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美の壺「新年を彩る お正月飾り」<File 463>

しめ飾り研究家が全国を歩き収集した、
300点以上のしめ飾り。
おわん型、メガネ型、そして“ホシのタマ”…!?
 ▽しめ飾り専用の田で育てた稲で作った
  俵型しめ飾りはエメラルドの輝き!?
 ▽圧巻!華道家が毎年飾る、豪華松飾り
 ▽86歳の“お菊さん”しか作れない、
  全国で人気の松飾り“お菊の松”とは!?
 ▽京都・冷泉家の鏡餅は2種類。その違いは!?
 ▽草刈さんが不思議なお餅を食べ、大変なことに!?
(初回放送日: 平成29(2018)年12月21日放送)
 
 

美の壺1.神と結ぶ

 

注連飾り研究家・森 須磨子さん

 
お正月に玄関や神棚に飾る「注連飾り」は、
新年と共に訪れる「年神様」をお迎えるための目印と言われています。
森 須磨子さんは、グラフィックデザインの仕事を続けながら、
全国各地に「注連飾り」を探訪を続けています。
 
森さんがまとめた「注連飾りマップ」には、
地域によって異なる様々な注連飾りが見られます。
 

 
九州にはなぜか鶴の形が多いのだそうです。
丸形があったり、横長系があったり、
孔雀のように羽を広げたようなのがあったり、
色々なバリエーションがあります。
 
「川を越えただけ、山を越えただけで、注連飾りは違っていて、
 今でいう行政区分とはまた違う、
 注連飾りの分布っていうのがあるのが
 すごく面白いなと思います。」
 
長野県上田市の「お椀形の注連飾り」は、
お椀の中に、みかんやお餅、おせちなど、
神への供物を入れて飾ります。
 
宮城県気仙沼市の注連飾りは
ホシノタマ」といって、宝珠の形をしています。
この「ホシノタマ」には、豊漁への願いも込められています。
 
中国地方に多く見られる注連飾りは、メガネの形をしています。
メガネの形は「先を見通す」 という意味があるそうです。
 
「注連飾りは、その土地とか、
 その家のお父さん達、もしくは家のどなたかが
 「来年 どうなったらいいな」
 「年神様 どうしたら来てくれるかな」っていうことを自分で考えて、
 そのためには、どんなしめ飾りがいいかなっていうことで、
 生まれてきたと思うので。
 だからこそこんなにバリエーションがあって、
 人の数だけ、「注連飾り」ってあるなって 実感させられます。」
 

note.com

 

豊年祈願の注連飾り(山形県庄内地方)

 
日本有数の米所、山形県庄内平野にある
明治26(1893)年に建てられた巨大な米蔵「山居倉庫(さんきょそうこ)
現在も建設された14棟のうち12棟が残っており、
米穀倉庫として使用されている他、
庄内米歴史資料館」や観光物産館として活用されています。
 
山居倉庫(さんきょそうこ)


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旧庄内藩酒井家により、
最上川と新井田川に挟まれた通称「山居島」に建てられた
酒田米穀取引所の付属倉庫。
現役の米穀保管倉庫であり、
酒田を代表する観光スポットとして知られ、
国の史跡にも指定されています。
舟による米の積み下ろしに便利な立地で、
12棟の巨大な木造の倉庫を連ねた美しい建物と、
最上川側のケヤキ並木が独特の風情を伝えています。
 
 
「山居倉庫」の脇にある
三居稲荷神社(さんきょいなりじんじゃ)に飾られているのは、
豊作祈願の俵形をした注連飾りです。
この稲荷神社は、明治26年倉庫をこの地に建設する時に、
旧藩主酒井家の「太郎稲荷」、徳川家の「禎祥稲荷」の二柱勧請して
従来から鎮座していた「山居稲荷神社」に合祀して
三居稲荷神社」と改名して、倉庫鎮守の神としたものです。
商売繁盛から五穀豊穣、全て生成発展する御祈願の神様です。
 

 

注連飾り職人・斎藤榮市さん

注連飾りを40年に渡って注連飾りを作り続けているのは、
斎藤榮市さんです。
 
齋藤さんは注連飾り専用の田んぼを作り、
こだわり抜いた稲藁を使っています。
早刈りした藁は、エメラルド色に美しく輝いています。
更に手刈りにすることで、藁の中心部がふっくらと保たれるのだとか。
 
齋藤さんはまず、
デザインの要である藁の節を一本一本揃えて、糸で括ります。
藁の太さやヨリが左右同じになるように、
量を調整しながら、絶妙な力加減で編んでいきます。
全体を整然と美しく仕上げるためには、
1つ作るのに1日半も掛かる繊細な作業です。
 
齋藤さんが注連飾りを作るようになったのには、
きっかけがありました。
当時、藁は田んぼで燃やして処理していたため、
夕方には周りが見えなくなるほど煙が立ち込めたことから、
問題視されていました。
そこで、藁を使って注連飾りを作ったところ、
米所らしい縁起物として評判を呼んだのです。
問題にされていたわら公害。
 
いい年 迎えられるように よろしくお願いします。
注連飾りのこだわりの形には、
その地域ならではの歴史と人々の思いが込められているのです。
 

hijirisha.stores.jp

  • 住所:〒998-0838
       山形県酒田市山居町1-1-8
  • 電話:0234-23-7470
 
 

美の壺2.神を待つ

 

門松(華道家家元・笹岡隆甫さん)

家の入り口に飾られる「門松」。
青々として、寒い季節にも活力を失わない松は、
神が宿る縁起の良い木であり、神を「待つ」という意味もあります。
 

 
華道「未生流笹岡(みしょうりゅうささおか)
京都らしい一風変わった門松を見せて頂きました。
 

 
「我が家の正月準備は、
 門柱に「根引きの松」を打ちつけるところから
 スタートします。」
 

 
「小さい松を門に打ちつけてやります。
 ここに神さんが宿ってくれますように。
 年神さんという神様がお正月に来てくれるように、
 そういう思いを託す訳ですね。」
 
根付きの松には、「根が付きますように」
「成長しますように」との願いが込められています。
 
更に、雄々しく力強い「黒松」と
木肌が赤く葉が柔らかい優美な「赤松」を用意します。
雄々しさと優美さ、 陰陽の特徴を持った2種類の松を使い、
家のお守りとするのです。
 

 
 
松飾りは玄関だけでなく、床の間にも飾られます。
「松という樹木は、大木になり、しかも長寿ですので、
 これが神様が宿るのに相応しい木、
 神の依り代として選ばれました。」
 その松を門に打ちつけたのが「門松」のルーツであり、
 家の中に飾ったのが、
 「生け花」のルーツということなんですよね。」
 

 
お正月を迎えるための松を使った床の間の飾りには、
荒々しく、躍動感溢れる松の幹に、
長く鋭く張り詰めた松葉を
その緑に赤を対比させ、更に可憐な蘭で松を盛り立てます。
全てが一体となって、松の存在感を引き立てるのです。
「この1年も、様々なご縁に恵まれて、
 来年も同じように頑張りなさいというふうに
 松が語りかけてくれてるような気も致します。」
 
 
華道「未生流笹岡
     (みしょうりゅうささおか)
  • 住所:〒180-0023
       東京都武蔵野市境南町2丁目4−8
  • 電話:0422-31-8482
 
 

手縫い雑巾(ミゾグチファーム・溝口洋一さん)


www.youtube.com

 
茨城県神栖市(かみすし)波崎(はさき)地区は、
「若松」・「千両」とも全国の半数以上の生産量を有する、
日本一を誇る産地です。
 
この地域で「若松」や「千両」の栽培が始まったのは、
大正時代初期のことだそうです。
「若松」は文字通り樹齢の若い松の呼称で、
品種は「クロマツ」であり、
松の種を苗に育て定植し3~4年かけて育てられ、
樹齢の若い程よい大きさの「若松」として出荷されます。
 
太平洋に突き出した波崎地区は、
利根川の河口に位置する砂地です。
松は、水はけの良い砂地で敢えて栄養を少なく育てることで、
均斉の取れた美しい形に育ちます。
収穫された松は、工場で形を整えられ、
葉の数や長さ、太さなどにより、25等級に分けられます。
 
「松の葉の、短くてなおかつ力強い、
 生命力を感じられるところが、
 この産地の一番のアピールポイントですかね。
 お正月を迎えるにあたって、
 愛でるのに相応しい美しさと青さ、
 そういったものを持ってるのが、私どもの特徴かな。」
松農家3代目の溝口洋一さんはこのようにおっしゃいます。
 
中でも、とっておきの松として溝口さんが紹介してくれたのが、
クルクルと枝が丸まっている松。
これも正月飾りに使われる松なんです。
 
戦後まもなく考案されたこの松は、
話題を呼び、瞬く間に全国に広まりました。
作っているのは、86才の野中 菊さん、
・・・ということで「お菊の松」と言います。
 
「同じ品物ではちょっと面白くないから、
 曲げてみようかなと思ってね。」
松が若くてしなやかなうちに、
温めてゆっくりと曲げるのがポイントなんですが、
これはお菊さんにしか出来ない技だそうです。
 
枝葉は極限にまで減らされ、
枝が描く円の中に1つ、
伸びた枝先に1つ葉が美しく見えるように計算されています。
丸い結び目には、松の生命力が漲るかのような緊張感があります。
蛇のウロコのような木肌も、神々しい。
 
「ご縁が結ばれますようにと、結んだ枝に願いを託します。
 やっぱし、この自分の子供のように育てて、
 松飾りしてもらうことが一番幸せですね。」
 
松飾りに秘められた底知れぬ力。
そこには、独創的な演出で、絶えず新風を吹き込もうとする
職人達の情熱がありました。
 
  • 住  所:〒314-0408
         茨城県神栖市波崎198−1
  • 電  話:0479-44-5310
 
 

美の壺3.神からのお年玉

 

鏡餅(室礼研究家・山本三千子さん)

 
室礼研究家の山本三千子さんです。
日本の飾り物には、「福を呼ぶ」「邪気を払う」など、
一つ一つ 意味があると言います。
 

 
「鏡餅」の形が丸いのは、
人間の心臓の形とか魂の形とか言われていますが、
「お正月にいらっしゃる年神様のお力そのものであり、
 その形だと思います。」
元々鏡餅には、その年の豊作と健康への祈りが込められていました。
また、餅の上に飾る「橙」には、
「代々家が続くように」という願いが込められています。
 

 
 
地域によって異なりますが、他にも縁起物が飾られます。
「裏白」(うらじろ)は、
自分達の両親が二人揃って共白髪になるまで、
元気でいて頂きたいという思いが込められています。

「柿」は「嘉来」と表し、幸福を呼ぶように。

 
「譲り葉」(ゆずりは)は、
代々家が譲られ、守られていくように。

 
「鬼ゆず」は、柑橘の橘が吉日の吉で、
「鬼ゆず」のように大きいものは、
文字通り「大吉」ということになります。

 
「こうした文化は、
 決して書物の中で伝わってきたようなものではなく、
 家庭の中で、行いで伝わってきたもの・・・。
 いわゆる「寄物陳思」(きぶつちんし)
 物に思いを寄せて陳(のぶ)ること、
 言葉の音や字の語呂合わせで願いを表す、
 日本ならではの奥ゆかしい表現です。」
 
古来、自然からの最高の贈り物であり、神への供物でもあった米。
鏡餅は、そんなやり取りを思い出させてくれます。
 
 

800年の歴史をもつ和歌の家の鏡餅(冷泉家)

 
鎌倉時代の歌人・藤原定家を祖に持つ、
和歌の家・冷泉家の建物は、
江戸時代中期・寛政2年に建てられた、
現存する唯一の公家屋敷で、重要文化財に指定されています。
冷泉家は、四季の風情に「もののあはれ」を込める和歌の心を
800年に渡って伝えてきました。
 
そんな冷泉家の鏡餅は2種類あります。
「こちらのほうがね、
 神さんにあげる鏡餅で、こちらが観音さんにあげるものです。」
 
「昔からね、神さんには、
 海の物と山の物とを一緒にあげるんですよね。
 その時に必ずこの海のもんである魚と山のもんであるこのおみかんとか
 そんなんを一緒にお供えすることにします。」
 
最高の贈り物には、
「海の物」と「山の物」を合わせるのが古式です。
そしてその贈り物につける「熨斗」には、
その名残りが今でも残っています。
熨斗の黄色い部分は、
元々海の物としてアワビが付けられていたのです。
 

 
一方こちらの鏡餅には、「柑橘3つ」と「のし昆布」。
「仏さんはお精進ですから、
 イワシの代わりに、こののし昆布になっている訳です。
 昔から代々やってるんやと思いますけど、
 いつ頃からやってるのかは知りません、ず~っと昔から。」
 

 
先祖代々の和歌が保管されているお蔵
「冷泉家時雨亭文庫」(れいぜいけしぐれていぶんこ)
この神聖な場所に鏡餅をお供えするのは、
代々の当主の大事な仕事です。
そして公家の装束でお参りするのも、昔からのしきたりです。
 
「御文庫の2階に、神さんがお祀りしてあります。
 それは歌の神さんと、それから先祖の神さんなんですね。」
 
「元々正月は、春を祝うお祭り。
 「初春」「迎春」という言葉は、その名残りです。
 冬は夜が長いじゃないですか、真っ暗闇だった訳ですよね。
 真っ暗闇というのは、やっぱり原始的な恐怖でもありますし、
 それに対して春というのは、太陽が再生してくる。
 日の光が新しい季節を告げている、新しい春を告げている。
 これが昔のお正月でした。」
 
いにしえの人々が、
全身全霊で春の訪れを喜び、その心を形にした鏡餅。
新しい1年は、神様からのお年玉かもしれません。
 
  • 住所:〒694-0305
       島根県大田市大森町ハ118−1
  • 電話:0854-89-0932
 
  • 住所:〒694-0305
       島根県大田市大森町ハ63
  • 電話:0854-89-9003
 

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