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美の壺「今昔つなぐ 木桶(おけ)」<File 589>

<番組紹介>
百年以上、木桶(おけ)を使い続ける老舗銭湯。
手業が引き出すぬくもり
 
▽江戸中期創業の京都の老舗桶店店主が作る
 伝統の湯桶の技!
▽静岡の木桶仕込み醤油の蔵元。
 百年以上の大桶(おけ)の魅力
▽大桶(おけ)職人の緻密なこだわりとは?
▽カフェバーで人気!
 桶の製法で作ったバーカウンター
▽世界から大注目の桶のシャンパンクーラー。
 桶の概念を覆す新たな形とは?!
 
<初回放送日:令和5(2023)年10月4日>
 
 
 

美の壺1.「湯桶」
手業(わざ)が引き出す 木のぬくもり

 

100年続く銭湯の「湯桶」
(「稲荷湯」5代目女将・土本公子さん)


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東京都北区にある「稲荷湯」は、
平成24(2012)年に公開された映画
『テルマエ・ロマエ』のロケ地に使われたことで
その名を一般の人々にも知られるようになった
昭和な佇まいの銭湯です。
 
 
創業は大正の初めだそうですが、
一見すると日本の寺院寺のようにも見える
宮造りの銭湯の建物は
昭和5(1930)に建てられたそうで、
令和元(2019)年に
国の「登録有形文化財」に登録されました。
銭湯は、年季を感じるものの、
どこもピカピカに手入れされて清潔そのもの。
 
そして、昔から木の桶にこだわっています。
5代目女将の土本公子さんは、
「木の桶は一つずつ
 毎日専用の機械で洗わないとぬめるし、
 タガの輝きもくすんじゃう。
 プラスティックの桶の方が手入れは楽ですが
 浴室にコーンて響く木の音はいいもんです」
とおっしゃいます。
 
 
土本さんは、毎日営業終了後、
今では珍しい桶洗い機を使って木桶を洗います。
 
その木の湯桶は、土本さんのご主人が
毎年大晦日に1年間使った桶を洗って積み上げ、
「ご苦労さん、ありがとうな」と桶にお礼を言って正月には50個全てを入れ替えます。
 
 
桶が変わるとお客さんから
「気持ちいいわね」とか「いい匂いね」と
声を掛けられることから、
「やっぱり木桶がいい」
「出来る限り木桶を使っていきたい」と
感じる瞬間と、土本さんはおっしゃいます。
 
 
稲荷湯
  • 住所:〒114-0023
    東京都北区滝野川6-27-14
  • 電話:03-3916-0523
 
 

京都で「湯桶」を作る職人
(「おけ庄 林常二郎商店」9代目店主・山本大輔さん)

 
京都市東山区にある「おけ庄 林常二郎商店」は江戸時代末期に創業してから200余年、
一貫して「京風桶」作りを続けている桶専門店
です。
店内には、美しい木肌の木桶が20種類以上並び、
清々しい木の香りがほのかに漂っています。
風呂桶から、おひつ、寿司桶、湯豆腐桶、
桶をアレンジした金魚鉢、浴槽だけでなく、
祇園祭の長刀鉾に飾られた桶もあります。
 
9代目店主の山本大輔さんは、
母方の実家の家業を継いで、
17年前に桶職人に転身しました。
京都でも昔は200軒あった桶屋も、
現在はたった3軒にまで減ってしまいました。
そこで祖父母の跡を継ぐべく、
孫の山本さんが立ち上がったのです。
 
山本さんに「湯桶」を作る過程を
見せていただきました。
店の奥の工房には、桶の大きさに合わせた
カンナがズラリと並んでいます。
その数は、なんと100丁以上もあります。
 
木桶は、木片の「側板」(がわいた)と「底板」、
それに桶の周りにはめる竹製の「タガ」で
出来ています。
鉄釘や接着剤は使いません。
 
まずは、比較的柔らかく、目が細かい
「椹」(さわら)の木の繊維に沿って原木を割って、
丸みを帯びた鉈(なた)で表面を荒削りします。
 
桶の直径に合う型に木を当て、
外のカーブとその隣の面の角度を確認します。これは「正直」(しょうじき)と呼ばれる工程で、
ここを正確にしないと水が漏れてしまうため、
怠ると大変なことになる大切な作業です。
 
次に竹釘を刺して組み立てたら、
表面を「銑」(せん)という両側に取手がついた
特殊な刃物や300種類ものカンナを使い分けて、
表面のささくれ立った部分をキレイに整えます。
そして銅の「タガ」をはめます。
「底板」をしならせるように入れて、
やすりとカンナで仕上げて、完成です。
 
山本さんは、感覚が勝負。
毎年、少しずつ上達しているとおっしゃいます。大変やりがいを感じていて、この先も
続けていきたいと、抱負を語っていました。
 
おけ庄 林常二郎商店
  • 住所:〒605-0811
    京都府京都市東山区
    四条下がる小松町140-3-1
  • 電話:075-561-1252
 
 

美の壺2.「大桶」
伝統の味を育む

 

昔ながらの「大桶」で仕込んだ醤油
(「栄醤油醸造」蔵元8代目・深谷 允さん)


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寛政7(1795)年創業の「栄醤油醸造」は、
200年以上、静岡県掛川市で、
昔ながらの「大桶」で、
伝統的なつくり方にこだわった醤油造りを
続けている蔵元です。
 
 
 
8代目の深谷允(ふかや まこと)さんによると、
醤油の味や香り、色は、
「蔵癖」(くらくせ)によって大きく違い、
木桶仕込み醤油の醍醐味だそうです。
 
 
「蔵癖」(くらくせ)とは、
長年、蔵の柱や天井、木桶の木の繊維の隙間に
棲みついている酵母菌が作り出す独自の環境で、
同じ原料、製造方法をとっても、
蔵によって醤油の特徴が変わり、
全く同じものが出来上がることはないそうです。
 


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「大桶」の寿命は一般的に150年程だそうです。
栄醤油醸造」さんの桶は、
100年以上経っているものばかりです。
今回、新しい大桶を購入することになりました。
父母、祖父母の誰もが、
「大桶」を新調した経験はありません。
 
「新桶は、木の新しい香りが醤油に届く
 面白い面がある一方で、
 伸び縮みがあって扱いにくい、
 じゃじゃ馬のよう」
と深谷さんはおっしゃいます。
 
 
深谷さんは、桶を新調したことで、
桶には個性があり、生き物だと再認識した
とおっしゃいます。
醤油の香りがこちらまで届きそうです。
 
 
  • 住所:〒437-1301
    静岡県掛川市横須賀38
  • 電話:0537-48-2114
 
 

「大桶」を作る職人
(「青島桶店」三代目店主・青島和人さん)

江戸時代には、木桶は生活に密接に関わり、
幅広く使用されていたことから、
桶を作る職人は沢山いました。
葛飾北斎の「富嶽三十六景」の中にある
「尾州不二見原」(びしゅうふじみがはら)にも
「大桶」を作る職人が描かれています。
 
 
「栄醤油醸造」の大桶を作ったのは、
静岡県焼津市の「青島桶店」です。
平成14(2002)年に三代目当主となった
青島和人さんは、日本でも数少ない桶職人として
手仕事による丁寧な桶づくりの技法を
今に伝えています。
 
青島さんは、元々は、小さな桶を作っていました。
18年前、大阪の製桶所に教えを乞い、
以来、「大桶」も作るようになりました。
青島さんによると、
桶はキレイな円であればあるほど、
漏れにくいそうです。
特に「大桶」は、大量のものを入れるため
細心の注意を払い作ります。
 
工場では、高さ1m97㎝、底板直径2mで
容量5400ℓの30石サイズの「大桶」を
製作していました。
 
12㎝の刃幅のカンナで削りますが、
真っ直ぐではなく、僅かにカーブしています。
木と木の合わせ目の角度を決めるのは、
大きいだけに均等に削るのは至難の業です。
木の削りたいところを見極め、
刃を当てる位置を変えていきます。
 
京都から仕入れたおよそ15mの真竹(まだけ)
作った「タガ」をおよそ20周、
2人がかりで締めていきます。
これをクレーンで横にしたら、
内側を360度、キレイにカンナで削ります。
「底板」だけでなく、内側も全部、
光沢が出来るほど丁寧に美しく削るのは、
青島さんのこだわりです。
 
青島桶店
  • 住所:〒425-0027
    静岡県焼津市栄町5丁目4-9
  • 電話:054-628-3808
 
 

美の壺3.「創意」
未来の桶を夢みて

 

桶の技術で作ったバーカウンター
(カフェバー「salon blue」川井知子さん)

香川県高松市にあるカフェバー
横幅3mもあるバーカウンターは、
「讃岐桶樽」(さぬきおけだる)の技術で実現した
木桶のバーカウンターです。
 
スタッフの川井知子さんは、
お客様がお店に入ってきた瞬間に
この木桶のバーカウンターに目について
「カッコイイ」と驚かれたり、
SNS映えすると写真を撮ったりと
店の顔になっているとおっしゃいます。
 
salon blue (サロンブルー)」の店内には他にも
丸亀団扇で作ったシャンデリア、
庵治石(あじいし)のテーブル、
イサム・ノグチのAKARIシリーズ、
剣持勇のラタンチェアなど香川の伝統工芸品に
触れることの出来る空間になっています。
 

www.salonblue.info

 
  • 住所:〒760-0031
    香川県高松市北浜町5−5
  • 電話:087-813-0204
 
 

桶職人が作るお弁当箱
谷川木工芸」3代目 谷川 清さん)


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salon blue」の木桶バーカウンターは、
昭和30(1955)年の創業以来、香川県伝統的工芸品「讃岐桶樽」(さぬきおけだる)の伝統技術を
継承しながら、現代の生活スタイルに沿う
新しい製品づくりにも力を入れている
谷川木工芸」が手掛けました。
 
「讃岐桶樽」(さぬきおけだる)は、
香川県高松市などで生産されている
香川県伝統的工芸品です。
主に桜の木を使った、寿司桶、おひつ、杓など生活の器が作られています。
現在は、主に長野県の椹(さわら)の木や奈良県の吉野杉を原材料として作られています。
「桶」は細長い板を円筒形に並べてタガで締め
底板を入れた構造であり、特殊用途の蓋付きの
桶を「樽」と呼んで区別します。
 
谷川木工芸」は、昭和30(1955)年に
すし桶製造所として創業以来、
ずっと寿司桶をメインに製造して来ました。
平成26(2014)年、香川県の伝統工芸士の
2代目・谷川雅則さんは、すし桶にこだわらず、様々なアイデアを形にしていきたいという
思いを込めて「谷川木工芸」へと変更。
3代目の谷川清さんはこれまで、
桶作りの技法で色々なものを作ってきました。
 
 
 
平成29(2017)年には、水分量をコントロールし、
米の美味しさを引き出すおひつをイメージした
持ち運べる弁当箱「讃岐弁シリーズ」を
開発しました。
 
 
「讃岐弁 あのの」は、直径約15cm、
高さ約12cmの二段弁当箱です。
 
 
讃岐弁シリーズ第二弾まるいんは、
まあるい形のお弁当箱です。
まるいん」は「salon blue」でも
使用されています。
 
まるいん」のまるっこい木桶の器に、
多彩な色使いのまあるい持ち手のついた
漆の蓋をセットした
こちらも「salon blue」で使用されています。
 
讃岐弁、第三弾「よしの」は、
特殊な加工技術により、電子レンジに対応する
お弁当箱です。
水分調整されたご飯は、温めてもふっくらと、
炊き立てとは違った、
甘みあるご飯を堪能出来ます。
 
ぬくいん」も電子レンジ対応型の弁当箱です。
目安として1.5から2合入ります。
 
勿論、風呂桶や椅子、お櫃などの日常品を
幅広く製作しています。
 
 
 
バーカウンターは、
この弁当箱がきっかけで生まれました。
 
谷川さんは、図面を見て2つ返事で
依頼を受けましたが、創業以来これまで、
バーカウンターを製作したことは
ありませんでした。
ご両親には、「絶対無理だ!」と言われましたが、
家具職人らに知恵をさずかり、
親子3人で力を合わせて作り上げました。
 
 
谷川さんは、限られた用途で使う桶ではなく、
桶の技術でライフスタイルに合うものを
いろいろ提案するのが我々の役割だと
おっしゃっていました。
 
  • 住所:〒761-0704
    香川県木田郡三木町下高岡1089-2
  • 電話:087-898-0564
 
 

世界に注目される木桶
(「中川木工芸」3代目・中川周士さん)


www.youtube.com

 
日本の木桶は、海外からも高く評価をされて
います。
「中川木工芸」3代目・中川周士さんの
木の葉のかたちをしたシャンパンクーラーは、
世界からも注目を集めています。
 
 
樹齢200年以上の高野槇や尾州檜といった
白木の端正な佇まいがとても美しく、
両端を尖らせた流線型のフォルムは、
和の空間にもテーブルだけでなく、
アウトドアシーンにもスッと馴染み、
シャンパンは勿論、ワインや日本酒を入れても
ステキです。
 
 
「中川木工芸」は祖父、初代・中川亀一さんが
京都市の白川通りに構えた工房です。
現在は「中川木工芸 京都工房」として、
平成13(2001)年に木工芸の重要文化財保持者
(人間国宝)に認定された、中川さんの父、
清司(きよつぐ)さんが主宰しています。
中川さんは大学卒業後、清司さんに師事。
その後独立し、自然豊かな滋賀県・比良地方に「中川木工芸 比良工房 草庭」を構えました。
平成22(2010)年、中川さんのもとに
京都の企画会社から、
「海外に売り込めるような、今までにない
 木桶をつくって欲しい」と依頼されます。
 
中川さんは最初からシャンパンクーラーを
目指していた訳ではなく、
海外に合った木桶の使い方を模索する中で、
「ワインクーラー」という案が生まれたのです。
 
 
まず小判型のワインクーラーを提案しましたが、
なかなかGOサインが出ませんでした。
暗中模索する中、タガの入る部分を丸くして、最上部を反り返らせながら尖らせて
シャープな形を実現させるという
アイデアが閃き、
遂に「konoha」が完成しました。
試作は10作を超え、2年の歳月が経っていました。
 
 
木の葉型のシャンパンクーラー「konoha」は、
波型の桶へと進化を遂げ、
内側にもカーブが出来て美しさに磨きが掛かり、
話題となりました。
また木桶は、水に強く、保冷に適し、
結露も生じにくい特性から氷を入れるのに適し、
更には、軽くて持ち運びしやすいといった
実用性があります。
「konoha」は、ある大手シャンパンメーカーの目に留まったことがきっかけとなり、
シャンパンクーラーとして世界へ羽ばたくこと
になりました。
今も国内外から注文が相次ぐ人気商品です。
 
 
「konoha」の制作を通じて中川さんは、
「桶の技術はまだまだ進化する」、
「次の時代の環境に適合するものが
 作れるのなら100年先の桶を作っていける」
そんな発見を得ました。
 
 
そして、これまでの桶作りに
新風を吹かせようと日々制作に励んでいます。
 
 
  • 住所:〒520-0515
    滋賀県大津市八屋戸419
  • 電話:077-592-2400
 

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