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美の壺 「琉球の心を映す 紅型」<File 508>

<番組紹介>
鮮やかな色彩、生き生きとした模様が特徴の
沖縄の染め物、紅型(びんがた)
 
▽琉球王朝の栄華を思わせる国宝登場!
▽王族にだけ許された色とは?
▽朱色発色の秘密
▽沖縄の自然を模様に映しとる技に密着!
▽沖縄戦で焦土と化した中で作られた
 貴重な紅型は意外なもので染められていた
▽復興に向け奔走した
 紅型作家によるタペストリーの志は、
 首里城焼失を機に新たな紅型へ!
 16代にわたる歩み。
 
<初回放送日:令和2(2020)年8月7日>
 
 
沖縄の歴史が滲むいにしえの作品から、
現代作家の作品まで、
今回は「紅型」が紹介されました。

美の壺1.夢の世界へいざなう

国宝「紅色地龍宝珠瑞雲文様紅型」
那覇市歴史博物館

 

 
国宝「紅色地龍宝珠瑞雲文様紅型べにいろじりゅうほうじゅずいうんもんようびんがた 」。
18〜19世紀に作られた、
少年用の冬物の紅型衣裳です。
色鮮やかで、独特の配色です。
宝珠を挟んで向かい合う龍が、
瑞雲とともに描かれています。
この「宝珠双龍文様」は、
近世琉球の王権を象徴する文様であり、
王家の衣裳などに用いられました。
 
15世紀頃から続く沖縄を代表する染物「紅型」は
「びん」は「色彩」、
「かた」は「模様」を表すと言われています。
 
「紅型」という表記は、
「型絵染」の人間国宝であり、
紅型研究第一人者であった
鎌倉芳太郎(かまくら よしたろう)氏によって
用いられたとされ、
昭和初期頃から普及していったようです。
「紅型」は、平成8(1996)年5月10日、
国の重要無形文化財に指定されました。
色華やかな「紅型」に対し、
琉球藍でのみ染める模様染「藍型」(えーがた)があります。
 
沖縄は様々な国の影響を受けながら、
独自の文化を発展させてきました。
「紅型」は琉球の風土が育んだ美の結晶と
言われています。
 
闇を照らすように、光のように輝く衣装。
かつて「紅型」は、権力の象徴として
琉球の王族やごく限られた人だけが
纏うことが許されていて、
尚王家一門の日常着として、
国賓向け礼装、国内行事の際の晴れ着、
国賓を歓待する芸能の舞台衣装として
用いられていたそうです。

次に紹介されたのは、国宝「黄色地鳳凰蝙蝠宝尽青海立波文様紅型きいろじほうおうこうもりたからづくしせいがいたつなみもんようびんがた」。
琉球の国王が着ていたと伝えられる紅型です。
琉球では黄色地は「チールジー」と呼ばれ、
王家のみが使用出来る格の高い色として
特別な意味を持っていました。
特に「くがに」と呼ばれる黄色は
「黄金色」を意味し、
豊かさを象徴する黄金色を纏うことで、
王の権威を示していたのです。
 
最後に紹介された
白地流水蛇籠に桜葵菖蒲小鳥模様紅型しろじりゅうすいじゃかごことりしょうぶもんようびんがた」は、
19世紀に江戸で琉球の舞楽を披露した際に、
少年が着ていたものと伝えられています。
 
 
「紅型」は華やかな色彩が魅力ですが、
基本的には、赤・黄・青・紫・緑の5色を
組み合わせて色を作ります。
模様をよく見てみると、
一つの葉の中にも色々な色が入っていて、
また花や鳥の色には、現実にはない色を
使っています。
南国の強い光の中で、はっきりと現れる色に
向かって行ったのではないかと
與那嶺一子(よなみね いちこ)さんは
おっしゃいます。
 

 
  • 住所:〒900-0015
    沖縄県那覇市久茂地1-1-1
    パレットくもじ4階
  • 電話:098-869-5266
 
 

琉球舞踊の衣装
(「紅型工房ひがしや
紅型作家・道家由利子さん)


www.youtube.com

 
 
「紅型」の鮮やかな色の秘密を探りました。
沖縄の北部、今帰仁村で
工房「紅型工房ひがしや」を御夫婦で構える、
道家由利子さんに製作過程を見せていただき
ました。

由利子さんは、琉球舞踊の踊り衣装を
数多く制作していらっしゃいます。
色を濃く染め、ビビットな色調なのが
踊り衣装の特徴です。
「紅型」の「色挿し」には、
鉱物を砕いて作られた「顔料」が
多く使われるのですが、
それは沖縄の亜熱帯気候と関係があります。
「顔料」は日差しや高温に強く、
更に色褪せないという特長があるためです。
「色挿し」には、順序の決まりがあります。
まず「朱」や「黄」など
紅型の中心となる暖色系から始まり、
臙脂 (えんじ) 、紫、緑、鼠と続き、
最後に黒と差していきます。
 
由利子さんによると、
「紅型」の鍵を握る色は「朱色」(しゅいろ)
朱色を入れることによって
柄が生き生きとしてくるのだそうです。
 

 
「首里城」のキリッとした赤を目指して、
朱色に墨を少しずつ足しながら
柄に似合う深い赤を探ります。
「鳳凰」も赤で染めていきます。
生命力溢れる存在が引き立ちます。
 

 
古典舞踊の衣装には、
伝統的な配色が息づいています。
由利子さんは、遠く離れた場所からでも、
舞台衣装のひとつひとつの柄が浮き立つように
反対色を隣り合う柄に塗ることを
心掛けているそうです。
 
「色挿し」が終わったら、
次は立体感を付けるために
濃い色でぼかしを入れて行きます。
このぼかしを「隈取り」(くまどり)と言い、
紅型の大きな特徴とも言えます。
隈取りで全体がグッと引きしまります。
 
顔料を定着させるために生地を蒸した後、
「水元」(みずもと)と呼ばれる仕上げの作業が
行われます。
水にしばらく浸して糊を落とします。
生地と生地が擦れ合わないよう、
糊が残らないように慎重に落とします。
鮮烈な色彩が生まれる瞬間です。
 
 

琉球舞踊「諸屯」


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田口博章(たぐち ひろあき)さんが
鮮やかな衣装を身にまとって舞うのは、
「諸屯」(しゅどぅん)です。
古典舞踊の中で最も演技力が要求される
最高峰の演目と言われる踊りです。
「装い」と「技」とが相俟って完成する、
琉球舞踊の夢の世界です。
 
 
 

美の壺2.命の息づかいを映し取る

普段づかいの紅型の帯
(「きものおがわ屋」小川聖子さん)

 
埼玉県さいたま市で老舗呉服店
きものおがわ屋」を営む小川聖子さんは、
「紅型」を普段の生活に取り入れています。
ちりめんの着物に沖縄を代表する花「月桃」をあしらった「紅型」の帯を組み合わせるのが
小川さんのお気に入りだそうです。
 
「迫力のある帯ですので、無地感覚のお着物に
 合わせて着ることが多いです。
 お茶席ですとか、お呼ばれに着ています。」
 
「月桃」
🌿和 名:げっとう
🌿沖縄名:サンニン、サミン、
       サネン、サニ、シャニン 他
 
「月桃」は、沖縄の山野に群生する
ショウガ科の植物です。
「ゲットウ」という名前は、台湾の現地語で「ゲータオ」と発音しているものに
「月桃」と当て字をしたという説が有力です。
 
沖縄の野山や道端、民家の庭先などで
よく見掛ける「月桃」は、
その独特の香りを虫除けとして活用したり、
種には健胃や整腸効果もあるとされ、
古くから薬草として人々に親しまれてきました。
 
防腐効果もあるとされ、
気温が高く食材が傷みやすい沖縄では、
餅や饅頭、ジューシー(炊き込みご飯)などを
「月桃」の葉で包む習慣があります。
 
健康や長寿祈願のため、
縁起物として食べられる餅菓子「ムーチー」は
先人達の生活の知恵を生かした代表的な食べ物の一つです。
 
 
 
小川さんに、もうひとつ、お気に入りの帯を
紹介していただきました。
藍だけで染めたという、
沖縄でいつも青々と生育する「シダ」の柄の
「琉球藍型」(りゅうきゅうえーがた)の帯です。
長寿を表す、おめでたい柄の帯です。
 

 
  • 住所:〒338-0011
    さいたま市中央区新中里3-4-12
  • 電話:048-832-8556
 
 

沖縄の自然をモチーフにした紅型
(紅型作家・渡名喜はるみさん)

小川さん愛用の「紅型」の帯を仕立てたのは、
NHK「おしゃれ工房」でもお馴染みの
渡名喜はるみ(となきはるみ)さんです。
渡名喜さんは、沖縄の自然や風物をモチーフに
光と風を「紅型」に表そうとしています。
 
まず、スケッチを図案に起こします。
刻々と移り変わる波打ち際の情景が
模様に生まれ変わります。
次に、図案をもとに型紙を彫ります。
潮の満ち引きを星砂に込め、
一つ一つかたどっていきます。
出来上がったのは、
波を表す「青海波文様」(せいがいはもんよう)
波に連なる星砂が染められた
青のグラデーションが美しい
「紅型」の着物でした。
 
星砂や水の泡の造形を敢えて不揃いに配置し、「風」が現れました。
 
 

朧型(知念紅型研究所・知念冬馬さん)


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王朝時代から続く「知念家」の10代目当主で、
知念紅型研究所」の知念冬馬(ちねん とうま)さん。
 
「知念(ちねん)家」は、
「沢岻(たくし)家」「城間(しろま)家」とともに、
王朝時代、首里に居を構え、
王府の絵図奉行絵師の下で
「紅型」を制作していた、
「紅型三宗家」(びんがたさんそうけ)
うちの一家です。
 
下儀保シムジーブ村の初代から、
長男筋の「下儀保シムジーブ村知念家」と
次男筋「上儀保ウィージーブ村知念家」の
両家で伝統技術を継承し、現在は、
下儀保村「知念紅型研究所」と
上儀保村「知念びんがた工房」ともに
「知念紅型」として
伝統を守りつつ制作に励んでいます。
 
知念紅型研究所」は、下儀保村知念家
8代目・知念貞男(さだお)氏によって
昭和47(1972)年に創設されました。
 
知念冬馬(ちねん とうま)さんは、
京都や海外でデザインを学び、
平成29(2017)年に知念家10代目として
祖父・貞男の跡を継ぎ、
型紙を2枚または3枚重ねて染める技法
「朧型」(おぼろがた)や、
生地の表裏に柄を染める
「両面型」に精力的に取り組んでいます。
近年は、他の産地や業界との
コラボレーションにも積極的です。
 

 
 
「朧型」(おぼろがた)とは、
異なる模様の型紙を重ねて、
柄を立体的に見せる技法です。
冬馬さんが目標にしている
「朧型」(おぼろがた)の作品は、
祖父の貞男さんが作った、
縁起物の草花に囲まれてふくら雀が遊ぶ
作品です。
地紋には、藤色に染まる笹と菊。
そこに、竹とふくら雀が浮かんでいるように
見えます。

 
現在、1枚の布地に3枚の型紙を重ねる
「朧型」(おぼろがた)に挑んでいます。
1枚目は一番表面に出したい「雨」の型紙です。
 
柔らかな雨が降り注いだ後に重ねられるのは、
2枚目の「ブーゲンビリア」の型紙です。
ブーゲンビリアに降る雨を見たことに
着想を得たという冬馬さん。
ブーゲンビリアの花に
藤色や桃色の色を挿していきます。
地は空色に染めます。
 

 
この上に「ノグチゲラ(野口啄木鳥)」と「シーサー」の型紙を載せます。
沖縄の歴史や精神的な部分も
作品に落とし込みます。

 
「朧型」(おぼろがた)の魅力、
それは「紅型」の本質に通ずると
冬馬さんは考えています。
 
流れるように浮かび上がるように現れる柄。
そこに映し出されるているのは、
作り手が見詰める沖縄の姿そのものです。
 

 
  • 住所:〒901-0153
    沖縄県那覇市宇栄原1-27-17
  • 電話:070-6590-8313
 
 

美の壺3.心の風景を染める

食料袋をキニーネで染めた紅型
(平良良勝さん)

 
うるま市の平良家には、
貴重な「紅型」が残されています。
米軍の食糧袋を
マラリアの薬「キニーネ」で黄色に染め、
ペンキで紅型のような図柄を描いていた
ものです。
 
この「紅型」を誂えたのは、
戦争で傷ついた失意の人々を慰問するために
沖縄民政府が設立した「竹劇団」を主宰し、
俳優でもあった平良 良勝(たいら りょうしょう)さん
でした。
 
この「紅型」を纏い、
収容所の観衆の前で華やかに舞いました。
焦土で夢見た、豊かな故郷の風景を表した
「紅型」です
 
 

代々続く紅型工房
(「城間びんがた工房」
16代目・城間栄市さん)


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琉球王国が栄華を極めた頃を思わせる
「首里城」の姿をあらわした
「紅型」があります。
王朝時代から紅型づくりを担う、
城間家の14代目・栄喜さんの作品です。
 

 
「紅型」は、第二次世界大戦で
焦土と化した沖縄で、
壊滅的な打撃を受けました。
城間栄喜さんは「紅型」の復興に
多大な功績を残した名匠です。
物資不足の中、日本軍の壕から拾った
軍用地図を用いて型紙を彫り、
糊袋の口金には
「薬莢」(やっきょう)を使いました。
 
そして紅型復興の象徴として描いた柄が
この「首里城」を描いた「紅型」でした。
栄喜さんが型紙を彫り、
長男の栄順さんが染めました。
制作当時は、沖縄戦で焼失した「首里城」は
再建半ばであったため、栄喜さん親子は、
記憶の中の「首里城」を「紅型」に表しました。
平成4(1992)年)に「首里城」は復元されて、
平成11(1999)年には「都市景観100選」を受賞、
平成12(2000)年)12月には
「世界遺産」にも登録されましたが、
令和元(20019)年10月31日の深夜の火災により、
正殿を始めとする多くの復元建築と
収蔵・展示されていた工芸品が
全焼・焼失・焼損してしまいました。
 
これは祖父、父の志を継ぐ
16代目・栄市さんにとっても
大きな出来事でした。

自分は、先代の思いをきちんと
受け止めてきたか・・・・。
栄市さんは今改めて、
古い型紙を見返しています。
そして、新たなモチーフを
図案に起こしています。
 
8匹の龍に、末広がりの幸せを込める栄市さん。
力強い龍の「紅型」が、
新たに生まれようとしています。
 

 
城間びんがた工房
  • 住所:〒903-0825
    沖縄県那覇市首里山川町1-113
  • 電話:098-885-9761
 

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