙は、「火棚」の隙間を抜けて、2層目に上がってきました。
そして3層目に上がり、最後に最上階に到達します。
囲炉裏の煙は、もう一つ役割があると言います。
夏場、屋根に籠る湿気を取り、茅葺についた虫の駆除に役立つのです。
 
同じ白川郷の合掌造りの屋根は葺き替えて20年。
煙や煤で、真っ黒くコーティングされています。
これが茅葺の耐久性を高めているのだそうです。
合掌造りを支える囲炉裏の火。
いにしえから受け継がれてきた、絶える事のない営みです。
 
国指定重要文化財 
旧遠山家民俗館
  • 住所:〒501-5506
       岐阜県大野郡白川村御母衣125
  • 電話:05769-5-2062
  • 営業時間:10:00~16:00
  • 定 休 日 :水曜(祝日の場合は前日休)
 
 
 

美の壺2.火と寄り添う暮らし

 

林家たい平さんの「いろり」

 
東京都心のある落語家の林家たい平さんのお宅には、
スタイリッシュな囲炉裏があります。
たい平さんは囲炉裏好きが高じて、
自宅を新築する時に、
若い頃から憧れていた囲炉裏を作ってしまいました。
 
炭火がキレイに熾き(おき)てます。
前座の時に覚えたそうです。
この囲炉裏によって、
かけがえのない時間が生まれたのだとか。
 
「熾き火」
炎が出ないで燃えている状態。
着火した薪や炭の燃焼状態を指す言葉で、
時間が経って炎が落ち着き、薪や炭本体のみが
赤やオレンジに焼けている段階を指します。
 

 
 

「古民家の囲炉裏」(大塚拓司さん一家)

 
長野県佐久市は、冬は雪はほとんど降らないものの、
マイナス20度までになるという極寒の地です。
 
ここで工務店を経営する大塚拓司(おおつかたくじさん)、
妻のめぐみさん、娘さんの3人ご一家は、
3年前に古民家を移築し、囲炉裏ライフを楽しんでいます。
 
大塚さんは日本古来の建築を守りたいと、
長野県内の古民家を自らの手で解体し移築しました。
その時、打ち捨てられようとしていた
囲炉裏も受け継ぎました。
 

 
大塚さんの朝一番の楽しみは、
寝る前に灰をかけておいた炭を取り出して、
囲炉裏の準備をすることです。
埋火が息を吹き返したように、輝き始めます。
 

 
囲炉裏に火が入ると、大塚さん一家の朝食が始まります。
今朝は「洋食」です。
囲炉裏の灰の上に、団子や餅を焼くための
「ワタシ」という太い針金で作った足つきの金網を置き、
ここで、手作りのバゲットサンドを温めてます。
囲炉裏で沸かしたお湯で入れた「モーニングコーヒー」を飲みます。
 

 
大塚家では、囲炉裏は一日中、大活躍です。
冬場でも、洗濯物がカラッと乾きます。
乾燥させたミカンの皮はお風呂に入れます。
桜の薪をくべて、ナッツとチーズの燻製の作りも出来ます。

昼下がり、大塚さんがやって来たのは、実家の竹林です。
竹で一体、何をするんでしょう?
夕方6時、囲炉裏の周りに友人が集まってきました。
囲炉裏には、先程、大塚さんが切っていた竹に酒を入れて、
お燗をつけています。
今日のメインは、ニジマスの塩焼きに
山の幸をふんだんに入れたキノコ汁。
仲間と一緒に火を囲むひと時、豊かな時間が流れます。
 

 
 

美の壺3.いろりを支える名脇役

 

「自在鉤」(「工房 大五郎」木工職人・細井康司さん)

 
埼玉県蓮田で、木工職人の細井康司(ほそいこうじ)さんは、
囲炉裏に欠かせない「自在鉤(じざいかぎ)を作っています。
 
自在鉤(じざいかぎ)とは、
鍋、釜、鉄瓶などの高さを上げ下げすることにより
自由に変えることで、火力調整の出来る優れた道具です。
 
囲炉裏の上を通る梁(はり)から吊り下げ、
鍋をかけるための鉤のついた「鉤棒」と、
鉤棒を上下させ固定する「横木」とから構成されています。
「横木」には、木片に穴を空けただけのものもありますが、
縁起を担いだお目出度い装飾のものも多いです。
 
特に、魚の形が多いようです。
一説によると、
魚は水に通じるということで
火事を避けるお守りの意味があるとか、
魚には瞼がないため、
眠らないので居眠りして火を絶やさないとか、
目を離して火事を起こさないという意味があるとのことです。
 
細井さんは、手彫りにこだわっています。
鱗一枚一枚の重なりも、緻密に表現しています。
 
「魚自体も一匹一匹個性がありますので、
 同じように作ってしまっては、魚に対して失礼ですから。
 一匹一匹、違う形を考えながら作ってますね。」
 
細井さんが作ってきた魚たち。
個性豊かな自在鉤が泳いでいます。
 
  • 住所:〒349-0133  
       埼玉県蓮田市閏戸2661
  • 電話:048-765-5667
 
 

「金沢の旧家の灰アート」(喜多家・12代当主 喜多敬次さん)

 
金沢市近郊の野々市(ののいち)市には、
加賀百万石の風情を今に残す屋敷があります。
旧北国街道本町通りにある
重要文化財「喜多家住宅」(きたけじゅうたく)です。
喜多家は元は高崎姓を名乗った越前武士で、
江戸中期に禄を離れ、加賀に移住しました。
 
その後は、野々市で150年余り、「油屋」という屋号で、
代々種油屋を生業としていましたが、
明治24(1891)年の大火で焼失。
その再建の時から造り酒屋を始め、
昭和50(1975)年頃まで営んでいました。
 
令和4年3月、かつて造られていた日本酒「猩々」が、約半世紀ぶりに復活しました。
 
 
現在の建物は、再建の時に金沢市材木町から移築したものです。
加賀の町家の典型的なものとして、
昭和46(1971)年に重要文化財の指定を受けています。
 

hokuriku.aij.or.jp

 
「喜多家住宅」の玄関を入ると、広い上り縁に囲炉裏があります。
囲炉裏には、茶の湯の教養から生まれた美しい
「灰模様」が描かれています。
この囲炉裏を守るのが、12代当主の喜多敬次(きた けいじ)さんです。
平成25(2013)年に11代のお父様が亡くなった後この家を受け継ぎ、
その時、灰模様も描く事になりました。
 
この囲炉裏の灰模様は毎朝描かれます。
仏壇に毎朝手を合わせるのと同様に、
毎朝、灰が整えるのが、喜多家の慣わしだそうです。
 
「なかなか大変なんですよね。
 灰を篩うところから始まって、
 模様全部を描き終わるまでに小一時間は掛かりますね。」
 
描き初めの位置から書き終わりの位置まで順序正しく描かれ、
その技法は代々喜多家に伝わるものです。
会得するには長い時間が掛かるといいます。
 
「まあ、やってるうちにだんだんね、
 火の神様を奉るという気持ちも分かってきたような感じはします。」
 
日本の暮らしに深く根ざしてきた囲炉裏。
人々の思いと技がそこにありました。
 
 
喜多家住宅
  • 住所:〒921-8815
       石川県野々市市本町3丁目8番11号
  • 電話:076-248-1131
 

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