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美の壺「麗し甘し 桃」<File 512>

<番組紹介>
ソルベ、コンポート、生の桃…
気鋭のパティシエがサイフォンを使って生み出す、
驚きの桃パフェ!
 
 ▽甘みも香りも別格!立派な「浅間白桃」ができるまで。
 ▽産毛を制して桃を制す!
  芸術家たちの桃への思いとは?!
 ▽長崎の心「桃カステラ」。一筋の線が命を吹き込む!
 ▽今年7月、台湾の個展で大きな話題となった、
  闇夜の桃の写真。
  「古事記」に着想を得たという
  美術作家・やなぎみわさんの、夜の桃撮影に密着!
 
<初回放送日: 令和2(2020)年9月11日(金)>
 
 
 
甘い香り、ジューシーな果肉の桃は、人々を虜にしてきました。
極上の桃と出会ったパティシエは、独創的なパフェを生み出しました。
地元で受け継がれてきた桃をかたどった郷土菓子もあります。
桃は、古今東西、多くの芸術家が、大切なモチーフにしてきました。
美術作家が惚れ込んだ、夜の桃。
シャッターを切ると、そこには昼間とは異なる、全く別の表情がありました。
今回の「美の壺」は、
世界中で愛される果物、「桃」の知られざる魅力に迫っています。
 
 

美の壺1.とろける香りと舌触りを求めて

 

桃のパフェ(パスカル ル ガック 東京・眞砂翔平さん)


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フランス最高のショコラティエの1人、パスカル・ル・ガックが
オーナーシェフを務めるチョコレート専門店の世界初の支店が
東京・赤坂にあります。
平成31(2019)年1月19日にオープンした
 
「パスカルルガック東京」のシェフ就任したのは、
アジアベストショコラティエの
眞砂翔平(まさご しょうへい)さんです。
 
ここに夏限定の極上スイーツがあります。
見た目が華やかな「桃のパフェ」です。
チョコレートの蓋を取ると、桃の香りが立ち上ります。
桃のソルベを始め、
バニラのサブレ、セイロンティーのジュレ・・・、
様々な味と食感が口の中で次々と広がります。
 
主役は「桃」。
このパフェに欠かせない、
こだわりの品種「浅間白桃」(あさまはくとう)です。
 
「切ると果汁が。べた時に、果汁が滴ります。
 凄い香りが強いですね。」
 
眞砂さんが特に驚いたのは、甘みの強さです。
他の桃にはない、濃厚な甘みを感じられるのだそう。
青りんごやアプリコットなど、酸味の強いものと合わせても
負けることがありません。
 
パフェの要は、桃のコンポートです。
コンポートづくりは桃の「皮」から始まります。
「皮にある渋みとか酸味とか香りを全部、この液体の方に抽出して、
 そうすることによって、桃の全ての味がもう一度この中に戻る、
 というふうにしてます。」
コーヒー用のサイフォンを使うと、
香りを閉じ込めることが出来るのだとか。
皮のエキス、色付けの赤い桃、バニラシュガーを加えてサッと煮ると、
香り高いコンポートの出来上がり。
 
ソルベはねっとりした口当たりを出すために、
「浅間白桃」をミキサーにかけて凍らせたものを使います。
 
コンポート、ソルベ、生の桃と、
「浅間白桃」の魅力を目一杯引き出しました。
セイロンティーや青りんごのジュレを合わせて、
奥行きのある味と驚きのある食感を楽しめるパフェになりました。
 
 
 

浅間白桃(雨宮農園・雨宮英人さん)


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「桃のパフェ」に使用されていた
「浅間白桃」(あさまはくとう)の産地、山梨県笛吹市。
ここに長年、「浅間白桃」を手掛けてきた名人がいます。
「雨宮農園」(あめみやのうえん)の雨宮英人(あめみや ひでひと)さんです。
雨宮さんは50年間桃を作り続けてきました。
 
「浅間白桃」(あさまはくとう)は、
ここ、山梨県笛吹市で「高陽白桃」の枝変わりとして発見された桃です。
「浅間白桃」は大きさは250~350g程度とかなり大きめで、
果汁が多いため、ズシリと重いです。
キレイな丸い形をしていて、
熟すと全体的に赤く染まるため、見た目にも非常に美しい桃です。
芳醇な香りも抜群です。
収穫時はやや硬めですが、時間、日数が経つと柔らかくなり、
とろけるような口当たりとジューシーさを楽むことの出来る、
大変美味しい品種になります。
また、糖度は13~15度程と白桃の中でもかなり高く、
加えて酸味も少ないため、しっかりと甘さを感じることの出来る桃です。
 
このように「浅間白桃」はとても美味しい桃で人気が高いのですが、
病気に弱く、他の品種よりも育ちにくいため、
栽培が非常に難しく、高い技術力が必要です。
そのため、数少ない生産者しか作ることが出来ないとされています。
 

 
「浅間白桃」は、7月下旬から8月上旬頃に収穫時期を迎えます。
雨宮農園でも、授粉や摘果を終え、
今年は2000個以上の実が大きくなりました。
 
雨宮さんのこだわりは、
糖度15になることもあるという「甘さ」です。
甘い桃を作るには、収穫10日前に行う作業が肝だと言います。
 
実を確実に甘くするため、雨宮さんが力を入れるのが「剪定」です。
余分な枝を切り、太陽光が上から当たるように調整します。
枝を切り過ぎると、実が日焼けして傷んでしまいます。
どれを残し、どれを生かすか、真剣勝負です。
剪定から10日後。
木には色付いた大きくて、色つやの良い、立派な桃が出来ました。
 
ジューシー!甘い!
生で食べても、手を加えても、
人々を魅了してやまない、桃の豊かな味わいです。
 
 
 

美の壺2.見目よき形と永遠に

桃の絵(画家・山口和男さん)

 
印象派の代表的画家・モネが描いた桃。
清朝時代の焼き物。
桃のダイナミックな枝ぶりが目を引きます。
桃は、古今東西、多くの芸術家を虜にしてきました。
 

 
そして現在も・・・。
40年間、静物画を手掛けてきた、画家の山口和男さん。
これまでに描いた桃の静物画は、40点以上にも及びます。
山口さんは、桃には他の果物にはない「特別なもの」があると
おっしゃいます。
 
山口さんは、長年、いい桃が手に入った時にはすぐに、
その姿をパステルで描き留めてきました。
ピンクと黄色の混ざり合い。ふんわり、優しい質感・・・。
匂い立つような桃の記録です。
 
このパステル画をもとに、油絵を制作します。
一番こだわるのが輪郭部分。
黄土色と弁柄色を混ぜ、ふんわり、ぼかすように描いていきます。
際立たせ過ぎず、ぼんやりし過ぎないよう、緻密に筆を動かします。
 
周りの空気に優しく抱かれた3つの桃。
産毛の向こうには、しっとり甘い果肉の姿。
画家の手によって、永遠に香りを放つ存在となりました。
 
 

「桃カステラ」(万月堂・永川洋さん)

 
 
長崎県長崎市には、昔から伝わる桃の郷土菓子があります。
しっとりと焼き上げられたカステラの上に
甘いすり蜜(フォンダン)をコーティングし、
葉と枝を飾って、桃の形に仕上げた「桃カステラ」です。
 
 
長崎では、女の子が「初節句」を迎えた家庭からのお祝い返しとして
「桃カステラ」が贈られてきました。
 

 
近年は「桃の節句」の時だけでなく、
「宮参り」や「婚礼」、「出産祝い」「誕生祝」などの時の
縁起物として贈られるようになったため、
一年中販売されているそうです。
夏時期にひんやりいただく「桃カステラ」も格別だそうです。
 

  

 
「桃カステラ」は、お店によっても違いや工夫、こだわりがあり、
長崎の方には、各々、「お気に入りの店」があります。
 
 
昭和36(1961)年創業の「万月堂(まんげつどう)では、
50年前から「桃カステラ」を製造販売しています。
卵の味がしっかりするフワフワのカステラ生地と、
柔らかめの砂糖菓子の相性が絶妙と評判で、人気のお店です。
平成25(2013)年には、全国菓子博覧会で名誉総裁賞を受賞しています。
 

 
万月堂」2代目の永川洋(えいかわ ひろし)さんは、
「桃カステラ」は長崎らしい菓子だとおっしゃいます。
「『わからん』というのは、
 「わ」の和菓子の「和」、「か」は 中華の「華」、
 「らん」は オランダの蘭学の「蘭」ですよね。
 その3つが重なったやつが
 「桃カステラ」なんじゃないかなと思いますね。」
 
しっとりふわふわで
キメの細かいスポンジケーキのようなカステラ生地は、
先代から受け継いだ永川さんのこだわりです。
そのカステラの上に、砂糖を煮詰めた「すり蜜」で桃を描きます。
「すり蜜」をよく練ってツヤを出したら、サッとつけます。
真ん中には、桃色に染め上げた「すり蜜」をかけたら、
一筋の線を入れます。
葉っぱをつければ、愛らしい桃の姿になりました。
 

 
「スポンジがふわふわしてるのもあるんですけど、
 砂糖と一緒に食べるのが美味しくて、
 いつもそれを勧めるんです、私。
 「桃カステラ」を頂いたら、あら~!って。
 ありがとう💕みたいな感じにやっぱりなりますよ。」
 

 
姿そのものが魅力を放つ桃。
昔も今も、様々なところで愛され続けています。
 
  • 住  所:〒850-0822
         長崎県長崎市愛宕2丁目7-10
  • 電  話:095-822-4002
  • 営業時間:9:00~20:00
        (日曜は18:00迄)
  • 定休日 :不定休
 
 
 

美の壺3.夜が写す、もう一つの顔

桃の写真(美術作家・やなぎみわさん)

 
 
2020年7月25日から9月19日、
台湾台北市の「非畫廊(Beyond Gallery)」で、
日本人アーティスト・やなぎみわさんの写真展
「桃樹春秋(Peaches in Time)」が開催されました。
 
たわわに実る桃の木を下から見上げた写真です。
どの写真もシャッターが切られているのは夜。
今にも落ちそうな桃の実と折れそうな枝。
愛らしく優しい桃のイメージを一変する、怪しい雰囲気の作品です。
 

 
写真が撮影された場所は、福島県福島市です。
現代的な舞台や写真を手掛けるやなぎみわさんは、
5年前から桃の撮影を続けていて、
この日も撮影のために京都からやって来ました。
 

 
 
やなぎさんが桃の木に魅かれたのは、
現存する日本最古の歴史書『古事記』からだったそうです。
最愛の妻・伊邪那美命を失った伊邪那岐命は、
黄泉の国にいるという伊邪那美命に会いに行きますが、
黄泉の国の食べ物を食べてしまった伊邪那美命の体は腐って蛆がたかり、 声はむせび塞がり、 蛇の姿をした8柱の雷神(八雷神)がまとわりついていました。
その姿を見た伊邪那岐命は逃げ出してしまいました。
自分の姿を見られ、激怒した伊邪那美命は、
「黄泉醜女」(よもつしこめ)ら追手と共に追いかけます。
ようやく伊邪那岐命が「黄泉比良坂」の麓に来た時に、
そこに生えていた「桃」の木から実を三つ取り投げつけた
ところ、雷神達は黄泉の国に帰っていきました。
伊邪那岐命はその桃の実に
「自分を助けたように、人間も助けなさい」と言って、
「意富加牟豆美命」(おおかむづみのみこと)=「偉大な神霊」 という名を授けました。

 

linderabella.hatenadiary.com

 
そして『古事記』のイメージに合う木を探して全国を歩き回り、
福島にあるこの桃畑で、理想の桃の木に出会いました。
 
この日、撮影に選んだ木は樹齢20年以上の、
桃の木としては長い年月を重ねた老木でした。
 

 
 
夜になり、やなぎさんの3人のチームが
桃の木の撮影に取り掛かり始めました。
 
まず、昼間に見定めた枝ぶりから、構図を決めていきます。
準備を始めて3時間、やっと構図が決まりました。
使うのは「8×10」と呼ばれる大判フィルムのカメラ。
隅々までピントが合うのが最適なのだそうです。
フィルムをセットしたら、いよいよ撮影です。
照明に使うのは、2本の懐中電灯です。
 

 
シャッターを1分以上開けたまま、懐中電灯で万遍なく照らすと、
桃の木を立体的に浮かび上がらせることが出来るのだそうです。
正面を撮影したら、両側も同様に撮影していきます。
写真は3枚で一つの作品。
桃の木を「実寸大」で表現します。
 
暗闇に浮かび上がる桃の木。
あの世とこの世、生と死、光と闇。
桃の別の一面を表し、いにしえに繋がる一端としたい・・・。
桃の無限の可能性がここにあります。

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