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美の壺「山野に輝く 清流」<File 582>

<番組紹介>
豊かな自然に育まれた「清流」。
どこまでも透明な青や
エメラルドグリーンの「色」。
極上の「響き」。
わさびや川海苔など暮らしを潤す「恵み」。
各地の清流の美に迫る! どこまでも澄んだ、
青やエメラルドグリーン。
高知・仁淀川を撮り続けた
写真家イチオシの「色」。
植物学者・牧野富太郎も通いつめた山が育む、
清らかな水
 
 ▽7mもの川底に手が届きそうなほど透明な
  長野・阿寺川。
  地元の人が楽しむ「水音」の名所とは?
 ▽京都・るり渓でさまざまな響きと
  音の変化を味わう
 ▽静岡・伊豆の清流の恵み「わさび」
 ▽岐阜の7世帯の集落が伝える、
  幻の「川海苔(のり)」とは?!
 
<初回放送日:令和5(2023)年5月10日>
 
 
 

美の壺1.山に湧き、青くゆらめく

 

高知県「仁淀川」
(ネイチャーカメラマン・高橋宣之さん)


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高知県のほぼ中心を流れる「仁淀川」(によどがわ)
「奇跡の清流」と呼ばれ、
国土交通省発表の「水質が最も良好な河川」に
過去10年で8回も選ばれています。
群を抜いた透明度と青みを帯びた美しい流れは
「仁淀ブルー」と称され、見る人を魅了しています。
 
 
<川の水が青くなる明確な理由>
1. 水温が低めで藻が繁殖しづらいため
2. 岩が硬いことで、水によって削られた際に
 出る破片や泥が少ないため
3. 水の流れが速く不純物が溜まりにくいため
4. 太陽光は、不純物が少ない水ほど
 青い光(波長)を反射して青く見えるため
5. 川床の石が青みがかった「緑色片岩」や
 白っぽいものが多いためより青が映える
 
 
「仁淀ブルー」の名付け親は、
高知をベースに活躍されている
ネイチャーカメラマンの高橋宣之さんです。
高橋さんは、「仁淀川」の美しい光景に魅かれて
30年以上も写真を撮り続けています。
 
 
「仁淀川」の流域を巡りながら
水の美を追求している高橋さんは、
水が見せる色の中で、
「青色」が特に美しいとおっしゃいます。
 
ただ自然の中での「青色」は少なく、
なかなか出会えないのだけれども、
その中で「仁淀川」は、数少ない「青色」に
出会える場所なのだそうです。
 
 
特にその際立つのは、
特にその「青色」が際立つのは、
仁淀川の上流にある数々の支流の川です。
 


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その中のひとつ「安居川」(やすいがわ)では、
特に透明度の高い美しい「青色」を見ることが
出来ます。
澄んだ水の流れで時間を忘れさせてくれます。
川の中を見ると、淡い青の世界が広がって
います。
 
「仁淀川」の澄んだ水の源は「森」です。
中流にある「横倉山」(よこぐらやま)は、
歴史と伝説の山として知られています。
その険しい山容から修験の山としても知られ、
山頂直下にある「横倉宮」(よこくらぐう)
安徳天皇を祀る歴史のある神社です。
 
樹齢700年を超える樹木などがある他、
山野草愛好家にも人気の山です。
世界的な植物学者の牧野富太郎博士も
興味を示し、通い続けたと言われる地です。
 
 
 

仁淀川の流れる「水」の撮影に密着


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横倉山の地表は落ち葉が覆われ、
雨は落ち葉を潜り抜け、名水百選のひとつで
安徳天皇ゆかりの湧き水「安徳水」(あんとくすい)
辿り着きます。
 
文治元(1185)年、「屋島の合戦」に敗れた
平知盛一門は幼帝・安徳天皇を奉じて
四国山中を潜幸の後、80余名がこの地に至り、
二十五軒の住を構えて、都とした折に、
この湧き水を天皇の飲用水として用いたと
言われています。
また、修験者の清め水として使用されたとも
伝えられています。
昭和60(1985)年に環境庁の「全国名水100選」に選ばれました。
 
 
高橋さんは、流域にある
グリーン色をした石を取り出しました。
「緑色片岩」(りょくしょくへんがん)です。
「仁淀川」の水の色は、ブルーの中でも
「水色」をしていて、この色は、
このグリーン色をした「緑色片岩」という
岩によって作り出されているそうのだです。
 
 
「仁淀川」河川流域には、長い年月をかけて
押し固められた硬い石が多いため、
土砂になりにくいため、水が濁りにくく
なります。
川底にこの「緑色片岩」が多くあることから、
より青が映えて、グラデーションが豊かで
美しい色が出ます。
 
続いて高橋さんは、動画を撮り始めました。
滝でぶつかって、水滴になった
丸い玉を撮りたいと水の世界に迫ります。
高橋さんはブルーの水玉を撮りたかったようですが、今回は踊るような水滴が撮れました。
偶然の産物だと、
感動していた高橋さんでした。
 
 
 

美の壺2.流れが生み出す、悠久の響き

 

長野県木曽郡「阿寺川」
(地元ボランティア・上田 律子さん)


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長野県を流れる木曾川の支流の1つである
「阿寺川」(あてらがわ)
「阿寺渓谷」(あてらけいこく)は、
砂小屋山に源を発する阿寺川が流れる渓谷で、
全長がおよそ15kmある清流の両岸には、
「木曽五木」が育っています。
  
「木曽五木」
(ヒノキ)、椹(サワラ)、翌檜(アスナロ)
杜松子(ネズコ)、高野槇(コウヤマキ)
江戸初期に荒廃した森林資源を守るため、
尾張藩が伐採禁止にした五種類の木材のこと。
その禁を犯せば「木一本に首一つ」という
厳しいものでした。
覚え方は「あ・さ・ひ・ね・こ」。
  • あ:あすなろ
  • さ:さわら
  • ひ:ヒノキ
  • ね:ねずこ
  • こ:こうやまき 
 
 
阿寺渓谷の流れる水の美しさは格別。
渓流ならではの光の反射によって変化する
エメラルドグリーンは、まさに神秘的!
「阿寺ブルー」と呼ばれています。
「熊ヶ淵」(くまがふち)の淵になっているので
深さはありますが、水の透明度が高いので
川底が見えてしまい、浅く感じるほどです。
最も深い場所は7mもありますが、
今にも川底に手が届きそうな美しさです。
 
渓谷の途中には、他にも
「犬帰りの淵」「狸が淵」「千畳岩」
「樽ヶ沢の滝」「吉報の滝」「美顔水」
などの景勝地があり、
地元のガイド・上田律子さんに
案内していただきました。
景勝地には、それぞれ民話がありました。
 
 
「千畳岩」(せんじょういわ)は、
その通り、大きな岩盤で、
この岩の下に立って耳を澄ますと、
谷川の瀬音が反響して、あたかも頭上に渓流が
ほとばしっているような錯覚を受けます。
そのため、別名「瀬音岩」と呼ばれています。
 
もう一つ音にまつわる伝説の場所があります。
「吉報の滝」(きっぽうのたき)です。
昔、この渓谷に泊まり込みで働いていた
山人達は、滝の音が大きく聞こえる日に
里へ帰ると吉報が舞い込む事が重なり、
そんなところから誰言うことなく
こう呼ばれるようになりました。
 
「うなり島」にはこんな民話があります。
その昔、許されぬ恋中の二人が
ここに駆け落ちして
人目を忍んで住んでいました。
ある日、女が毒キノコを食べると
激しい腹痛に襲われ、
男はあれこれ介抱するものの、
女は苦しむばかり。
たまりかねた男は
夜の山道を里まで走り下り、
ようやく薬を求め帰るものの、
女は既に事切れていました。
男は声を上げ、泣き悲しみました。
今でも雨で増水すると、
苦しみ悶えた女のうなり声と男の泣き声が
この島から聞こえるそうです。
 
上田さんは、大都会の雑踏の中とは違い、
清流の音を耳にしていると癒されると、
阿寺川の魅力を語っていました。
 

www.vill.ookuwa.nagano.jp

 

京都府南丹市「るり渓」
(園部文化観光協会・小林康夫さん、
保存活動に長く携わっている奥村覚さん)


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「森の京都」と言われる京都府中部にある
南丹市園部町(なんたんしそのべちょう)
南西部にある「るり渓」(瑠璃渓)は、
標高500m程の山地に出来た渓谷です。
 
紫色を帯びたキレイな紺色の宝石
「瑠璃」(るり)に例えられるほど
美しい自然に溢れた渓谷で、
国の名勝にも指定されています。
また平成8(1996)年には
「残したい日本の音風景百選」に
選ばれています。
 
 
「るり渓」は、「玉走盤」(ぎょくそうばん)
「双龍渕」(そうりゅうえん)など、
文学的な名称がつけられています。
 
園部文化観光協会の小林康夫さんに
紹介いただきました。
 
「鳴瀑」(めいばく)という滝は、
滝の裏側が空洞になっていて、
ゴロゴロと音が鳴ることから
こう呼ばれるようになったようです。
いつも豊富な水が滝となって
見事な景色です。
雨乞いとして地蔵様をくくり、
滝つぼに沈めたという古事があります。
 
「龍軻譚」(りゅうかたん)は、
岩の淵に流れる音が
まるで龍が歌っているかのようで
あったことから名付けられたそうです。
 
「るり渓」は、かつては「滑渓」(なめらけい)
と呼ばれていました。
名前が変わった経緯について、
「るり渓」の保存活動に長く携わっている
奥村覚さんに伺いました。
 
この地は元々「滑」(なめら)と呼ばれていました。
明治38(1905)年にこの地に遊んだ
当時の船井郡長があまりの美しさに感動して
地元の名士・竹内源太郎氏と相談して、
「琉瑠渓」と変えると、一躍有名になりました。
 
「琉瑠」とは、紫色を帯びた
紺色の宝石、「ラピスラズリ」のこと。
人の手の入っていない神秘的な地に
ありのままに存在する緑と渓谷は、
宝石にも値する素晴らしさだったのでしょう。
 
岩の上を流れる水が、
まるで盤上を転がる玉のようで大変美しい
「玉走盤」(ぎょくそうばん)を奥村さんは、
水の音が静かで、水玉のように音がコロコロと鳴ったように落ちていく景色が素晴らしいと
おっしゃいます。
 
園部文化観光協会の小林康夫さんは、
「るり渓」の水音は、
10年前も今も同じ音だと思うと、
悩みも吹っ飛び、
励まされるとおっしゃいます。
自然は偉大ですね。
 
 
 

美の壺3.暮らしを潤す

 

静岡県伊豆市「筏場のわさび田」
(わさび農家・塩谷 典久さん)


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「わさび」は、水の良い場所にしか
生育しないと言われています。
 
静岡県伊豆市の天城山系は
年間雨量が3000㎜~4000㎜という
日本有数の多雨地帯です。
この豊富な雨は、湧水となって
「伊豆の水わさび」を育てています。
 
伊豆市の「筏場(いかだば)のわさび田」は、
『静岡県の棚田10選』にも選出されている
わさびの名産地です。
ここでは、45軒のわさび栽培農家が
豊富な湧き水を利用して
棚田状のわさび田で、
自然環境を巧みに利用して
品質の良いわさびを大切に育てています。
 

www.shizuoka-tanada.net

 
わさび農家の15代目の塩谷典久さんは
日々、水と向かいながら作業をしています。
良質のわさびを作るためには、
常に水を流してあげることが大切だそうです。
植えつけの際には、
濁った水が入ってしまうので
よその田へ濁りが入らないように
気を配っています。
水をキレイに保つのも大変です。
 
塩谷さんは、30年前にわさび栽培を
引き継いで間もなくして、
「大正5年」と刻まれた
小さな石の祠(ほこら)を見つけました。
曽祖父が建てたものでした。
それから塩谷さんは、
いつも全部のわさび田に水が潤うようにと、
(ほこら)の管理をしつつ、
手を合わせ祈っています。
 
 
 

岐阜県山県市円原川「川海苔」
(集落支援員の山口晋一さんと
ボランティアの下本英津子さん)


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岐阜県山県市円原地区(やまがたしえんばらちく)
7世帯が住む集落です。
集落には「円原川」(えんばらがわ)が流れ、
川と共に生きています。
 
 
「円原川」は清流「長良川」の源流の一つで、
透き通る「水」と岩に張り付く「苔」で
有名です。
「ぎぶ・水と緑の環境百選」に選ばれています。
水のキレイさの秘密は、円原川が
「伏流水」(ふくりゅうすい)であること。
「伏流水」とは、流れる水が一旦、地中に
潜り込み、再び岩間から湧き出る現象のこと。
円原川は付近が石灰岩質の岩場で、約2km程
地中に潜る間に浄化されていることが、
キレイさの要因と考えられます。
それと最近は、夏場の朝に、気象条件によって
発生する「川霧」の幻想的な様子や、
木々の間から太陽の光が差し込む
「光芒」(こうぼう)で有名です。
円原川では「川海苔」(かわのり)が採れます。
「川海苔」は「海苔」と同じ藻類の一種で、
かつては夏の食べ物で、
円原川は岐阜県内第一の産地でしたが、
今では絶滅危惧種に指定されています。
 
平成22(2010)年に数株の「川海苔」が発見され、
幸いなことに絶滅が回避されたことが
明らかになったことから、
現在、山県市ではかつての特産品である
「川海苔」の食文化の継承に向けた活動が
開始されています。
 
集落支援員の山口晋一さんと
ボランティアの下本英津子さんは、
円原川で採れるこの「川海苔」を
地域の名産にするための活動をしています。
きっかけは、集落に住む三津原ふじ子さんとの
出会いでした。
 
 
「川海苔」の採取は、
腰に籠をつけて川へ入ります。
素足のため足も冷たく、痛いそうです。
採れた「川海苔」は、砂や砂利を取り除いて、
天日に干します。
 
昨年の収穫は、板のりでわずか42枚でした。
「川海苔」の出来る場所も毎年異なり、
量もほんのわずかです。
 
集落支援員の山口さんによると、
「川海苔」については分からないことも多く、
どういう状況で増えるのか、無くなるのか、
調べることが多いそうです。
 
ボランティアの下本さんは、
「川海苔」を守るのは、
地域の人と川の関係性を見直すことだと
おっしゃいます。
地域の資源の活用を目指して、
種付けや清掃などの保護活動をして、
次の世代の人に受け継いでいきます。
 

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