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美の壺「夏の友禅」<File 346>

<番組紹介>
美しい染文様で絶大な人気を誇る友禅。
その夏の着こなしを紹介します。
絽(ろ)友禅に加えて、訪問着として活躍するのが浜ちりめん。
肌触りの良い薄い生地ながら、
華やかな光沢をもたたえる繊細な生地作りの技とは?
涼しげな水文様を自在に描き出す、
手描き&型染めの、大胆で緻密な職人技とは?
水模様の鍵は「風の表現」にあった?!
そして江戸以来の歴史を持つ「茶屋辻」の友禅からは、
味わい深い藍の濃淡の技を堪能します
 
初回放送日: 平成27(2015)年6月26日(金)
 
 
 

美の壺1.夏も優雅に 涼しげに

夏の着物「絽の友禅」(着物スタイリスト・大久保信子さん)

 
日本初の「きものスタイリスト」として現在も活躍されている、
大久保信子さんに夏の着物について伺いました。
 
着物には季節に合わせた選び方があります。
10月から5月までは裏地のついた「袷」(あわせ)の着物、
6月と9月は裏地のない「単衣」(ひとえ)の着物、
そして盛夏の7月から8月にかけては、
「単衣」に仕立てた着物の中でも
薄くて透け感のある「薄物」(うすもの)を着るのが
マナーです。
夏の着物「薄物」としては、織り方の種類によって、
「紗」(しゃ)・「絽」(ろ)・「羅」(ら)があります。
 
 
「絽」(ろ)の着物は、
「絽目」(ろめ)と呼ばれる縞状に縞状に透き間が入っていることから、
生地自体に透け感があり、通気性が良くて涼しいのが特徴です。
 

 
「絽」(ろ)は絹織物ですから、麻などとは異なり
夏の正装着(フォーマル)としても利用出来るので、
夏物生地の王道と言っても過言ではありません。
 
風が通る生地に涼やかな絵を描いた「絽の友禅」は、
着る人だけでなく、見る人の涼感を与える夏の着物です。
 

 
 

夏の着物「絽の友禅」(東京・銀座の呉服店「銀座もとじ」)

 
銀座もとじの店員・中井純子さんに
「絽」(ろ)について教えていただきました。
 
経糸2本をねじって緯糸と織り込む織り方なのが特徴的で、
 
「絽」(ろ)は、平織りとからみ織りを組合わせた織物です。
経糸2本をねじって交差させた状態で緯糸を3回以上打ち込んだ後、
左右経糸を逆に交差させる織り方です。
この時、縞状に透き間「絽目」(ろめ)が現れ、
透明感と清涼感を感じさせる質感を生み出します。
 

 
なお、「緯糸」の本数から
「三本絽」「五本絽」「七本絽」の名前が付いています。
緯糸を偶数にすると捩り目が崩れてしまい、通気性が損なわれることから、
緯糸は必ず奇数本になっています。
 
 
  • 住所:〒104-0061
       東京都中央区銀座4-8-12
  • 電話:03-5524-3222
  • 店舗情報
 
 

「浜ちりめん」(滋賀県長浜市・吉正織物


www.youtube.com

 
 
「浜ちりめん」は、滋賀県の長浜市周辺で生産される絹織物で、
京都府の「丹後ちりめん」と共に、
日本の「2大縮緬(ちりめん)生産地」として知られています。
 

 
「縮緬」(ちりめん)とは、表面にシボ感のある生地のことで、
表面の凹凸の肌触りの良さや程良いストレッチ感、生地の柔らかさ、
更にはシワになりにくいことから、昔から重宝されてきた歴史ある生地です。
 
「浜ちりめん」の特徴は何といっても、
「シボ(皺)」と呼ばれる生地表面の凹凸による表情の豊かさです。
シボは生地に美しい光沢と滑らか肌触り、染色の染まりやすさを生み出します。
「浜ちりめん」は無地ちりめんとして出荷され、
「加賀友禅」や「京友禅」にも使われている最高級品です。
 

 
 
吉正織物工場」の三代目社長の吉田和生さんに説明していただきました。
 
「浜ちりめん」は、
「経糸」に撚りがほとんどかかっていない糸を使用し、
「緯糸」には右撚り[S]と左撚り[Z]の強撚糸を交互に打ち込み、
その緯糸が元に戻る力によって、生地表面に独特の独特のシボ感が生まれます。
 
「撚糸」(ねんし)とは、
繊維がバラバラにならないように
糸に撚り(=ねじり)をかけることによって
毛羽立ちにくいひとつの束になり、糸としての強度が出て、
初めて織ったり編んだりにするための糸となります。
撚り数が多い糸のことを「強撚糸」(きょうねんし)と言います。
撚り数が多いほど縮む性質が現れるので、
表面にシボのある織物の織り糸は「強撚糸」です。
 
撚糸は強ければ強いほど鮮やかなシボが生まれるので、
「縮緬」では、1m当たり3500~3600回ぐらい撚りをかけます。
ところが生糸は硬く、糸に撚りをかけても入らないことがあります。
生糸の表面は、「セリシン」というタンパク質でコーティングされています。
この「セリシン」の部分を湿らせ膨潤させると、
生糸は軟らかくなり「撚り」が入りやすくなります。
更に、撚糸後に「セリシン」が乾くとそのまま固まって、
「撚り」を固定する働きがあります。
 
そのためにまず、生糸を柔らかくするために熱湯で40〜50分炊き、
この「セリシン」が乾かないように
絶えず水をかけながら生糸の緯糸に強い撚りをかける作業を行います。
これを「八丁撚糸」(はっちょうねんし)と言います。
この時、伊吹山の雪解け水が伏流水(ふくりゅうすい)となった
地下水を使います。
年中15℃で安定し、成分が変わらないので品質も保つことが出来るのです。
 
こうして強撚糸で織られた後、
生糸をコーティングしている「セリシン」を落とす
「精錬」(せいれん)という作業を行います。
「精錬」により、緯糸に使われた強撚糸の撚りを戻そうとする力が働き、
縮まない経糸の間で盛り上がった時に「シボ」が出来るのです。
 

 
この「精練」は、とにかく水が最も重要。
「精練」には、良質の軟水である琵琶湖の水が使われています。
この琵琶湖の大量の水を使って水洗いすることで、
「浜ちりめん」独特の光沢感と滑らかな肌触りのある「シボ」に加えて、
とても美しい純白の生地を仕上げることが出来るのです。
 
  • 住所:〒639-1134
       奈良県大和郡山市柳1丁目11番地
  • 電話:0743-52-0035
 
 
 

美の壺2.水文様に夏の風を感じる

着物コレクター・弓岡勝美さん

  

 
表参道で、きものギャラリー「壱の蔵」を経営し、
きものや帯の歴史、和文化全般に造詣が深く、
きもの研究家、きものコーディネーター、ちりめん細工作家として活躍する
弓岡勝美さんに「友禅」について教えていただきました。
 

 
「友禅」は元禄時代に京都に生まれた模様染めのことです。
当時京都の知恩院の門前に住んでいた
扇面師・宮崎友禅斎の画風を着物の意匠に取り入れて、
華麗な模様染めの分野に生かされて誕生した言われる
絵画のように色鮮やかで美しい模様の染めの着物のことです。
「友禅」という名称は、この友禅斎から名づけられました。
 
京都で作られる「京友禅」、金沢で作られる「加賀友禅」、
東京で作られる「東京(江戸)友禅」、
新潟県で作られる「十日町友禅」などがあります。

「手描き友禅」は、全ての工程を繊細で緻密な手作業によって
絵画のように描き染めていく、日本が誇る染色技法です。
季節の移り変わりにより育まれた
日本独自の繊細な色づかいにより表現された「友禅」の美しさは、
まさに日本絵画のようです。
 

 
大正時代から昭和初期にかけて、
新しいデザイン意匠の流行や化学染料の普及などにより、
「友禅」は多くの人々にまで広がり、最も華麗な時代となりました。
この時代の絵柄はとても魅力的です。
日本人は森羅万象を絵にしてきました。
「一瞬の時間を切り取っている」と弓岡さんはおっしゃいます。
 

 
 

手描き友禅(京都・老舗染匠「絹菱」)

 
 
「手書き友禅」は紙に図案を描き、
それを基に白生地へ柄を手描きしていきます。
糊を使うのが特徴で、染料のにじみを防ぐため、
動植物や風景を華やかに描くことができます。
 
京都にある老舗の染匠「絹菱」さんは、
「手描き友禅」を主体とする染帯の加工業者です。
社内には、「図案意匠部」があり、常に新しい色と柄を追求しています。
 

 
日本画家の大久保雅生さんが下絵を描きます。
自由自在な図案づくりから始められるのが友禅の醍醐味です。
描いたのは裾の波の図案。
「絹菱」の代表であり、染匠の雁瀬 博さんは、
「まず涼感が大事、いかに空間、遊び心を表現するか」とおっしゃいます。
二人で相談して、次は風を描いていました。
 
雁瀬 博さんは、京友禅の染色において匠の技を生かされて、
業界を牽引、活性化し、後継者育成にも多大な貢献し、
令和元(2019)年、
「旭日双光章」(きょくじつたんこうしょう)を受賞されました。
 

 
絹菱
  • 住所:607-8022
       京都市山科区四ノ宮小金塚8−102
  • 電話:075-591-4423
 
 

型友禅(京都・型友禅工房「辻染型紙芸」辻 廣綱さん)

友禅のもう一つの技法は「型友禅」です。
本来の友禅染めは、全て手書きで行う「手描き友禅」でしたが、
時代が下って明治時代を迎えると、
文明開化とともに化学染料が染色に導入されるようになりました。
すると廣瀬治助翁により、
型紙によって友禅模様を写し染める「写し友禅染め」が発明され、
「型友禅」として発展を遂げ、これによって大量生産が可能となり、
「友禅」は多くの人々にまで広がっていきました。
 
 
「型友禅」は、型彫職人が彫った「型紙」を使って反物を染める方法です。
図案を描き上げ、型を彫ります。
型彫り55年の型彫り職人の辻廣綱(つじ ひろつな)さんは、
着物(振袖、留袖)などを染色する為の型製作をしています。
パソコンを使用して着物の創作図案や雛型図案などを作成し、
色付けをしています。
 
一色につき一枚の型を使用するため、
一着の着物を染めるためには、何十枚から何百枚と型を使います。
また振袖や訪問着などに描かれる「絵羽模様」の場合は、
身頃・袖・衽などに模様が切れ目なく描いて
着物全体で一つの絵となる模様であるため、
上前・胸・袖などの部分ごとに型を彫る必要があります。
 
曲線の連続を小刀一つで彫っていきます。
同じ流水部分を、2枚の型紙で1つの立体感のある模様を描きます。
実際に摺ってもらうと見事に立体感が出ています。
秘密は、「にじみ」.「にじみ」で生まれる流水のほのかな陰影。
美しいですね。
 
≪参考≫ 友禅彫刻 by 西村武志さん(京都府)


www.youtube.com

 
≪参考≫ 型友禅


www.youtube.com

 
 

美の壺3.時を超えた藍を楽しむ

茶屋辻(染色家・田畑喜八さん)

 
文政年間の創業以来、手描友禅の染匠の名家として
約200年の歴史を誇る田畑家。
 
3代目・田畑 喜八(たばた きはち)は、
幸野楳嶺、竹内栖鳳に日本画を学び、
昭和30(1955)年に染織家として初めて「人間国宝」に認定されました。
この三代目喜八は、よりよい作品を作り出すために、
「田畑コレクション」と呼ばれる、古代衣裳の蒐集に力を注ぎました。
 
現・五代目の田畑喜八さんも古代裂の収集や研究を行っています。
安土桃山時代から平成まで、数百年を縦横無尽に行き来して、
お客様の要望するデザインを起こし、その人に似合うものを作り出しています。
 

 

 
 
五代目・喜八さんに、田畑家に伝わる友禅の先駆けとなった
「茶屋辻」(ちゃやつじ)を見せていただきました。
 

 
「茶屋辻」(ちゃやつじ)とは、
江戸時代に、京都の呉服商・茶屋四郎次郎が考案したとさる
麻地に、藍の濃淡で涼やかな水辺の風景を表した模様を染めた
「茶屋染め」に、摺り疋田や刺繍を加えたものです。
上流階級の武家の女性にだけ許されていた
上質な麻の生地を藍で染めた夏の正装用の着物でした。
 

 
模様を現代風にアレンジした田畑さんの作品も登場します。
「日本女性に藍が似合わない人はいない。
 どのようなご婦人でも藍という色はお似合いになる」と
田畑さんはおしゃっていました。
 
 

厳選された藍の色

田畑さんに、数万種類の藍の色見本帳を見せていただきました。
配合によって藍が無限に生まれます。
そこから生み出された色のうち、
厳選された濃・中・淡の三色、これを使い分けて行きます。
 
4つ目の色は田畑秘伝の墨状に固められた「藍棒」(あいぼう)というもの。
もう生産されていないこの「藍棒」(あいぼう)を使って、
藍の濃淡に更に幅をもたせます。
 

「全ての色に愛情を持って色を作っていく。
 自分が惚れ込む色を作り出していく」と語ります。
藍の理想郷がどこまでも続きます。
 

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