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美の壺「森の神秘 きのこ」 <File519>

縄文の昔から、日本人が親しんできた「きのこ」
 ▽きのこにこだわるフレンチレストランの、極上きのこ料理!
 ▽森と共生するマタギたちの絶品「きのこ鍋」
 ▽専門家が案内する、貴重なきのこ。
  八丈島では、闇夜で幻想的に光るきのこ!
 ▽世界が認めた菌類画家が、緻密に捉えるきのこの姿!
 ▽知の巨人・南方熊楠が残した、
  4000点ものきのこの図譜とは?!
 ▽草刈正雄邸には、山伏・野村萬斎も登場!!
 

いにしえより日本人は、
森の恵み「きのこ」に親しんできました。
日本にはおよそ1万種近くあると言われていますが、
そのうち名前が付いているのは三分の一程度で、
今でもたくさんの新種が見つかっているのだそうです。
今回は、謎めくきのこの世界が紹介されました。
 
 

美の壺1.一期一会の山の恵み

 

きのこ料理のフレンチシェフ・山岡昌治さん
恵比寿マッシュルーム(MUSHROOM)

 
NHK『きょうの料理』でもお馴染みの
フレンチシェフ・山岡昌治さんのお店
きのこ料理にこだわった レストランです。
 
山岡さんがきのこと出会ったのは、フランスでの修業時代。
厨房にたくさんの野生のきのこが並んでいたことに
衝撃を受けました。
 
「僕の思ってる以上に
 もっといろいろたくさん食べれるきのこがあるっていうので
 凄い、一番分からない素材だったので、
 一番、興味が湧いちゃったんですね。」
 
今、店で提供しているきのこは、
年間100種余りにも上るのだそうです。
 
野生ならではの色と風味が特徴の「タマゴタケ」は
ホタテやタマネギ、スープを合わせて、
強火でひと煮立ちすれば、
タマゴタケの真っ赤なかさを乗せた、リゾットの完成です。
きのこから出た色素を吸収して、
米が鮮やかな色合いのお米。
タマゴタケのこってりとした風味が
ホタテの旨味と合わさって、
ウニのような濃厚な風味のきのこの出汁に、
チキンブイヨンと魚介の出汁を加えたスープ。
11種ものきのこの香りや食感の味わいが溶け合う一皿です。
 
  • 住所:〒150-0021
       東京都渋谷区恵比寿西1丁目16−3
       ゼネラルビル恵比寿西
  • 電話:03-5489-1346
 
 

秋田県北秋田のマタギ 鈴木英雄さん

秋田県北秋田市に位置する標高1454.2mの森吉山
その麓は、狩猟・採集を営むマタギの里です。
鈴木英雄さんは、熊狩り、山菜やきのこ狩りなどを通して、
山を知り尽くしている、マタギの9代目です。
 
「やっぱ、ここ通る時は、熊狩りであっても、
 魚釣り、山菜、きのこ、みんな含めてお祈りしています。」
 

 
11月に始まる熊猟の前は、きのこ狩りの季節です。
ブナを始めとするこの森は、きのこの宝庫、
この季節だけの特別な恵みを与えてくれます。
 

 
きのこがなる木の種類、時期、採り方の他、
毒きのこの見分け方など、きのこ狩りの技が
代々、受け継がれてきました。
朽ちたブナの木に連なるのは、
肉厚で鶏肉のような食感の「ブナハリタケ」です。
そして、マタギにとって最も特別のきのこは、
「きのこの王様・マイタケ」。
 

 
鈴木さん、いくつか目をつけている木があります。
今年もマイタケが出ていました。
 
「何か、喜びのあまり踊りたくなるということが、
 いわれのようですね。
 やたらとあるもんじゃないので、
 一日あっても見つからないことが多いので、
 これだけでも十分 満足ですね。
 私は もう授かり物のように思って、
 あ~ 良かった、授かったっていう思いが、
 熊と同じくらい思いますね。」
 
舞茸(マイタケ)の語源は、
「見つけた人が喜びのあまり舞って踊る」からという説、
「柄が分かれ、ヒダが扇型の傘を付けている様子が、
 袖をひるがえして舞う人の姿に似ている」からという説もあります。
 
山の恵みは鍋で頂くのが、マタギ流。
地鶏のだし汁に、マイタケナメコブナハリタケを加えます。
きのこから出る出汁は、どんなご馳走にも勝るのだとか。
香りが染みて、シャキシャキとした歯応えが最高の
きのこ鍋が出来上がりました。
山の神に手を合わせてきたおかげで、
いろんなものが授かった、感謝のご馳走です。
 

www.forest-akita.jp

 
 

美の壺2.森を支える小さき命

 

きのこの研究者・吹春俊光さん(千葉県立中央博物館

 
千葉県立中央博物館のきのこの研究者・吹春俊光さんは、
夏から秋にかけて、千葉県北部の森を頻繁に訪れて
調査をしています。
 
「”タマゴタケ”というきのこは、
 ちょっと毒々しい色をしてるんですけど、
 非常においしいきのこということで知られてます。」
 
先程のリゾット料理でも登場した「タマゴタケ」。
卵の白い殻のようなものからニョキニョキ伸びることから、
タマゴタケ」と名付けられました。
 

 
更に房総半島南部にある森でも調査します。
変わった形のきのこがたくさん。
森の中のサンゴのような「ホウキタケ」、
白いレースをまとった姿から
「きのこの女王」と呼ばれている「キヌガサタケ
直径は25㎝近くもある脳のような姿の「ノウタケ」、
穴の中から出てくる胞子がホコリに見えることから名前が付いた
名前もないものまで含めれば、
きのこの種類は20万以上もあると言われています。
 

kinoco-zukan.net

 
きのこの本体は「菌糸」と呼ばれる細い糸状のもので、
それが土の中を縦横無尽に巡っています。
その菌糸が一年に一度、繁殖のために生み出すのがきのこです。
 
そしてもう一つ、きのこには生態系での働きもあります。
すなわち、植物や動物の遺体などの有機物を
きのこが分解して無機物へ還元し、
最終的に土へ戻す働きをしているのです。
森の循環を促し、樹木を陰で支えるきのこ。
森の添え物ではなく、地球にとって欠かすことが出来ない生き物だと
吹春さんは考えています。
 
  • 住所:〒260-0852
       千葉県千葉市中央区青葉町955−2
  • 電話:043-265-3111
 
 

八丈島の不思議なきのこ・大場裕一先生(中部大学応用生物学部教授)

 
東京・伊豆七島の一つ「八丈島」には、
珍しいきのこを保護し、生育している森があります。
島が夜の闇に包まれると、
夏、亜熱帯の森に現れ、幻想的な光を放つ「ヤコウタケ」です。
 
 
発光生物の研究者・大場裕一先生の研究チームは
ロシアとの共同研究で、
一般的なきのこが持っている「ヒスピジン」という物質が
光るきのこ特有の酵素と反応して、発光することを突き止めました。
 


www.youtube.com

 
「どれも仮説なんですけれども、
 光ることで虫をおびき寄せてるらしいんですけども
 虫をおびき寄せた時にですね、
 虫に胞子を 運んでもらっているという可能性が特に言われています。
 その他にもですね、全く逆にですね、
 虫が近寄ってこないように光ってるって言ってる人もいますし、
 まだはっきりしたことは分かっていないんですね。」
 
光を発しているのは きのこだけではありません。
朽ちた木に張り巡らされた菌糸が
きのこと一体となって光り、きのこが朽ちた後も光り続けます。
 
光るきのこは、「ヤコウタケ」以外にもあります。
体長は僅か5㎜程で、ハチの巣のような形をした、
とても小さな「エナシラッシタケ」というきのこです。
 
闇夜にきらめく無数の光は、まるで森に現れた「天の川」のよう。
豊かな森を育む 小さな命の輝きです。
 
 

美の壺3.広がる世界

 

菌類画家の小林路子さん

 
1000点近いきのこの絵を描いてきました。
イギリスのボタニカルアートの殿堂「キュー王立植物園」にも
小林さんの作品は収蔵されています。
 
「きのこって何かね、
 存在自体、何かシュールな感じだなと思いましたし、
 色や形も本当に様々で、
 やはり絵描きというのはどうしても
 見た目の視覚っていうところから感動が入ってくるので、
 そこは すごく大きいというか、本当に はじめは そうですね。」
 
生命力に満ち溢れた「ヤマドリタケモドキ」に
自宅で長野で採取した「ノボリリュウタケ」を
精緻な筆使いで、どこまでも細かく どこまでも正確に描いていきます。
野生のきのこは色が変わりやすいため、時間との勝負。
きのこを描き終えると、次は苔も丹念にスケッチしていきます。
小林さんは、きのこだけではなく、
見えない菌糸の存在までも描きたいと考えています。
 

 
小林さんは35年に渡り、きのこに惹かれ、描き続けてきました。
「きのことか、やっぱりこれは生きているんだし、
 自分と同じものだし、
 それによって、世界の自然環境の中では
 どれ一つ欠けても困るものなんだということを感じられると
 凄く世界が広がった感じがすると思うんですね。」
 
 

南方熊楠の菌類図譜(国立科学博物館・筑波研究資料センター 細矢剛さん)

 
昭和初期のきのこ研究の貴重な資料が保管されています。
熊楠が残した『菌類図譜』です。
 
明治から昭和を生きた知の巨人・南方熊楠。
博物学や民俗学など、様々な分野を研究し、
「エコロジー」という概念を日本に広めました。
20代を欧米での研究に費やした熊楠は、33歳で帰国すると、
和歌山県の熊野地方の森に分け入り、
粘菌や微生物、昆虫など、様々な生き物の調査に没頭。
そんな熊楠が最も情熱を傾けたものの一つが、
「きのこの研究」だったと言われています。
 

 
『菌類図譜』には、きのこの彩色図が忠実に描かれ、
その横にはスライスされた標本があります。
小さな紙包みの中には、胞子までが保存されています。
更に、余白を埋め尽くすように、
きのこの形や色、匂いや味などについて、克明な記述がなされています。
 
熊楠は生涯で1万点にも及ぶきのこの標本を集め、
そのうち4000点余りを図譜として残しましたが、
熊楠の生前、この記録が世に発表されることはありませんでした。
当時はまだ見向きもされなかった菌類の中に、
熊楠は大きな地球の営みを見い出そうとしていたのかもしれません。
 
 

狂言「茸」(くさびら)

 
草刈さんのお宅に山伏姿で現れた、
狂言師の野村萬斎さん。
 

 
ぼおろん、ぼおろん、ぼおろん、
ぼおろん、ぼおろん、ぼおろん ほい ほい・・と唱えるのは、
『にほんごであそぼ』にも登場する狂言の演目「茸」(くさびら)でした。
きのこは、古くは「くさびら」と呼ばれていたんですね。
 


www.youtube.com

 

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