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美の壺「食を彩る 絵皿」<File 586>

<番組紹介>
モデル冨永愛さんも絵皿の大ファン!
ふだんの食卓で使うお気に入りを大公開!
冨永愛流の選び方とは?!
 
▽骨董(こっとう)市でも絵皿は人気!
 陶磁研究家に聞く絵皿の味わい方
▽気鋭の陶芸家・浜野まゆみさん。
 江戸時代の古伊万里を探求する手仕事の技
▽柳 宗悦が絶賛した普段使いの
 「石皿」とは!?
▽ふぐ料理店ならではの絵皿使いこなし!
▽金継ぎで生まれる新たな景色!
 
<初回放送日:令和5(2023)年8月16日 >
 
 
 

美の壺1.時代の息吹を楽しむ

 

モデル・冨永 愛さん

 
17歳でNYコレクションにデビューして以来、
世界の第一線でトップモデルとして活躍する
だけでなく、女優など様々な分野にも
精力的に挑戦し続ける冨永愛さんは、
江戸時代から昭和初期の「伊万里焼」を
コレクションしています。
今日もインスタに投稿する写真には、
そんな「絵皿」がいっぱいです。
 
若い頃から海外に行くことが多かった
富永さんは、生まれた育った
日本の文化を知らないと気付かされ、
着付けを学んだり、骨董市を訪れたりする中、「絵皿」に出会い、興味を持つようになった
そうです。
 
冨永さんのお気に入りの「絵皿」は、
豪華絢爛なものではなく、
生き物が描かれている「絵皿」だそうです。
お気に入りの金魚の柄の「絵皿」は、
金魚の目がキョトンとしていて、
コミカルに描かれています。
抜け感があって人間と同じでクセがあって
面白いとおっしゃいます。

 
普段の食卓にも勿論「絵皿」を使っています。
自分が気に入って買った器は、
食卓に出して使ってこそ楽しめると
おっしゃいます。
 
「鳳凰の絵皿に料理を載せると、
 絵柄は見えなくなりますが、
 食べた後に鳳凰が出てくると
 『あっ』となる出会いがある。」
 
また器が、
「なぜこの大きさなのか、
 なぜこの絵柄なのかを知ることは、
 日本の文化を知ることにも繋がってくる。
 古い絵皿を普段の生活で使えば、
 家族にも伝えることが出来る。」
とその思いを語って下さいました。
 

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骨董絵皿の楽しみ方
(陶磁研究家、
戸栗美術館」学芸顧問・森 由美さん)


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東京国際フォーラム」の地上広場では、
毎月第1・第3日曜に日本最大級の露天骨董市
大江戸骨董市」が開催されています。
 
大江戸骨董市」では、暮らしに取り入れやすい和骨董や西洋アンティークなどが
数多く販売されていることから、
年代や国籍を問わず楽しめると人気です。
中でも、外国人や若者に特に人気なのが
「絵皿」です。
 

www.antique-market.jp

 
 
古美術商の中島誠之助さんのお嬢さんで、
テレビ東京の『開運!なんでも鑑定団』
にも出演されている、
戸栗美術館」で学芸顧問をされている
陶磁研究家の森由美さんに
骨董絵皿の楽しみ方を教えていただきました。
 
 
 
戸栗美術館(とぐりびじゅつかん)は、
実業家・戸栗亨が蒐集した
約7000点のコレクションを収蔵する
日本でも数少ない陶磁器専門の美術館です。
昭和62(1987)年11月21日に鍋島家屋敷跡に
当たる渋谷区松濤に開館しました。
 
コレクションは主に、日本初の国産磁器として誕生した「伊万里焼」、徳川将軍家への
献上品として創出された「鍋島焼」、
China・朝鮮などの東洋陶磁器です。
中でも、江戸時代の「伊万里焼」の展開を
体系的・網羅的に通観出来ます。
 
 
 
森さんは、「絵皿」の時代背景を知れば、
もっと楽しめるようになるとおっしゃいます。
 
森さんの愛用の江戸時代と明治時代の
「染付の絵皿」を拝見しながら、
解説していただきました。
 
白地に青の「染付」の色は、時代によって
その「青色」変化しているそうです。
「染付」に使われる青色の顔料
「呉須」(ごす)が、時代によって違うからです。
江戸時代は、天然の鉱物を使っているので、
色も鮮やかなキレイな青色をしています。
物によっては、もっと淡いものもあります。
 
 
一方、明治時代以降のものは、
人工的に作られた「合成コバルト」の登場により濃い色が出るようになると、驚きを持って
喜んで受け入れられたそうです。
 
 
色だけで、時代が古いとか新しいとは
言い切れないませんが、
「染付の色は時代を映す」と考え、
その時代の特徴として愛でています。
 
 
江戸時代は手描きであった「絵皿」の模様も、
明治時代以降になると、
型紙や印刷のものが多くなり、よく見ると、
模様がズレているものもあります。
この模様のズレも、手仕事の面白さとして
楽しんでいただきたいそうです。
 
森さん愛用の絵皿、
次は星柄の大皿を見せていただきました。
森さんは、この大皿を見た時に、
「ヒトデの皿だ!」とパッと思ったそうです。
この大皿に細かく描かれている波の文様
「青海波」(せいがいは)と「ヒトデ」で、
夏の海辺のお皿のイメージで使うことが
出来ます。
 
見方を変えてこの大皿を
「お星様」と見ると、
クリスマスの用の器として使うことが
出来ます。
 
模様を「見立てる」というのは、
日本の文化を楽しむ一つの方法なので、
是非、それを生かしていただきたいと
提案していただきました。
 
  • 住所:〒150-0046
    東京都渋谷区松涛1-11-3
  • 電話:03-3465-0070
 
 

美の壺2.先人の技をたどる

 

陶芸家・浜野まゆみさん


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佐賀県唐津で作陶を行っている
陶芸家の浜野まゆみさんは、
江戸時代初期の有田で作られた
「古伊万里」に興味があり、
古い陶片から釉薬や呉須の色などを参考に、
染付の絵皿を作陶しています。
 
浜野さんは武蔵野美術大学で
日本画を学びましたが、絵画ではなく、
用途のあるものに描きたいという思い、
大学卒業後は、有田窯業大学校に入学し、
陶芸の道に進みました。
(有田窯業大学校は平成30年度末をもち閉校)
 
浜野さんは、ある時、博物館で
初期伊万里の器に直接手に触れる機会があり、
今まで触ったことのない不思議な感覚に
衝撃を受けたそうです。
それは、現在ではもう作られていない
古来に行われていた
「糸切成形」(いときりせいけい)という
古い技法で作られたものでした。
 
その触った時の何とも言えない
雑味のある魅力に惹かれて技法を研究。
色々なところで資料を探しながら
器を作り続けています。
 
「糸切成形」(いときりせいけい)は、
江戸初期の17世紀半ばから後半にかけて、
「伊万里焼」において流行った技法です。
板状にした粘土を型に被せて形を作り、
型の縁からはみ出た部分を糸で切り落として
成形します。
長皿や楕円など、長方形を基本とするうつわを製作するのに適しています
江戸後期になると、伊万里では長皿を除いて糸切り成形は余り用いなくなりました。
 
 
今、浜野さんが「糸切成形」で作っているのは
「軍配型の絵皿」です。
 
原料の粘土を糸でスライスして作ります。
浜野さんは、当時の技を辿ることで
職人の思いを感じたいと思っています。
 
軍配型の皿には、手描きで藤の花を描きます。
藤は子孫繁栄の吉祥柄です。
江戸時代の人の意匠は凄く優れているなと
実感ながら描いていると筆が進むと
おっしゃいます。
日本画を学ばれた浜野さんの絵付けは、
緻密な筆遣いながらも
大らかで柔らかい印象を湛えています。
 
江戸時代の窯を再現した
「登り窯」(のぼりがま)で焼き上げると、
青色の濃淡、生地の風合いなど、
様々な表情の絵柄が出来ました。
 
窯に任せ、自然に任せるところも多く、
仕上がりを完全に予測出来る訳では
ありませんが、
古の職人から受け継いだ技で
祈りを捧げるように絵皿を作り続けています。
 
 

「柳宗悦が絶賛した石皿」
(「瀬戸本業窯」八代目水野半次郎後継
・水野雄介さん)

 
民藝運動の父・柳宗悦が愛した
「絵皿」があります。
石のように丈夫なことから
「石皿」(いしざら)と名付けられた絵皿です。
昭和6(1931)年刊行の雑誌『工藝』の創刊号は
まさに「石皿」を特集したもので、その中で、
「陶器の絵でこの位の美しさを有つものは、
 日本の焼物では他に多くない。
 瀬戸で焼かれたものの中でも
 特筆大書すべきものであろう」とまで
賞しています。
 
 
「石皿」は、江戸時代終わり頃から
瀬戸で盛んに作られるようになった
厚みのあるどっしりした施釉陶器の皿で、
柳や植物などの絵が素朴に描かれています。
 
名前の由来は、
石のように頑丈であることから、
あるいは長石を釉薬に使用したことからなどと
言われていますが、明確ではありません。
普段使いの皿として、
旅籠屋や煮売屋、民家で使われ、
味わい深い作品が今日にも残されています。
 


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愛知県瀬戸市にある250年以上続く窯元
瀬戸本業窯(せとほんぎょうがま)では、
当時と同じ「石皿」を今も作り続けています。
瀬戸本業窯」では、代々、
「水野半次郎」の名を受け継ぎ、
現在は、七代目半次郎と
八代目半次郎 後継の水野雄介さんが、
作陶に打ち込んでいます。
 
1960年代、水野雄介さんのお祖父様の
六代目水野半次郎は
柳宗悦の「民藝思想」を頼りにしていました。
生活用具の材質が焼き物や漆器から
アルミやプラスチックへと変わってきた
時代でした。
昭和33(1958)年には日本民藝館を訪問し、
柳宗悦氏や濱田庄司氏と面会したことを機に
瀬戸の伝統的なものづくりを続けていこうと
決意を新たにしました。
また、瀬戸や美濃の器の魅力に気付き、
蒐集するだけでなく、自らも作品をつくり、
発表するようになりました。
 
 
「石皿」は、身近な植物や風景など
素朴で洒脱な絵が
「呉須」(ごす)と「鉄」の2色の線で
シンプルに描かれています。
 
 
江戸時代の終わりから盛んに描かれた
「柳」は、名古屋城を別名「柳城」と
呼んだことからも人気が高く、
多く作られたそうです。
この柳の絵を、当時の職人は
一気呵成に描き上げました。
 
 
水野雄介さんは、
当時、字も書けない職人が
表現方法の一つとして描き、
日常の器に少しでも彩りや楽しくするために
表現したのだろうとおっしゃいます。
 
 
現在、水野さんの工房では
当時と同じ柄の「石皿」を作り続けています。描く作業を見せていただきました。
筆で一気に描きます。
今も昔も「石皿」の絵に必要なのは、
速さと勢いだそうです。
 
六代目・水野半次郎は
こんな言葉を残しています。
「2、3分に1個作らないと仕事にならない、
 たくさん描いて、こなれたことから
 『枯れて美しい』」
 
「枯れて」とはどういう意味かと
水野さんは考えました。
「たくさん描いてこなれていくと
 仕事も熟していく、
 そういうところを表現をしたのかな」
 
職人達が育んできた
時代を超えて愛される「絵皿」です。
 
 
 
 
  • 住所:〒489-0841
    愛知県瀬戸市東町1-6
  • 電話:0561-21-3773
 
 
 

美の壺3.景色を生み出す

 

「ふぐ刺しの皿」
(「ぎんざ姿」熊澤彰さん)

 
昭和33(1958)年創業。
銀座駅近くの1日1組の完全個室の
フグ料理店「ぎんざ姿」の店主・
熊澤彰(くまざわあきら)さんは、
フグ料理を盛る際、「絵皿」を使っています。
 
最初は、薄く捌いたフグの白身を見せたくて
白磁や青磁の皿に盛っていたそうですが、
より面白さを求めて「絵皿」に盛るように
なったそうです。
 
「フグ刺し」を盛る「絵皿」は、
熊澤さんが自ら骨董市などに出向いて
選んだものです。
江戸時代の「染付」(そめつけ)
大胆な文様の「織部焼」(おりべやき)
江戸時代後期の「古伊万里」(こいまり)
季節や客の好みに合わせて皿を選びます。
 
 
お客さんにも好評で、
「絵皿」に見入ってくれるのは、
熊澤さんにとっても、とても嬉しいそうです。
 
「ふぐちり」のお取り分けには、
客の雰囲気や服装などに合わせて、
時代物の古伊万里の器「なます皿」を
出します。
 
 
熊澤さん流の盛り付けのコツは、
「余白をどれだけ残すか」。
日本の器は全体の7分目に盛ると、
料理が映えて、器も美しく見えるそうです。
熊澤さんは、料理を盛った時に、
「いい景色だな」と思うと、
「器も喜んでくれているじゃないかな」と
感じるそうです。
 
  • 住所:〒104-0061
    東京都中央区銀座1-9-18
    ぎんざ姿ビル
  • 予約専用 :050-5232-5038
  • 問い合わせ:03-3567-0003
 
 

「金継ぎを楽しむ」
(森田いくみさん)

 
森田いくみさんは、ひと味違った
「絵皿」を楽しんでいます。
「金継ぎ」(きんつぎ)いう技法で
割れたり欠けたりした器を漆で修復し、
継いだ部分を金などで装飾した「絵皿」
です。
 
「金継ぎ」(きんつぎ)とは、
「金繕い」とか「金直し」とも呼ばれる、
金を使って、壊れた陶磁器、ガラス製品などを
修復するための日本の伝統技法のことです。
その歴史は非常に古く、縄文時代にも似たような技術が用いられていたと伝えられています。
 
傷をなかったことにするのではなく、
傷もその品物の歴史と考えて、
新しい命を吹き込むという理念の下、
金継ぎは行われているのです。 
「割れた物を修復し、もう一度使う」という 日本人の物を大事にする心によって生まれた
素晴らしい技術です。
 
また、継ぎ目が新たな模様のようになり、
世界にひとつしかない特別な器になるのも
魅力です。
 
 
近年、壊れた器を自分の手で直して、
長く使い続けたいという人が増えたことから、
注目されています。
 
森田さんも10年程前から
「金継ぎ教室」に通って腕を磨いてきました。
 
 
 
森田さんには、思い出深い「絵皿」があります。
商売をしていた亡き夫の家で、
大勢の職人や家族をもてなすために
使われていたものです。
森田さん自身はその場にいませんでしたが、
その皿を見ると、その時の家族の会話や
お勝手の雰囲気が目に浮かぶような感じがする1枚でした。
一度割れてしまいましたが、「金継ぎ」をして、
今でも大切に使っています。
 
森田さんは、
この皿に「金継ぎ」をすることで
新たな発見があったと言います。
「金継ぎ」で生まれ変わった様子は
「景色」と呼ばれますが、
友人が「菊と菊の間に小川が流れてるみたい」と言ってくれた時に、
なるほどそういう見方もあるんだと
新鮮に感じたそうです。
 
「金継ぎ」をした絵皿に森田さんは、
夫の好物だったいなり寿司を盛りました。
 
「絵皿は代々使われ、
 それを繋いできた人の思いや感情も
 その絵に表れているような気がします。
 皿は”物”だけれども、
 感情を持ったもののような気がします」
と森田さんはおっしゃいます。
 
それぞれの時代、それぞれの場所で輝く
「絵皿」です。
 


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