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美の壺「日本の敷物 畳」<File541>

<番組紹介>
まるで芸術品!熊本県八代地方の、
い草農家が生み出す最上の「畳表」
 
 ▽龍にマリリン・モンロー!?
  畳の目を駆使して生み出す「畳アート」
 ▽400年受け継がれてきた美意識。
  茶の湯の所作と畳の深い関係
 ▽織田信長・豊臣秀吉・武田信玄ら
  武将の肖像画に描かれたへり。
  それぞれの意味とは?!
 ▽畳替えする家族に密着!
  青畳の匂いと感触に2歳の娘は大喜び
 ▽厚切りジェイソンが
  草刈邸の畳を世界に発信?!
 
<初回放送日:令和3(2021)年6月11日(金)> 
 

 

和室の美しさを象徴する「畳」は、1300年前から
私達の暮らしを足元で支えてきました。
青畳の清々しい香り、滑らかな肌触りと弾力、
そして、心地よ良いすり足の音。
畳は茶の湯を始め、様々な日本の文化と
深く関わってきました。
 
最近人気なのは、
モダンな正方形のヘリのない畳。
他にも、畳のニューウエーブが
続々登場します。
 
 

美の壺1.畳表に心寄せて

 

熊本県八代市でイグサを作る
(早川猛さん)

 
畳のサイズは地域によって様々ですが、
縦横およそ2対1の長方形が一般的です。
畳の名称 1畳の
大きさ
使われている地域
別名      
京 間
(きょうま)
約1.82㎡
 丈191cm
 巾95.5cm
主に西日本エリア
別名本間(ほんけん)
六一間
(ろくいちま)
約1.71㎡
 丈185㎝
 巾92.5㎝
山陰地方、近畿の一部
全国的には
ややマイナーな規格
中京間
(ちゅうきょうま)
約1.65㎡
 丈182㎝
 巾91㎝
主に東海エリア
別名三六間(さんろくま)
江戸間
(えどま)
約1.55㎡
 丈176㎝
 巾88㎝
東京を中心とする
関東エリア
最もメジャーで、
畳の標準規格
別名五八間(ごはちま)
団地間
(だんちま)
約1.44㎡
丈170㎝
巾85㎝
集合住宅で使われる
別名五六間(ごろくま)
 
 
畳は、幾重にも重ねた稲藁を締め付け
圧縮して作られた「畳床」(たたみどこ)に、
経糸に天然の「イグサ」を編みこんで織られた
「畳表」(たたみおもて)を上から被せ、
長辺に「畳縁」(たたみべり)を縫い付けることで
作られています。
 

 
日本で作られている「イグサ」の9割以上が
熊本県産で、そのほとんどは八代市周辺で
栽培されています。
 

 
 
「イグサ」は、
直径が1mm程と針のように細くて固く、
長さが1m50cm~60cm、
薄黄緑色をしているものが理想とされています。
 
 
 
早川 猛(はやかわ たけし)さんは、
「イグサ」を育てて35年になるベテランです。
早川さんは、先進技術を積極的に取り入れ、
熊本県のイグサ奨励品種「ひのみどり」を用いた
最高級畳表を生産し、数々の受賞歴を有する
熊本屈指の生産者です。
 

 
早川さんらイ草農家にとって、5月の初めは、
翌月に迫った収穫に向けてのラストスパートの
時期です。
 
イグサが横に倒れないように、
「網張り」という倒伏防止作業をします。
イグサは、より細く、より長いものが
高品質とされるため、
良いものほど倒れやすくなります。
これを防いでまっすぐ育てるために、
杭を打ち網を張る「網張り」作業が
欠かせないのです。
 
また網を張ってイグサを直立させることは、
株や根元部にも日光が届くだけでなく
風通しも良くなるため、茎が成長します。
 
「網張り」するための杭の数は
10a当たり120~130本必要であり、
またイグサは150㎝以上に成長させるためには、
伸びるイグサに合わせて、10日毎に10㎝ずつ
網の高さを上げなくてはならないため、
大変な重労働です。
 
「網張り」によって、イグサは網の間から
先端を出して、折れ曲がることなく、
すくすく成長ていきます。
 

 
 
このような努力により成長した「イグサ」は、
7月頃に収穫されます。
但し、イ草農家の仕事はここで終わりでは
ありません。
この後、イグサを下処理して、
「畳表」として製織するまでが
早川さん達イ草農家の重要な仕事なのです。
早川さんは「製織」に関しても第一人者です。
 
 
まず、穂先や根元は切り落とし、
色や太さを揃えたイグサを「泥染め」します。
 
「泥染め」は、天然の染土を溶かした泥水に、
刈り取られたイグサを漬け込む作業です。
畳表の薄い緑色が変色しないよう保つだけでなく、畳の香りを引き出したり、
弾力を保ってクッション性を良くするなど、
畳の耐久性や美観を保つ上で極めて重要な工程。
 
その後、「乾燥機」を用いて、
イグサの繊維を壊さないように、
低い温度でゆっくり乾燥させます。
 
乾燥が終わったら、
太陽による変色を防ぐためすぐに袋に入れ、
太陽が差し込んで中が高温にならないように
常に遮蔽された倉庫で、およそ1年間保存
されます。
 
1年間保存したイグサを「製織」するために、
まず長さによる「仕分け」を行い、
更にイグサのキズや太さ色のチェックを
人間の目で行います。
こうして仕分けしたイグサを揃えたら、
その日の気温や湿度、イグサの状態に合わせて
加湿し、イグサに水分を補い、織りやすく
します。
 
こうしてやっと「製織作業」に入ります。
畳専用の機械で、麻の経糸に
イグサを左右に送り込んで、織っていきます。
畳表1畳分に対して、イグサは4000~7000本。
番組で紹介していた畳表には、
およそ8000本と通常のおよそ1.5倍の
イグサが使われています。
より多くイグサを使用した畳表は
編み目が詰まって見た目が美しいだけでなく、
耐久性もある高級品とされます。
 
最後の仕上げとして手作業で目を整えます。
目が密に詰まった、滑らかで美しい畳表が
出来上がりました。
 

 
 

岐阜県羽島市「山田一畳店」
(畳アーティスト・山田憲司さん)

 
岐阜県羽島市にある「山田一畳店」は、
明治2(1869)年創業の老舗畳店です。
5代目・山田憲司さんは
「畳は四角」という概念をぶち壊すような
多角形や曲線といった新しいデザインの畳を
制作して、SNSを中心に大きな話題になって
います。
お寺からのオーダーで作った「龍の畳」には、
「絶対踏めない」「かっこよすぎる」
「日本の宝」など称賛の声が寄せられました。
 

 
 
山田さんは、「畳は凄く珍しい床材」と
おっしゃいます。
世界中見渡しても、畳しかない素材感だとか、
後は光を当てた時の変色具合とか、
他にはないような良さがあるので、
そういった畳の良さとをもっと引き出して
伝えていきたいとおっしゃていらっしゃいます。
 
山田さんは、畳の目の向きによって
見え方が変わる特性に注目しました。
例えば、このマリリン・モンローは、
「濃い青」「薄い青」「白」の
3色の六角形でデザインされています。
この3色を、縦、横、斜めと、
畳の目を変えることで表現します。
 


www.youtube.com

 
山田さんが、今、取り掛かっているのは、
「龍」をデザインした畳です。
全て異なる形に畳表を貼ります。
スチームや合成接着剤を使って、
曲線に沿わせます。
試行錯誤の末に辿り着いた手法です。
201ピースの畳を、8畳の和室に敷いていきます。
およそ2時間の作業の末、
「龍」の畳が完成しました。
反対側から見ると、白い龍に見えてきます。
畳の色は一色ですが、
畳の目の向きを変えることで、
模様が浮かび上がって見えます。
 
 
  • 住所:〒501-6241
    岐阜県羽島市竹鼻町2382-1 
  • 電話:058-391-3033
 
 
 

美の壺2.今に伝わるおきてあり

 

畳と茶の湯の関係「裏千家・北見宗幸さん」

 
土壁、木造建物、畳・・・と、
「茶室」は全て自然で出来ています。
 
畳は「茶道」の所作とも深く関わっています。
畳の目が「物差し」の役割を果たしているの
です。
 

 
茶道会館理事長で、裏千家茶道教授で、
かつ「畳ソムリエ」として畳のすばらしさを
世界に広める活動をしていらっしゃるという
茶道家の北見宗幸さんに教えていただきました。
 

www.urasenke.or.jp

 
畳のひと目は、およそ1.5cmが目安です。
例えば、「水指」(みずさし)は、
畳の縁(へり)から16目の位置に置きます。
こうすると、手を開くと16目、
座る場所も、畳の縁や道具からおよそ16目に
なります。
 

 
釜をかける「風炉」の位置も、
畳の目で決められています。
「風炉」の敷板は、端から畳7目です。
 

 
「棗」(なつめ)を拝見する時は、
畳縁から3目空けると、道具が引き立つ
そうです。

  • 住所:〒169-0075
    東京都新宿区高田馬場3丁目39-17
  • 電話:03-3361-2446
 
 

上野になる老舗畳店「クマイ商店」
(熊井千代子さん)

 
現存する最古の畳は、
1300年前の「正倉院宝物」のひとつで、
聖武天皇がお休みになられたベッドのような
寝台「御床」(ごしょう)の畳の断片です。
 
「御床」(ごしょう)の構造は、
マコモ製の筵(むしろ)を重ね合わせたものを芯材に
表面にはい草製の筵(むしろ)、裏面は麻布になって
います。
畳の縦の長さは不明ですが、
「御床」の幅の最大辺がおよそ118cmなので、
畳の幅も118cm程度あったと思われます。
畳縁ではありませんが、横を覆っていた形跡も
あり、既に、畳床・畳表・畳縁が揃っていて、
今の畳とあまり変わりません。
 

shosoin.kunaicho.go.jp

 
 
元々、畳は脚付きの台に敷いて使われて
いました。
当時の畳は、貴重だったため、
部屋を囲むように、身分の高い人が
座る所だけに敷かれていました。
その後、部屋全体に敷き詰められるように
なりました。
畳の縁(へり)にも歴史があります。
東京・上野にある、
徳川家ゆかりの「寛永寺」には
およそ150畳の畳が敷かれています。
寛永寺」に畳を納める老舗畳店の
クマイ商店」の熊井千代子さんに
お話を伺いました。
 
 
寛永寺」の畳に使われているのは
「高麗縁」(こうらいべり)という特別な縁です。
「高麗縁」(こうらいべり)を用いるのは
寺院だけではないそうです。
 
位を表すものとして、
武将達の肖像画にも見られます。
織田信長は白と黒の大きな紋の「高麗縁」、
武田信玄は小紋の「高麗縁」です。

 
 
豊臣秀吉の肖像画の縁はどうかと言うと、
何と、天皇・三宮(皇后・皇太后・太皇太后)・
上皇が用いた畳にも使われた、最も格の高い
「繧繝縁」(うんげんべり・うげんべり)です。
 

 
畳や畳の縁は、時代や使われる場所によって、
様々な意味がありました。
 
  • 住所:〒110-0002
    東京都台東区上野桜木2丁目13-3 
  • 電話:0120-660-901
 
 
 

美の壺3.和室を “決める"

 

東京都北区にある
老舗「八巻畳工業」の畳職人・八巻 太一さん


www.youtube.com

 
八巻畳工業(やまき たたみこうぎょう)は、
東京都北区滝野川で四代110余年続く
老舗の畳店です。
四代目・八巻太一(やまき たいち)さんは、
畳は、お客様の肌に直接触れるものなので、
少しでも手を掛けることによって、
安全で長く使える物を作りたいと、
技術向上を目指し、畳訓練校に入校しました。
更に、手縫い畳製作技術の最高峰である
国家資格「一級畳製作技能士」を取得。
今では珍しい、手縫いの技を継承している
お一人です。
 
道具は畳作りを支えてくれるもの。
古いものだと、曾祖父の代から使っている物も
あるそうです。
五寸五分の針で、
畳表をきちんと縫いつけることで
表がピーンと張り、
「いすじ」を真っすぐにします。
「いすじ」
畳表に織られたいぐさ筋のこと
 
畳づくりでよく見かけるポーズ、
肘でならして糸の張りを一定にします。
出来上がった畳は、たるみや歪みのない
真っすぐで気合の入った畳です。
まるで八巻さんの性格を表しているかの
ようです。
 
なお「八巻畳工業」では、全ての畳表を
熊本県八代市から取り寄せています。
熊本のイ草農家に師事し、年に2回、
刈り取りと植え付けの準備を手伝いに行き、
土作りから携わっているそうです。
 
  • 住所:〒114-0023
    東京都北区滝野川2丁目34−4
    コーポヤマキ 1F
  • 電 話:03-3917-9827
 

 
この日、「八巻畳工業」には、
畳替えをしたいという家族がやって来ました。
関根毅さんご夫妻と、もうすぐ3歳になる
娘の結菜ちゃんの3人家族です。
 
関根さんが今回「畳替え」をお願いするのは、
およそ20年前の畳です。
「どれがいい?」と、サンプルを見ながら、
家族皆んなで畳縁の相談をしています。
 
なかなか決められない中、
「桜がいい!これ、これだね!」
娘の結菜ちゃんが声を上げます。
この赤とピンクの小紋の縁に決定です。
 
古い畳は工場に送って、
夕方までに張り替えします。
張り替えが終えたら、新しい畳表を付けます。
結菜ちゃんの選んだ、
あの桜模様の畳縁をつけていきます。
 
現在、一般の住宅用には、
主に機械を使って縁を付けています。
畳の端を包むように縁を付けるのは、
手縫いと同じですが、手縫いの3分の1程度の
時間で、6枚の畳が仕上がります。
およそ4時間後、畳の張り替えは完了です!
 
早速、関根さん宅に伺い、
和室に畳を敷き、縁を合わせます。
畳縁のピンクがお部屋に映えます。
イグサがいい匂いだと、結菜ちゃんは大喜び。
結菜ちゃんはもうすぐ3歳。
今日からは、この畳と一緒に成長します。
 

 

 
 

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