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イッピン「飾らない美を未来につなぐ 岩手・漆器」

<番組紹介>
岩手県北部で作られる2つの漆器・浄法寺塗と安比塗。
いま、若手の職人たちが地未来に向けて、
新たな挑戦を続けている。
伝統を受け継ぎながら、工夫を重ねる姿を紹介。
 
岩手県北部は、国内最大の漆の産地。
その良質の漆を使って全国に知られるのが、
浄法寺塗と安比塗だ。
絵柄もなく装飾もない、無地が特徴。
いま、若手の職人たちが、伝統の技にさらなる工夫をこらし、
これまでにない漆器を生みだしている。
一つは木目の椀。漆を何度も塗り重ねるという、
従来の特徴は生かされている。
もう一つは「通常の漆器では見られない形」の小鉢。
どんな方法で困難を克服したのか?
わざと工夫を見つめる。
 
<初回放送日:令和4年(2022)年9月30日>
 
 
日本文化の象徴の一つ「漆」(うるし)。
岩手県は漆の出荷量が日本一(令和2年)です。
  • 第1位:岩手県・・・全国シェア 74.3%(1,525kg)
  • 第2位:茨城県・・・全国シェア 18.0%(   371.kg)
  • 第3位:栃木県・・・全国シェア   4.8%(  100kg)
 
県内出荷の全てを担うのが、
県北の安比川流域にある二戸市にのへし浄法寺町じょうぼうじまち
「浄法寺漆」(じょうぼうじうるし)です。
 
ここから採取される漆は透明度・発色ともに良く、
硬度に優れた堅牢な品質であるため、
国宝や重要文化財の修復や
世界遺産となっている建造物の保存修理に用いられています。
 
安比川流域でも昔から
この良質の漆を使った素朴な漆器が作られてきましたが、
戦後になるとプラスチック製品や陶磁器の普及や
価格の安い輸入漆の増加によって「浄法寺塗」は廃れてしまいました。
 
 

1.浄法寺塗「木地呂椀」(岩舘 巧さん)


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岩舘家は「浄法寺漆」を語る上で欠かせない家です。
岩舘正二さんは漆を採り、全国の漆器生産地に出荷する一方、
「浄法寺漆生産組合」や「日本うるし掻き技術保存会」など、
業界の発展のために様々な団体を立ち上げました。

二代目・隆さんは一度は就職で県外へ出ましたが、
父・正二さんに22、23歳くらいの頃に呼び戻され、
塗師の道に入りました。
そして、「浄法寺漆」を原料としてだけではなく、
「浄法寺塗」を広めるために尽力しました。
 

 
隆さんは、
「浄法寺漆」を生かした、漆そのものの質感を生かそう、
更に「これからの時代に合ったスタイル」を意識した
日常で使える「浄法寺塗」を作ろうと考え、
色味を「朱と溜」の2パターンとし、
仕上げに磨きをかけない、無地で素朴な器を産み出しました。
何度も塗り重ねた滑らかな手触り、一色だけの素朴な味わい、
使い込むほど表情が変わり、「浄法寺漆」の個性がしっかり味わえる
隆さんが作った器は人気を博し、
「浄法寺塗」として全国に知られるようになりました。
 

 
 
お父様の仕事ぶりを間近に見ながら育った三代目・巧さんは、
一度は県外で就職しましたが、地元に戻り、
お父様を師と仰ぎ修行を積んできました。
 
「漆を均等に塗る」・・・それを何度も繰り返し、
しっかりした漆の層を作る父の技を自分のものにしたいと
必死でした。
 
やがて職人として自信が持てるようになると、
これまでにない「浄法寺漆塗」に挑戦したいという思いが
芽生えてきます。
 
そうして生まれたのが「木地呂椀」でした。
内側は父から受け継いだ「浄法寺塗」の技法で仕上げ、
外側は木目がくっきりと浮かび上がる透明な漆を塗っています。
 
「木目を見せる漆器は他の産地にいくらでもあります。
 問題は木目を見せながら
 『浄法寺塗』らしい仕上げにすること。」
 
どんな木を使えばいいのかそれが最初の課題でした。
通常は「トチ」や「ミズメザクラ」の木を使います。
漆が乗りやすいからなのですが、それでは美しい木目は出ません。
巧さんが選んだのは、木目の筋がクッキリと鮮やかでキレイに出てる
「ケヤキ」でした。
 

 
しかし「ケヤキ」には大きな問題がありました。
「ミズメザクラ」に比べ、表面が全体に凸凹しているのです。
「浄法寺塗」の特徴である滑らかな手触りが出せない。
それでは折角の挑戦の意味がない、巧さんはそう考えました。
 
問題を解決するために取り組んだのが、「下地作り」でした。
「下地作り」は、他の産地では一般的なのですが、
「浄法寺塗」ではこれまで行なわれてきませんでした。

「錆土」(さびつち)と呼ばれるきめ細かい土を
漆で練ってペースト状にし、これを「ケヤキ」の表面に塗り込みます。
乾くと硬くなり、これで漆が乗りやすくなります。
木目の凹みをキレイに埋め込み、どんな小さな穴も出来ないようにする。
一度塗り終わったら一日を置いておき、またしっかりと塗り込めていく。
こうして三度に渡って「錆塗り」を行います。
木目はどうなったのか、
凹んだ部分をキレイに埋めることは出来たのか。
研ぎ出すと、奥目が見えてきました。
「錆土」が凹んだところにしっかりと定着し、
木目が黒く浮き出、全体も滑らかに仕上がっています。
 
ここで漆を塗り重ねていきます。
使うのは勿論、地元で採れた漆です。
良質な漆は透明度が高いので奥目を生かしてくれます。
たっぷりと均等に塗り終わったら、和紙で素早く拭き取ります。
この作業を二回三回と繰り返すうちに厚さが増してきました。
木目の美しさ。それを包む透明な漆はどこまでも滑らかです。
父から学んだ「浄法寺塗」の技、それに磨きをかけ更に進化させたい。
そんな意気込みを感じさせる漆のお椀です。
 
「今までのその『浄法寺塗』の色っていうのは勿論大事で、
 それは受け継いでいかなきゃいけないものだと思うんですけど、
 そこから更に、
 こういうの入れたら面白いですよっていうようなことを
 提案出来るような器を作っていければいいのかなって。」
 
 
 

2.漆掻き(うるしびと・長島まどかさん)


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「漆」とは、ウルシの木に傷をつけた時、
その傷口を塞ぐために分泌・浸出する樹液のことを言います。
人間の血液と同じように、漆も樹液を出して木を保護する訳です。
 
ウルシの樹皮と材部の間には
「漆液溝」という漆液の通る道があり、
それを遮断するようにカンナで傷をつけて
滲み出た漆を採ることを「漆掻き」(うるしかき)と言います。
 
6月から10月、岩手県北部の漆の森では、
漆掻き職人が朝早くから日が暮れるまで
ひたすら漆を掻き採る作業を繰り返しています。
 

 
文化庁は平成18(2006)年から、
文化財建造物の保存修理のために不可欠な木材や
檜皮(ひわだ)、茅(かや)、漆などを安定的に確保するために、
浄法寺を第1号の設定地とし、ウルシ林の植樹が進め、
全国の若手漆掻き職人の修行の場とすることにしました。
 
二戸市でも、漆産業の後継者育成のため、
それに応えて、これまで全国から12人の若者が地元の職人に弟子入りし、
技術を習得してきました。
 

urushi-joboji.com

 
 
最年少で参加した長島まどかさんは、埼玉県出身。
うるしびと」として漆掻き技術の習得に励み、
今では職人としての自立し、後輩達を指導する立場です。
 
「朝5時に起きて、7時頃から山で漆掻きをしています。
 最近は漆の原木の数が減っているので、
 苗を育てたりもしています。」
 
因みに、二戸市の漆を採取する技術「漆掻き」を含む
令和2(2020)年12月17日、ユネスコの無形文化遺産に登録されています。
 
 
 

3.安比塗「ひめ小鉢」(「安比漆器工房」代表・工藤理沙さん)


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浄法寺町と同じ安比川沿いにある八幡大使安代地区でも
地元の漆を使った漆器づくりが行われています。
「安比塗」(あっぴぬり)です。

昭和58(1983)年に、この地区にあった漆器文化を復活させようと
地元の漆掻き職人や塗師が立ち上がり、
「安代町漆器センター
多くの塗師をを養成。
これまでに70人以上が技術を身につけ、巣立って行きました。
 

 
現在、「安比漆器工房」の代表を務められている
工藤理沙さんも卒業生の一人です。
工藤さんは奈良県出身。
23歳の時に奈良県から岩手県へ来て、
「安比塗」を学びました。
 
安比漆器工房」の店内には、
使い勝手の良い汁椀から重箱、片口まで、
暮らしの中で使う漆器が並んでいます。
 

 

 

「ひめ小鉢」は、
通常の小鉢よりも小ぶりで、ころんとした形で、
手のひらに収まるの小鉢です。
木製品の特長として熱いものを入れても熱くなり過ぎず、
冷たいものを入れても水滴が付きません。
夏はくずきりやあんみつを、
冬は甘酒やおしるこを入れたデザートカップとしても重宝します。
 
現在、二人の子供を育てる母親でもある工藤さんは
今の生活様式にも合った、
料理が楽しめる漆器を作りたいと考えるようになりました。
そうして考えて作った「ひめ小鉢」も、
和食に限らず、洋食やデザートにも使える
漆器の可能性を広げてくれると考えました。
 
ところが作品を作って
研修場時代の師匠に見てもらったところ、
厳しい言葉が帰ってきました。
もう師匠からはあの
「『凄い塗りづらいから、
  俺はもうそれは作りたくねー』って言って、
 一目見て塗りづらい形だと見抜かれてしまいました。」
 
それでも、工藤さんはきっと上手くいくと考えていました。
様々に工夫を凝らし、試行錯誤を重ねました。
そして遂に納得のいくものが出来るようになったとそうです。
 

工藤さんは、
研修所で基礎をしっかりと学んだことが役に立ったと
おっしゃいます。
 
例えばこのお酒を入れる漆器「片口」は、
注ぎ口が小さく複雑な形をしています。
修行時代、これには苦労しました。
キレイに漆を塗るためには、
刷毛の使い方や器の持ち方を考えなければなりません。
 
「こういう形だったら、
 どういう塗り方をすれば上手く行くだろうっていうのを
 考える訓練みたいなのを凄くさせていただいたと思うんですね。
 頭の中であれこれ考えたのではなく、
 右手と左手が自然と動いて、正解に導いてくれた」
 
「漆器にはまだまだ可能性がある。
 日にちの暮らしを豊かにしてくれる形がもっとあるはずです。
 使っていただける人があってこそ、
 生きていく器だと思っているので、
 これからもその使う人のことを気持ちをこう考えながら、
 喜んでいただけるようなモノづくりをしていきたいなっていう風に
 思っています。
 
岩手県北部。
伝統の技を受け継いだ漆職人達が
未来に向けて挑戦を続けています。
 
  • 住  所:〒028-7533
         岩手県八幡平市叺田230-1
  • 電  話:0195-63-1065
  • 営業時間:火~日
         9時30分~17時00分
  • 定休日 :月曜日
         (月曜日が祝日の場合は営業)
  • 年末年始不定休
 

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