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美の壺・選「奇跡の琥珀色 ウイスキー」 <File 536>

<番組紹介>
ストレート・ロック・ハイボールはもちろん、
数滴の水を使う「極上の味わい方」とは?
 ▽ウイスキーの父・竹鶴政孝の蒸留所では、
  蒸留器「ポットスチル」に注目!
  昭和9年から石炭を使い続けるのは?
 ▽3000もの原酒を自在に組み合わせる、
  腕利きブレンダーによる「ブレンド」の現場に潜入!
 ▽埼玉県秩父の蒸留所がこだわる、
  国産ミズナラ樽での熟成
 ▽北海道厚岸のピート(泥炭)が生み出す、
  深い味わい!
初回放送日: 令和3(2021)4月23日
 
 
 
大麦の麦芽や穀類を原料に蒸留した「ウイスキー」。
ストレートは勿論、ロックや ハイボールなど、
それぞれで香りや味わいが変化します。
樽に入れて3年から数十年熟成。
そうして出来上がるのは、奇跡の琥珀色。
今や世界5大ウイスキーの一つに数えられる日本のウイスキー。
北から南まで、全国におよそ20の蒸留所があります。
それぞれの土地に、それぞれの職人技がありました。
複数のウイスキーをブレンドして作られる味わい。
近年注目される日本ならではの樽。
手間と時間を掛けて造られたウイスキー。
今回は、愛でて、飲んで、楽しむウイスキーの奥深い世界が
紹介されました。
 
 

美の壺1.グラスに広がる無限の個性

 

ウイスキーの魅力を語る(MIZUNARA CASK・篠崎喜好さん)

 
東京・六本木にある、ウイスキーを専門に扱うバー
オーナーの篠崎喜好(しのざき きよし)さんは、
お酒が好きだったことからバーテンダーになりました。
スコッチウイスキーの魅力に惹かれます。
平成15(2003)年に「カスクストレングス(CASK strength)、
22歳の頃から修行していた有名店の
現在は篠崎さんがオーナーで、
社長兼バーマン として、合計3店のバーを経営しています。
 
バーではウイスキーを専門に扱っていて、
2000種類のウイスキーボトルが揃っています。
 
篠崎さんに飲み方を教えていただきました。
 

 
王道は「ストレート」。
ウイスキーそのものの香りと味を楽しむことが出来ます。
おすすめのグラスは「チューリップ型のテイスティンググラス」です。
グラスを斜めにしてゆっくり回すと、原酒がグラスの縁を垂れています。
これは「涙」(なみだ)と言って、
この「涙」でアルコール度数や粘度を見たりするのだそうです。
グラスを伝って落ちる滴と琥珀色をゆったり楽しみます。
 
次に篠崎さんはウイスキーに数滴の水を入れました。
数滴の水だけで変化が楽しむことが出来るのだそうです。
更に水を足すと、アルコール分が弱まり、
閉じ込められていた様々なフレーバー(香り)、
例えば穀物や果実といった香りが出てきます。
     
 
「ロック」は、
氷を入れることで更に変化を楽むことが出来ます。
氷と原酒が合わさって徐々に氷が溶けて、
味や香りがどんどん変化していくのが醍醐味。
 

そしてお馴染みの、
ウイスキーをソーダ水で割った「ハイボール」は、
アルコールの刺激が影を潜め、爽やかな香りを楽しむことが出来ます。
 

 
ウイスキーは奥が深いし、魅力的。
人生をかけて追い求めて行きたいお酒だと篠崎さんはおっしゃいました。
 
  • 住  所:〒106-0032
         東京都港区六本木6-1-8
         六本木グリーンビル6F
  • 電  話:03-5414-3222
  • 営業時間:18:00~朝迄・日曜祝日定休日
 
 

竹鶴政孝が遺したノート2冊に綴られた製法

 
日本で本格的なウイスキーが誕生したのは、昭和4年です。
後に「ウイスキーの父」と呼ばれる
竹鶴政孝(たけつる まさたか)の尽力によるものでした。
竹鶴政孝は、広島県賀茂郡竹原町出身の実業家であり、
ウイスキー製造技術者でした。
 
竹鶴政孝は、かつて大阪府に存在した洋酒メーカー
「摂津酒造」に入社。
会社の命により、大正7~9(1918~20)年、
英・スコットランドにあるグラスゴー大学に留学し、
理論を学ぶかたわらスコッチウイスキー工場に勤め、
日本人で初めてウイスキーの醸造技術を身につけました。
 
「日本人に本物のウイスキーを飲んで欲しい」と、
本場で学んできたことをノート2冊にぎっしりと書き込みました。
いわゆる「竹鶴ノート」です。
このノートをもとに、日本の本格ウイスキーの歴史が始まったのです。
 


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大正12(1923)年寿屋(現・サントリー)社長の鳥井信治郎に招かれ、
昭和4(1929)年に国産第1号ウイスキー「白札」を世に出しました。
1934年には独立して、
北海道余市町に大日本果汁(現・ニッカウヰスキー)を設立しました。
 
 
北海道余市町にある「余市蒸留所」では、
現在も当時の手法でウイスキーを製造しています。
 
私達が普段飲んでいるお酒は製造方法によって
「醸造酒」「蒸留酒」「混成酒」 の3つに
分けることが出来ます。
そのうち、ウイスキーは「蒸溜酒(スピリッツ)」で、
原料、ウイスキーの場合は「麦芽」を発酵させた液体
「もろみ」を蒸留した飲み物です。
 
「蒸留」とは、
アルコールの沸点が水より低い(約78度)ことを利用して
アルコール分だけを抽出・凝縮することで、
ビールなどの「醸造酒」よりも
アルコール度数の高いお酒が出来ます。
もろみの状態でのアルコール度数は7%程度ですが、
蒸溜することで、65〜70%程度までアルコール度数が上がります。
「もろみ」を蒸溜するための銅製の釜のことを
「ポットスチル(単式蒸溜器)」と言います。
アルコール以外の多くの成分も同時に蒸溜されるため、
香味成分を多く含んだ個性の強い蒸溜酒になります。
 
「ポットスチル」の釜の形状は、
ウイスキーの味に影響を与えると言います。
こちらの「ポットスチル」は中央部が膨らんでいます。
アルコール蒸気がこの膨らみで対流を起こし、
味がまろやかになるのだそうです。
 
加熱方法には、「石炭」を使っています。
昭和9(1934)年の創業時から受け継がれているこだわりです。
炉の状態を見極めながら火力の調節をしていきます。
 

 
出来上がった原酒は無色透明ですが、
これから長い年月をかけて、琥珀色のウイスキーになります。
 

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  • 住所:〒〒046-0003
       北海道余市郡余市町黒川町7-6
  • 電話:0135-23-3131(蒸溜所ご案内係)
 
 

美の壺2.時を重ね、時をこえて

 

ウイスキーブレンダー(マルス信州蒸留所・久内 一さん)


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雄大な信州駒ヶ岳を望む場所にウイスキーの蒸留所があります。
明治5(1872)年の創業の老舗・本坊酒造が建てた
 

 
マルス信州蒸溜所がこの地に根をおろしたのは、
昭和60(1985)年のことです。
ウイスキー造りに最適の場所を求めて
いくつもの地域を見て回った結果、
何よりもここ宮田村の水が決め手となって、
この地に蒸溜所を構えることになったのだそうです。
水の他にも、空気の良さや、
夏暑く、冬寒いというメリハリのある気候環境も、
ウイスキー造りには重要な条件だったそうです。
 

 
チーフブレンダーの久内 一(くない はじめ)さんが、
今年発売予定のウイスキーのブレンド作業を行っていました。
 
「ウイスキーの原酒製造は、
 1週間もあれば出来てしまうものなんです。
 長いのは、そこから樽で熟成させる期間。
 最低でも3年は要します。
 この熟成させる期間に、どのような環境下にあるかが、
 ウイスキーの味に大きな影響を与えます。」
 
蒸留した原酒は木製の樽に入れて、
3年から長いもので数十年熟成させます。
それぞれの樽の熟成度合いを見極めることが大事なのだそうです。
 
「同じ貯蔵庫の中でも1段目と5段目では、全然味が変わってきます。
 というのは、やっぱり上の方が温度が高いですから、
 熟成が早いんですね。
 樽に入ってるウイスキーは、一つ一つ、全部味が違います。」
 
およそ3000もの樽の中から50から100の樽を選び出し、
一つ一つ香りや味を見極め、ウイスキーの割合を決めてブレンドし、
一つのウイスキーを造り上げていきます。
 

 
マルス信州蒸溜所では、ウイスキーの製造を見学することが出来ます。
普段見る事のない蒸留機ポットスティルを始め、
ウイスキー製造プラント、原酒の貯蔵庫、
また、南信州ビールの製造風景なども見ることが出来ます。
 

 
  • 住所:〒399-4301
       長野県上伊那郡宮田村4752−31
  • 電話:0265-85-0017
 
 

日本でしか作れない樽
(ベンチャーウイスキー・肥土伊知郎さん)


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創業から僅か17年ながら、
世界からも注目されている蒸留所があります。
「ベンチャーウイスキー」です。
 
「ベンチャーウイスキー」は、
日本で唯一のウイスキー専業メーカーとして、
「イチローズ・モルト」の製造・販売を行っています。
世界的なウイスキーコンテスト
「ワールド・ウイスキー・アワード(WWA)」で
2年連続で世界最高賞を受賞するなど、
品質の高さから世界のウィスキー愛好家に好まれています。
 

 
オーナーの肥土伊知郎(あくと いちろう)さんは、
熟成がウイスキーの味を決めるとおっしゃいます。
こちらの蒸留所では、
およそ1万1000もの樽でウイスキーが熟成されています。
 
「実は、ウイスキーというのは、
 この樽の中で、少しずつ 量が減っていくんですね。
 これを天使の分け前、「エンジェルズ・シェア」と言うんですけども、
 この現象というのは、すなわち寒暖差がないと、
 ウイスキーを美味しくしてくれない。」
 

 
樽の種類も様々あり、現在は20種類程の樽を使い分けています。
アメリカのオーク材でバーボンを一度熟成させた樽は、
バーボン由来の甘みが出るのが特徴です。
他にも、ヨーロッパのオーク材でシェリー酒を熟成させた後の樽や、
赤ワインを熟成させた樽など、
樽の種類によって、様々な味と香りが生み出されます。
 
 
肥土さんは納得する樽を使いたいと、6年前から樽作りも行っています。
肥土さんが最もこだわっているのが「ミズナラ」の木で出来た樽です。
海外ではほとんど使われることがない、日本のウイスキーならではの樽です。
 
 
「例えば、日本の方だったら、
 神社や仏閣に行った時に、香りを嗅いだことがあるような、
 高級なお香とか お線香のような…。」
 
 
北海道産の「ミズナラ」を
樽職人が厚さ5㎝程の木を組んでいきます。
ウイスキーの味に影響が出ないよう、釘は一切使いません。
 
こうして組み立てられた樽の内側に、
「チャー」と言われる、直火で焼き付けを行います。
ウイスキーづくりの大切な伝統です。
樽の内側を焦がすことで、甘い香味成分が生まれると言われています。
 

 
近年注目されるミズナラですが、実は職人泣かせの素材でもあります。
木の性質上、水漏れを起こしやすいためです。
こうした水漏れを、一樽一樽チェックして直していきます。
ミズナラの樽で10年近く熟成させたウイスキーは、
まるで甘いお香のような香りと麦芽の香りなどが複雑に絡み合い、
グラスに充満します。
時を重ね、時を越えて、ウイスキーは出来上がります。
 
ベンチャーウイスキー
  • 住所:〒368-0067
       埼玉県秩父市みどりが丘49
  • 電話:0494-62-4601
 
 

美の壺3.大地が育む琥珀色

 

2000本のウイスキーに囲まれて(山岡 秀雄さん)

 
ウイスキーの評論家で、コレクターとしても有名な
山岡秀雄(やまおか ひでお)さんのお宅には、
2000本ものウイスキー壁一面に並べられています。
ウイスキーの個性は、原料や樽の種類、蒸留方法、熟成期間など、
様々な要因によって変わりますが、
山岡さんによると、もう一つ大事な要素があるのだそうです。
 
海に近ければ海っぽいニュアンスが出たり、
森林が近ければ森林の影響が出てくるというように、
土地による味わい「テロノワール」が
ウイスキーにもあるのではないかというのです。
 
ウイスキーに見る地域性なのでしょうか。
近年、地ウイスキーも作られているのもその影響なのでしょうか。
 
 

新たに目指すジャパニーズウイスキー
(堅展実業の厚岸蒸留所・立崎 勝幸さん)

 
北海道の東に位置する厚岸町の町の中心近くに広がる
別寒辺牛湿原(べかんべうししつげん)は、
平成5(1993)年にラムサール条約の登録湿地に指定されています。
 

 
別寒辺牛湿原の地中には、泥炭「ピート」が豊富に埋まっています。
「ピート」は、植物が長い年月をかけ、泥状に炭化したもので、
ウイスキーの原料となる大麦を乾燥させる際に使います。
潮気を含んだ深い霧、清澄な空気、豊富な泥炭。
その環境は、スコッチウイスキーの本場、英国アイラ島そのものです。
 

 
堅展実業社長の樋田恵一(といたけいいち)さんは、
アイラ島に似た環境の厚岸に「厚岸蒸留所」をつくり、
平成28(2016)年より蒸溜を開始しました。
 
 


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「厚岸蒸留所」の所長でチーフブレンダーの
立崎勝幸(たつさき かつゆき)さんによると、
蒸留所の目標は、スコットランドのアイラ島のようなウイスキーだそうです。
「スコットランドの伝統的な製法で、
 アイラモルトのようなウイスキーを造りたい」とおっしゃいます。
 
 


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そのため、設備はスコットランドのフォーサイス社製のものを導入。
アイラ島のウイスキー造りと同様、
泥炭「ピート」層を通った水を仕込み水に用いています。
麦汁にウイスキー用の酵母を加えて、発酵、蒸留と進みます。
 

 
冷涼で湿潤、そして海風が当たる場所「厚岸」で、
ウイスキーはゆっくりと熟成し、深い味わいを生み出します。
大地が育てたウイスキーです。
 

 
  • 住所:〒088-1124
       北海道厚岸郡厚岸町宮園4丁目109-2
  • 電話:0120-661-650
 
 

<おまけ>

ウイスキーのスペルは、「WHISKY」と「WHISKEY」どっち?
スペルの違いは「生産地」によります。
  • WHISKY  :スコッチウイスキー
  • WHISKEY:アイリッシュウイスキーとバーボンウイスキー
日本のウイスキーは、スコッチウイスキーをお手本にしているので
「WHISKY」と綴ることが多いようです。
 

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