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イッピン「強くて長持ち、その上オシャレ 岡山・倉敷の織物」

<番組紹介>
綿花栽培に始まった岡山県倉敷の織物。
厚手の木綿織物「帆布」や、
畳の縁を彩る「畳縁(たたみべり)」など、
丈夫で長持ちする布製品を生み出す、
織物産地の底力に迫る。
 
瀬戸内海に面した岡山県・倉敷。
干拓地での綿花栽培から織物産業が発達した。
厚手の木綿生地、「帆布」を使ったリュックは、
丈夫で使うほどに風合いが増すと若者に人気。
また、畳の端を保護する細い織物
「畳縁(たたみべり)」は、カラフルなものが登場し、
その丈夫で軽い特徴を生かした布小物にも
転用されている。
さらに、長く使っても型崩れしない
手織りの椅子敷物も紹介。
日常使いの布製品を生み出す、織物産地の底力に迫る。
 
<初回放送日:令和2(2020)年12月15日>
 
 

1.倉敷帆布(丸進工業)


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「帆布(キャンバス)」とは、
「綿や麻で織られた平織りの厚手生地のこと」を言います。
日本では昔、帆船の帆の材料として使用されていたことから
「帆布」(はんぷ)と呼ばれています。

 
その発祥は、古代エジプトまで遡り、
船の「帆」として使われるようになったのが
始まりだと言われています。
古代エジプトではミイラの巻き布にも使われていたそうです。
日本では、織田信長の帆船に用いられたのが最初だと言われています。
 

 
 
「帆布」の特徴はとにかく丈夫な点。
耐久性や通気性、水にも強いことから、
帆船の帆、テント、パラシュート、 石炭運搬用袋、靴など
強度の必要なものに使用されてきました。
他にも、体育のマットや絵画用のキャンバス、バッグなどの衣料品にも
幅広く使われています。
 

 
「帆布」は使い始めは固く感じますが、
使えば使うほど柔らかくなり、
色合いも馴染んでくるといった経年変化を楽しめる点も魅力です。
 
 
現在、日本で流通する「帆布」のほとんどは海外製です。
国産帆布の約7割は、岡山県倉敷市で生産されています。
 
かつて岡山平野の大部分は「吉備の穴海」と呼ばれる一面の海で、
現在の倉敷市児島は文字通りの島でしたが、
江戸時代初期には干拓により海は陸地になりました。
そこでは、塩分に強い綿や藺草(いぐさ)などの作物が栽培されました。
それらを原料として、児島地域では、
「真田紐」や「小倉織」などの繊維製品が生産されるようになり、
繊維産業は地域発展の基盤となりました。
更に明治時代になると、
政府によって民間紡績業の育成が奨励されたことから、
繊維産業は大いに隆盛しました。
 

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明治15(1888)年に、児島地区の郷内にて、
現在の「倉敷帆布」の発展に大きく寄与した
厚物織り工場「武鑓織布工場」(たけやりしょくふこうじょう)
武鑓石五郎と妻の梅により創業され、
足袋の生地や衣料の生地の製造を行いました。
 
元々、梅は機織り上手であり、しばらくすると、
曽原の武鑓ですごく良い手織り木綿が出来るという評判が
児島の問屋に広がります。
男子の角帯の注文が入るようになると製造が追いつかなくなり、
織機を増設したり、人員を募集したりして、
どんどんとその規模を大きくして行ったそうです。
明治36(1903)年に「第五回内国勧業博覧会」に出品し、
見事、閑院宮載仁親王(かんいんのみや ことひとしんのう)より
褒状を受けました。
 
昭和に入ると、
昭和2(1927)年に、石五郎の長男・武鑓卓衛(たくえ)
「武鑓織布工場」(現・株式会社タケヤリ)を設立して、
帆布製造を始めるようになりました。
また昭和8(1933)年には、石五郎の3男・武鑓進衛が
隣地に「丸進工業」を創業、帆布製造を始めました。
 
 


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丸進工業」の工場長・西中隆彦さんにお話を伺いました。
こちらの工場では、敢えて1960年代前後に作られ、現在では希少な、
旧型の「シャトル機」を58台使用し、
昔ながらの規格や製法を大切にしながら、「帆布」を作ってます。
 
織機(しょっき)には、
緯糸(よこいと)を通すためのシャトルがある「シャトル織機」と
シャトルを使わない「シャトルレス織機」があります。
今の主流は「シャトルレス織機」です。
コンピューター制御により風圧や水圧を使って高速で緯糸を運ぶため、
倍のスピードで織り上げることが出来るため非常に生産効率が高く、
織る際の糸への張力が強いため、
表面が均一でツルツルとキレイな仕上がりとなりますが、
緯糸がやや押し潰されるため、出来上がった生地はフラットな表情で、
やや薄くなってしまいます。

一方、「シャトル織機」は、
「シャトルレス織機」の10~20分の1という
低速度でしか織ることが出来ず、
生地の厚さ、縦糸の張り具合の調整など取り扱いが難しいことから、
工程において職人の手作業を多く必要とする極めて非効率的な織機です。
 
しかし、経糸(たていと)にも緯糸(よこいと)にも負担を掛けないよう、
ゆっくりと時間を掛けて丁寧に織ることため、
表面に凹凸感のある
ふっくらとして温かみ味のある風合いの生地が生まれます。
また、高密度で織ることから耐久性が非常に高く、
「シャトル織機」で織った生地から作られた服は
長く愛用出来ることも特徴です。
 
旧型の「シャトル織機」は、
緯糸を巻き付けたシャトルが経糸を縫うように往復するため
生地の両端の「ほつれ」を防止するために
「セルヴィッチ(selvedge・耳)」が生まれます。
赤い糸が使われることから「赤耳」とも呼ばれます。
「セルヴィッジ」とは、元々は、
「セルフエッジ(=生地の耳を生かした端)」という
英語が転じたものとの説があり、
1980年代後半から1990年代初頭に旋風を巻き起こした
「ヴィンテージデニム」のブーム到来で、
デニムの風合いや色落ちの良さなどから脚光を浴び、
「セルヴィッジ」への注目が高まっています。
 
 
 
旧型の「シャトル織機」は既にメーカーが存在しないので、
自分達で修理して使い続けています。
工場長の西中さんは、1~2時間は機械の調整に充てているが、
それでも機械を調整している時が楽しいとおっしゃいます。
 
壊れたパーツを得るために、
廃業した他の工場から織機を買い取ってバラしたり、
パーツを自分達で作ったりもしています。
 
 
平成16(2004)年、
丸進工業タケヤリ、タケヤリ帆布協同組合の三社は
倉敷帆布」の販売会社「株式会社バイストン」を設立しました。
「バイストン」という社名は、
3社共通のルーツである創業者の武鑓石五郎、梅夫婦に因み、
梅(バイ)+石(ストーン)として命名されました。
 
「バイストン」は、令和3(2021)年4月1日からは
倉敷帆布株式会社」と社名を変更して、
数々の「倉敷帆布ブランド」を世に送り出しています。
 

 
 
倉敷帆布の最も基本となる生地と縫製で作られ「基帆」シリーズ、

 
昔ながらのシャトル織機で作られた、
風合いのよい綿帆布の織り幅の耳をそのまま活かして作られた
「セルヴィッジ」シリーズ、

 
倉敷帆布とレザーの組み合わせを基本とした
「クラシックス」シリーズなどがあります。

 
 
「帆布」を使ったリュック「ロールトップリュック」は、
丈夫で使うほどに風合いが増すと若者に人気です。
広い口は荷物の出し入れがしやすく、
ロール部分の巻き方次第でバッグのサイズを調整出来、
側面のジッパーから中にアクセスすることも可能です。

 
 
タケヤリでは、自社ブランドとして、
タケヤリの特徴である極厚2号帆布に
チャコールグレーの緯糸を織り込み深い色味を実現させた
「シャンブレー帆布シリーズ」、

 
9号帆布に特殊撥水加工を施した
撥水タイガー帆布」など展開しています。
急な雨でも安心して使うことが出来る特別仕様です。

 
 
 
 

2.畳縁(高田織物・高田尚志さん)


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岡山県南部はかつて、畳表やゴザの原料の
「藺草」(いぐさ)の一大生産地として知られ、
全盛期の昭和45年頃には、
全国で生産されるイ草のほとんどが岡山県産でした。
 

 
その大半は倉敷で生産され、
また「藺草」(いぐさ)を使った製造業も盛んでした。
更に、畳とともに「畳縁」(たたみべり)も盛んに作られました。
現在、全国の「畳縁」の約80%が作られています。
 
「畳縁」(たたみべり)とは、
畳のへりに付けられている布のことで、
畳表の角を補強する役割、
畳の間に出来る隙間をしめる役割があります。
かつては格式を表すものであったため、
地位や身分によって選べる柄に制限がありましたが、
現在は、自室の雰囲気に合わせて
好きなものを使用することが出来ます。
 
 
また近年は、畳の補強用としてだけでなく、
ハンドメイド作品の彩りとして、バッグや小銭入れ、
がま口、小物、髪飾りなどを制作する際に
「畳縁」が使われています。
 
 
 
髙田織物」は日本のシェア40%以上を持つ
「畳縁」(たたみべり)のトップメーカーです。
 
綿花の一大産地であった倉敷市では、綿加工業が発展。
児島では、帯地・袴地・着尺となる「小倉織」や「真田紐」などが生産され、
江戸時代には由加山参りの土産として人気を集めていました。
 

 
髙田織物」は明治25(1892)年に創業し、
当時、倉敷市児島の名産であった「真田紐」の製造をしていました。
 
大正10(1921)年頃、児島出身の松井武平が
浜松で「光輝縁」(こうきべり)の製法技術を学び、
児島地区の人々に惜しみなく伝え広げると、
これを機に同地区で「畳縁」の生産が始まり、
髙田織物」も「真田紐」から「光輝縁」へと
生産をシフトしていきました。
 
「光輝縁」(こうきべり)とは、
経糸・緯糸に木綿の艷糸を用いて平織りにしたものです。
光沢があり、畳縁に用いるためこのように呼ばれています。
大正8,9年頃に浜松の「城北機業」が靴紐用の艶糸を利用して「光輝縁」を考案しました。
 
 
 
昭和37(1962)年、
ジャガードを搭載した「シャトル織機」で、
綿の無地にポリエチレンで「柄」出しをした「大宮縁」を製造。
 

 
これにより、「畳縁」は「無地縁」から「紋縁」へと大きく変わり、
素材の主流も「麻」や「綿」から、
「ポリエチレン」「ポリプロピレン」「ポリエステル」などの
「合成繊維」へと移り、色も柄も多彩になりました。
昭和40(1965)年には、「大宮縁」をグレードアップさせた、
高級感溢れる経糸三重織の「新大宮縁」も誕生しました。
 

 
 
現在、鮮やかで大胆なデザインの「畳縁」が
次々と生まれています。
髙田織物」では、畳縁業界初の「紙糸畳縁」、
環境に配慮したエコマーク認定商品など、
何と1000種類以上のデザインがあるそうです。
髙田織物」の代表取締役・高田尚志さんに
製造工程を紹介していただきました。
 


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まず、布地のどの位置で経糸を出すか、
それを予め精密に計算して、機械に指示を与えるプログラムを作ります。
 
糸には「ポリエチレン」「ポリエステル」などを用いています。
「ポリエチレン」は伸縮が少なく耐久性があり、
しなやかな質感の「ポリエステル」は優しい肌触りをもたらすそうです。
使う糸の種類が異なると最適な張り具合が異なりますが、
職人の岡城泰江さんは指の感覚で見極めることが出来るそうです。
 
 
現在、「髙田織物」では、
「畳縁」を使った可愛い雑貨などを作り、
美観地区にオープンした畳縁専門店「FLAT」やネットショップ
販売も行っています。
 

 
きっかけは「畳縁ロス」でした。
「畳縁」は基本的に10畳一間分を1ロットで納入しますが、
最近の和室は8畳から6畳、あるいは4畳半で畳を作ることが多くなり、
使われずに余ってしまう「畳縁ロス」が多く出るようになっていました。
高田さんは、手芸業界の方々や地元の繊維産業に従事している方々に、
畳縁を使ったモノづくりをお願いしたところ、
多くの魅力的な製品アイディアが集まったのです。
「これはいける」と
ハンドメイド素材として販売することを決めた瞬間でした。
 
 
岡山の素材を使用し、
今までになかった女性向けの雑貨を中心とした商品の
企画開発をしている「くらしき女子Collection」では、
畳縁を使ってカードケース、ストラップといった小物類を作っています。
 

 
 
 
 

3.倉敷本染手織研究所

倉敷美観地区にある「倉敷本染手織研究所くらしきほんぞめておりけんきゅうじょ」は、
倉敷の民藝運動の中心的存在であった外村吉之介(とのむらきちのすけ)
昭和28(1953)年に創設した
女性達が共同生活を送りながら手織りの技を学ぶ学校です。
 
「倉敷本染手織研究所」の研究生達は、
一年間の在籍期間中に手紡ぎと本染め、手織りの技術を学びます。
 

 
最初に教わるのが、外村が生み出したという
綿やウールで織られた毛足の長い椅子用の敷物
「倉敷ノッティング」です。
 

 
結ぶという意の英語「knot(ノット)」が名前の由来。
(たて)に木綿糸を強く張り、
緯糸(よこいと)に木綿やウールの糸束を結び(knoting)、
毛足を切り揃えて、
各段の結び目を筬(おさ)でしっかり打ち込むことを繰り返して作ります。
 
40㎝四方に織られた椅子敷は、元々は、
夏用に綿、冬用にウールをと想定して作られていましたが、
夏でも冷房が効いている現代の住まいでは、
暑い季節でもウールのノッティングの温かみが好まれ、
季節を問わず使われるようになっているそうです。
 

 
1つ仕上げるのに3日を要しますが、
丁寧な作りであれば30年近く使えるそうです。
 

 
OGの岡野妃佐子さんは、
椅子の織物は絨毯づくりの要領で作られているとおっしゃいます。
 

 
織り方だけでなく、デザインを考案したのも外村です。
「単純な図案の方が美しさを損なわない」という外村の考えを反映し、
極めてシンプルでありながら、
それでいて決して飽きることのないデザインです。
 

 
岡野さんは、この研究所では、
日常的に頻繁に使われる物には職人の技量と情熱が現れ、
その素晴らしさと怖さを教え込まれたと
おっしゃっていらっしゃいました。
 
倉敷本染手織研究所
  • 住所:〒710-0054
       岡山県倉敷市本町4−20
 
 

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