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美の壺「不朽のデザイン 市松模様」<File520>

<番組紹介>
スーツから靴下まで、市松模様を毎日身につける
狂言師・茂山逸平さん。
愛用歴20年の市松アイテム大公開!
 
 ▽縄文土器や埴輪にも!
  写楽も描いた「市松」の名の由来の人物とは?!
 ▽漆黒市松のスタイリッシュな江戸切子に、
  3500の四角がうごめく市松模様の九谷焼。
  現代にいきる、市松模様ならではの美
 ▽京都・東福寺にある重森三玲の市松模様の庭。
  その意図を孫が読み解く!
 ▽古民家に輝く、市松のふすま絵!
<初回放送日: 令和2(2020)年11月27日 (金)>
 
 

 
 
 

美の壺1.交互 ~繰り返す四角の妙~

市松模様愛好家(狂言師・茂山逸平さん)

 
 
大蔵流の狂言師・茂山逸平(しげやま いっぺい)さんは
自他ともに認める「市松模様」好きです。
熱中歴は20年で、100点以上もの市松グッズを
コレクションしています。
和でも洋でも使いやすいと、衣類から持ち物
まで、何から何まで市松づくしです。
 
ネクタイも着物も下着までも市松と、
市松を身につけない日はないのだとか。
本日も、着用されているスーツにも
「市松模様」が施されています。
光の加減で薄ら見える市松の模様が何とも
上品です。
バックの中身を見せて頂くと、
道行(みちゆき)、風呂敷、信玄袋、名刺入れ、
それから名刺にも勿論「市松模様」が
印刷されています。
マスクで顔を隠しても、「市松模様」の柄から
茂山逸平さんだとバレてしまうそうです。
 

 
「市松模様」は狂言の装束にも施されてきました。
伝統芸能、古典芸能は、観賞用というよりも
保存用に思われがちであるけれど、
実用的でありたい、と語る茂山さんでした。
 

 
 
 

「市松模様の歴史」
縄文時代〜江戸時代の佐野川市松
(多摩美術大学 芸術人類学研究所所長・鶴岡真弓さん)

 
 
日本の「市松模様」の歴史は古く、
縄文時代にまで遡ります。
縄文時代後期に作られた
深鉢型土器(ふかばちがたどき)の表面には、
約5cm四方の「市松模様」が描かれています。
 

bunka.nii.ac.jp

 
多摩美術大学の名誉教授で
多摩美術大学芸術人類学研究所所長の
鶴岡真弓(つるおか まゆみ)さんは、
縄文時代の人々も
宇宙・自然の中で無限の広がりを
格子状のデザインとして文様にしていった
のではないかとおっしゃいます。
 
また、6世紀の古墳時代後期に作られた
「貴人埴輪」(きじんはにわ)の袴にも
「市松模様」が描かれています。
2色が拮抗し対立し合う「市松模様」は、
再生力・反転力を表現する模様だと
おっしゃいます。
 

 
「市松模様」とは、碁盤の目のように、
上下左右に途切れることなく
四角形が並べられた格子柄の一種です。
元々は石畳のような柄だったため、
「石畳」(いしだたみ)と呼ばれていました。
 
 
平安時代には細かい格子柄を「霰」(あられ)
呼んで着物の地紋として利用していた他、
元禄時代には小紋の柄として流行したことから
「元禄模様」といった名称でも呼ばれています。
 
 
そんなこの格子柄が一気に注目されるように
なったのは江戸時代中期のことです。
当時人気のあった歌舞伎役者、
初代・佐野川市松(さのがわいちまつ)
「心中万年草」(しんじゅうまんねんそう)
小姓・粂之助扮した際に白と紺の正方形を
交互に配した袴をはいて登場したことから、
特に女性の間で大いに人気を博しました。
これをきっかけにそれ以降、「市松模様」と
呼ばれるようになったのでした。
 

 
佐野川市松は、その後も市松模様を愛用し、
東洲斎写楽は『三世佐野川市松の祇園町の
白人おなよ』(重要文化財)で、
市松模様の着物を着た佐野川市松を描いて
います。
 
 
 
 

美の壺2.工芸:平面を超えて

市松模様の江戸切子「オールドグラス黒」
(伝統工芸士・石塚春樹さん)


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埼玉県草加市に工房を構える
ミツワ硝子工芸」の工房「彩鳳」(さいほう)は、
20~30代の若手作家が伝統を受け継ぎながらも
これまでの江戸切子にはない新しいデザインや技法に挑戦し、新しいものをつくっていくと
いう意欲に溢れた江戸切子の工房です。
 

 
「彩鳳」のチーフ職人として若手職人を牽引する
日本の伝統工芸師の一人石塚春樹さんは、
繊細でありながら圧倒的な存在感のある作品を作り、数々の賞を受賞しています。
 
 
 
石塚春樹さんが作る「市松模様」のグラスは、
従来のように細かいデザインではなく、
グラスを上下に二分して
大胆なカッティングを施し、
漆黒と透明の大胆な面が際立ったものです。
 
石塚さんは、ある時、
デザインを斬新に変えることで、
今までの「江戸切子っぽさ」から
ちょっと抜け出せるのではと思い付きました。
 
 
「江戸切子」は、
外側には色の着いた「色被せガラス」、
内側には透明な透明な「透きガラス」を
吹き付けた二重構造で出来ています。
 
それを職人が手作業で削っていきます。
まずは、割り出し機という金属製の道具に
ガラス生地を乗せ、模様の見当となる線を引く
「割り出し」という作業を行います。
 
次はダイヤモンドホイールを用いて、
「荒摺り」「中摺り」「石掛け」という工程を経て
ガラスをカットしていくのですが、
従来と同じやり方では上手くいかず、
石塚さんは試行錯誤を繰り返しました。
 
砥石(といし)で作られた円盤を回転させて
カット面を均一に均して行く「石掛け」では、
砥石にサンドペーパーも併用して、
美しい面を滑らかに削りました。
 
 
正面から見ると「市松模様」のグラスですが、
少し視点をずらすと、手前と向こうの色が
宙を踊って舞っているような雰囲気に見える
ところが、ガラスの「市松」の魅力だと
石塚さんはおっしゃっていました。
 
 
  
  • 住所:〒340-0045
    埼玉県草加市小山2丁目24-22
  • 電話:048-941-9777
 
 

市松模様の九谷焼(陶芸家・戸出雅彦さん)

石川県金沢市に工房を構える
陶芸家の戸出雅彦(といで まさひこ)さんは
九谷焼で「市松模様」を表現しています。
九谷焼の家に生まれた戸出さんは
独自のスタイルを確立したいと、
多くの作品に「市松模様」を取り入れてきました。
 
 
戸出さんが「市松模様」に注目したのは
平成14(2002)年、TVでサッカーW杯を見たこと
がきっかけでした。
真っ赤な「市松模様」のクロアチアの旗が
振られて立体的にうねる様子が、
平面の布なのにまるで生き物のように見え、
「ああいうものを作りたい」という気持ちが
湧き上がったのだそうです。
 
以来20年近くに渡り、生き物のように見える
「市松模様」に挑み続けてきました。
 
縄文土器の造形に着想を得て作った、
ダイナミックな形の「飾り壺」に
「市松模様」を描いていきます。
使うのは、九谷焼で輪郭を描く際に使う、
黒の絵の具です。
細い筆で、一つ一つ塗り潰していきます。
3500以上の四角が並ぶ飾り壺。
まるで命を宿したかのような「市松模様」です。
 

 
 

美の壺3.見立て:整然から解き放つ

重森三玲の市松模様の庭(東福寺)


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京都市東山区の東福寺の大方丈には
東西南北に四庭が配されています。
日本を代表する作庭家の
重森三玲(しげもり みれい)
昭和14(1939)年に完成させた
国指定名勝「本坊庭園(ほんぼうていえん)です。
そのうち、北庭西庭は「市松模様」になっています。
 
 
作庭家・重森三玲(しげもり みれい)
昭和を代表する庭園家で、作庭家で、
庭園史研究家です。
日本美術学校で日本画を学び、
いけばな、茶道を研究し、
その後、庭園を独学で学びました。
 
庭園家として知られる以前は、
昭和8(1933)年に勅使河原蒼風らと
生け花界の革新を唱え、
「新興いけばな宣言」を発表(起草)した
人物としても知られています。
重森三玲作庭の庭は、
力強い石組みとモダンな苔の地割りで
構成される枯山水庭園です。
 

garden-guide.jp

 
 
重森三玲の孫で、作庭家の
重森千靑(しげもり ちさお)さんに
解説していただきました。
 

 
北庭「小一松の庭園」には、
板石と杉苔が織りなす四角の世界が広がって
います。
重森は、かつて使われていた敷石を再利用し、
敷石を枯山水としてではなく、
杉苔と合わせて「市松模様」を作り上げました。
 

 
杉苔は、山の木の四季折々の変化を
縮小した世界を表現しています。
朝、水分を含んで青々とした杉苔は
新緑を思わせ、
日中乾燥すると次第に茶色くなり、
秋の山を彷彿させます。
「静」と「動」でもあり、
「隠」と「陽」でもある、
「石」と「苔」の世界。
この対局する2つが並ぶ整然とした世界は
庭の奥に行くに従いまばらになり、
やがて消えていきます。
その消え行く様の表現は
絵画のぼかしや遠近法にも繋がるデザイン。
禅や悟りの世界が
この庭に込められているのだそうです。
 
  • 住所:〒605-0981
    京都府京都市東山区本町15-778
  • 電話:075-561-0087
 
 

市松模様の襖絵(美術家・三桝正典さん)


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広島県広島市の美術家で広島女学院大学教授の
三桝正典(みます まさのり)さんは
重森三玲が手掛けた広島市にある
桜下亭(おうかてい)の襖絵を
平成23(2011)年に描いたことをきっかけに、
「ジャパニーズ・モダン」をテーマに
京都・大徳寺や尾道・浄土寺など多くの寺社や
茶室の襖絵などを描いてきました。
 
  • 住所:〒731-0136
    広島県広島市安佐南区長束西
    3-9-17
  • 電話:082-239-1000
 
 
三桝さんは、8年前から、
「市松模様」を作品に取り入れています。
襖絵「秋 蜜柑」という作品は
地元の蜜柑を「市松模様」で表現しています。
赤・黄色・緑の絵の具を和紙の上で重ね、
仕上げにハケで金色を施しています。
光を浴びるとキラキラと光る蜜柑。
「市松模様」も遠目に見ると
チラチラと光が反射しているように見える、
その効果と魅力を蜜柑に重ねて表現したのだ
そうです。
 
 
現在取り組んでいるのは、
安永3(1774)年に建てられた築246年の
古民家・旧千葉家住宅に納める
「桜と市松模様」の襖絵です。
「市松模様」は2種類の金色で、
桜の花びらは白と赤の絵の具で描かれます。
三桝さんは、「市松模様」には
完成された美を感じるとおっしゃいます。
時間の経過とともに、完全な「市松模様」が
剥がれ落ちたり消えたりする経過を表現して
います。
東から太陽が登り、刻々と日差しを強め、
西へ傾いていく・・・。
その光の移ろいを
「市松模様」で表しています。
 

 
  • 住 所 :〒736-0066
    広島県安芸郡海田町中店8-31
  • 公開日
    第2、4土曜日の前日から
    連続する4日間
  • 公開時間:10時~16時
  • 見学料 :無料
 

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