<番組紹介>
坂東玉三郎さんは愛用の着物を大公開!
▽料理研究家・大原千鶴さんが考える、
着物と料理の共通点とは?
▽着物研究家・森田空美さんは、
知的で現代的なコーディネートを指南!
▽妊娠中も着物で過ごした、
きくちいまさんの母娘着物ライフ
▽大河ドラマの着物秘話▽木村多江さんは、
京都で着物の技を堪能。
祇園の芸舞妓(げいまいこ)の着物の秘密とは?
▽黄ばんだ着物の染め直しの技
▽草刈正雄邸では、遠藤憲一流“着物の恩返し”
<初回放送日:令和4(2022)年1月7日放送>
美の壺1「ともに生きる」
「あてなよる」でお馴染みの
料理研究家・大原千鶴さん
NHKの人気番組「あてなよる」でも
お馴染みの京都御所南の大原千鶴さんの
キッチンアトリエの入口の格子の門には
「遇酒且呵呵」(あてなよる)と書かれた
行灯があります。
「遇酒且呵呵」(あてなよる)とは、
古代Chinaの五代十国時代の漢詩
『花間集』韋荘の『菩薩蛮』其四の一節で、
読み下すと
「酒に遇(あ)いては且(しば)し呵呵たれ」 。
呵呵とは「大きく笑う」様。
「酒を飲んだら、
ひとしきり大笑いして陽気に呑もう」
といった意味です。
ここは、
「食事とお酒を楽しんで欲しい」という
大原さんの気持ちがこもった場所です。
大原さんが数年前に手に入れて
リノベーションしたこのキッチンアトリエで、
料理をしながらお話を伺いました。
大原さんは仕事の時はいつも着物。
この日の装いは、単(ひとえ)の「白大島」に
格子柄の半幅帯を締め、
「たすき」をされています。
「たすき」とは、
袖や袂(たもと)が邪魔にならないように
たくし上げるための紐や布地のことで、
動きやすくする他、
着物に汚れにくくする役割があります。
着物で料理する時に欠かせません。
大原さんがたすきに使っていたのは
「真田紐」です。
京都には真田紐屋さんが多くあるのそうです。
「真田紐」とは、経糸 に木綿または絹、
細長く平らな織物のことです。
紐状に平織りしたものと、
筒状に袋織りされたものがあり、
幅は6㎜から30㎜程度で
世界一細い織物とも言われています。
柄は90種類以上あり、家紋のように
本人しか使えない独自の柄も多いです。
伸びにくく丈夫なことから、
荷物を縛ったり、重いものを吊るしたりと、
古くは武具や生活道具、
近代は生活道具に使われました。
江戸時代には、長野や大阪、京都、名古屋、
和歌山、岡山、金沢、富山など多くの地域で
つくられ、各家庭の常備品でした。
それほど身近な道具でありながら、
研究も行われることなく、謎多き紐です。
「組紐」(くみひも)と混同されることが
多いのですが、「組紐」が斜めに糸が走り、
「真田紐」は横の段になっています。
お話をしながら、大原さんが作っていたのは、
シンプルな色鮮やかな
「キウイと人参とセリの白和え」です。
白和えには珍しく、黒コショウを潰したものがあしらわれています。
黒いコショウが、帯締めのように
ピリリとお料理を引き締めてくれると
おっしゃいます。
大原さんが考える「着物と料理の共通点」は、
どちらも「天然素材」。
「天然素材」には嘘がない!
着物研究家・きくちいま さん
きくちいまさんは、
着物生活を描いたエッセイが人気の
エッセイスト兼イラストレーターです。
15年程前に出版した、
妊娠中や産後もずっと着物で過ごしたというエッセー本『きもので出産!』が
話題になりました。
山形県にお住いのきくちいまさんは、
執筆活動のかたわら、商品開発の監修も
しています。
きくちいまさんは、365日毎日、
木綿や麻の着物で過ごしています。
汚れたら自宅の洗濯機で洗い、
季節毎に、生地の厚さが違うものを
3枚ぐらい着回します。
幼い頃より着物に親しんできたきくちさん。
25歳からは毎日着物を着るようになり、
妊娠中も産後も着物で過ごしました。
お嬢さんの菜那さんも、
赤ちゃんの頃から着物を着ているそうで、
中学生になった今では、
すっかり着物の魅力にハマっているそうです。
最近は和洋ミックスにハマっているそうで、
着物にパーカーを合わせたりブーツ履いたりと手持ちの洋服と合わせるのが楽しいそうです。
この日は、「召しませ花」というブランドの
「スモールワールド」という半幅帯を締めて
いました。
両面リバーシブルの半幅帯は、
表がお城、裏がトランプ柄になっています。
美の壺2「伝統をまとう」
人間国宝「歌舞伎女方」坂東玉三郎さん
平成24(2012)年に、重要無形文化財
「歌舞伎女方」保持者の各個認定(人間国宝)を受けた坂東玉三郎さんは、
当代きっての歌舞伎の女方(女形)です。
そんな玉三郎さんに、お気に入りの着物や
羽織を紹介していただきました。
楽屋で普段着としてお召しになっているのは「結城紬」です。
普段着とはいっても、
「一つ紋」(熨斗菱)が入ってます。
「角通し」(かくどおし)という文様が入った
「江戸小紋」。
通し稽古の前の反復稽古の時は、
「縞物」や「紬」を着ます。
総ざらいの時は、
「御召」(おめし)を着たりするそうです。
お互いの家々が会っても恥ずかしくないという形にするということだそうです。
伝統芸能の独特の考え方ですね。
御召し(お召し)は「御召縮緬」ともいい、
先染めした撚り糸を織り上げた絹織物のことを
指します。
かつて徳川家斉が好んだことから
「御召し」の名がついたとされており、
江戸時代には礼装としても用いられました。
「紬」よりやわらかに身体に馴染む
独特の風合いがあり、
略礼装やお洒落着として着用されます。
舞台衣装が派手な分、
普段は地味な着物を着ているとはいえ、
羽裏(羽織の裏)や帯や襦袢には
こだわりがあります。
たとえば一見普通の黒の羽織ですが、
羽裏には特注で描いてもらったという
「竜」が。
改まった席には、丸山応挙の「松」を描いた
羽織を着るそうです。
春に着る「結城紬」の羽織の羽裏には、
「桜」が一面に!
自分しか分かっていないけれど、
応対の時に気持ちが表れる・・・。
玉三郎さんにとっての着物は
「まとう」ものです。
大河ドラマの衣装を手掛ける
老舗呉服店「鈴乃屋」
(小泉清子さん・小泉寛明さん)
上野にある老舗の呉服屋「鈴乃屋」(すずのや)。
きもの研究家で、
鈴乃屋の先代・小泉清子さんは、
長年に渡り、大河ドラマの衣装の考証を
手掛けてきました。
鈴乃屋上野本店3階には
「鈴乃屋きものギャラリー」があり、
大河ドラマで使用された着物が
ズラリと並んでいます。
『独眼竜正宗』、『篤姫』などの
衣装にはそれぞれの逸話があります。
最も苦労した作品は『功名が辻』。
千代が、布を縫い合わせて作った着物が
評判を呼んで、遂には天皇に献上するというシーンがありましたが、
その着物は1300以上のキレを繋ぎ合わせて
作ったそうです。
切れ端を集めるにも、
縫い合わせるにも時間がかかったそうです。
なお「鈴乃屋きものギャラリー」は、
令和2(2020)年12月25日をもって閉館しました。
- 住所:〒110-8537
東京都台東区上野1丁目20-11
上野鈴乃屋本店ビル - 電話: 03-3833-1001
美の壺「木村多江さんの京都着物」
祇園の舞妓・芸妓さんたちの着物
木村多江さんは日本舞踊「松本流」の
名取りです。
『藤娘』を一指し舞ってくれました。
祇園のお茶屋「多麻」にやって来た
木村多江さん。
御座敷には、舞妓さんと芸妓さんが
揃ってらっしゃいました。
舞妓は明るい色合い、
芸妓は落ち着いた色合いの着物を着ています。
帯は西陣織で、舞妓はだらりの帯、
芸妓はすっきりお太鼓です。
芸舞妓の豆千鶴(まめちず)さんが
ベテランだけに許される
「芦刈」(あしかり)を舞ってくれました。
次に菜乃葉さん、櫻千鶴さん、
まめ樹さんが三人で舞妓の舞、
「祇園小唄」という祇園の舞妓の
代表的な舞を見せてくれました。
芸妓さんの着物は自前です。
一方、舞妓さんの着物は
置屋さんから借りています。
振袖の帯は5.4m、重さ6㎏。
同じ宴会に出るお姐さんの着物を見て、
被らないように下の妓が
順々に着物の選んでいくそうです。
「片羽ぼかし」(岡山武子さん)
続いて木村多江さんが訪ねたのは、
京友禅の工房「岡山工芸」さん。
出迎えてくれた岡山武子さんは、
東京日本橋に生まれ。
「清水焼」の美に魅せられて
京都に行き「清水焼」を学び、
大沢工房で陶器の絵付けに従事しますが、
その後、「京友禅」に惹かれて
染織の道を独学で進みました。
昭和39(1964)年には、
女性の伝統工芸士としては日本初の
京都友禅の伝統工芸士の認定を受けました。
「しだれ桜」や「武子ぼかし」は
代表作のひとつです。
岡山さんに、実際に染める様子を見せて
いただきました。
「京友禅」は、
模様の輪郭を糸目糊で区切って、
中を筆や刷毛でぼかしていきます。
岡山さんの真骨頂は、
「片羽刷毛」という刷毛を使って
色をぼかしていく「片羽ぼかし」と呼ばれる
京友禅特有の技法です。
立体感や優しい雰囲気が出ます
京友禅は、「ゆらぎ」「流れる」「舞い散る」の
3つが入った着物です。
着物を着た人が
いかにきれいに見えるかを考え、
いつも頭の中にこの3つが入っていると
岡山さんはおっしゃいます。
岡山さんが自信作を見せていただきました。
生地全てを緻密に手で染めた
総友禅「王朝分舞」です。
花もひとつひとつは
岡山さんの「片羽ぼかし」で染めたものです。
もう一つは、星降る夜にしだれ桜が散る
「しだれ桜」です。
桜の後ろには、
金粉銀粉で天の川が描かれています。
岡山さんが一番好きな着物で、
命を懸けてきて良かったとおっしゃいました。
- 住所:〒612-0029
京都府京都市伏見区深草西浦町8-2-2 - 電話:075-643-4317
「京繍」(杉下陽子さん・杉下晃造さん)
次に木村さんが訪ねたのは、
京都市北区の住宅街にある
京繍(きょうぬい)の工房「京繍すぎした」です。
代々京繍の伝統を受け継ぐ、
伝統工芸士の杉下陽子さんと
杉下晃造さんご夫妻に
作品を見せていただきました。
「京繍」(きょうぬい)とは、
京都府京都市周辺で作られている刺繍です。
京都ならではの、雅な文化を反映した
繊細で優雅な刺繍は、
絹糸や金糸、銀糸を使い、
幾通りもの技法を駆使した高度な技術を
必要とされています。
描いてあるように見えますが、全て刺繍。
サラッととしているけど、
奥行きを感じるのが
日本刺繍の不思議なところと、
杉下さんはおっしゃいます。
京繍の技法は100を超えると言われています。
様々な職人の技を駆使し、
染めとはまた違った美しさがありました。
「京都は伝統と新しいモノを
組み合せていると感じた」と
木村さんは結びました。
- 住所:〒603-8116
京都府京都市北区紫竹上本町32−3 - 電話:075-491-7523
美の壺3「組み合わせの妙を楽しむ」
着物研究家・森田空美さん
「森田流きものの装い方」で人気の
着物研究家・森田空美(もりたあけみ)さんは、
すっきりと折り目正しく、
色数はあくまでも控えめに抑えた
潔い着こなしで、
凛とした大人の女性らしさを演出してくれる、
モダンな着こなしを提案しています。
森田空美さんは、帯でコーディネート変える
方法を提案しています。
昔から「着物1枚 帯3本」というのは
織の着物にはよく使われている言葉だとか。
まずは、夜叉五倍子(やしゃぶし)で染めた
無地の結城紬で、
四季折々のコーディネートを見せて
くれました。
<新春>
梅花ちらしの青い帯に、
薄いグレイの入った白っぽい帯揚げ、
水色の帯締めで、冷たい空気感を表現
<春>
夜桜をイメージした帯に
帯揚げは花芯と同じ色、
帯を引き立てる紺色の帯締め
<晩秋から冬>
薄茶に吹き寄せ柄の帯に、
枯れ葉や木の実の色をイメージした
帯揚げや帯締め
明るい色の結城紬のコーディネートです。
<秋>
木綿の小倉織に、シャープな柄の帯締め。
<春>
モダンアートのような帯に、
ネイビーの帯揚げで引き締めます。
艶のあるグレーの着物には、
・優しいパステルカラーの帯で
知的なカジュアル帯
・ちょっとしたパーティーには
からびつ紋の袋帯
色数は少なくとも、知的で現代的になるのが「森田流」です。
そして、森田さんがコーディネートをする際に
大切にしているのが「季節感」です。
季節を外すと、素敵には見えないそうです。
「自分が楽しみたい着物、
着たいと思うワクワクするような着物を
着るといいと思います。」
博多織「献上柄」の由来
「博多織」は、福岡・博多を代表する特産品で、
700年以上の伝統がある織物です。
「しなやかでありながら丈夫」なため、
特に着物の「帯」としては
国内屈指の評価を集めています。
帯を締めた時の
「キュッ」という「絹鳴り」が特徴です。
京都の西陣、群馬の桐生と共に
「帯の三大産地」と言われています。
原田織物株式会社の社長で、
博多織工業組合副理事長の
原田昌行(はらだまさゆき)さんに
お話を伺いました。
博多織の博多帯と言えば、
何といっても「献上柄」が有名です。
慶長5(1600)年に黒田長政が
筑前を領有するようになってから、
幕府への献上品として「博多織」を選び、
毎年3月に帯地十筋と生絹三疋を
献上するようになりました。
それ以来、「献上」と呼称されるように
なりました。
伝統工芸士の岡部由紀子さんが、
博多織を実演してくださいました。
織っているのは
グラデーションの美しい帯です。
今では献上柄以外にも、
様々な模様の博多織があります。
「しなやかでありながら丈夫」な
帯を制作するには、
一本の幅1mmにも満たない糸を
10,000本以上も使って、
丹念に、ギュッと織り込んでいきます。
博多織は3度打ち込み折り返す、
「三つうち」というのが特徴。
「トントントン、トーン」と
リズミカルに織っていくと、
しっかりと緩まずに織り上がります。
- 住所:〒838-0215
福岡県朝倉郡筑前町篠隈687-3 - 電話:0946-42-2176
美の壺4「唯一無二の想いを受け継ぐ」
「悉皆」
(たかはしきもの工房・高橋和江さん)
「悉皆」(しっかい)とは、
「一つ残らずことごとく」という意味で、
きものに関する相談を受けてくれる、
今でいうなら、
きものプロデューサーのことです。
現在は「きもの病院」「きものクリニック」
などといった名称のところもあります。
きものの洗いや染替え、
ガード加工だけでなく、
自分の寸法や好みに応じたきものを
白生地から染めたり、
古いきものから帯や小物を作るリフォーム、
シミやカビのついたきものや帯を
修復してくれたりもしてくれます。
気仙沼にある、
悉皆取次業「たかはしきもの工房」の
おかみの高橋和江さんは
東日本大震災の津波の被害で
ドロドロになってしまった、
母・高橋節子さんから譲られた着物を
蘇られました。
仙台市にお住いの
岡崎起久子(おかざき きくこ)さんから、
1年程前に亡くなられた
義母の岡崎喜代子さんの遺された
着物のメンテナンスをお願いされました。
着物好きだったお義母さま。
お願いされたお義母さんの
思い出の詰まった着物は、
白地に花柄の着物で、
ところどころ黄ばんでしまっています。
高橋さんの提案は、
薬品を使って染み抜きをするよりは、
色をかけて生まれ変わらせたらどうか
というものでした。
岡崎さんの着物は、
京都の中京区にある工房に送られました。
着物はまず一度解いて、
反物の形にしてから何度も洗います。
それから、黄土色に染め上げました。
岡崎さんは、ちょっと地味な感じに出来上がるのではないかと思っていたそうですが、
黄ばんで汚れが目立ったお母さんの着物は、
柄もそのまま、見事に生まれ変わりました。
世代を超えて時代を超えて、
着物が時を繋いでいきます。
ところで、たかはしきもの工房さんは、
着物を便利に着るのに
便利な和装小物の商品開発でも有名です。