まるで芸術品!熊本県八代地方の、
い草農家が生み出す最上の「畳表」
▽龍にマリリン・モンロー!?
畳の目を駆使して生み出す「畳アート」
▽400年受け継がれてきた美意識。
茶の湯の所作と畳の深い関係
▽織田信長・豊臣秀吉・武田信玄ら
武将の肖像画に描かれたへり。
それぞれの意味とは?!
▽畳替えする家族に密着!
青畳の匂いと感触に2歳の娘は大喜び
▽厚切りジェイソンが草刈邸の畳を世界に発信?!
和室の美しさを象徴する「畳」は、
1300年前から 私達の暮らしを 足元で支えてきました。
青畳の清々しい香り、滑らかな肌触りと弾力、
そして、心地よ良いすり足の音。
畳は茶の湯を始め、様々な日本の文化と深く関わってきました。
最近人気なのは、モダンな正方形のヘリのない畳。
他にも畳のニューウエーブが続々登場しています。
今日は畳の魅力を たっぷりと鑑賞します。
美の壺1.畳表に心寄せて
熊本県八代市でいぐさを作る、早川猛さん
畳のサイズは 地域によって様々ですが、
縦横およそ2対1の長方形が一般的です。
畳は、
幾重にも重ねた稲藁を締め付け圧縮して作られた「畳床」に、
経糸に天然のイグサを編みこんで織られた「畳表」を上から被せ、
長辺に「畳縁」を縫い付けることで作られています。
熊本県八代は、
畳の原料となる国産いぐさの9割以上を栽培する一大産地です。
「いぐさ」は、
直径が1mm程と針のように細くて固く、
長さが1m50cm~60cm、薄黄緑色をしているものが
理想とされています。
早川 猛さんは、いぐさを育てて35年になるベテラン。
5月の初めは、翌月に迫った収穫に向けてのラストスパート。
倒れて傷がつかないように専用の網を張る
「網張り」という作業をします。
目標の高さはおよそ150cm。
10日毎に10cmずつ網の高さを上げていきます。
いぐさを織って「畳表」を作るのも
早川さん達いぐさ農家の仕事です。
昨年刈り取ったいぐさを泥染めにして乾燥させます。
穂先や根元は切り落とし、色や太さが揃ったいぐさを使用します。
乾燥したいぐさに水分を補い、織りやすくします。
畳専用の機械で、麻の縦糸にいぐさを左右に送り込み織っていきます。
最後の仕上げとして手作業で目を整えます。
紹介していた畳表には、およそ8000本と
通常のおよそ1.5倍のいぐさが使われています。
目が密に詰まった、滑らかで美しい畳が出来ました。
早川猛さんは、天皇杯や農林水産大臣賞を複数回受賞されている
有名生産者さんです。
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岐阜県羽島市「山田一畳店」
(畳アーティスト・山田憲司さん)
「山田一畳店」は、
岐阜県羽島市の明治2年創業の畳店の工場です。
5代目・山田憲司さんがこれまでに制作した畳は、
多角形や曲線を描くものなど、ユニークなデザインです。
山田さんは、畳はすごく珍しい床材だと言います。
世界中見渡しても、畳しかない素材感だとか、
後は光を当てた時の変色具合とか、
他にはないような良さがあるので、
そういった畳の良さとをもっと引き出して
伝えていきたいとおっしゃていらっしゃいます。
山田さんは、
畳の目の向きによって見え方が変わる特性に注目しました。
例えば このマリリン・モンロー。
「濃い青」「薄い青」「白」の3色の六角形でデザインされています。
この3色を、縦、横、斜めと、
畳の目を変えることで表現します。
今 取り掛かっているのは、「龍」をデザインした畳です。
全て異なる形に畳表を貼ります。
スチームや合成接着剤を使って曲線に沿わせます。
試行錯誤の末に辿り着いた手法です。
201ピースの畳を、8畳の和室に敷いていきます。
およそ2時間の作業の末、「龍」の畳が完成しました。
反対側から見ると、白い龍に見えてきます。
畳の色は一色ですが、畳の目の向きを変えることで、
模様が浮かび上がって見えるのです。
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美の壺2.今に伝わるおきてあり
畳と茶の湯の関係
「茶道家 北見宗幸」
土壁、木造建物、畳・・・茶室は全て自然で出来ています。
そして、畳は茶道の所作と深く関わっています。
畳の目が「物差し」の役割を果たしているのです。
茶道会館理事長で、
茶道の文化や歴史に詳しい茶道家の北見宗幸さんが
紹介して下さいました。
北見さんは、裏千家茶道教授でもあり、
「畳ソムリエ」として、
畳のすばらしさを世界に広める活動をしているそうです。
畳のひと目は、およそ1.5cmが目安です。
例えば、「水指」の位置は、へりから16目の位置。
手を開くと16目、
座る場所も、へりや道具からおよそ16目になります。
釜をかける「風炉」の位置も、畳の目で決められています。
「風炉」の敷板は、端から畳7目です。
「棗」(なつめ)を拝見する時は、
へりから3目空けると、道具が引き立つと言います。
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上野 老舗畳店「クマイ商店」
(熊井千代子さん)
現存する最古の畳は1300年前の「正倉院宝物」のひとつで、
聖武天皇がお休みになられた
「御床」(ベッドのような寝台)の上に置かれていた畳の断片です。
構造はマコモ製の筵(むしろ)を重ね合わせて芯材として、
表面にはい草製の筵(むしろ)、裏面は麻布になっています。
畳の縦の長さは不明ですが、
幅の長さは最大辺がおよそ118cmあり、御床の幅と近い事から
118cm程度であったと思われます。
また、畳縁ではありませんが、横を覆っていた形跡があります。
既に、畳床・畳表・畳縁が揃っていて、今の畳とあまり変わりません。
元々、畳は脚付きの台に敷いて使われていました。
当時の畳は、貴重だったため、
部屋を囲むように身分の高い人が座る所だけに敷かれていました。
その後、部屋全体に敷き詰められるようになりました。
畳のへりにも歴史があります。
東京・上野にある、
徳川家ゆかりの寛永寺に敷かれた畳は、およそ150畳。
こちらの畳に使われているのは 「高麗縁」という特別なへりです。
寛永寺に畳を納めるのは、
老舗畳店「クマイ商店」の熊井千代子さんです。
「高麗縁」(こうらいべり)が用いられたのは、寺院だけではありません。
位を表すものとして、武将たちの肖像画にも見られます。
織田信長は、白と黒の大きな紋の高麗縁。
武田信玄は、小紋の高麗縁です。
そして豊臣秀吉の肖像画のへりは・・・
何と、天皇・三宮(皇后・皇太后・太皇太后)・
上皇が用いた畳にも使われた、
最も格の高い 「繧繝縁」(うんげんべり・うげんべり)。
畳や畳のへりは、時代や使われる場所によって、様々な意味がありました。

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美の壺3.和室を “決める"
東京都北区にある
老舗「八巻畳工業」の畳職人・八巻 太一さん
「八巻畳工業」は、東京北区にまる創業110年の老舗畳店です。
四代目・八巻太一(やまき たいち)は、
今では珍しい手縫いの技を継承している一人です。
道具は畳作りを支えてくれるもの。
古いものだと曾祖父の代から使っている物もあるそうです。
五寸五分の針で、畳表をきちんと縫いつけることで
表がピーンと張り、「いすじ」を真っすぐにします。
「いすじ」とは、畳表に織られたいぐさ筋のことです。
畳づくりでよく見かけるポーズ、肘でならして糸の張りを一定にします。
出来上がった畳は、たるみや歪みのない真っすぐで気合の入った畳です。
まるで八巻さんの性格を表しているかのようです。
八巻さんは、毎年いぐさの産地八代で農作業を手伝っているそうです。
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この日、畳替えをしたいという家族がやって来ました。
関根毅さんご夫妻と、
もうすぐ3歳になる娘の結菜ちゃんの3人家族です。
畳替えをするのは、およそ20年前の畳。
どれがいい? 家族みんなで畳のへりを選びます。
サンプルを前に なかなか決められない 関根さん夫妻。
すると…。 桜がいい。 これ。 これだね。
結菜ちゃんが選んだ 赤とピンクの小紋のへりに決定。
古い畳は一旦 工場へ。
夕方までに張り替えを終え 部屋に戻します。
工場で新しい畳表を付けます。
へりは結菜ちゃんの選んだ あの桜模様。
一般の住宅用には、主に機械を使ってへりを付けています。
畳の端を包むようにへりを付けるのは、手縫いと同じです。
手縫いの3分の1の時間で 6枚の畳が仕上がります。
およそ4時間後、畳の張り替えは完了!
関根さん宅の和室に畳を敷き、縁を合わせます。
ピンクがお部屋に映えます。
いぐさがいい匂いだとと結菜ちゃんは大喜び。
結菜ちゃんはもうすぐ3歳。
今日からは この畳と一緒に成長します。
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