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美の壺「百花繚乱 タイル」<File 449>

<番組紹介>
床や壁などを華やかに彩る「タイル」。
さまざまな色や形、並べ方次第で変幻自在に姿を変える
タイルのめくるめく世界をご紹介!
 
 ▽商店街は宝の山!
  タイル愛好家が選ぶ、レトロで貴重なタイルとは?
 ▽人気のタイル職人が手がける、
  モダンでスタイリッシュなタイルの壁とは?
  ▽タイルの町で受け継がれている、驚きの職人技とは?
  ▽タイルアートを鑑賞するなら銭湯へ!
   25万枚ものタイルによる壮大な富士山を堪能!
 
<初回放送日:平成30(2018)年7月13日>
 
壁や床などを華やかに彩る「タイル」。
多くは粘土を焼いて作られますが、形や色も様々。
かつては水回りなどに使うイメージでしたが、
組み合わせ次第で、グッとお洒落な装飾に。
職人技が生み出す緻密な配色。
目地の部分にまでタイルを埋めたモダンなデザイン。
銭湯ならではのタイルアートも。
百花繚乱、めくるめくタイルの世界へ、いざ出発!
 
 

美の壺1.共に時を重ねて

 

昭和50年頃のモダンなタイル「新井精肉店」
(タイル愛好家・西村依莉さん、奥村純一さん)

 
今にも取り壊されそうなイカした60年代前後の建築物を記録する
タイル愛好家のライターの西村依莉(にしむらえり)さんは、
全国の町を訪ね歩き、タイルを撮影しています。
タイル愛が高じて写真集
『足の下のステキな床 / 西村依莉+奥村純一』も出版しました。
足を入れて撮るのは、サイズや床だという事を示すためだそうです。
昔ながらの商店街がタイルの宝庫なんだとか。
 

 
 
今日は、写真家の奥川純一(おくがわじゅんいち)さんと2人で、
東京板橋区のハッピーロード大山商店街にやって来ました。
この商店街には、西村さん、お気に入りのタイルがある
お店があります。
昭和11年創業のお肉屋さん「新井精肉店(あらいせいにくてん)です。
商品ケースの下に広がる色鮮やかなタイルの床は、
現店主の新井真之(あらいまさゆき)さんのお母様が
昭和50年頃に張り替えたものです。
モダンでオシャレな店にしたいと、
当時、最先端のデザインを選んだそうです。
 
一部は他のタイルが貼られていました。
「ここは、割れちゃったんですか?」
「下水道工事のために割れてしまったんです。
 どうしても同じようなタイプのものは、
 現存、無くてですね・・・。」
 
店の歴史に思いを馳せながら、新井さんと並んで、パチり。
一期一会のタイル写真を撮影しました。
 
  • 住所:〒173-0023
       東京都板橋区大山町40-7
  • 電話:03-3973-0291
 
 

日本のタイルの歴史

 
日本にタイルの原型が伝わったのは6世紀頃、
Chinaからでした。
当時は床に敷くものを 「敷瓦」(しきがわら)
外壁に貼り付けたものを「腰瓦」(こしがわら)と言って、
寺社や城郭において使用されました。
ただ、木造建築が多い日本では余り普及しませんでした。
 
一般に広まったきっかけは、
大正12(1923)年に起こった「関東大震災」です。
 
明治末期になると、
瓦を外壁として利用する工法がビル建築に応用され、
鉄筋コンクリートの外装仕上げ材としてタイルが
用いられるようになりました。
 

www.data.jma.go.jp

 
旧・帝国ホテル
20世紀の巨匠建築家・フランク・ロイド・ライトは、
帝国ホテル設計に際し、
外装タイルを表面仕上げ材として用いて建設しました。
そうして出来た帝国ホテル落成式の日、
「関東大震災」が起こったのです。
多くの煉瓦建築が倒壊する中、ホテルは地震に耐えました。
以降、防火や耐震強度を高めるために、
鉄筋コンクリートとともに
タイルが広く使われるようになったのでした。
 
 
旧・甲子園ホテル(現・武庫川女子大学 甲子園会館)
昭和に入ると、タイルは芸術品に姿を変えます。
昭和5(1930)年に竣工した「旧・甲子園ホテル」
(現・武庫川女子大学・甲子園会館)は、
フランク・ロイド・ライトの弟子・
遠藤新(えんどうあらた)が設計した建物です。
壁や床には凝ったタイルが貼られています。
 

 
 
宝相華(「東京帝室博物館(現東京国立博物館)」)
昭和13(1938)年に開館した
東京帝室博物館とうきょうていしつはくぶつかん」(現・東京国立博物館)のラウンジの壁一面には、
空想の花「宝相華」(ほうそうげ)が輝いています。
壁を漆喰塗りにし、まるでキャンバスにタイルを散らしたかのように、
細かく切断したタイルでモチーフが描かれています。
タイルの名工と呼ばれた、池田泰山(いけだたいざん)の作品です。
 

 

bunka.nii.ac.jp

 
愛知の常滑に生まれた池田泰山は、
京都市陶磁器試験所の伝習生として入所。
常滑に戻り、テラコッタの技術を学んだ後、
再び京都市南区東九条にで「泰山製陶所」を設立します。
 
大量生産が可能な工業製品としてのタイルが多く生み出される中で、
泰山製陶所のタイル「泰山タイル」は、
「自然の窯変美」を備えた美術工芸品としてのタイルを追求し、
手工芸としてのタイルを生み出しました。
手作りならではの趣があり、
一枚一枚に異なった表情と味わいがある「泰山タイル」は、
現在も尚、多くのタイルファンから愛されています。
秩父宮邸、那須御用邸などの宮内庁の格式高い建築、
東京都庭園美術館(旧朝香宮邸)、
大阪の綿業会館、甲子園ホテルなど、
国内を代表する多くの近代建物に用いられています。
 

 
 

カラフルなタイル壁(「ユークリッド」タイル職人・白石普さん)


www.youtube.com

 
現代にも、タイルで新たな表現に挑戦する人がいます。
白石普(しらいし あまね)さんです。
白石さんは、イタリアに留学していた時に
タイルに魅せられてタイル職人を志すようになり、
タイルの建築が盛んなモロッコで修業を積んだ後、
現在は装飾に特化したタイルの仕事をなさっています。
白石さんは、タイルアトリエ「ユークリッド」を運営し、
デザインから、粘土を成形し釜で焼くタイルの制作、
施工まで、自ら行っています。
 
そんな白石さんのもとに、
「家の真ん中の壁をタイル張りにしたい」という依頼が
舞い込みました。
 
依頼者からのリクエストは、「ハッピーでカラフルな壁」。
「カラフルって、カラフルとかハッピーもですけど、
 基本的には、お洒落にしたい。」
 
「僕、モロッコに長くいたんですけど・・・」
白石さんは、白いタイルとカラフルなタイルを組み合わせた
モロッコのモザイクタイルを提案することにしました。
 
モロッコに限らず、
イスラム圏のモスクや宿泊施設など
様々な場所で目にする美しいモザイクタイル。
一般的には「モザイクタイル」と言われる
この細かくカットされたタイルを
幾何学模様に組み合わせて作る装飾は、
「Zellij(ゼリージュ)」と言います。
 
 
この幾何学模様を構成するパーツは、
360種類以上もあるそうです。
モザイクタイルに伝統的に使用されている主な色は
白・黒・茶・赤・黄・青・緑の7色で、
これらの色には諸説ありますが、
それぞれ意味があります。
白・黒・茶は「スーフィ
(イスラム教の神秘主義的宗派の信者)の
シンボルカラー」、赤は「火」、黄は「空気」、
青は「地球」、緑は「水」を表しています。
またデザインは、
どの作品もシンメトリー(左右対称)となっており、
これには「無限」という意味が込められています。
 
 
白石さんは、市販の丸いタイルの隙間に
様々な色の三角のタイルを入れて、壁を飾ることにしました。
この三角のタイルは粘土を成形し、
釉薬で色づけし、
計13000個の三角のタイルを窯で焼いて作りました。
白いタイルの隙間から覗くポップな色彩の三角形。
色の面積を抑えながらも華やかで表情豊かな壁になりました。
 

 
依頼主の森康彰さんは、
「タイルは無機質なものだけれど
 デザインによってこんなに有機的に感じる。
 お願いして良かった」と嬉しそうです。
 
壁は日が暮れると表情が一変。
2種類のタイルの凹凸が陰影を生み出して、
シックな雰囲気に変わりました。
昼と夜とで異なる顔を持つリビングの壁が生まれました。
これからの長い歳月、いつもここで見守ります。
 
  • 住所:〒183-0014
       東京都府中市是政6丁目30−31
  • 電話:042-306-5390
 
 
 

美の壺2.小さなピースが千変万化

 

タイルの内装のカフェ
(「カフェドソレイユ(CAFE DE SOLEIL)」店主・為澤久美子さん)

 
岐阜県多治見市笠原町は国内有数のタイルの生産地です。
 
「多治見市モザイクタイルミュージアム」のすぐそばにある
多治見市笠原中央公民館内の
「カフェドソレイユ(CAFE DE SOLEIL)」には、
タイルがふんだんに使われています。
 

 
店主の為澤久美子(ためざわくみこ)さんは
キャセイ・パシフィック航空のキャビンアテンダントを経て、
米NYの3つ星フレンチレストラン「アランデュカス」で
パティシエをされていたという異色の経歴の持ち主です。
 
為澤さんは、
その人の好みでデザインが無限大に広がるところが
タイルの魅力とおっしゃいます。
テラスのテーブルに使われているのは、
不揃いのタイルです。
鮮やかな色彩で模様がデザインされています。
 

 
店内には他にもこだわりがあります。
店内の床のモザイクタイルは
イメージを変えたい境界線で色を反転。
同じ形、同じ並べ方でも、
色を反転させただけでも、ビビットに変化します。
丸と六角形の2種類のタイルが生み出すポップな花畑です。
組み合わせ次第で、無限に広がるタイルの表現。
 
カフェドソレイユ
(CAFE DE SOLEIL)
  • 住所:〒507-0901
       岐阜県多治見市
       笠原町神戸区2081-1
  • 電話:0572-43-6800
 
 

日本一のタイルの町、笠原町


www.youtube.com

 
多治見市笠原町(かさはらちょう)は、
施釉磁器モザイクタイル発祥の地にして、
全国一の生産量を誇ります。
 
平成(2016)年6月に開館した多治見市笠原町のシンボル
建築史家で、建築家の藤森照信さんが設計を手掛けたものです。
 
  • 住所:〒 507-0901
      岐阜県多治見市笠原町2082-5
  • 電話:0572-43-5101
 
 
この町は元々、美濃焼で栄えました。
その美濃焼の伝統と技術を背景に
大正3(1914)年に多治見町で生まれたのが、
「美濃焼タイル」でした。
 

 
昭和初期に入り、笠原町では全国に先駆けて
磁器質施釉モザイクタイルを誕生させました。
昭和20年代になると
窯元は次々とタイル工場へ姿を変えていきました。
昭和30年代には、好景気、建築ブームの中で、
文字通り「百花繚乱」の時代を迎え、
笠原町だけで100を超えるタイル工場があったとされており、
当時、全国のタイルの8割はこの町で作られていたそうです。
 

 
笠原町で作られているタイルの形は、僅か2種類です。
パズルのように組み合わせて模様を作るやり方は、
笠原町お得意の技です。
 
笠原にはタイルのデザイナーというものは存在せず、
モザイクタイルのデザインは、
ずっと茶碗を焼いていた
製陶所のお父さんが、お母さんのもとに届く
婦人雑誌に掲載されているセーターの編み図を見て
その意匠を考え出したというのも驚きです。
それぞれの工場は競い合うようにデザインを生み出していきました。
 
「留柄帖」(とめがらちょう)と呼ばれるデザイン帳には、
当時、タイルのデザインをしていた一人、
中根和之(なかねかずゆき)さんの作品も多く掲載されています。
デザイナーのいるタイル工場はほとんどない時代、
会社の社長や営業がデザインをしていたと語る中根さん。
町の職人技は今も受け継がれています。
 
昭和32年創業のタイル製造会社では、
1㎝角という、国内でも僅かな工場でしか生産していない
小さなタイルを作り続けています。
 
この道50年のベテランタイル貼り職人、
松山正子(まつやままさこ)さんに、
複数の色を組み合わせて作る
「ミックスモザイク」の作業の工程を見せていただきました。
 
まず、タイルを「貼板」(はりばん)と言われる昔ながらの道具を使って
並べていきます。
タイルは「貼板」と言われる昔ながらの道具を使って、
並べていきます。
配色を決め、1枚のシートに仕上げていきます。
裏返ったものをひっくり返しながら、全体の配色を確認。
右下部分がぼやけていると感じた松山さんは、
濃い青を4つ移動させ、バランスを取りました。
人がやった方がきれいです。
人の手が生み出す、自然な配色。
昔も今も変わらぬ、素朴で優しいタイルです。
 
  • 住所:〒507-0901 
       岐阜県多治見市笠原町2082-5
  • 電話:0572-43-5101
  • 営業時間:9:00~17:00
        (毎週月曜日休)
 
 
 

美の壺3.湯船で楽しむ タイルの名画

 

京都上京区にある銭湯「源湯」

京都市上京区にある銭湯「源湯みなもとゆ」(通称:げんゆ)の
湯船の先に広がるのは、湖畔の風景。タイル画です。
山からの湧き水が湯船にまで注がれているかのようです。
水に強く、劣化しにくいタイルは、
40年以上たった今も、鮮やかな色を留めています。
小さなタイルが生み出す繊細な表現です。
 

 
 
源湯
  • 住所:〒602-8368
       京都府京都市上京区北町580-6
  • 電話:080-3832-4126
 
 

東京都板橋区の銭湯「愛染湯」

東京都板橋区の銭湯「愛染湯」(あいぜんゆ)の洗い場の壁一面には
天女達が舞っています。
光がタイルに反射すると、まるで海の人魚のようです。
これは、昭和28(1953)年に日本画家・竹内栖鳳の作品
『天女舞楽図』にモチーフに作られた
「散華」(さんげ)というモザイク画です。
湯煙に浮かび上がる銭湯アートです。
 

 
愛染湯
  • 住所:〒173-0012
       東京都板橋区大和町46-7
  • 電話:03-3962-4576
 
 

デザイナーズ銭湯

 
今井健太郎(いまいけんたろう)さんは、
「デザイナーズ銭湯」の草分けとして知られる
銭湯専門の建築家です。
今井さんはこれまで、
各地の銭湯で特徴的なデザインや設計を手掛けてきました。
 
今井さんは、タイルの絵も自分でデザインします。
今、取り組んでいるのは、
東京都町田市の銭湯「大蔵湯」(おおくらゆ)の壁画銭湯の壁画です。
横山大観の作品『朝陽霊峰』をモチーフに作ります。
大観は「金泥」をメインに富士山を描きましたが、
今井さんが使うのは12色のタイルで、
その中に金色のタイルは入っていません。
タイルの艶やかな質感を生かして、金色を表現します。
およそ25万枚ものタイルの色を振り分け、
完成した銭湯が、こちら。
 

 
高さ3.3m 幅13.6mのタイルの絵は、
きらびやかな輝きを放つ黄金の富士山です。
平面でありながらも、どこまでも広がる景色。
雲海の中で、湯に浸かっているような感覚を味わってもらうのが
狙いだと、今井さんはおっしゃいます。
 
目地に用いたのは黄色。
木をふんだんに使った、内装に馴染むタイル画になりました。
窓には格子をつけて、山肌に優しく光が差し込むように、
どこからでも富士山が美しく見えるようにと、浴槽の位置も計算。
 
もう一つ、出入り口の上にもタイル画が。
銭湯全体を包み込むように設計したのだとか。
タイルによる一大パノラマの演出です。
 
店主の土田太一(つちだたいち)さんは、
「私もよくお客さんと一緒に入らせて頂いてるんですけれども。
 これは何で出来てるんだろうと、
 帰りにご質問される方もいらっしゃいますし、
 この前来たお客さんは「まるで美術館に来ているようだ」と
 言ってました。」
 
広い湯船とタイルの名画。身も心も温まります。
 
大蔵湯
  • 住所:〒194-0033
       東京都町田市木曽町522
  • 電話:042-723-5664
 

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