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美の壺「光と風の物語 窓 」<File 548>

<番組紹介>
「テーマはアリの生活」という
造園家・齊藤太一さんの巨大な窓には、
50種類の植物による圧巻の光景!
 
▽吉村順三が軽井沢に設計した、
 自然を愛でる広い窓
▽巨匠フランク・ロイド・ライトの
 美意識が詰まった、さまざまな窓のデザイン
▽まるで宇宙船?!
 「ふきだし」をモチーフにした図書館の窓
▽ローマのパンテオンから鎌倉の寺まで…
 「丸窓」の魅力とは?!
▽武者小路千家・千宗屋さんが語る
 茶室の窓の役割
 
 
 
光や風を誘い込み、家の中と外を繋ぐ「窓」。
窓辺には、人が自然と集まり、
様々な物語が生まれます。
それぞれの窓が彩る豊かな空間。
今日は目眩く窓の世界にご案内致します。
 

美の壺1.理想の眺めを求めて

 

東京世田谷区
「造園家・齊藤太一邸」

 
東京・世田谷区の住宅地に建つ
造園家の齊藤太一さんのお宅の主役は、
リビング一面に広がる、高さ3.5mにも及ぶ
巨大な窓です。
鬱蒼とした木々が迫り来る、
大迫力の景色が広がっています。
この窓は、建築家の田根剛(たね つよし)さんと
試行錯誤して設計しました。
 

 
 
窓のデザインと造園に時間をかけました。
 
「森の中で、自然の姿を見上げるような
 体験をしたい」と、
床を地面より1m程掘り下げて、
目線が地面に近くなる構造になっています。
 
建物の外の敷地は、幅2m程。
そこに庭ではなく、自然を作る・・・。
つまり、新しい自然で「新自然」を
作りました。
 
周辺地域に元々生息する植物を調べ、
それらと相性の良い合計50種類以上の植物を
植え込みました。
造園家が理想を追求して生み出した一面の緑、
その自然の迫力が、窓から溢れ出ています。
 
 

長野県軽井沢町「脇田和アトリエ山荘」
(吉村順三)

 
 
長野県軽井沢の閑静な別荘地に、
一際目を引く山荘があります。
「脇田和(わきたかず)アトリエ山荘」
文化遺産)です。
洋画家の脇田 和(わきた かず)
住宅兼アトリエにしていた建物で、
昭和45(1970)年に、脇田和の友人で、
戦後を代表する建築家、
吉村順三の設計により建てられた、
日本のモダニズム建築として知られる
別荘住宅です。
 
設計に当たり、脇田が出した注文は、
「四季を通じて制作活動がしたい」こと。
そして
「絵のモチーフとなる動植物を観察したい」
ということ。
 
建物の中に入ると、窓が横に長く伸びていて、
居間から庭全体を一望出来て、
気持ちのいい空間が広がっています。
 
 
この別荘の現オーナーである
御子息の脇田智(わきた さとし)さんは
次のようにおっしゃいます。
 
「父は鳥を描くので、
 鳥を飼ったりなんかしてまして。
 ・・・鳥が時々外に飛び出したりしても
 大きな窓がありますから、
 『あ~、キレイ、キレイ』
 何て言って、逆に喜んじゃったり。
 父の絵の中にも窓があったり、
 大体、鳥が窓からのぞいてるとか。
 自分の頭の中に想像の窓もあったりすると
 思いますけれども、
 絵そのものが窓ですよね。」
 
 
 
建物は当初、コブシの木を囲うように
建てられていました。
「窓から木に止まる鳥がよく見えるように」
という吉村の心遣いが感じられます。
 
また、開口部、雨戸、網戸、ガラス戸、
障子の全てが戸袋に引き込まれるように
設計されているので、
全開にすると、外と中の境界を感じさせない
開放感が生まれます。
鳥と自然を愛した画家の窓に、
今日も心地のいい風が吹き込み込んできます。
 

 
  • 住所:〒389-0100
    長野県北佐久郡軽井沢町旧道1570-4
  • 電話:0267-42-2639
 
 
 

美の壺2.形に込められた思いを味わう

 

兵庫県芦屋市「ヨドコウ迎賓館」
(フランク・ロイド・ライト)

 
 
兵庫県芦屋市に、近代建築の巨匠、
フランク・ロイド・ライトの
こだわりが詰まった窓を
見ることが出来る場所があります。
大正13(1924)年に建てられた、
灘の造り酒屋「櫻正宗(さくらまさむね)
八代目当主・山邑太左衛門の別邸
建築当初の姿で残る、
国内唯一のライトによる住居建築です。
 

 
 
2階の応接室には
様々な形の窓がたくさんありますが、
その中でも独特の存在感を放っているのが、
天井近くにずらりと並んだ小窓です。
 

 
この建物内の各部屋には
天井照明がありません。
そのため、光と風を取り入れるために、
天井近くに小窓が付いてると考えられます。
これは、ライトが伝統的な日本家屋の
「欄間」(らんま)からヒントを得て、
小窓を設計したのではないかと
考えられています。
 
窓を建物の外から見てみると、
砕いた大谷石と砂やセメントを素材とした
飾り石が施されていて、
ライトが当時影響を受けていた、
マヤ文明の遺跡のような雰囲気が
漂っています。
 
通気や採光といった機能面だけでなく、
様々なデザインが施されています。
 
4階の食堂の天窓は三角形に見えますが、
よく見ると、窓自体の形は四角いです。
 
館内の天井は全て平らなのですが、
食堂だけは唯一、
三角の面で構成された四角錘のような
形になっています。
この天井に合わせてデザインされた
三角の小窓が、
教会のような厳かな雰囲気を演出しています。
 
更に、3階の長い廊下に並ぶ窓は、
足下まで伸びた、外開きの
大きなガラス窓になっていて、
これは自然に溶け込んだ建築を理想とした
ライトの「室内を屋外と関連させ、
外に向かって自由な開放を得るため」という
こだわりを感じさせます。
 

 
この窓に使われている飾り銅板は、
植物の葉をモチーフとしたものです。
表面は形だけでなく色も植物に似せるために、
わざわざ銅に緑色の錆「緑青」(ろくしょう)
呼ばれる錆を発生させています。
それにより、西日が窓から入ると、
まるで葉の隙間から差し込む、
木漏れ日を受けたようになります。
 

 
  • 住所:〒659-0096
    兵庫県芦屋市山手町3−10
  • 電話:0797-38-1720
 
 

東京 武蔵野市「武蔵野プレイス」
(建築家・比嘉武彦さん)

 
東京・武蔵野市に、思わずのぞき込みたくなる
不思議な形の窓があります。
何だか潜水艦みたい。
それとも宇宙船?
こちらは、図書館などが入る
公共施設「武蔵野プレイス」です。
 
窓に誘われて館内に入ってみると、
ポッカリと丸くくり抜かれたような空間が
いくつも連なっています。
それぞれの空間を仕切る壁はありません。
あるのは 楕円形の穴。
 

 
  • 住所:〒180-0023
    東京都武蔵野市境南町2丁目3−18
  • 電話:0422-30-1905
 
 
 

美の壺3.窓がいざなう心の旅

 

建築史家・五十嵐太郎さん

 
建築史家の五十嵐太郎さんは、
世界中の窓の研究を行っています。
五十嵐さんは、特別な意味を持つ
「窓の形」があるとおっしゃいます。
「円形の窓」です。
象徴的な「円形の窓」を持つ建築は、
世界各地にあります。
 
古代ローマの「パンテオン神殿」の
ドームの頂点には、
直径9mの完全な円の窓があります。
 
「それが太陽の動きとともに、
 光の場所が変化していくっていうのは、
 建物の中で天体というか星が動いてるような
 そういうコスモロジーを物凄く感じさせて
 くれます。
 この天に開いた「目」は、
 2000年近く、人々を見守るように
 光を降り注いできました」
 

 
日本でも、寺社などで
「円窓」は多く作られてきました。
鎌倉にある「明月院」本堂の「悟りの窓」は、
悟りや真理、大宇宙などを
象徴的に表現していると言われています。
 

 
円く切り取られた庭の景色。
情報がそぎ落とされた円の中の光景は、
見る人に深い集中をもたらします。
人を悟りの境地へと導くと言われる
「円い窓」です。 
 

 
  • 住所:〒247-0062
    神奈川県鎌倉市山ノ内189
  • 電話:0467-24-3437
 
 

茶道家 武者小路千家・千宗屋さん

 
茶道、武者小路千家の家元後嗣である
千宗屋(せん そうおく)さんは、
茶室にとって、窓は重要な役割があると
おっしゃいます。
 
東京タワーが見渡せる
都心のマンションの一室には、
かつて千さんしつらえた茶室
「重窓」があります。
 

  

 
「最後に、窓の障子をガラッと開けると
 外にある東京タワーが見えて、
 ハッと、それで我に返ると言いますか、
 そこからまた日常に戻っていく。」
 
騒がしい日常から離れ、
別世界を生み出す茶室の窓です。
 

 
 
茶事の中でも、窓は重要な役割を担っているとおっしゃいます。
 
最も正式な茶事とされている
「正午の茶事」(しょうごのちゃじ)と呼ばれる
茶会は、正午から4時間程にも及びます。
 
茶会は薄明かりの中でから始まります。
全ての窓には簾(すだれ)が掛けられ、
明るさが抑えられています。
この暗さの中で、懐石などがふるまわれます。
物事がはっきり見えないため、
亭主や客達は渾然一体になることが出来る、
そんな感覚が味わえるのだそうです。
 
前半の懐石を終えると、客は一旦退席します。
ここで亭主は「突き上げ窓」を開け、
外の空気と光を取り入れます。
そして、床のしつらえを
「掛け軸」から「花」に変えます。
 
客が再び席に着いたら、
亭主は外へ出て、窓に掛けられた簾(すだれ)を一つずつ順番に上げていきます。
すると、薄暗かった室内に
少しずつ光が満ちてきて、
「陰」から「陽」に場面が転換されました。
この明るさの中で、いわば茶事の本番、
亭主のたてた濃茶がふるまわれるのです。
窓が生み出す深遠なひととき。
光と陰の彩りです。

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