MENU

美の壺「伝統を味わう 蕎麦」<File528>

<番組紹介>
のどごしを追求した名人が作る「二八蕎麦(そば)」。
その技とは?!
 
▽江戸の食文化に通じた落語家ならではの、味わい方!
▽出雲蕎麦(そば)に衝撃を受けた職人が極めた、
 「挽きぐるみ」の十割蕎麦(そば)!
▽究極の白さ!繊細で革新的な十割の「更科蕎麦(そば)」
▽長野で受け継がれる、竹かごでいただく「とうじそば」
▽蕎麦猪口(そばちょこ)500個集めたコレクターの、
 おもてなしとは?!
 
<初回放送日:令和3(2021)年2月19日(金)>
 
 
時代を超えて愛され続ける蕎麦。
郷土の暮らしに根づいた蕎麦には人々のこだわりが詰まっています。
各地に伝わる個性豊かな味わいと色 姿形。
「蕎麦打ち」に注がれる職人達の情熱はとどまることを知りません。
その技は今も進化を続けています。
中には蕎麦の可能性を追求して、革新的な道具を生み出す職人もいます。
雪国で受け継がれてきた「振る舞いの蕎麦」には、
味わい方に風土が宿っています。
もてなしの心を込めて選び抜かれた色とりどりの蕎麦猪口もあります。
今回の「美の壺」では、味はもちろん、
見た目にも美しい蕎麦の奥深い世界が紹介されています。
 
 

美の壺1.のどごし:二八で味わう、しなやかさ

 

二八蕎麦「上野 藪そば」(柳家小満んさん)

 
江戸の食文化に通じたベテラン落語家・柳家小満んさん、
この日も行きつけの蕎麦屋「上野 藪そば」にやって来ました。
 
上野 藪そば」は、日本のそばを代表する蕎麦御三家
「藪」(江戸)「砂場」(大阪)「更科」(長野)の一つ
「藪蕎麦」の本家「かんだやぶそば」から暖簾分けされた、
明治25(1892)年に誕生した老舗の蕎麦屋さんです。
藪そば特有のやや濃い色をした蕎麦は、風味がとても豊かで
喉越し最高です。
江戸で生れた「藪蕎麦」(やぶそば)は、
雑司ヶ谷の藪の中にあったお店が美味しかったことから、
「藪蕎麦」と呼ばれるようになったという説があります。
 
 
小満んさんが決まって頼むのは、
冷たい蕎麦をシンプルなつゆにつけて食べる「せいろ」です。
香り高い蕎麦の風味を味わうにはもってこいのメニューです。
 

 
まずは、薬味なしで蕎麦を味わいます。
喉を通る時の感触「喉越し」が、蕎麦の魅力だと言います。
 

 
蕎麦は、安土桃山時代に
寺の精進料理として振る舞われていたとされています。
その頃は、鮮度が落ちると繋がりにくい「十割の蕎麦」でした。
それが、江戸初期に小麦粉を混ぜて繋げる技術が広まり、
より細く、喉越しが良くなったことで、庶民の間で大流行しました。
 
  • 住所:〒110-0005
       東京都台東区上野6丁目9-16   
  • 電話:03-3831-4728
 
 
 

薮蕎麦 宮本(宮本晨一郎さん)

 
静岡県島田市にある蕎麦屋「藪蕎麦 宮本」(やぶそば みやもと)
「当代きっての喉越しの良い蕎麦が味わえる」と、
通の間で評判の店です。
 
ご主人の宮本晨一郎(みやもと しんいちろう)さんは、
藪御三家の一角をなす老舗であった
「池の端藪蕎麦」(平成28年閉店)で修業され、
40年前に故郷の静岡県島田市に江戸情緒溢れるお店を構えました。
 
宮本さんは、「生粉打ち」や「粗挽き蕎麦」がもてはやされる昨今も、
江戸前蕎麦の伝統を頑なに守り続けています。
宮本さんが追及する「二八蕎麦」は、
ツルっと滑らかで、心地良い喉越しの後に、
蕎麦の豊かな風味が広がる蕎麦です。
 

 
宮本さんによると、大切なのは、
「蕎麦の実の水分を飛ばさないこと」。
乾燥すると、香り成分が失われるのだそうです。
そのため、石臼を1分間に5回転という低速で挽いて、
しっとりと、きめ細かな粒子に仕上げます。

収穫時期や天候によっても状態が変化する蕎麦粉の
その日の湿り具合を何度も確かめ、
そこに小麦粉を2割加えたら、
ふるいで漉して、粒の大きさを揃えていきます。
 

 
そして「蕎麦打ち」に入ります。
その要は「水回し」です。
水の量は、少ないと表面がざらつき、多いとコシのない蕎麦になるため、
粉の一粒一粒に均一に水が行き渡るように混ぜていきます。
表面が、滑らかにしっとりとツヤが出るまで練っていきます。
 

 
それから、生地を駒板に沿わせて切り揃えます。
包丁の重さを使って、垂直に切り落とすことで、まっすぐな断面に。
きめ細かく滑らかな蕎麦が完成しました。
 

 
喉越しを追求して生まれた、艶やか蕎麦。
二八の伝統の姿があります。
 
  • 住所:〒427-0107
       静岡県島田市船木253−7   
  • 電話:0547-38-2533
 
 

横田小そば
姫のそば ゆかり庵・山中将道さん)

幕府や将軍家に献上した蕎麦の実があります。
奥出雲の在来品種「横田小そば」です。
一般的な蕎麦の実に比べると、
粒が小さく、香りと甘みが強いのが特徴だと言われます。
蕎麦粉十割の太打ちにして味わうのが、地域の伝統です。
 
奥出雲、特に「小八川」(こやかわ)地域で穫れる蕎麦は
風味が良いと評価が高く、
江戸時代には松江藩が江戸幕府に納める献上蕎麦に、
小八川産の蕎麦が使われていました。
 
奥出雲は谷が多い入り組んだ地形で、
「谷風」と呼ばれる冷涼な風が吹くため、
昼夜の気温差が大きく、
土壌は水はけが良いと、
美味い蕎麦が育つ条件が揃っていました。
 
ところがある時期から、
同じ面積の畑からより多くの量の蕎麦を収穫する目的で、
大粒のソバが導入され、
昔からこの地で育てられてきた小粒の在来種は、
ほとんど絶滅に近い状態になりました。
 
ただ、「昔の蕎麦はうまかった」と
言われるようになったことから、
昔ながらの在来種に「横田小そば」という名前を付けて、
平成15年より復活させる活動が始まりました。
平成19年からは農家に種を供給。
それから、3年の歳月と沢山の人が関わって、
横田小そば」は復活しました
 
 
奥出雲で蕎麦屋「姫のそば ゆかり庵」を営む山中将道さんは、
出雲で蕎麦を食べたのがきっかけで、
横田小そば」を自ら育て、打ちたいという思い、
7年前に広島から移住してきました。
 
山中さんがこだわるのは、「製粉作業」。
香りを最大限に引き出すため、
殻ごと挽く「挽きぐるみ」という方法で、粗挽きにします。
外側の殻は取り除いて、香りが強い甘皮は残します。
 
それを太く、噛み応えのある幅に切っていきます。
「割子」という器に盛りつけて、3段に重ねるのが伝統です。
野趣溢れる味わいの出雲のそば。
噛み締めると、香りが口の中に広がります。
 

 
「黒っぽい蕎麦って皆さん言いますけど、
 殻の甘皮の部分がちょこちょこ入ってたりとか魅力です。
 僕にとってのお蕎麦というのは本当、
 穀物を食べに行くという感じだったので。」
 

 
  • 住所:〒699-1821
       島根県仁多郡奥出雲町稲原2128-1
       稲田神社内  
  • 電話:0854-52-2560
 
稲田神社は、
  須佐之男命の妻「稲田姫」を祀る由緒ある神社です。
 
 
 

美の壺2.こだわりつらぬく 黒と白

 

蕎麦粉十割の「更科生一本」 蕎遊庵(根本忠明さん)


www.youtube.com

 
栃木県足利の街を一望出来る機神山(はたがみやま)中腹に店を構える
蕎麦屋「蕎遊庵(きょうゆうあん)では、
さらしな生一本」と呼ばれる十割の更科蕎麦が人気です。

www.kyouyuuan.com

 
蕎麦の実の真ん中から取れる「更科粉」は、
デンプン質が多いため、色が白くて上品な甘味が特徴です。
タンパク質が少なく粘りがないため、繋がる力が弱いので
小麦粉を混ぜるのが一般的ですが、
「蕎遊庵」の店主・根本忠明さんは十割に挑戦してきました。
 

 
根本さんは、その持ち味を生かすには、
より細く仕上げることが大切だと考え、
根本さんは「麺棒作り」から始めました。
 
棒を削り出し、漆を塗り重ねて、
そこにアワビの貝殻を砕いて粉末にしたものをかけていきます。
麺棒の表面に凹凸をつけるためです。
 
更に漆を4回塗り重ねて、
細かな凹凸がついた、根本さんオリジナルの麺棒が完成しました。
より細く打つために試行錯誤を重ねて、
8年前から自作したのがこの麺棒です。
 
凹凸が生地に食い込むため、
細い蕎麦を打つことが可能になりました。
そして、ここから 0.5mmの幅で切り揃えていきます。
究極の繊細さで仕上げられた十割の更科「生一本」は
一本一本が透き通るように光り輝き、
軽やかな舌触りの向こうにほのかな甘みが広がります。 
 
  • 住所:〒326-0817
       栃木県足利市西宮町2549   
  • 電話:0284-21-6818
 

 

 
 

美の壺3.もてなし:趣向を凝らし振る舞う

 

とうじそば(「そば処 福伝」池田義寿さん)

長野県松本市にある奈川地区は、
標高およそ1100mのため、寒暖の差もあり、
また平地が少なかったことなどから稲作には不向きとされたため、
「蕎麦」を主たる穀物として栽培していました。
 

 
標高が高く、霧が発生しやすい気候によって
奈川の蕎麦は、甘みと香りが強いのが特徴です。
手打ちの蕎麦を寒い時期でも
美味しく食べようと考えられて生まれた食べ方が
この地の伝統料理「とうじそば」です。
 

 
 
鍋につゆ、山菜やきのこ、季節の青菜、鶏肉などを入れ、
火にかけて温めます。
小割にした蕎麦を竹で編んだ「とうじカゴ」に取り、
煮立った鍋のつゆにつけ、軽くゆがき、
つゆや具と共にお椀に移していただきます。
つゆの旨みと温められたお蕎麦の香りが食欲をそそります。
 

 
竹かごで湯がくのは、
蕎麦のコシと香りを損なわずに、手早くつゆと絡める工夫です。
竹かごに蕎麦をとうじて湯がくことから、名付けられました。
 
その他にも、
そばをつゆに浸ける事を「湯じ」と言うことから、
ひたし・あたためるという意味からという説もあります。
 
ここで生まれ育ち、蕎麦屋「福伝」を営む池田義寿さんは、
この日、実家で「とうじそば」を振舞っていました。
めでたい日や来客の時、
各家庭がそれぞれの食べ方でもてなしました。
 
  • 住所:〒390-1611
       長野県松本市奈川4233 
  • 電話:0263-79-2003
 
 

蕎麦猪口
(蕎麦猪口の収集家・笠川晢さん)

 
45年前から蕎麦打ちをしている、
「おだわらそばくらぶ」代表の笠川 晢さん。
笠川さんは、30代の頃に工芸店で「蕎麦猪口」を1つ購入。
それ以来、好みのものを見つけては集め、
今では全部で約500個ものコレクションがあるそうです。
 
有田焼や砥部焼の唐草模様。
 

 
古代オリエントを起源として、
日本に伝わった文様に壮大な歴史を感じのだそうです。
 

 
お客さんが来た時に活躍するのは、季節に合わせた模様です。
「氷雨」の文様は、冬は勿論、夏にも出して涼を演出してくれます。

文字をあしらった蕎麦猪口。
お祝いの言葉を、さりげなく蕎麦猪口に託すことも。
お気に入りの蕎麦猪口で、
家族や友人に振る舞うのが一番の喜びだと言います。
 

 
蕎麦猪口だけではもったいないので、
コーヒー、紅茶、またはほうじ茶・・・・
そういうものを入れて楽しんでいるそうです。
 

 
肌寒い日は 温かみのある色・・・、
赤?、臙脂?渋い赤?
いずれにしても、
装いも様々に大切な人をもてなしているそうです。
 

 

f:id:linderabella:20210513110059j:plain