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美の壺「黒と白の宇宙 水墨画」 <File 558>

<番組紹介>
世界で活躍する書家・紫舟さんイチオシの水墨画
「慧可断臂図(えかだんぴず)」。
線の特徴から画聖・雪舟のねらいを読み解く!
 
 ▽「鳥獣戯画」の躍動感の秘密を、水墨画家が模写で迫る!
 ▽松から作られる貴重な「松煙墨(しょうえんぼく)」。
  日本でただひとりの職人技に密着!
 ▽俳優・イッセー尾形さん憧れの水墨画「松林図屏風」
  (長谷川等伯)。
  究極の「余白」の前で、イッセーワールド炸裂!
初回放送日: 令和4(2022)年6月10日(金)
 

 
 

美の壺1.墨が生み出す多様な世界

 

雪舟作・国宝『慧可断臂図』(書家・紫舟さん)


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「美の壺」題字でお馴染みの書家の紫舟さん。
一本の筆から生み出される「水墨画」と「書」とは、
共通するところがあるのだそうです。
そんな紫舟さんが圧倒されるのは、
室町時代の画聖・雪舟の水墨画です。
 

 
紫舟さんが紹介してくれたのは、
雪舟が室町時代中頃の明応5(1496)年描いた
禅宗絵画で国宝の『慧可断臂図(えかだんぴず)です。
China絵画の伝統を踏まえつつ、
雪舟の個性が発揮された水墨人物画として、
雪舟作品中、山水画以外の唯一の国宝に指定されている作品です。
 

 
慧可断臂図(えかだんぴず)には、
岩壁に向かって座禅を続ける禅宗の祖・達磨を右奥に、
左手前には、自分の左腕(臂=ひじ)を切り落としてでも弟子入りを志願する、
慧可(えか)の姿があります。
 
線の太さや墨の濃淡を使い分け、
衣服は大らかに力強く、表情や背景は繊細にと、
描かれるものによって、緻密に筆の面を使い分けている描写に
紫舟さんは感銘を受けています。
 
 
 
 

水墨画家・大竹卓民さん

 
1958年に上海市に生まれた大竹卓民さんは、
水墨画と書の歴史を学ぶために1987年に来日し、
武蔵野美術大学造形学部日本画科、
筑波大学大学院芸術研究科修士課程を修了し、
1997年には日本国籍取得しています。
現在は、水墨画家、日本画家としての活動とともに
China、日本の絵画史を研究しています。
 
大竹さんは筆を持って実演して見せてくれました。
一本の筆から生み出される多彩な表現は、見る者の心を揺さぶります。
 
 

美の壺2.墨に五彩あり

 

日本最古の墨づくりの店「古梅園

 
墨の国内生産量の9割を誇り、
日本における墨の始まりの地でもある奈良。
 
夏目漱石が
“墨の香や 奈良の都の 古梅園”と詠んだことでも知られる、
古梅園(こばいえん)は、
天正5(1577)年創業の日本最古の製墨会社です。
 
 
近世の町屋の面影を色濃く残しつつ、
大正時代の意匠も取り入れた「古梅園(こばいえん)の建物は、
国の登録有形文化財に登録されています。
また、明治33年から掲げられている「古梅園(こばいえん)の看板は、
「なら景観調和広告賞」の歴史的広告活用部門の優秀賞に選ばれています。
敷地内の西側の墨づくりの工場では、
脈々と受け続けられてきた伝統の職人の世界が広がっています。
 

 
墨作りの方法としては大きく、
菜種や胡麻などの油を燃やして造る「油煙墨」(ゆえんぼく)と、
松脂を燃やして造る「松煙墨」(しょうえんぼく)の2つがあります。
「油煙墨」(ゆえんぼく)が主流なのですが、
その中でも煤を採るところから丁寧に墨を製造しているのは、
全国でも「古梅園(こばいえん)だけです。
 


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窓のない採煙蔵には、1室に100個の炎が燃えています。
純植物性油を土器に入れ、
藺草で作った芯に火を灯して土器の覆いを被せ、
その内側についた煤煙を採ります。
煤のつき方が偏らないように、20分おきに土器を回していきます。
火の加減、油の量にも気を使う、非常に繊細な作業です。
こうして何日も油を燃やして採れた「煤」に
「膠」の溶液をよく混ぜ合わせ、「香料」も入れてよく練り上げて
「墨」は作られています。

完成した墨は「油煙墨」(ゆえんぼく)と言われ、
深みと艶が出るのが特徴です。
 
古梅園(こばいえん)の袋亜紀さんは、
「墨の色は黒ですが、その黒の中には様々な色を含んでいて、
 水の加減によっても幅広い濃淡を出すことが出来ます。
 昔から墨に五彩ありという言葉もあります。」と
説明してくれました。
 

  • 住  所:〒630-8343
         奈良県奈良市椿井町7番地
  • 電  話:0742-23-2965
  • 営業時間:平日9:00~17:00
 
 

松煙墨(「紀州松墨」墨職人・堀池雅夫さん)


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古来より墨の原料である「松煙」の製造が盛んな紀州。
和歌山県田辺市、紀伊山地にある山中で、
日本古来の製法にこだわり続ける墨職人さんがいらっしゃいます。
墨工房「紀州松煙」の堀池雅夫(ほりいけまさお)さんです。
 

 
戦前まで「松煙」は「黒いダイヤ」と呼ばれ、
日本国内で重宝されていたそうです。
田辺市には大きな松煙問屋が3軒あり、
山の民が持ってきた松煙を、問屋が全国の墨屋に販売していました。
松材を燃やして出来た煤を使用するこの方法は手間が掛かるため、
戦後しばらく途絶えていましたが、
「紀州松煙」の堀池雅夫さんが製法を復活し、伝統を今に繋いでいます。
 

 
「松煙墨」(しょうえんぼく)には、
油分を多く含んだ「赤松」が使われます。
 
赤松で薪を作り、これを2m四方程の部屋の中で燃やして、
「煤」」を集めます。
壁に堆積している「煤」を採取出来るようになるまで、
およそ2週間かかります。
その後、「松煙」を集めて、
水に溶かした「膠」と一緒に型に流し込み、
5年から6年かけてじっくり乾燥し、熟成させて
「墨」を完成させていきます。
因みに、500Kg分の赤松から取れる煤はわずかに10kgです。
 

 
赤松から作られた「墨松煙墨」は、
水を多く含ませるとわずかに青みがかった色になります。
そのため、松煙墨は「青墨」とも言われます。
堀池さんはまた、試行錯誤を重ねて、
色の付いた墨「彩煙墨」(さいえんぼく)も製品化しています。
 

 
松を燃やして採った煤(松煙)は焚き火の匂いがします。
とっても良い香なので、堀池さんの作る墨には香料は入っていません。
硯で磨ると松煙独特の香がします。
 
  • 住所:〒646-1101
       和歌山県田辺市鮎川1914
  • 電話:0739-49-0801 
 
 

美の壺3.別天地へと誘う

 

余白(美術史家、学習院大学教授・島尾新さん)

 
日本美術史、特に雪舟と水墨画に関する研究している
島尾新(しまおあらた)さん。
水墨画の楽しみの一つに「余白」があるとおっしゃいます。
「余白」とは、白く余ったものではなく、意図的に残されているものです。
雪舟の『富士三保清見寺図』(ふじみほせいけんじず)を例に
解説してくれました。
 
 
 
『富士三保清見寺図』に描かれている富士山は、
墨を塗り残したところがあって、雪は紙の色そのものです。
これも余白といえば余白です。
余白の部分は、枝の中で何かになったり、
あるいは表現上の何かの働きをしていると言います。
 
もう一つ余白を効果的に使っていると紹介された作品が
Chinaの画家、玉澗(ぎょくかん)の『山市晴嵐図』(さんしせいらんず)です。
 
 
この画の真ん中に描かれた
二人の人物の周りは白く抜けています。
これは、夏の暑い日に水蒸気が立ち込めている大気の動きを表しています。
 
余白は、絵を見る人の想像力に委ねられています。
 
 

長谷川等伯『松林図屏風』(俳優・イッセー尾形さん)


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俳優のイッセー尾形さんは、かなりのアート好き。
安土桃山時代の巨匠、長谷川等伯による
水墨画『松林図屏風(しんりんずびょうぶ)を見に来ました。
松林図屏風』の高精細の複製と対面したイッセー尾形さん。
意表を突かれたとおっしゃいます。
「意外と書き殴っている」
「もっと書き込んでいるのかと想像していたんですが、
 もう勢いでしゃしゃっと書いてますね。」と
興味が尽きない様子です。
 
イッセーさんはいろいろ妄想します。
「長谷川等伯さんは余白を書こうとしたのではないか」
「何もないみたいなものを描こうとして、
 この松が出てきたと。
 松だからこそ色がなく、生のまま体験することが出来ると。」
 
それから、イッセー尾形さんは
手作りの人形による芝居を披露してくれました。
 
  • 住所:〒110-0007
       東京都台東区上野公園13−9
  • 電話:03-3822-1111
 

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