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美の壺「宿の朝食」<File 412>

<番組紹介>
米どころ新潟では、かまどで炊いたふっくらご飯、
温泉でじっくり煮込んだ粥(かゆ)、
そしてご飯をよりおいしく食べるための
極上おかずが登場!
出来たて熱々にこだわる修善寺の宿では、
朝、客室に設けた炉で仕上げる熱々のみそ汁を堪能!
京都の宿に半世紀伝わる、だし巻き卵も絶品!
さらに作家・池波正太郎が愛した朝食や、
おかずが24品並ぶ沖縄の薬膳料理の朝食も紹介!
 
<初回放送日:平成29(2017)年06月09日>
 
 
 
旅先で迎える朝。
宿の朝食に期待が膨らみます。
その宿でしか味わえないもてなしの朝食。
それを楽しみにする旅人が増えています。
各地の宿を巡り、自慢の朝食を味わいます。
 
 

美の壺1.主役のごはんをよりおいしく

 

温泉でご飯をじっくり煮込んだお粥(越後長野温泉「嵐渓荘」)

米所で知られる新潟県三条市。
ここに、江戸時代の旧家を移築した宿があります。
木造三階建ての温泉宿「嵐渓荘(らんけいそう)です。
 
嵐渓荘・緑風館は、
昭和8(1933)年頃に燕駅前に建築された
小川屋旅館の建物を昭和30(1955)年頃に移築したものです。
平成24(2012)年に「国登録有形文化財」に登録されました。
 
嵐渓荘」の朝食のお供は窓からの景色です。
並ぶのは新鮮な食材に工夫を凝らした郷土料理です。
中でもこだわりは温泉でご飯をじっくり煮込んだ、
ほんのりとした塩気があり、
まろやかな味わいの「お粥」です。
 
「この辺りは米所で美味しいお米が採れますし、
 温泉も舐めると昆布茶のような味わいがする、
 雑味のない旨味があるような、おかゆにいい味の温泉です。
 朝ごはんは、宿で一番最後にお口になさるものですので、
 印象に残るようなお料理になったらいいなと思います。」
 
その宿でしか味わえないもてなしの朝食。
それを楽しみにする旅人が増えています。
 
  • 住所:〒955-0132
       新潟県三条市長野1450
  • 電話:0256-47-2211
 
 

ご飯(六日町温泉「龍言」)

 
日本有数の美しい棚田が広がる南魚沼市の六日町温泉にある
温泉宿「龍言(りゅうごん)は、
2000坪の大庭園と16棟の江戸時代の旧家を移築した古民家が連なる
 
本館が国の登録有形文化財になっています。

bunka.nii.ac.jp

 
食卓に並ぶのは、朱色の器に盛られた、
地元の山菜を中心とした朝食です。
その主役は何と言っても「ご飯」。
 

 
勿論、地元、南魚沼産のコシヒカリです。
ふっくらとして艶があり、甘みも格別。
米を炊くために使うのは、
地下80mから汲み上げた雪解け水の伏流水です。
 

 
ミネラルを豊富に含むため、ご飯の甘みが増すのだそうです。
この宿では、今でも昔ながらの竈を使ってご飯を炊いています。
 

 
強い火力で一気に炊き上げるのがコツ。
泡が吹きこぼれてきたら、火を止めるサイン。
竈が蓄えた熱でじっくりと蒸らしていきます。
米粒が立っているのが上手に炊けた証拠。
最後に軽くかき混ぜ、余分な水分を逃がします。
ふっくらとした極上のご飯が出来上がりました。
 
  • 住所:〒949-6611
       新潟県南魚沼市坂戸1-6
  • 電話:025-772-3470
 
 

こだわりのおかず(松之山温泉「ひなの宿ちとせ」)

 
新潟と長野の県境の雪深い山間に佇む松之山温泉。
今から700年程前の南北朝時代、
一羽の鷹が舞い降りて傷ついた羽を休めているのを木こりが見つけ、
そこにコンコンと湧く熱泉を発見したという伝説が残っています。
室町時代、越後守護上杉家の隠し湯であったという説もあり、
その効能は古くから知れ渡っていました。
 

 
戦後の一時期、塩を採ったというほど塩分が強いため、
冬で湯冷めしません。
このため薬効の高さから
有馬・草津と並び「日本三大薬湯」と呼ばれています。
 

 
 
明治40年創業の老舗旅館「ひなの宿ちとせ」は、
ご飯をひきたてるためにおかずに力をこだわっています。
地元ならではのおかずを味わえるのも宿の朝食の醍醐味。
地元の食材を使った煮物やそぼろなどのおかずは、
昔から季節毎に食べられてきた郷土の味です。
これらのおかずを出すようになってから、
ご飯をお代わりする客が増えたとそうです。
 

 
春に出すのは、
コゴミやフキノトウなどの山菜と味噌を和えたもの。
食べる直前に、客の目の前で香ばしく焼き上げます。
炊きたてのご飯にピッタリ!
暑い季節には、
夏野菜を細かく刻んで大根の味噌漬けと合わせます。
 

 
こうしたおかずは、
地元の農家の間で長年親しまれてきたものでした。
地元ならではのおかずを味わえるのも、
宿の朝食の醍醐味です。
炊きたてのご飯を一層輝かせています。
 
  • 住所:〒942-1432
       新潟県十日町市松之山湯本49-1
  • 電話:025-596-2525
 
 
 

美の壺2.たちのぼる湯気に思いを込めて

 

部屋で仕立てるお味噌汁(伊豆修善寺「柳生の庄」)

 
1200年の歴史を誇る静岡県の温泉地・伊豆修善寺の奥に佇む
隠れ家的な宿「柳生の庄(やぎゅうのしょう)
朝食が自慢の宿です。
 
朝、鍋が部屋に運ばれてきました。
味噌汁は、部屋に設けられた炉で鍋を温め、
部屋で仕上げるのです。
 

 
出汁はかつおと昆布、味噌は地元の米味噌です。
そこに入れるのは、豆腐にジャガイモとインゲンです。
煮立つ直前を見極めて器によそいます。
味噌の香りが部屋中に広がります。
朝食が出来上がりました。
 

 
修善寺ならではの豊かな山の幸や海の幸が顔を揃えます。
部屋で仕上げるからこそ出せる湯気。
この宿ならではのもてなしです。
 
  • 住所:〒410-2416
       静岡県伊豆市修善寺1116-6
  • 電話:0558-72-4126
 
 

出来立て「だし巻玉子」(祇園東「料理旅館 白梅」

 
京都・祇園を流れる白川沿いに、
隣り合う2本の小さな橋が架かっています。
たもとに梅の古木が植えられた橋を渡った先にあるのが
祇園東「料理旅館 白梅(しらうめ)です。
 
かつては「大柳」(だいりゅう)という名のお茶屋だったそうですが、
先々代の女将・大村テツさんが料理旅館へと転業。
以来、故・水上勉を始め、
祇園で遊ぶ名立たる文人や俳優など数々の馴染み客が
通う宿となりました。
 

 
白梅」で、川の流れを愛でながら頂く朝食は、
焼き魚や揚げ出し豆腐など、昔ながらの家庭の朝ごはん。
一番人気は、創業より約70年、朝食にずっと出てきた
定番の品「だし巻き」です。
箸を入れれば出汁が溢れ出す、
シンプルゆえに素材の味を堪能出来る一品です。
この「だし巻き」を楽しみに、
この宿を訪れる常連客も少なくないそうです。
 
お客さんが朝、そこの場に着いてから、
その時点で巻くというふうにこだわって、
巻く時はなるべく半熟になるように心掛けて
フワフワな感じを出すように巻いてます。
 

 
使うのは、京都の亀岡で放し飼いで育てられた鶏の卵です。
鮮やかな黄色が食欲を誘います。
出汁は独自にブレンドしたかつお節と北海道の利尻昆布から採ります。
熱が伝わりやすい銅製の卵焼き器を使って焼き上げます。
気泡を潰して、滑らかにするのがコツ。
卵がまだ軟らかいうちに巻いていきます。
 

 
この「だし巻き卵」を焼くことが出来るのは、
この宿で働いて57年になる昭和2年生まれの大村和子さんと
彼女から直々に手ほどきを受けた板前だけです。
 
「もうちょっと塩分とお砂糖とを足して。
 朝は素人の家庭の味が皆様に好まれる。
 もうちょっと板場さんよか、
 朝の濃いめの味がええと思います」
 
だし巻き卵を一番美味しく味わってもらうため。
この宿では、湯気が出ているうちに出す事にこだわっています。
 
「湯気が上がったお料理っていうのは、
 相手の事を考えて、気持ちの表れ、愛情の表れやと思うんです。
 お客様の事を思う、家族の事を思う、相手の事を思う。
 美味しいもん食べて欲しい。
 ほいで、一日、ほっこりして欲しいっていう気持ちが
 湯気の意味やと思うんです。」
 
  • 住所:〒605-0085
       京都市東山区祇園新橋白川畔
  • 電話:075-561-1459
 
 
 

美の壺3.朝食の器を楽しむ 味わう

 

文豪に愛された「小鉢をたくさん並べた朝食」
(東京御茶ノ水・「山の上ホテル」)

 
作家達に愛されたホテルです。
川端康成や三島由紀夫など、
執筆に追われた作家達が滞在していました。
 
中でも食通で知られる時代小説の大家・池波正太郎は、
このホテルの朝食がお気に入りでした。
焼き魚や玉子焼き、青菜のおひたしなど
13品を小鉢をたくさん並べた朝食を気に入り、
この朝食を独自にアレンジして楽しみました。
また、当時の料理長に手紙まで出していました。
そこにはこんな感想も。
「それにしても、よく小さな器があれだけ揃っていましたね。
 これは皆、永年に渡る、
 あなたの丹精の賜物であると思います。」
 

www.yamanoue-hotel.co.jp

 
今も昔と同じようなメニューです。
小鉢をたくさん並べた朝食は、当時は新しい出し方でした。
それぞれの料理をそれぞれの器に。
厨房には、数多くの器が集められていました。
 
「小鉢を取っておいて使っていました。
 色んな種類があるから、
 見ていてお客さんも楽しかったんじゃないですかね。
 僕らの時は、器はも一つの食べ物だと思っているから、
 だからきっと池波先生もそう思ってたと思うんです」と、
当時、料理長だった近藤文夫さんが振り返っていらっしゃいました。
 
なお、小鉢の料理を独自にアレンジした様子は、
『池波正太郎の銀座日記』でも読むことが出来ます。
 

 
山の上ホテル
HILLTOP HOTEL 御茶ノ水
  • 住所:〒101-0062
       東京都千代田区
       神田駿河台1丁目1
  • 電話:03-3293-2311
 
 

「薬膳朝食」沖縄第一ホテル

 
沖縄県那覇市にも器にこだわった朝食があります。
昭和30(1955)年に創業した、
わずか5部屋の小さなホテル「沖縄第一ホテル」です。
 
テーブルにずらりと並べられた料理は何と24品。
沖縄の食材を生かし、
カロリーを585kcalに抑えたヘルシーな薬膳朝食です。
 
たんぱく質が豊富な「ゆし豆腐」を使ったスープ。

 
「サクナ」と呼ばれる野菜のサラダは、
咳止めの効果があると言われています。

約40種類の薬草が入った「薬草茶」は飲み放題です。
 
これらの料理に彩りを添えるのが、
地元、沖縄で作られた器の数々です。
沖縄の焼き物界の巨匠・大嶺實清(おおみねじっせい)氏や
ガラス作家の稲嶺盛吉氏など、
著名な沖縄作家が制作した焼き物を器に使い、
赤いお皿は琉球漆器です。

このホテルの創業者・島袋芳子さんは、
このスタイルの朝食を50年以上続けてきました。
 
「沖縄にいらして、東京と同じじゃ面白くないから。
 沖縄らしいものをっていうのが、
 外国とかそういうとこを行って気付いたんですね。」
 
島袋さんのお気に入りは「琉球ガラス」です。
野菜のお浸しなどに合わせます。
フルーツを載せているのは、黄色い琉球ガラス。
黄色の素はなんとカレー粉だそう。
 

 
この日、島袋さんは朝食用の器を注文するため、
琉球ガラス作家・稲嶺盛吉さんの工房を訪ねました。
稲嶺盛吉さんは、沖縄の海に着想を得て、
数々の作品を生み出した作家さんです。
 

kidhouse-glass.jp

 
食材だけでなく器まで、とことんこだわった沖縄の宿の朝食。
訪れる人への歓迎の気持ちで彩られています。
 

 
沖縄第一ホテル
  • 住所:〒900-0013
       沖縄県那覇市牧志1丁目1−12
  • 電話:098-867-3116
 

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