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イッピン「得意技をバージョンアップ! 東京・金属加工製品」

<番組紹介>
手の中に入る大きさのステンレス製の「トング」。
チタンという硬い金属で作られた「ぐいのみ」。
東京の町工場から生まれた暮らしに身近な製品、
そこに隠された技術に迫る。
手の中に入る大きさのステンレス製の「トング」。
これは、墨田区のプレス工場が開発したもの。
しかし、製品誕生までは苦難の連続。
プレスで成型すると、
どうしても表面に凹凸状のシワが入ってしまう。
1年以上も試作を重ね、
職人がたどり着いたプレスの方法とは…。
そして、
ヘラ絞りという金属加工を行う大田区の工場では、
チタンという硬い金属で出来た「ぐいのみ」を開発。
硬いチタンを成型するために技を磨いた職人を追う。
 
<初回放送日:令和2年(2020)年11月4日>
 
 
 

1.てのひらトング(笠原スプリング製作所)

 
東京都の北東部に位置し、
隅田川と荒川に挟まれた東京都墨田区は、
江戸時代には運河の水利を活かした地場産業が発達し、
明治から昭和にかけては次々と町工場が生まれ、
「ものづくりのまち」として発展。
現在、その数は2000程になると言われています。
 

 
 
笠原スプリング製作所」は、昭和4(1929)年創業の
板バネなどのプレス加工をする町工場です。
 

 
古くは海軍が使用する銃のバネを、
現在では自動車から医療機器まで、
様々な機械に組み込まれる部品を
プレスや溶接といった技術を活かして製作しています。
 
しかし近年は、安い海外製品に仕事を奪われ、
危機的状況に陥っていましたが、
四代目社長の笠原克之さんが
自社製品として「てのひらトング」を開発。
その斬新なデザインと、使い勝手の良さで復活しました。
 
 
きっかけは、地元墨田区が町工場支援のために行った
「ものづくりコラボレーション」というプロジェクトでした。
これは、墨田区内の町工場と
著名な工業デザイナーやクリエイターが共同作業により、
消費者向けの魅力的な新商品を開発し、
これらの商品について墨田区が、
国内外でのPRや販路開拓支援も行っていくというものです。
 
笠原さんがある一人のデザイナーから勧められたのが
このトングでした。

 
しかしその開発は困難を極めました。
まずは、試作品作り。
ステンレスの板をトングの形に切り抜いて、
型に当てて上からプレスすると、
丸く滑らかになるはずのトングの表面にはしわが入り、
波を打ったように凹凸が入ってしまいました。
これでは、到底、製品になりません。
デザイナーにも、これではダメだと厳しく指摘されてしまいました。
 
いつも通りの手順で行ったはずなのに、
一体、どこに問題があったのか。
原因は、それまで手掛けていた部品との違いにありました。
これまでの部品はほとんどが「平面」で構成されたものでした。
それに対してトングは「曲面」で出来ています。
「平面」の場合、プレスをかけると
金属の板には、同時に同じ圧力が掛かります。
しかし「局面」のトングの場合は、
最初、丸みを持った中央部分に圧力が掛かりますが、
周辺部分にはまだ圧力が掛からないため、中央に引き込まれます。
圧力が掛かるタイミングのズレが、しわを作ってしまうのです。
 
板を厚くすれば、シワが出来にくくなるのではとも考えましたが、
それではトングが重くなってしまうため、使い勝手が悪くなる上、
材料費も嵩んでしまいます。
また圧力を上げてもみましたが、しわは消えませんでした。
 
そうして、一年間という製品開発の期限を
4か月もオーバーしてしまった頃、
墨田区からある人物を紹介されました。
プレス加工全般の専門家、山口文雄(山口設計事務所)さんです。
山口さんは、この頃、墨田区からの依頼で企業の技術指導を行っていました。
 
山口さんのアドバイスは、
プレスする時に、材料の金属板の縁を金型からはみ出させ、
そこをしっかりと押さえておくというものでした。
こうすれば、真ん中に圧力が掛かっても
周囲がそれに引き込まれることはなく、しわは出来ない。
まさに目から鱗の発想でした。
縁を押さえることが出来る、
新たな金型を作らなければなりませんでしが、
生き延びるためにはこの道しかありません。
完成した金型でプレスすると、
表面はしわ一つない、キレイな局面を描いています。
結果は成功・・・と思いきや、
トングそのものの縁のところに、どうしても傷が残ってしまいます。
 
傷跡が残らないようにするにはどうしたらいいのか。
出した結論は、金型の角を削ることでした。
一㎜単位で金型を削っては、ブレスを試し、また削る・・・。
これを繰り返して、二か月後、
しわが寄らず、しかも縁の部分に跡が残らない
この難問を解決することが出来ました。
開発を始めてから一年半。
遂に、努力が報われたのでした。
 
 
てのひらトング」は、コロンとした丸い形がかわいい、
カスタネットのように手の中にすっぽりと納まる形の小型のトングです。
 
最も力が加えられる根本の部分は、
2万4000回にも及ぶ折り曲げテストを行い、その品質は証明済です。
何度使っても角度や使い心地が変わらず、
常に一定の反発力をキープし続ける耐久性を持っています。
 
 
一般的なトングは、点と点を合わせてモノを挟みますが、
「手のひらトング」は、先端部が丸くなっており、線と線で挟むため、
力が入りやすく、自分の手で掴むような感覚で驚くほど掴みやすいので、
レタスなどの葉物はもちろん、トマト、ブロッコリーなどの固形物も、
形を崩すことなく掴むことが出来ます。
しかも利き手を選ばないので、
「右手」でも「左手」でも使うことが出来ます。
 
 
更に、スプーンのような丸い形状は、
「掴む」だけでなく「すくう」という機能も兼ね備えて、
お箸では取りにくいコーンやクルトン、
器の下に溜まったドレッシングなども簡単にすくえて、とても便利です。
 

 
てのひらトング」は、墨田区の優れた商品の証である
「すみだモダン」認証商品に選ばれた他、
令和2(2020)年には「すみだモダン」に認証された137商品の中から
わずか13点のみ選定された「ベストオブすみだモダン」にも
認証されています。
 

note.stylestore.jp

 
  • 住所:〒131-0041
       東京都墨田区八広5-17-3
  • 電話:03-3611-1878
 
 
 

2.一枚鉸(高桑製作所)


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東京の南部に位置する大田区もまた、
約4000もの町工場が集まる、
「ものづくりのまち」として知られています。
 

 
江戸時代から明治時代にかけては、
海苔を養殖したり、
土産品として麦わら細工が生産されていましたが、
関東大震災後、都市部にあった多くの工場が転入。
更に昭和37(1962)年、東京五輪のための港湾整備により
漁業組合が漁業権を放棄し、海苔養殖が出来なくなったために、
その広い海苔干し場跡に多くの工場が集まってくるようになりました。
 

 
昭和51(1976)年には、工場数が東京23区で第1位になり、
昭和58(1983)年には、工場数が過去最高の9190件となりました。
更に昭和60年代には、「NC工作機械」を導入するなど、
多種少量、短納期、高精度の生産に対応した体制が整備され、
その成果が世界的に見ても高い技術力を育み、
中には「オンリーワン」と呼ばれる、
そこでしか出来ない技術や製品を持った工場も出てきています。
 
 


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昭和38(1963)年創業の「高桑製作所(たかくわせいさくしょ)は、
日本が世界に誇る高精度・高品質な
「ヘラシボリ」という金属加工法を用いて、
車のエンジンや家電製品の中にある精密な部品を作っている
町工場です。
金属は「伸ばす」「押す」「切断する」などの加工をして、
製品にしていくのですが、
そのうち「ヘラシボリ」とは、
金属に圧力をかけると形が変わる
「塑性」(そせい)という性質を利用した
歴史ある加工技術です。
プレス加工よりも高い精度の製品に仕上げることが出来ますが、
品質の良い製品を作るには、
熟練の技術がいる難易度の高い加工方法です。
 
「ヘラシボリ」は、
旋盤のような機械に「金属」を取り付けたら回転させ、
この回転する金属に「ヘラ棒」と呼ばれる道具を押し当て、
少しずつ形を変形させて加工していく手法です。
金属を回転させながら加工するため、
「スピニング」とも呼ばれます。
 
「ヘラ」を「てこの原理」で金属に押し当てれば、
チタンやモリブデンなど硬い金属までも加工することが出来ます。
 
また、「ヘラシボリ」で加工した製品は
プレス機で加工するよりも表面が滑らかになります。
軽量化が出来たり、強度が高くなったりする利点もあるため、
品質面で非常に優れた製品が出来ます。
 
ですが、こういった技術を一般の人が目にする機会はありません。
また職人さんの方でも、
使ってる人がうれしいとか、ありがたいとかという場面を
見る機会はありません。
 

 
高桑製作所(たかくわせいさくしょ)の高桑英二社長は、
「ヘラシボリ」を駆使した、暮らしに身近な製品を作れば
喜んでもらえるのではないかと考え、
「ヘラシボリ」を更に進化させ、
たった一枚の金属板から二重構造の器を成形する独自の技術
「一枚鉸」(ひとひらしぼり)を開発。
そして、その新技術を使ったチタン製のぐい呑を完成させました。
 
 
 
 
「チタン」は軽いだけでなく、温まりにくく冷めにくいのが特徴です。
加えて「一枚鉸」は二重構造のため、中に空気の層が出来るため、
保温性も更に高まります。
冷酒にも熱燗にもよく、持っても冷た過ぎず熱過ぎません。
お酒の味に影響を与えることもありません。
 

 
また、独自の磨き仕上げにより、
シンプルで落ち着いた見た目と、丸い感触が寛ぎを与えてくれます。
表面に「波」のような起伏のある形状のもの、
独自の熱加工により金属でありながら陶器のような独自の風合いをもったもの、
和の情緒を醸し出す「会津塗」を施したものがあります。
「ぐいのみ」と「かたくち」のセットは、
上下に重ねて収納しても美しいです。
 

 
 
大田区中小企業 新製品・新技術コンクール「おおた秀逸技能賞」、
大田のお土産100選「奨励賞」、
世界発信コンペティション「東京都ベンチャー技術特別賞」と、
多くの賞を受賞しました。
 

 
東京の街。 そこには工夫と挑戦を繰り返す、
技を進化させる職人達がいました。
 
高桑製作所
  • 住所:〒144-0035
       東京都大田区南蒲田2丁目8-5
  • 電話:03-3731-4647
 

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