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美の壺「おせち料理」<File 262>

<番組紹介>

和食のプロによる、おせち「重詰め」。
特殊撮影映像で明らかになる、プロの秘技とは?
代表メニューの黒豆やタヅクリ。
名前だけでなく、調理の過程に込められた
「祈り」とは?
自分の畑で取れた収穫でおせちを作る
ロハスな農家の“お婆ちゃん”。
ウットリするような田舎暮らしの映像とともにご紹介!
(初回放送日: 平成29(2018)年12月21日放送)
 
 
「おせち(御節)」とは、元々正月だけではなく、
桃の節句や端午の節句などの行事で出される料理のことでした。
そのうち、最も大切な正月に食べる料理だけを、
「おせち」と呼ぶようになったのです。
 
おせちが一般に食べられるようになったのは、江戸時代です。
食材を積み重ねた「喰積」(くいつみ)という飾りと、
「酒の肴」(さかな)の重詰めを用意しました。
近代になってこの二つが一緒になり、重詰めのおせちに。
現代は料理や器の種類もバラエティ豊かになり、
おせち百花繚乱の時代。
しかしそこには、日本人が大切にしてきたものが、
ぎっしり詰まっているのです。
 

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美の壺1.詰めて重ねて隙間なし

 

銀座の日本料理店「六雁」総料理長・秋山能久さん


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おせちの見所は、沢山の料理が重箱一杯に盛りこまれた景色です。
但し、ただ詰めればいいというものではありません。
そこには細部まで計算しつくされた、プロの技があります。
 
そこで、銀座の人気料理店「六雁」(むつかり)
総料理長・秋山能久(あきやま よしひさ)さんに
お重の詰め方を見せて頂きました。
 
 
まず、食材を一つ一つミリ単位までにまで寸法を決めて、
切り分けます。
重箱の中の配置は、料理人の頭の中で予め出来上がっています。
気を配るのは、色の取り合わせです。
赤、青、黄、白、黒と
食材の基本的な五つの色で華やかな彩りにします。
 
最も大切なのは、隙間を作らないこと。
ぎっしり詰まった重箱は豊かさの象徴なのです。
料理を隙間無く詰めることで生まれる、幾何学的な美しさ。
この緻密な技法を「行儀盛り」と呼びます。
 
 

めでたさを重ねる

 
おせちで重箱を使うのは、
「めでたさ」を重ねるという縁起担ぎからきています。
重箱は「五段重ね」が正式とされています。
 
それぞれの段にどんな料理を詰めるかは、
地方や家によって様々なのですが、多くの場合、
「一の重」は、おせちの顔で、祝い肴(酒の肴)が中心で、
黒豆・数の子・田作りなどが盛り付けられます。

 
「二の重」は、栗きんとん・紅白かまぼこ・厚焼き玉子など、
甘い料理が中心になります。
これは、かつて砂糖が貴重だった時代のご馳走の名残りです。

 
「三の重」は、「海の幸」を表しており、
まながつおの味噌焼きや鯛の生ずしなど、魚料理が並びます。

 
「四の重」は、「山の幸」を表し、
蓮根やクワイのお煮しめが盛られます。
なお、四という数字を嫌って「与の重」(よのじゅう)と呼びます。

 
最後の「五の重」は・・・なんと空っぽ。
来年はこのお重が埋められますようにという願いながら、
空けておくのです。
そこには全てを埋め尽くさない奥ゆかしさが感じられます。
 
料理店のおせちには、
プロならではの美意識が発揮されていました。
蓋を取ってまず最初に目にする「一の重」には、
最もインパクトある盛りつけが求められます。
 

 
秋山さんの「一の重」は、
伊勢エビの殻を梅の花びらのように並べて、
その上に料理を盛りつけていきます。
卵で色づけした伊勢エビの身とそれを際立たせる鮮やかな赤が
おめでたい新春の彩りを表現していました。
重箱という器を生かしきる精緻な計算と、料理人の個性。
おせちは、日本の正月が育んだ、まさに食べるアートです。
 
  • 住所:〒104-0061
       東京都中央区銀座5丁目5−19
       銀座ポニーグループビル
  • 電話:03-5568-6266
 
 

美の壺2.料理に意味を託す

 

江戸懐石「近茶流」柳原一成さん

 
「近茶流」は、江戸時代の文化文政の頃に興ったと言われる、
柳原家家伝の割烹道です。
先代宗家の柳原敏雄さんが
家伝の懐石と包丁道を体系づけ、「近茶流」とし、
現在は、柳原一成さんが宗家として継承・伝承し続けています。
 
江戸懐石「近茶流
  • 住所:〒107-0052
       東京都港区赤坂1丁目7−4
  • 電話:03-3582-0707
 
柳原さんによると各料理には意味があります。
  • 数の子=子孫繁栄、子だくさん
  • 黒 豆=黒く、マメに働く
  • 田作り=どこでも手に入るはカタクチイワシ。
        つまり労働力がたくさんあって豊作。
  • 錦 卵=故郷に錦を飾る
  • 巻 物(伊達巻や昆布巻)=巻物(読み物)で文化。
 


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「それから、普段食べる物と違うから、
 やっぱり意味がなければいけない。
 言霊信仰的な物がなければいけない訳ですね。」
 
「言霊」とは、言葉に宿る力のことで、
声に出すと現実に影響をもたらすと信じられてきました。
神道の祝詞も、めでたく美しい言葉で綴られています。
日本では、良い言葉は幸運を、
不吉な言葉は不幸を招くと言われていて、
おせち料理の名前にもそういう考え方が表れています。
 
 

京料理「光仙本店 JINZAN」仙場才也さん

意味を与えるのは、名前だけではありません。
調理の仕方も大切です。
都内に京料理の料亭「光仙本店 JINZAN」を構え、
40年近く日本料理を作り続けてきた、
仙場才也さんに伺いました。
 
黒豆

色と艶には、いつまでも黒く、日に焼け、
マメに働けるようにという願いが託されています。
豆の表面には、部屋の風景が映り込む程の艶が出ています。
この色と艶を出すための秘密が「還元鉄」です。
「還元鉄」を入れると、
艶やかで透き通った黒の色が出るのだそうです。
艶やかな黒豆を作るには、表面のしわは禁物ですから、
煮立たせず、弱火でじっくり炊き上げます。
艶やかな黒豆を作るために、およそ20時間も掛かりました。
 
田作り

材料はカタクチイワシの稚魚です。
かつて田畑の肥料だったことから、
豊作を祈願する食材として取り入れられました。
おせちでは「尾頭付き」にこだわりますから、
頭を残すことが大事です。
尾も頭もついた「尾頭付き」には、
徹頭徹尾全うする、という意味があります。
 
叩き牛蒡

一方関西では、
「田作り」の代わりに「叩き牛蒡」が添えられます。
牛蒡を叩き、繊維を解して食べやすくしたものですが、
この力加減が大切なのです。
強く叩き過ぎると、牛蒡を切った時に割れてしまい、
非常に縁起が悪いです。
細く長く地に根を張る牛蒡には、
長寿と一族繁栄の願いを込められています。
 
飾り切り

野菜を祝事に相応しい形に飾り切りします。
 
人参

赤い色が美しい「金時人参」を
梅の花の形を作ります。
 
クワイ

細かい切り込みを入れて、松ぼっくりの形にします。
芽を残すことで「めでたい」を意味します。
このクワイの装飾は、おせち料理独特です。
 
 
なぜおせちは、ここまで意味にこだわるのかについて、
柳原さんは次のようにおっしゃっています。
「言霊信仰=シャレとは違う。
 その中に願いを込めていなければいけない。
 だから神とともに食事をしていると考えれば、
 願いということが通用してくると思うんですよ。
 そこでヘタすると、
 現代の若い方はダジャレだというかもしれないけども、
 そのぐらい生きることに大事だったんです、昔は。」
 
生きる事が、今よりもずっと困難だった時代。
健康で幸福に長生きすることは、一番の望みでした。
おせちには、人々の切なる願いが込められていたのです。
 
  • 住所:〒106-0031
       東京都港区西麻布1丁目4−5
  • 電話:03-5772-6806
 
 

美の壺3.神への感謝が「おせち」の原点

 

香取神宮「大饗祭」

千葉県・香取市にある香取神宮には、
600年以上続いているお祭があります。
11月末に行われる「大饗祭」(だいきょうさい)です。
 
「大饗祭」(だいきょうさい)は、
香取神宮の祭神・経津主神(ふつぬしのかみ)
鹿島の武甕槌大神とともに出雲を平定した際に、
功を奏した神々を労い、もてなすための宴を
開いたという古事により始まりました。
経津主神(ふつぬしのかみ)は、
神無月に国中の神々が出雲にお集いされる時も、
香取の護国のために離れません。
出雲より帰路される神々が
香取神宮に立ち寄る際にお迎えするのが
「大饗祭」です。
 
一般的にお供えは、食材を採れたままの姿で奉納しますが、
香取神宮では調理をしたものを供えます。
 
この地方の、海の幸・山の幸を調理していきます。
赤い切り身は鮭を、
台にした大根の上に、幾重にも重ねていきます。
遥かな古代を思わせる手法です。
食材をうず高く盛るのは、自然の豊かな恵みを強調する形だそうで、
神に収穫を感謝するのです。
 


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そしてお供えは、来年の豊作を祈願した後に、
氏子一同で食べます。
神様と人間が一緒に食べるというのが
お正月の料理と関係していると言います。
香取神宮の権祢宜(ごんねぎ)・佐川和浩さんに
教えていただきました。
 
「まず、神様に最初にお食べ頂いて、
 私どもが食べるということ。
 お正月の料理というのは、
 基本的にはそこの始まりというところだと思います。
 食べ物こそが人間が生きるための基本であるので
 収穫にこだわる。
 またそのために豊作をお祈りするという
 前提条件でございますので、
 そちらがあって初めて収穫に感謝するという、
 二つの大きな意味がございます。」
 
  • 住所:〒287-0017
       千葉県香取市香取1697
 
 

千葉県成田市の米作農家・湯浅恵子,久江さん

収穫に感謝し、その実りを神に捧げるという思いは、
現代にも受け継がれています。
千葉県成田市で10代続く農家・湯浅さん。
長年一緒におせちを作ってきたのは、
90歳の湯浅恵子さんと息子の妻の久江さんです。
おせちに使う食材のほとんどは、
湯浅さんの家の畑や地元で採れた物です。
湯浅家のおせちは大皿盛りで、
南天の葉を飾って、めでたさを添えています。
 
農家のおせちには、収穫の喜びが満ちています。
恵子さんは次のようにおっしゃっていました。
「こういう物が採れましたよというので、
 収穫がありましたよというので作って、
 神様へ報告するような、あれなんでしょうね。
 農家はやっぱり、
 昔ながらの自分で作った物を煮たり焼いたりでもって、
 これが昔からのあれだから、やめられない、やめられないですよね。」
 
今年も、豊かな実りを、ありがとう。
一年の始め、自然への溢れる感謝の思いを、
日本人はおせちという形に表してきたのです。
 

<参考> おせち料理

www.linderabell.com

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