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美の壺「みんな大好き 日本の洋食」<File 431>

小山薫堂が語る「洋食の極意」とは?!
 ▽横浜生まれの「ナポリタン」に込められた
  アメリカへの憧れ
 ▽「カレーライス」のルーを入れる
  “あの器”に隠された秘密とは?!
 ▽エビ反りしていない真っすぐな「エビフライ」にみる
  和の美学!
 ▽洋食のオールスター「お子さまランチ」誕生秘話
 ▽ウスターソースは黄金の輝き!
  福井で郷土料理になった「ソースカツ丼」。
 ▽京都・祇園の舞妓(まいこ)さんが生んだ一品も!。
 
 
今日は 誰もが大好きな洋食をご紹介します。
 
 

美の壺1.器が誘う異国の情景

 

麻布十番で50年以上続く町の洋食屋「洋食 大越」


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世界中の料理を食べ尽くしてきた食通で、
人気番組「料理の鉄人」を手掛けた
放送作家で脚本家の小山薫堂(こやま くんどう)さん。
 

 
麻布十番で50年以上も続く町の洋食屋さんである
「洋食屋 大越(おおこし)」の常連です。
小山さんのお気に入りは、大越のハンバーグ定食です。
西洋のハンバーグと日本のご飯が見事に調和していて、
「肉そのものの美味しさをご飯が後から押し上げるよう」と絶賛。
 
洋食 大越
  • 住所:〒106-0044
       東京都港区東麻布3丁目4−17
  • 電話:03-3583-7054
 
 

横浜のホテルニューグランド発祥の
「スパゲッティナポリタン」


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横浜の老舗ホテル「ホテルニューグランド」の人気メニュー
「スパゲッティナポリタン」。
もっちり太麺に、たっぷりの具材のこの「ナポリタン」は、
ナポリではなく 横浜生まれの洋食です。
 
第2次世界大戦後、このホテルは進駐軍に接収されました。
この接収時代に、米兵達が茹でたスパゲッティに
塩、胡椒、トマトケチャップを和えた物を食べているのを見て、
ホテルの2代目総料理長であった入江茂忠が、
トマトソースに具材を加えて一品料理に仕上げたのが始まりでした。
 
ニューグランドの「ナポリタン」は、
今もコーヒーハウス「ザ・カフェ」でお召し上がり頂けます。
 
 
  • 住所:〒231-8520
       神奈川県横浜市中区山下町10番地
  • 電話:045-681-1841
 
 

スパゲッティナポリタンを広めた洋食屋
「米国風洋食レストラン センターグリル」

 
ホテルニューグランドのナポリタンを
受け継ぎ広めた洋食屋さんが同じ横浜にあります。
 

 
創業者の石橋豊吉(いしばしとよきち)さんは、
「ホテルニューグランド」の
初代総料理長サリー・ワイル氏が経営していた
センターホテルで働いて、
戦後すぐ、この「センターグリル」を開業しました。
「安く」「おいしく」「腹いっぱい」を目指しました。
 

 
石橋豊吉(いしばしとよきち)さんは、
戦前はフランス料理を学んでいましたが、
アメリカ文化への憧れからアメリカ風に方向転換。
その代表が、ケチャップ味の「ナポリタン」でした。
「ホテルニューグランド」の「ナポリタン」は
生トマトを使ったソースで作られていますが、
「センターグリル」では
創業時から今もケチャップを使用しています。

 
石橋さんはお皿にもこだわりました。
当時の日本では珍しかった「ステンレスの皿」です。
進駐軍の暮らしを垣間見た石橋さんにとって
ピカピカに輝く「ステンレスの食器」は、
豊かで強いアメリカの象徴でした。
 
戦争に勝つ国は、文化が素晴らしい、食生活も素晴らしいんだ。
これからはその素晴らしい文化になるためには・・・、
そんな 思いだったんじゃないかなと。(?)
 
「ステンレスは陶器の10倍の値段だけど、10倍長持ちするんだ」と、
家族を説得。
特注の皿には、「米国風洋食」の文字を刻みました。
アメリカへの憧れが詰まったステンレスの器。
70年以上経った今も現役です。
 
 
  • 住所:〒231-0063
       神奈川県横浜市中区花咲町1丁目9−3
  • 電話:045-241-7327
 
 

東京・神田神保町 カレー激戦区の人気店「欧風カレー ボンディ」

 
神田神保町は、言わずと知れた本の街。
実は、カレーの激戦区としても有名な所で、
美味しいカレー屋が軒を連ねています。
神保町でも一、二を争う人気の老舗カレー屋さんが
 
こちらのカレーは、
フランス料理のブラウンソースを応用し、
赤ワインや乳製品もふんだんに使った、
まろやかでコクのあるカレーです。
 

 
器にもこだわっており、
元々、英国の上流階級が使っていた
「グレービーボート(gravy boat)」にカレーが注がれています。
 
「グレービーボート」は、ソースやグレーヴィー・ソースを供する、
ボート形のピッチャーで、
日本には明治時代に洋食とともに持ち込まれました。
それがいつしかカレーに使われるようになり、
昭和40年代には、カレールーのパッケージに登場し、
認知度は全国区になり、今ではすっかり定番になりました。
魔法のランプのような形が異国情緒を誘います。

英国流なら、「レードル」と呼ばれるオタマですくいますが、
そこは「日本の洋食」。
豪快な一気がけをしたり、
ソースだったりお肉だったりを1杯ずつ取ってかけたり・・・、
大体、この2点が主流にはなりますが、
中には、ごはんをカレーに付けて食べる人も・・・。
自由な発想が洋食の世界を広げてきました。
 
 
  • 住所:〒101-0051
       東京都千代田区神田神保町2-3 
       神田古書センタービル2F
  • 電話:03(3234)2080
 
 

美の壺2.洋食という名のオリジナル

 

まっすぐ伸びたエビフライが人気の洋食屋「洋食屋 七條」

東京・神田のオフィス街に店を構える洋食屋さん「洋食屋 七條」。
人気のランチメニューは「エビフライ」。
ただ美味しいだけではありません。
まっすぐ伸びて、天を指している尻尾がファンを引き付けます。
 
エビは大きめで、冷凍のものを使っています。
「実は、敢えてそうしているんです。
 プチ贅沢な感じということで、
 冷凍エビだと原価も抑えられますし。
 でも安いからこそ、手間をかける」と七條さん。
 
丸まらずにまっすぐに揚げるために、
まずエビの腹に切り込みを入れて伸ばします。
衣をつける時にも一工夫。
普通は一度のところを、敢えて二度づけしていきます。
一度づけだとまだエビの曲がる力の方が強いですが、
もう一回つけることによって、
エビがよりまっすぐ、キレイに揚がるのだそうです。
そしてクライマックスは盛りつけです。
より豪華に見えるように、
エビの尻尾を頂点とした美しい二等辺三角形に盛りつけます。
 
 
洋食屋 七條
  • 住所:〒101-0047
       東京都千代田区内神田1丁目15−7
  • 電話:03-5574-8861
 
 

お子様ランチ発祥の地・日本橋三越の食堂「ランドマーク」

日本最初の「お子様ランチ」は、
昭和5(1930)年に、東京府東京市日本橋にあった
「三越」(現:日本橋三越本店)で誕生したと言われています。
 
「三越」は明治37(1904)年12月21日、
日本初のデパートとして開業。
3年後の明治40(1907)年には、日本橋本店内に食堂を開設。
 
「三越」では開業当初から、
デパートは家族連れで楽しめる場所を目指していたことから、
おもちゃ売り場や屋上遊園地を設置。
さながらそこは子供のワンダーランドでした。
そしてここに「お子さまランチ」が登場。
サンドイッチにハム、ケチャップライス、 コロッケ、スパゲッティ、
金平糖までついた、とてもハイカラなメニューでした。
 
 
「お子さまランチ」は、
昭和5(1930)年頃、当時の食堂部主任であった安藤太郎が
食器売りが持ってきた可愛らしい食器を見て、
この食器を使って
子供に夢のある食事を提供出来ないかということから考案され、
「御子様洋食」として発売されました。
当時は、昭和4(1929)年に始まった「世界恐慌」により
とても暗い時代でした。
せめて子供には
笑顔でいて頂きたいという気持ちがあったようです。
そういったところから「御子様洋食」が誕生したのです。
 
ケチャップライスの山に立てられる「旗ようじ」は、
「山の頂上には旗が付き物」という
登山好きだった主任のアイデアで、
「お子さまランチ」のシンボルになりました。
 

 
残念ながら、日本橋三越の食堂「ランドマーク」は
令和2(2020)年1月にフロア改装のために、閉店しました。
 
 
ちびっ子たちに喜んでもらおうと、
「お子さまランチ」は今も進化し続けています。
大阪のデパート「阪急うめだ本店」12階にあるレストランでは、
電車のケースに入った「お子さまランチ」。
上野動物園のすぐ近くにある老舗レストラン「上野精養軒」では
シャンシャン誕生記念パンダのお子さまランチ「シャンシャンプレート」。
お子さまランチには、子供への愛と遊び心が溢れています。
 

 
 

美の壺3.洋食は土地の色をまとう

 

福井福井市の洋食屋「ヨーロッパ軒総本店」の「ソースカツ丼」

 
福井と言えば、
有名なブランド米「コシヒカリ」を生み出した米どころです。
ここに、自慢のお米に強くこだわった洋食屋があります。
 
人気メニューは福井の名物「ソースカツ丼」です。
創業者が、ドイツで習ったカツレツをヒントに、
秘伝のウスターソースにつけて丼物に仕立てたものです。
 
 
カツの肉汁とソースの旨味が絡み合う一品です。
美味しい「ソースカツ丼」には、
ソースと調和するお米が不可欠でした。
地元の米屋さん、谷本玲子さんとともに
ソースに合う米をブレンドするため、試行錯誤を続けました。
 

 
谷本さんは、コシヒカリをベースに、
「旨味」「硬さ」「粘り」などが異なる4種類の米をブレンド。
品種の違う米をブレンドしながら、精米していきます。
その年の作柄や季節によっても 配合を微妙に変えていきます。
こうして、ふっくらして旨味があるのに、適度な硬さのある
ソースと調和するお米が出来上がりました。
ソースをかけても べたつかない ごはんです。
 
 
  • 住所:〒910-0023
       福井県福井市順化1丁目7−4
  • 電話:0776-21-4681
 
 

京都祇園にある喫茶店「切通し進々堂」の「卵トースト」

 
京都・祇園で舞妓さんに長年愛されている喫茶店があります。
「切通し進々堂」(きりとおししんしんどう)です。
店主の藤谷攻(おさむ)さんご夫妻と次女の法子さんの
家族3人で営む小さなお店です。
 
「切通し進々堂」の看板メニューは「卵トースト」。
黄金色に輝く卵焼きが、華やかな祇園に相応しい一品です。
調味料も出汁も一切加えず、
新鮮な卵のほんのりした甘みで勝負する「卵焼き」。
同時に焼き上がるように気を配りながら、
じっくり時間をかけて熱を通した「トースト」。
舞妓さんのおちょぼ口でも食べられるように
「フォーク」を添えて。
「卵トースト」が生まれたのも、
舞妓さんのリクエストなのだそうです。
この日は成長を見守ってきた舞妓さんが、
一人前の芸妓になる襟替えの日で、
藤谷さんのお店にも挨拶に来ました。
 
 
「いつもそこにあってみんなを笑顔にしてくれる。
 それが日本の洋食です。
 僕にとっての洋食屋さんはね、
 チェックのテーブルクロスにランチョンマット、
 そしてフォークとナイフは紙ナプキンに包んで
 気楽なのがいいんです。」
 
このようにおっしゃっていた藤谷攻(おさむ)さん。
残念ながら、令和2(2020)年2月に
愛用の小型バイクで梅を見に行った帰りに急性心不全で倒れ、
亡くなられました。
 
藤谷攻(おさむ)さんは、約20年前から
年末年始の祇園の風物詩、「福玉」作りを手掛けていました。
「福玉」は、餅で出来た紅白の玉に縁起物の置物を入れたもので、
花街の新年のお祝いとして、
お茶屋や客が芸舞妓らに配る風習があります。
藤谷さんは11月上旬から約400個を手作りし、販売していました。
 
 
令和2年は攻(おさむ)さんの急死と新型コロナウイルスのため
販売を取り止めましたが、
今年、令和3年からは娘の法子さんがこの伝統を受け継いでいくそうです。
 
「切通し進々堂」
  • 住所:〒605-0073
       京都府京都市東山区祇園町北側254
  • 電話:075-561-3029
 
 

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