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広島県「熊野筆」(くまのふで)

広島県西部にある熊野町は、
江戸時代末期から筆の製造が盛んな町です。
「毛筆」「画筆」「化粧筆」のいずれも
全国一の生産量を誇る産地として知られ、
筆の全国シェア8割以上の生産量を誇る
日本一の「筆の都」として有名で、
愛知の「豊橋筆」、奈良の「奈良筆」、広島の「川尻筆」と合わせて
「筆の四大産地」として知られています。
現在、100社程の熊野筆メーカーが軒を連ね、
24,500人の住民のうち、およそ2,500人が筆づくりに携わっています。
 
 

熊野筆の歴史

 
「熊野筆」の歴史は江戸時代末期に始まります。
 
農地が少なかった熊野では、
農業だけでは生活を支え切れなかったことから、
農閑期になると、農民の多くは吉野(奈良県)や紀州(和歌山県)に
出稼ぎに出掛けていました。
そして出稼ぎの帰りには
奈良や大阪、有馬(兵庫県)地方で筆や墨を仕入れて、
それを途中の町や村で行商しながら熊野に帰っていました。
 

 
このようなことが繰り返されるている中、
天保5(1834)年、佐々木為次(ささきためじ)は13歳の時に
摂津国(兵庫県)有馬に行き、
そこで4年間筆づくりを学んで帰って来て、
熊野で筆づくりを行わうようになります。
弘化3(1846)年頃には、井上治平(いのうえじへい)が18歳の時、
広島の浅野藩御用筆司(ふでし)の吉田清蔵より、
筆作りの技術を学びました。
同じ頃、乙丸常太(おとまるつねた)も有馬で筆づくりを学び
熊野に帰って来ました。
村に帰った彼らによる技術指導によって筆づくりが本格化。
彼らの熱心さと、村人の努力によって筆づくりは、
熊野で広がって行きました。
 

 
明治に入り、明治5(1872)年に学校制度が出来、
また明治33(1900)年に義務教育が4年間になると、
学校に通う子供達の数が増えて、
筆がより多く使われるようになったことから、
熊野に伝わった筆作りが飛躍的に発展しました。
 

 
筆作りをする人も増え、
良い筆を作る努力や工夫が一層進められたことから、
明治10(1877)年の「第1回内国勧業博覧会」で熊野の筆が入賞。
熊野筆の名は、次第に全国に知られていくようになりました。
 

 
また東京、大阪、奈良などでは、
近代産業の発展とともに次第に筆作りが衰え始める一方、
熊野には新しい産業が入らなかったことから、
筆作りが地域を支える産業として発展していきました。
昭和11(1936)年には、7千万本もの筆を作るまでになりました。
 

 
第二次世界大戦後、
GHQにより書道教育が国粋主義の思想教育と決めつけられて
中止されたことから、毛筆の需要も低迷。
筆づくりに携わっていた職人達は転廃業を迫られました。
 

 
しかし熊野ではこれを契機として、昭和30(1955)年頃から、
これまで培ってきた書筆づくりの技術を生かして、
新たに画筆や化粧筆の生産を始めます。
昭和33(1958)年に学校での書道教育が復活すると、
「熊野筆」の需要は以前よりも増す結果となりました。
 

 
昭和50(1975)年、広島県で初めて
「国の伝統的工芸品」に指定を受けた他、
平成16(2004)年には、当時としては全国的にも珍しい
「団体商標」を取得しました。
平成18(2006)年1月には、
「熊野筆の統一ブランドマーク」も開発され、
熊野で作られた製品である証として、広くPRされています。
 
現在では、熊野筆は、多く人々からその品質を認められ、
世界中で親しまれています。
 
 
熊野筆のブランドマーク

統一ブランドマークは、
「KUMANO FUDE」の頭文字の「K」であり、
3本の線は、
  書[黒]  化粧[赤]   画[黄] の世界を表し、
動きは「協同」「成長」を意味しています。
また熊野筆を生み出す3つの資源である
「地域」「人」「伝統」も象徴しています。
 
躍動感のある動きには、
「新しさ」「進化」の意味を込めています。
 

 
 

熊野筆の製作工程


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筆作りは、材料をまとめて仕入れ、
穂首作り、軸作り、繰り込み、仕上げ、銘彫刻など、
それぞれの工程を受け持つ職人が分業で行っています。
そしてこれらの工程は、
毛筆・画筆の軸の材料(竹・木)を切る作業は
一部機械で行われていますが、
それ以外は、ほとんど全てを手作りで行われています。
 
 
筆の原材料

 
筆の原材料については、熊野町では産出されてはいません。
 
1本の筆は大きく分けて、「穂首部分」と「軸部分」に分けられます。
「穂首」の材料は、主に動物の毛です。
馬、鹿、山羊、たぬき、いたち、猫などです。
そのほとんどが、Chiaを始め北米(カナダ)などから輸入されています。
 
鹿の毛は墨含みが良く、
リスの毛は最高級の化粧ブラシに使用されていますが、
熊野筆一本の「穂首」には、10種類以上の動物の毛が使われていて、
それぞれの筆ごとに、毛の種類と長さの配合は異なります。
 
「軸」の材料は主に竹や木で、これも熊野町にはなく、
国内で言えば岡山県や島根県、兵庫県から、
外国ではChina、台湾、韓国など輸入しています。
 
 
製作工程


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熊野筆の製作工程は、筆の大きさや種類によっても違いますが、
大きく「下仕事」「台仕事」「仕上げ」の3つに分類されます。
 
「下仕事」では、毛を選び、選んだ毛を組み合わせ、
灰で揉んで油分を抜き、必要な長さに揃えて切り揃えます。
 
「台仕事」は、整えられた塊を
実際に「穂首」と呼ばれる筆の先に組み上げる作業です。
長さや質の異なる毛を何度も混ぜ合わせて均一に質を整えたら、
芯の外側に衣のように毛を巻き付け、
根元を糸で締めて焼けば、「穂首」が完成します。
 

 
そして「仕上げ」作業に入ります。
まず桜や竹で出来た軸のサイズを穂首に合うように調整し、
軸に「穂首」を接着します。
穂首の中の不要物を取り除き、
毛をまっすぐに整えるために穂首を糊で固て仕上げたら、
工房ごとの銘を彫刻して完成です。
 


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「筆司」(ふでし)
一本の「熊野筆」が完成するまでには70以上の工程が必要ですが、
そのほとんどが手作業で行われています。
穂首の材料である毛の性質が動物の種類によって全て違い、
その違った性質を読み取り、筆の形に作ることは機械では難しく、
やはり長年の経験と高い技術を持った人の勘が頼りなのです。
 
筆を作る職人を「筆司」と呼び、
現在、熊野町には約1500名の「筆司」がいます。
 
そのうち、伝統工芸士として認定を受けている「筆司」は18人おり、
その技術を現在に繋いでいます。
なお、伝統工芸士の手掛けた筆には「銘」が刻まれています。
 
熊野筆は技術の習得にかなり長い年月がかかることから、
後継者の育成に苦悩していることが問題となっています。
熊野町では積極的に後継者の育成にも取り組んでいます。
 

 
 
 

熊野筆の種類

熊野で生産される筆の種類は大きく分けて、
国の「伝統的工芸品」の指定を受けた「書筆」、
「画筆」や「化粧筆」が作られています。
熊野にはおよそ100社もの筆関連事業所がありますが、
それぞれのメーカーが特徴ある、魅力的なプロダクトを製作しています。
 
書筆

 
「書筆」は熊野筆の原点です。
児童用、一般用、専門家用など、様々なタイプの筆が生産されています。
 
熊野筆の魅力は、穂先がまとまり、適度な弾力があって、
書きやすいところです。
また墨含みがよく毛先が割れにくいため、
書の濃淡、強弱など、書き手の精神を自在に表現することが出来る点です。

 
 
画筆

 
「画筆」と言っても、
水彩、油彩、日本画、工芸品用など、その用途は様々です。
更に、初心者用からプロ用までその種類豊富です。
用途に合わせて、いたち、馬、羊、鹿など、
いろいろな動物の毛を使い分けて製造されています。
 

 
熊野筆特有の穂先のコシや弾力は、
滲みやぼかしに加え、細かい表現も出来るため、
「画筆」としても魅力的です。
 
 
化粧筆

 
熊野化粧筆(熊野筆メイクブラシ)は、その品質の高さから、
国内外の一流の女優やメイクアップアーティストも愛用する逸品です。
 
毛の種類によって肌触りやメイクのノリが違うため、
下地の種類や仕上がりのイメージによって筆を使い分けているそうです。

 
原料である動物の毛は、キューティクルが鱗片状になっているので
粉がしっかり筆につき、メイクの乗せすぎを防ぎ、
また適度なコシと弾力により、細部まで美しく仕上げることが出来ます。
 
更に、繊細な熊野筆のブラシは、
肌の弱い人でも痒みや痛みを感じにくくやさしい触感なのも
人気の理由のひとつです。
 

 
なお使用後は、手のひらなどで粉をそっと振るい落すか、
ティッシュの上で数回なでるようにすれば、
残った粉を落とすことが出来ます。
擦り過ぎると毛先が傷んでしまいますから、
あくまでもやさしく軽くなでるようにするのがポイントです。
 
 

 
熊野筆の洗顔ブラシは、
優れた耐久性と泡立ちの良さが魅力です。

洗顔に欠かせないきめ細かな泡を作り、
毛穴の奥の皮脂や汗、残ったメイクまですっきり落とせるので、
黒ずみやニキビといった肌トラブルを予防することが出来るでしょう。
 

 
 
 

熊野筆を見る・触れる・買う

 
筆の里工房
筆の里工房は、熊野町の筆づくりの文化を発信し、
筆にまつわる様々な芸術・工芸などの展示、収集などを行う
筆の博物館です。
絵手紙などの筆を使った創作体験、筆づくり体験も出来る他、
館内には、書・画・化粧などの筆を約1500種類取り揃えた
熊野筆セレクトショップ」もあります。
 
  • 住所:〒731-4293
       広島県安芸郡熊野町中溝5-17-1
  • 電話:082-855-3010
  • 開館時間
    10:00-17:00(入館は16:30まで)
  • 休館日
    毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
    年末年始(臨時休館あり)
  • 入館料
    大人600円 小中高生250円 幼児無料
 
 
熊野筆セレクトショップ
書筆、画筆、化粧筆を取り扱う、
熊野筆のオフィシャルショップです。
熊野筆のブランド化を推進する目的で立ち上げられました。
 
本店は筆の里工房の一階にあります。
また広島の「ホテルグランヴィア広島」内と
東京・銀座の「ひろしまブランドショップTAU」内に
店舗があります。
 
店内には、伝統工芸士によってつくられた書筆、
熊野の各メーカーより厳選された化粧筆、
そして熊野筆セレクトショップが手掛けるオリジナル商品が並んでいます。
 
広島店にはメイクアドバイザーがいて、化粧筆のサポートしてくれます。
 

kumanofude.com

 
  • 住所:〒104-0061
       東京都中央区銀座1丁目6-10
       ひろしまブランドショップTAU 2F
  • 電話:03-6228-7813
 
 
 

筆まつり

 
「筆まつり」は、毎年「秋分の日」に行なわれる
熊野町最大のイベントです。
 
筆の都「熊野」が最も賑わう一大イベントです。
1日のみの開催ですが、毎年5万人程の来場者で賑わいます。
 
 
まず「筆塚」において、
全国から集められた役目を終えた筆を筆を供養する
「筆供養」が行われます。
 使えなくなった筆があれば、筆まつり実行委員会に
 筆を持って行くか、下記のところまで郵送することで
 供養してもらうことが出来ます。
 
 筆まつり実行委員会(熊野町商工会内)
 〒731-4214 広島県安芸郡熊野町中溝四丁目17番13号
 
筆塚
筆の精と祖先の遺徳に対する感謝をこめて建立された石碑。
石碑には、総理大臣を務めた池田勇人の書が刻まれています。
 
そして、様々な筆が一日限りの大特価で販売される「筆の市」、
約20畳程の広さの特殊な布に巨大な筆で書き上げる「大作席書」、
参道の両側を熊野筆で飾る「一万本の筆通り」、
競書大会や絵手紙体験など、
楽しいイベントが盛りだくさんに行われます。
 

 
この「筆まつり」は、熊野町商工会設立十周年に当たり、
昭和10(1935)年9月24日に第1回が開催されました。
日本三筆の一人とされ、
また自ら筆を造られたという嵯峨天皇をしのび、
併せて熊野町製筆の元祖とされる
井上治平、音丸常太、佐々木為次の三氏の功労に
感謝する意を込めて行われたものです。
 

www.fudematsuri.jp