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美の壺「涼をまとう浴衣」 <File544>

<番組紹介>
「浴衣は体の一部」と言う歌舞伎俳優・
片岡愛之助さん。
こだわりの浴衣から帯の流儀まで、
浴衣愛を語る!
 
 ▽涼しく過ごす工夫が詰まった浴衣生地。
  絹を使った極上の浴衣とは?!
 ▽表と裏で同じ柄になる
  「注染(ちゅうせん)」の技。
  見た目にも涼しい柄の工夫とは?
 ▽人気着物スタイリスト・石田節子さん
  オススメの着こなし紹介!
 ▽ドクロにギターに血管柄…
  独創的な浴衣デザイナーが生み出す、
  最新浴衣!
 
 
 

美の壺1.日本の夏に寄り添う

 

木綿の浴衣生地
(今小路あま宮・小宮たつみ さん)

 

京都市上京区、北野天満宮に程近い
京町家の和サロンで呉服店の
今小路 あま宮(いまこうじ あまみや)は、
着物雑誌にも度々登場する
着物初心者にも熟練者にも人気のお店です。
 
店主の小宮たつみ(こみや たつみ)さんは、
夏の3ヶ月間は、接客・外出・自宅での生活の
全てを浴衣で過ごします。
京都の夏は非常に暑いのですが、
浴衣を着ると、ちょっとした風が吹いただけ
でも涼しく感じるそうです。
 
爽やか風を感じることが出来るのは
浴衣ならでは。
この日、小宮さんが着用していた浴衣は
長板中形の松原興七さん作のもの。
帯は九寸名古屋の間道(かんとう)柄です。
浴衣の生地の多くは「木綿」(もめん)
出来ています。
木綿といっても様々な生地があります。
 

amamiya-imakoji.co.jp

 
松原與七
 
「長板中形」の重要無形文化財保持者
(人間国宝)であった松原定吉の十男として、
昭和12(1937)年に江戸川区西小松川
(現:江戸川区松島)に生まれました。
中学校卒業と同時に家業に入り、中形染めを
始めています。
 
 
「綿コーマ」(めんこーま)は
糸を紡ぐ際にコーミングを行ったコーマ糸を使って織られています。
毛羽立ちが少なくつるっとした肌触り。
 

 
「コーマ糸」
綿糸を作る際、綿繊維を撚り合わせた糸の
表面にある不要な繊維を取り除くカーディング
という工程を行って、約5%の不要部分が除去されて出来た糸を「カード糸」と言います。
繊維の均一性を高めるために、「カード糸」の表面に残る不要な繊維を更に約15~20%程
そぎ落とす「コーミング」工程を施した糸を「コーマ糸」と言います。
 
 
「綿絽」(めんろ)は、
木綿で織られた、平織りと絡み織りを
組み合わせて織られた「絽」の着物です。
「絽目」(ろめ)と呼ばれる「絽」特有の
細かい穴が縞状に入っているので、
風通しが良く、見た目にも着心地にも涼しい
生地です。
生地が透けるので、
下着や肌着には注意しましょう。
 

 
 
「絞り」(しぼり)は
表面に凹凸があり、肌に密着しない
ふんわりとした肌触りの生地です。

 
寝巻きでもあり、バスローブでもあり、
部屋着でもあり、外着にもなる浴衣は、
洋服で例えるならTシャツのような服。
 
小宮たつみ(こみや たつみ)さんは、
様々な場面でTシャツを着替えるように、
浴衣も着替える生活を送っていらっしゃい
ました。
 
  • 住所:〒602-8387
    京都府京都市上京区東今小路町783−3
  • 電話:075-465-1177
 
 

新潟県長岡市栃尾の紅梅織
(草木染織工房「露石庵」)

 
 
紬織(つむぎおり)の産地として栄えてきた
新潟県長岡市栃尾(とちお)
草木染織工房「露石庵(ろせきあん)は、
かざぜん株式会社が運営する紬織物の工房
です。
 
「紅梅織」(こうばいおり)
 
太さの違う糸を経緯(たてよこ)に配して、
表面に畝を浮き立たせる織り方です。
細い地糸の間に、
数本引き揃えて1本にした太い糸を
一定の間隔をおいて織り込み、
布の表面に、縦・横または格子や縞の
凹凸を浮き出させた薄手の織物のことです。
この凹凸が勾配となることから、
「勾配」(こうばい)から
「紅梅」(こうばい)という名前になりました。
格子状に織るため、生地が肌に張り付かない
ので、涼しさを感じることが出来ます。
 
 
「絹紅梅」(きぬこうばい)とは、
栃尾で戦前より織られている夏の着物素材で、
かざぜん株式会社所有の登録商標です。
 
 
「絹紅梅」は、極細の絹糸の間に、
経緯(たてよこ)とも一定間隔で
太い綿糸(勾配糸)を織り込み、
格子状の畝を表した生地のことです。
細糸と太糸で織られているため
生地の表面に凹凸が出来、
肌に密着しないさらっとした風合いに
なります。
 
 
本来は「勾配織り」と言うそうですが
「勾配」ではあまりにも味気がない・・・。
そこで「勾配」を「紅梅」と当て字をして
「絹紅梅」としたそうです。
 
因みに、愛知県の地方で織られている地糸が「綿」のものは「綿紅梅」と呼ばれ、
「絹紅梅」と区別されています。
 
絹を使った「絹紅梅」は、
夏用の着物に使われてきましたが、
最近では浴衣の生地としても
使われるようになりました。
「紅梅織」の一番の特徴は
なんといってもその「透け感」です。
軽くて滑らかな肌触り「絹紅梅」は、
涼しくて軽い、夏に最適な高級浴衣生地です。
 
 
  • 住所:〒940-0216
    新潟県長岡市栃尾新町1-6
  • 電話:0258-52-1181
 
 
 

美の壺2.伝統の夏をまとう

 

楽屋着・稽古着の浴衣
(歌舞伎俳優・片岡愛之助さん)

 
歌舞伎俳優の片岡愛之助さんにとって
「浴衣」はなくてはならない大切な存在です。
楽屋では、洋服でいる方が落ち着かない、
「浴衣」はもはや体の一部と言っても
過言ではない、と言うほどです。
 
 
歌舞伎俳優さん達は楽屋に入ると、
まず浴衣に着替えます。
夏は浴衣をそのまま、
冬は白粉がつかないように、
普通の着物の中に浴衣を着る、
「袷」(あわせ)という着方をするそうです。
 
 
歌舞伎公演の楽屋着としてはもちろんのこと、
稽古の時にも浴衣は欠かせません。
(たもと)を使った踊りの振りがあるため、
(たもと)は長めに作っているのだとか。
そして稽古着が古くなったら、
普段着を楽屋着に下ろすことが多いそうです。
 
生地は、こだわりの「松葉」と「銀杏」の柄。
特注です。
片岡家の屋号「松嶋屋」に因んだ「松葉」と
家紋の「追いかけ五枚銀杏」(おいかけごまいいちょう)
に因んだ「銀杏」が散らしてあります。
 
 
歌舞伎俳優さん一人一人が違った柄の浴衣生地をオーダーされているそうです。
 
帯の締め方も関西と関東とで違っています。
片岡家は上方舞の家であることから、
「関西手」(かんさいで)という、
時計回りで巻き、羽根が左に出る締め方です。
 
 

浴衣のはじまり

 
 
浴衣の始まりは「湯帷子」(ゆかたびら)と言われる
平安時代に入浴時に着た着衣でした。
当時は入浴とは言っても、
現在のように湯に浸かるのではなく、
蒸気を浴びる「蒸し風呂」で
汗取りと火傷防止、裸を隠す目的で
「湯帷子」を使用したとされています。
 
安土桃山時代頃からは、湯上がりに着て、
肌の水分を吸い取るために用いられ、
これが江戸時代になると
町人文化の発展に伴って、
「浴衣」(ゆかた)に進化してきました。
 
「浴衣」(ゆかた)
初めは湯上がりの汗を拭き取るために
風呂屋の二階などで着ていましたが、
次第にそのまま着て外に出ていき、
下着から外出着へとその用途を変えて
いきました。
 
更に江戸時代には、盆踊りや花見などに
揃いの浴衣で出かけることが流行しました。
また歌舞伎役者が舞台で着た衣裳を
庶民が真似るなどしたことで、
浴衣文化が江戸に花開きました。
 
「天保の改革」で、
町人は「絹」を着てはならないという掟が出て、
「木綿」の浴衣が発達しました。
 
 

陶芸家・村田森さん
(日本橋 老舗呉服店「竺仙」・小川文男さん)

 

 
江戸時代より多くの着物や浴衣を手掛ける
老舗呉服店「竺仙(ちくせん)さん。
何万通りの浴衣の柄を作っています。
 

 
浴衣の柄は、自らが身にまとって
涼しさを演出することもありますが
周囲の方々にも涼しさを感じ取ってもらうことが江戸の粋だと店主の小川さんは言います。
 
例えば、「秋」を連想させる
銀杏や紅葉といった季節を先取りする柄、
色使いも紺や白を基調に、
派手さを求めず淡く仕上げています。
 
 
 

伊勢保染工所


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伝統的な染め方「注染」(ちゅうせん)を拝見しました。
 
「注染」(ちゅうせん)とは、特殊な糊で防染し、
重ね上げた生地の上から染料注ぎ、
模様部分を染め上げる伝統的な型染めの一種
です。
「注染」は明治初年頃に始まったと思われます。
それ以前は、「長板中形」の工法で
着物が作られていましたが、
高価で量産が出来ないため、
以前より安価で量産出来る
「注染」という技法が考案されました。
 

 
まず、生地の染めない部分に型紙を置き、
色を染めない部分に糊で色止めをします。
糊は海藻・土・おがくずが配合されています。
乾燥後に染める部分に土手を作り、
その土手の内側に染料を注いで布を染めるため、
一度に多色を使って染めることが出来ます。
最後に糊を水洗いして、完成です。
 

 
「注染」は、染料が布の下側に抜けるため、
布の芯まで染まるので
裏表が同じ柄であるのが特徴です。
風に吹かれると同じ柄がチラッとのぞき、
オシャレ感満載です。
普段使いにもオシャレを取り入れた
江戸の美学がここにあります。
 
  • 住所:〒132-0031
    東京都江戸川区松島2丁目19−11
  • 電話:03-3651-3459
 
 

美の壺3.着て楽しく愛でて楽しく

 

着物スタイリスト・石田節子さん

 


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着物雑誌の著作でもお馴染み、
着付け師、着物スタイリストの
石田節子さんが登場します。
楽ちんで楽しくナチュラルな着付けが
石田のモットー。
その石田さんが、浴衣の着こなしについて
いくつかのポイントを教えてくれました。
 

 
襟元は開き過ぎるとだらしなく見えるので、
詰め気味にします。
衣紋は、こぶし一つ分抜きます。
シュートヘアなら
もっと詰めてもいいかも知れません。
帯は半幅帯で結びます。
帯揚げ・帯締めも必要ありません。
 


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結び方もいろいろ楽しめます。
帯を矢の文字のように結ぶ
落ち着いた雰囲気の「やの字結び」、
帯を数回巻きつける
「割角出し結び」に「文庫型」と、
一つの帯でいろんな結び方が出来て
楽しむことが出来ます。
ルールがなく、楽しめるのが「浴衣」だと
浴衣の粋を伝授いただきました。
 
 

浴衣デザイナー・芝崎るみさん

東京・台東区の写真スタジオで行われている
新作浴衣の撮影におじゃましました。
浴衣デザイナーの芝﨑るみさんが登場します。
今、撮影している浴衣は、
綿の生地に「注染」の技法を使って
「観世音菩薩」がデザインされています。

 

芝﨑さんは、着物図案デザイン事務所に就職後、独立して現ブランド「Rumi Rock - ルミロック」を立ち上げました。
伝統的な技術にこだわりながら、
独創的な着物スタイルを提案しています。
 

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