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美の壺「ぬくもりを味わう お椀」<File 591>

<番組紹介>
福井・鯖江の越前漆器の地で、
お椀(わん)のさまざまな形を楽しむ!
 
▽100以上の工程を経て作られる輪島塗。
 完成後も年月が育むツヤで、自分だけの輝き!
▽京都の料理人は、二十四節気ごとに
 自ら考案したお椀(わん)で極上の一品を!
▽加賀の気鋭の漆芸家が作り出す新たな世界
▽木地師によって建てられた寺で今も皆で使う
 明治時代の「合鹿椀(わん)」。
 一度は途絶えた幻の合鹿椀を、
 職人が完全復元!
 
<初回放送日:令和5(2023)年11月15日>
 
 
 

美の壺1.肌で味わう

 

越前漆器のお椀専門工房
(「漆琳堂」当主・内田徹さん)


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福井県鯖江市は、古来から、
「越前漆器」(えちぜんしっき)の街として
知られてきました。
 
 
寛政5(1793)年創業の「漆琳堂(しつりんどう) は、料亭などで使われる
業務用の「越前漆器」づくりから始まり、
現在は「aisomo cosomo
RIN&CO.」といった自社ブランドを展開し、
家庭でも常用しやすい漆器を製造しています。
 
 
漆琳堂」の8代目・内田徹(うちだ とおる)さんは
出演されて、ご自宅の家を「漆の家」に
改装している様子が紹介されました。
 

omotedana.hatenablog.com

 
漆琳堂」ではこれまでに
1500種類以上の「お椀」を作ってきました。
 
最も一般的な汁椀(しるわん)は、
七福神の布袋尊(ほていそん)
お腹に似ていることから、
「布袋型」(ほていがた)と呼ばれる
椀です。
 
「端反型(羽反型)」(はぞれがた)というお椀は
外側に反っている事から、口当たりも良く、
少し傾けるだけで
すぐ口にお味噌汁が入ることから、
美しい所作で最後まで飲み切ることが
出来ます。
 
その他
「仙才」(せんさい)
 
仙人のように様々な才能を持った形という
意味で名付けられたこともあり、
古くから選ばれてきました。
手のひらに沿う形で持ちやすいだけでなく、
容量も適当。
しかも積み重ねやすいデザインです。
 
「毬」(まり)
「毬」型は、丸みを帯びた形で、
飲み口が少しすぼまっているのが特徴です。
持ちやすいだけなく、
汁物を飲みやすい形になっています。
 
 
ご飯を盛る「飯椀」(めしわん)は、
たくさんのご飯を入れられるように
汁椀より浅く間口が広く出来ているのが
特徴です。
 
曹洞宗の大本山・永平寺(えいへいじ)
修行僧が食事の時に使っている器、
「応量器」(おうりょうき)
全ての椀が重なるようになっています。
内田さんによると、
持ち上げて口に運ぶという食器は
世界的に見ても凄く稀れだそうです。
日本独自の文化として発展していったのが
「お椀」なのかなとおっしゃっていました。
 
漆琳堂
  • 住所:〒916-1221
    福井県鯖江市西袋町701
  • 電話:0778-65-0630
  • 直営店営業時間:10:00-17:00
  • オンラインショップ
 
 

「輪島塗」のお椀
(「輪島屋善仁」9代目当主・中室耕二郎さん)


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「お椀」と言えば「漆塗り」です。
漆塗りの歴史は古く、
縄文時代には既に存在していました。
江戸時代になると、現在に伝わる技法が
各地で確立されたと言われています。
 
日本海に面した能登半島の北西の港町
石川県輪島市は人口は約3万人にも満たない
小さな町です。
この小さな町で作られる「輪島塗」は、
「堅牢な塗り」と「加飾の優美さ」から、
全国に多くの愛好家を持つ名品となっています。
 
輪島屋善仁(わじまやぜんに)
文化10(1813)年に創業した「輪島塗」の
老舗工房です。
9代目当主・中室耕二郎(なかむろこうじろう)さんは、
「漆」は非常に柔らかい塗料なので、
手で持った時、口に運んだ時に、
他の塗料・素材にはない独特の
優しさ柔らかさがあるとおっしゃいます。
「輪島塗」は100以上の工程を経て作られます。
 
「輪島塗」の「堅牢さ」を担っているのが、
「下地(下塗り)工程」です。
「輪島塗」と他の漆器の大きく異なる部分は、
特にこの「下地」にあり、
全行程の3分の2以上を占めています。
 
下地塗で用いられるのが、輪島産の
植物プランクトンの一種である
珪藻類が堆積して化石になった
「珪藻土」を蒸し焼きにし、粉砕した
「地の粉」(じのこ)です。
能登地方は日本有数の「珪藻土」の産地で、
「輪島塗」における「地の粉」の使用は、
江戸時代初期に始まったとされています。
「地の粉」を漆の樹液に混ぜ込むことで、
下地を強化する技術が生まれました。
 


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塗りの最終工程となる仕上げの「上塗り」は、埃や塵が入らないように専用の部屋で
行われます。
漆を塗ったところが乾く前に埃が付くと、
周囲の漆がその埃に吸い上げられて
目玉の様に膨らんでしまい、
やり直さなくてはならないからです。
 
最上質の漆をろ過させた「精製漆」を
4種類のハケを使い分けながら、
数回に分けて刷毛塗りします。
漆を均一な厚みでムラなく塗るのは難しく、
極めて高い技術が必要となるため、
熟練の職人が担当する工程です。
漆が固まると、漆黒の宇宙のような
お椀が出来上がります。
 
 
完成後も変化し続けるのも、漆椀の魅力です。
中室さんが、普段使ってるお椀は
使っているうちにピカピカになっています。
普段使いの「ケ」の日の器は使うことによって自然と磨き工程がなされて使い艶が出てくると言います。
 
一方、「ハレ」の日の豪奢な器は、
研ぎ炭(とぎすみ)で磨き上げると、
呂色(ろいろ)と呼ばれる輝きのあるお椀が
出来上がります。
暮らしとともに表情を変えていくお椀です。
 
  • 住所:〒928-0068
    石川県輪島市平成町63番地
  • 電話:0768-22-0521
 
 

美の壺2.お椀と料理の小宇宙

 

日本料理とお椀
(「祇園さゝ木」店主・佐々木浩さん)

 
古都の風情漂う八坂通りの一角にある、
京都で最も予約が取れない店として有名な
ミシュラン3つ星の日本料理店「祇園 さゝ木」の店主・佐々木浩(ささきひろし)さんは、
妥協せず良いものだけを揃えるを信条に、
自ら市場や漁場に出向き品だけを仕入れ、
お椀にも並々ならぬ思いを寄せています。
 
 
佐々木さんは「二十四節気」に合わせて
蓋付きのお椀を替えています。
これらは全て、佐々木さんが考え注文して
作ってもらったものです。
 
 


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7月下旬から8月の「大暑」(たいしょ)の頃は、
花火が描かれたお椀を使います。
蓋の裏側には、鮮やかな大輪の花火が
「沈金」(ちんきん)という技法で描かれています。
花火を少しでも大きく見えるように
面は平らになっています。
 
少し小ぶりなお椀には、
(ほたる)の清楚な絵が描かれています。
「あー、蛍が飛んでる時期なんやねえ」
お客さんとそんなことを言いながら、
しばらく会話が弾ませてくれるのも
お椀の醍醐味だそうです。
出す方も食べる方も1つの極みだと
佐々木さんはおっしゃいます。
 
佐々木さんがこだわりのお椀に合わせる
料理を見せていただきました。
日本料理の椀物(わんもの)の要となるのが、
一番だしです。
昆布と鰹節の合わせ出汁です。
日本料理では、季節毎に、
具材に合わせた出汁を取ります。
夏場はエレガントに、スッキリとした出汁。
真冬の寒い時には葛(くず)を入れて
とろみをつけて温まってもらいます。
全て季節を表し、いただく方に
感じ取ってもらうことが1番大事です。
 
9月中旬の「白露」(はくろ)の時期は、
すすきと月のお椀を用います。
蓋の裏にはウサギが描かれています。
湯気で出来た滴(しずく)
まるで月明かりのようにウサギを照らして
何とも趣のある姿になっています。
更にお椀の中に目を移すと、
だし汁に浮かぶ鶏卵豆腐を「満月」に、
そうめんを「雲」に見立ててあります。
 
 


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10月下旬の「霜降」(そうこう)の時期は、
紅葉が鮮やかに色づいた嵐山と渡月橋が
描かれたお椀を用います。
具材は、秋の味覚の松茸と
この時期に脂が乗るという鱧(はも)です。
お碗と料理の響き合い。
極上のひと椀がここにあります。
祇園さゝ木
  • 住所:〒605-0811
    京都府京都市東山区八坂通
    大和大路東入小松町566-27
 
 

美の壺3.器に宿る物語

 

「山中塗」のお椀
(木地師・漆芸家・田中瑛子さん)


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石川県加賀市在住の
田中瑛子(たなかえいこ)さんは、
愛知県出身で、地元の大学で漆芸を学んだ後、
石川県立挽物轆轤技術研修所で
山中漆器のロクロ技術を習得し、
卒業後は中嶋虎男氏のもとで修行。
独立した現在は、
「木地挽き」から「漆塗り」までの全てを
1人で手掛けいらっしゃいます。
 
田中さんの作品の、
高度な木地挽きの技術で生み出される
流麗な曲線美と、
黒と赤の漆が織りなす艶やかな組み合わせが、
唯一無二の存在感を放っています。
 
まずはお椀を形作りです。
田中さんは、ロクロで削るうちに
魅力的な杢(もく)の表情が出てくる
栃の木(トチノキ)を主に使っています。
 
パッと持った時に、
自分の中に完璧にフィットするような、
違和感なく一体化出来る曲線を目指して
ロクロを挽いてきます。
 
田中さんの真骨頂は漆の表現にあります。
下地は塗らず、生地に黒と赤の漆を塗り、
ヤスリで磨いていきます。
栃の木の杢(もく)が浮かび上がってきました。
木の中の硬さの違いにより、
漆の浸透に差が生まれ、模様になるのだ
そうです。
更に、生漆(きうるし)を塗って、
何度も磨きをかけることで、
黄金の柄が現れてきました。
 
お椀に新たな世界を作ります。

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合鹿椀
(「福正寺」坊守・飯山五百子さん)

 
石川県能登町合鹿(ごうろく)にある
福正寺(ふくしょうじ)は、
漆器の「合鹿椀」(ごうろくわん)を作る
木地師などの信仰を集める、
「合鹿椀」ゆかりの寺として有名です。
500年以上前の明応3(1494)年に、
この地域でお椀を作っていた
能州木地師達によって建立されたと
言われています。
 
合鹿地区は、高州山・鉢伏山・宝達山に囲まれた、
それぞれの山麓が合わさった所(合麓)にあります。
欅の良材に恵まれた地域で、村で採れた欅を
使って「合鹿椀」を作っていました。
少量ですが「漆」や下地に使用していた
「柿渋」も同地区で採取されていました。
 
福正寺に生まれ、現在、坊守(ぼうもり)
飯山五百子(いいやまいおこ)さんは、
福正寺に代々受け継がれ伝承された
「合鹿椀」類の保存、展示したり、
「合鹿椀」を使った精進料理などの
発信をしています。
この日は檀家が集まって
法要が行われていました。
寺の台所では食事の準備をしています。
使うのは、この地域で作られていた
明治時代のお椀、「合鹿椀」(ごうろくわん)です。
 
寺には、江戸時代の「合鹿椀」も残されています。
欅で作られた、高さおよそ10cmと
非常に大きなものです。
 
「合鹿椀」はお椀の直径に対して、
「高台」(こうだい)と呼ばれる足が高いのが
特徴です。
「高台」がこれほど高いものは、歴史上、
あまりありません。
田植えなどの野良仕事や山仕事などに
持っていくことがあったためと言われています。
また囲炉裏を囲む食文化で合ったことから、
「高台」を高くしたのではないかと考えられます。
高台が高いのは「飯椀」のみで、「汁椀」の
高台はそれほど高く作られていません。
「合鹿椀」は基本的に、「飯椀」と「汁椀」の二つからなる入子椀で1セットとなっています。
 
  • 住所:〒928-0311
    石川県鳳珠郡能登町合鹿31-10
 
 

木彫家・漆作家 大宮 静時さん

木彫刻家の大宮静時(おおみやせいじ)さんは、
能登町十郎原(旧柳田村)で
30年以上「合鹿椀」を作り続ける作家さんです。
 
石川県珠洲市生まれの大宮さんは、
富山県井波木彫刻作家・横山一夢氏に師事し、
独立後は木彫刻家として
能登のキリコの彫り物師として
優れた実績を残していらっしゃいました。
 
昭和61(1986)年に移り住んだ旧柳田村で
同村に伝わる幻の古椀「合鹿椀」に
出逢ったことで人生が変ったそうです。
 
当初大宮さんは、独自の「オリジナル合鹿椀」を
制作していたそうですが、
このままだと本来の「合鹿椀」が
廃れてしまうことを懸念し、
15年前に「オリジナル合鹿椀」を封印。
平成21(2009)年に一世紀振りに途絶えていた
「合鹿椀」を復元させました。
復元した「合鹿椀」の飯碗と汁椀は、
木目の跡が残り、素朴で力強いお椀です。
 
大宮さんによると、「合鹿椀」の魅力は
彫刻的なフォルムと力強さ、
そして人を包み込む大らかさだそうです。
 
大宮さんが、復元をする際に参考としたのは、旧柳田村が5年をかけて調査をしてまとめた
「合鹿椀」でした。
 

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