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美の壺「仰ぎ見る幸せ 天井」<File 570>

<番組紹介>
数寄屋建築の名工が手掛けた大徳寺・黄梅院の天井
 
 ▽贅の極み!
  実業家・松下幸之助が伊勢神宮に奉納した茶室
 ▽必見!普段は非公開・匠の技が光る網代天井
 ▽絢爛豪華!120人の日本画家が描いた天井絵
 ▽福島・村を守るオオカミの天井絵に込められた
  先人たちの願い
 ▽巨大な傘があなたを包む!光と風をあやつる天井
 ▽老舗ホテルの天井に刻まれた推古芸術の美
 ▽声優・石川界人が天井の精に? 
 
<初回放送日:令和4(2022)年12月2日(金)>
 
 
 
 

美の壺1.包まれて 安らぐ

 

数寄屋建築の巨匠・山本隆章が作った茶室「向春庵」(こうしゅんあん)


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「黄梅院」(おうばいいん)は、
京都の大寺院の一つ「大徳寺」の境内南部に位置する塔頭寺院です。
織田信長が初めて京都へ入った際、父・織田信秀の菩提を弔うために
小庵「黄梅庵」を羽柴秀吉に命じて造らせたことに始まります。
1562年、当時28歳の織田信長が初めて上洛した際、
父・信秀の追善菩提の為に「黄梅庵」を建立した事に始まります。
本能寺の変によって信長が急逝すると、秀吉がこれを徐々に増築し、
1589年に「黄梅院」と改めました。
江戸時代以降は今日まで、毛利家の菩提寺として受け継がれています。
 
 
境内には、10程の庭園が造られていて、
中でも有名なのは、
『論語』中の「直きことの其の中にあり」に由来する
書院南庭の「直中庭」(じきちゅうてい)です。
 
 
「直中庭」(じきちゅうてい)は、
千利休が66歳の頃に作庭したと伝えられています。
一面、苔に覆われた枯山水庭園には、
秀吉の軍旗「瓢箪」をかたどった池があり、
瓢箪池の中央には伏見城遺構の石橋が架けられています。
大徳寺1世・徹翁義亨が比叡山より持ち帰った「不動三尊石」や
加藤清正が持ち帰った「朝鮮灯籠」が据えられています。
庭の中央には「一枝庵」(いっしあん)という茶室が佇み、
お茶と所縁の深い寺ということが分かります。
 
 
大徳寺黄梅院の敷地内には、
平成10(1998)年に増築した数寄屋建築の茶室
向春庵(こうしゅんあん)があります。
数寄屋建築の巨匠と呼ばれた山本隆章(やまもと たかあき)
持てる技の全てを使い建てた茶室です。
山本隆章の元で仕事をし、
山本興業の現・代表棟梁の穂園光二(ほぞの こうじ)さんに
その技の奥深さを教えていただきました。
 

kyoto-yamamotokogyo.com

 
「向春庵」(こうしゅんあん)には、
5畳半小間仕立ての茶室「鳳來庵」(ほうらいあん)や、
椅子式(立礼席)の茶室の「關庵」(かんあん)の他、
20畳の広間「玄徳軒」を有する数寄屋建築です。
更に回廊で、
一畳台目向板・半板入り茶室の「一枝庵」と繋がっています。
 
大徳寺黄梅院
  • 住所:〒603-8231
       京都市北区紫野大徳寺町83-1
  • 電話:075-492-4539
 
 

数寄屋建築の名工・中村外二が作った神宮茶室「霽月」(せいげつ)

 
三重県にある「伊勢神宮」の宇治橋を渡った左手、
神苑北端の五十鈴川と神宮司庁に囲まれた「紅葉苑」と呼ばれた地に
昭和の大実業家・松下幸之助が献納した
神宮茶室「霽月」(せいげつ)があります。
 
施工したのは、戦後の数寄屋建築を支えた屈指の名匠の1人で、
「大工の神様」と言われた中村外二(なかむら そとじ)です。
 
 
京都にある中村外二工務店にお邪魔すると、
中村外二の下で16歳の時から修業し技を継ぐ、
棟梁・升田志郎(ますだしろう)さんが板を組む作業をされていました。
升田さんによると、大切なのは力加減だそうです。
その時々の天候に、力加減が左右されるそうです。
 


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神宮茶室「霽月」(せいげつ)の中に入ると、天井に目が留まります。
壁の上端に沿って備えつけた回り縁に
「竿縁」(さおぶち)と呼ばれる細い横木を通し、
その上に天井板を乗せた「竿縁天井」(さおぶちてんじょう)になっています。
 
継ぎ目のないおよそ7mもの「竿」は、
京都北山の寒い環境で長い年月をかけて育てられた、
「北山丸太」(きたやままるた)と呼ばれる杉です。

材質が緻密で光沢のある
一般の木材と異なるその独特で光沢のある木肌から、
「床の間」の床柱を始めとした、
魅せる建築用材として重用されてきました。
 

 

www.city.kyoto.lg.jp

神宮茶室「霽月」
  • 住所:〒516-0023
       三重県伊勢市宇治館町1
 
 
 


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一方、比叡山の麓に、中村がこだわりぬいた天井があります。
京都市左京区上高野にある
浄土真宗の寺院「瑠璃光院(るりこういん)にある
「三条実美」(さんじょうさねとみ)ゆかりの
「喜鶴亭」(きかくてい)という小さな茶室の天井です。
 
大正から昭和の初めにかけて、
瑠璃光院」を数奇屋造りに大改築した際、
その建築に当たったの中村外二は、
「喜鶴亭」の天井を網目に特徴のある
「網代天井」(あじろてんじょう)にしました。
 

 
「網代天井」(あじろてんじょう)とは、
木や竹を薄くスライスしたものを
魚を取る網のように互い違いにくぐらせて編んだものを張った
天井です。
用いたのは、「黒部杉」(くろべすぎ)を斧で割った「へぎ板」です。
手作りの板の網目が生む柔らかな陰影が
空間に奥行きをもたらす匠の技です。
 
中村外二の後継者、孫の中村公治(なかむら こうじ)さんは、
祖父は心安らぐ空間を演出したかったのではないかと
おっしゃいます。

 

「元々は、自然界の細い草木を編んで組み合わせて
 面を作ったりあるいは袋を作ったり・・・。
 そういう生活の中で使われている美しさを見て、
 それを天井に取り入れようとなったのではないかなと思いますので、
 そういう意味では、親しみを持てる天井ではないかなというふうに
 思います。」
  • 住所:〒601-1255
       京都市左京区上高野東山55
  • 電話:075-781-4001
 
 
 
 

美の壺2.こめた願いに導かれて

 

増上寺光摂殿(こうしょうでん)


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「天井」は、仏像の上部を守る布や板から発展したものだと
言われています。
「天」は「大空」を意味し、
「井」は水をもたらす「井戸」から由来しているのだそうです。
 
東京・港区の「増上寺 光摂殿」(ぞうじょうじ こうせつでん)
大広間の天井には、
日本画壇を代表する小倉遊亀画伯や上村松篁画伯ら重鎮から若手まで
120名にも及ぶ日本画家による作品が奉納されています。
 
 
増上寺執事の伊藤広喜さんによると、
「光摂殿」は「心を洗い、未来をひらき、生きる力を育てる」道場で、
天井絵を見ることで、修行に励む僧侶の心が洗われ、
極楽浄土の荘厳を自らのものとして
体感することが出来るようになるのだそうです。
 

日本画家で東京藝術大学名誉教授の中島千波(なかじま ちなみ)さんも
天井絵を奉納した一人です。
月の光に照らされた満開の桜「春夜爛漫」を描きました。
中島さんは、仏教哲学も考えて制作をされているそうです。
亡くなってからも美しい世界「極楽浄土」へ行けるのだということも考えながら
絵にしているそうです。
 

www.zojoji.or.jp

 
  • 住所:〒105-0011
       東京都港区芝公園4-7-35
  • 電話:03-3432-1431
 
 

福島県飯舘村にある山津見神社拝殿の天井に描かれた神使「オオカミ」


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福島県飯舘村にある「山津見神社(やまつみじんじゃ)は、
全国的にも珍しいオオカミ信仰の神社です。
拝殿の天井には、この神社の使い「オオカミ」が描かれています。
以前は、200枚を超えるオオカミの天井絵で知られていましたが、
原発事故による全村避難をしていた平成25(2013)年に火災が発生し、
天井絵は消失してしまいました。
 
しかし、偶然にも火災の直前に
ニホンオオカミの研究家が天井絵を全て撮影したことが分かり、
この写真をもとに、東京藝術大学の荒井経教授が中心となって
平成28(2016)年に東京芸術大学の学生らが復元しました。
 
山津見神社」の元氏子総代菅野永徳さんは、
東日本大震災の原発事故で避難を余儀なくされた人々の活力になり
今後の発展に希望が出来たとおっしゃっていました。
 
  • 住所:〒960-1815
       福島県相馬郡飯舘村佐須字虎捕266
  • 電話:0244-42-0846
 
 
 

美の壺3.ともに時を重ねる

 

ホテルニューグランドのレインボーボールルーム(設計士・渡辺仁)

 
横浜・山下公園前のランドマークとして親しまれている
ホテルニューグランド」はクラッシクホテルの代表作であり、
平成4(1992)年に「横浜市歴史的建造物」に指定、
平成19(2007)年には経済産業省が選んだ
「近代化産業遺産」の認定を受けてます。
 
大正12(1923)年に起きた「関東大震災」から復興を願って、
政財界のバックアップの下、建設がすすめられ、
昭和2(1927)年に竣工落成しました。
 
設計したのは、日本の近代建築を代表する建築家の一人・
渡辺仁(わたなべ じん) です。
後に「東京国立博物館」の本館などの名作を手掛けたことで
知られています。
渡辺が得意としたのは、
洋風建築に日本伝統美を巧みに取り入れる手法です。
 

 
ホテルの顔とも言える宴会場
レインボーボールルーム」に足を進めると、
華やかな天井が広がっています。
虹色の照明が照らし出した丸みを帯びたアーチ型の天井の
優雅な華雲が描かれた天井彫刻は、
当時の漆喰職人による技術と芸術の粋を集めたもので、
現代ではなしえないと技術と言われる漆喰彫刻の最高傑作です。
 
開業当初、「レインボーボールルーム」は
たくさんの紳士淑女が集う舞踏会場であったため、
重厚な柱や天井には、豪華絢爛な彫刻が施されています。
また、深紅を基調とした色合いが
ヨーロッパの薫り漂う格調高い世界へと誘います。
 
そんな洋風のインテリアでありながら、
どこか和の伝統が懐かしく香るような空間にもなっています。
さりげなく和の要素が取り入れられているのです。
アーチ型の天井には、推古芸術の粋を集められています。
美しい雲がたなびき歌が響き渡る舞台の両脇には、
鳳凰が羽ばたいています。
 

www.hotel-newgrand.co.jp

 
宴会場の管理をおよそ50年に渡って担当している
佐藤正夫(さとう まさお)さんは、
ホテルの歴史とともに様々なシーンを見てきました。
 
「1番大きなのは結婚式ですかね。
 開業当日に結婚式を挙げていただいたお客様もいらっしゃいます。
 この方は親子3代に渡り、披露宴を挙げていただいた。
 もう今年で「ブルースターサファイア婚」、
 65周年を迎える方もいらっしゃいます。」
 
 
ホテルの天井は、歴史の証人として横浜の町に生き続いています。
 
  • 住所:〒231-8520
       神奈川県横浜市中区山下町10
  • 電話:045-681-1841
 
 
 

みんなの森 ぎふメディアコスモスの図書館の天井(建築家・伊東豊雄さん)


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平成27(2015)年に開館した
図書館や市民活動交流センター、ホール、カフェなどを備えた
複合施設です。
 
外観は、岐阜の山々の稜線を思わせるような
波を打つような木製の格子屋根が包み込んでいます。
そして図書館になっている2階に上がると、
木で出来たうねるような天井が広がっています。
 
更に図書館の天井からは、
お椀のような形をした「グローブ」と呼ばれるものが11個吊り下げられ、
明るい空間を演出しています。
この「グローブ」は、地元産のヒノキが用いられています。
 
 
設計をしたのは、世界的な建築家の伊東豊雄(いとう とよお)さん。
多くの公共施設で壁のない自由な空間を作ってきました。
 
「この全体が90メートル×80メートル。
 大変広い面積なので、
 出来るだけ外に近い雰囲気を持たせるという事。」
 
天井は地元産の桧が使われています。
 
天井から下げた「グローブ」は絶妙な高さに設置され、
素材も光と風を通すものが選ばれています。
この中に入ると、上から自然光も降りてきて、
読書をするには、最適な環境になっています。
 
天井の仕掛けが空気の流れにも大きな役割を果たします。
「冬ですと暖かい空気を壁がないために
 自然の力で上へ上へとゆっくり循環させます。
 夏は暖まった空気を排出する一番頂部に上下する開閉装置が付いています。
 天井が空気を巡らせ外の環境に近い心地よさを実現させました。」
 
図書館では、新たな楽しみ方も生まれています。
「ある男性の方が自分の小さな子供を連れて
 ほとんど毎日ここへやってくると、
 散歩のようなつもりでやってくると、
 ですから本読まなくてもここへやってくることが
 1つの日常的な楽しみといいますか、
 人と出会うという習慣も含めて
 非常にコミュニティにとって大切なことではないかと思います。」
 
伊東さんが作った天井の下には、
今日も心地良い時間が流れています。
 
  • 住所:〒500-8076 
       岐阜県岐阜市司町40番地5
  • 電話:058-265-4101
 
 

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