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美の壺「響きあう駅舎」<File 513>

旅情を誘う日本全国の駅舎の世界!
 ▽北九州、古き良き駅舎の姿をいまに伝える
  重要文化財指定の貴重な駅とは?
  「終着駅」が醸す郷愁
 ▽作曲家が自ら案内!発車メロディーに込められた秘密
 ▽絶景にうっとり、夕日の海に染まる駅舎
 ▽湖上にポツン、大自然にたたずむ駅の魅力に迫る!
 ▽駅舎に温泉!?なんとも珍しい温泉駅の物語
 ▽太宰治の愛した駅舎はいまも現役、
  レトロな憩いの空間を守り続ける人々の思いに迫る!
 

美の壺1.駅から始まる物語

 

東京の表玄関「東京駅」

東京の表玄関「東京駅」は
大正3(1914)年に完成した日本を代表する西洋建築です。
駅舎を設計したのは、
辰野金吾(たつのきんご)と 葛西萬司(かさいまんじ)
国の重要文化財に指定されています。
その後、大正から昭和初期に、
全国各地に西洋建築の駅が造られていきました。
 
 

修復工事で復活した大正時代の姿「門司港駅」

東京駅と同じ大正3(1914)年に誕生し、
重要文化財に指定されている福岡県北九州市の「門司港駅」。
6年の歳月をかけた修復工事を終え、
令和元(2019)年に100年前の姿に蘇りました。
 
明治22(1889)年、石炭や米の特別輸出港として
「門司港」が開港しました。
そしてその2年後の明治24(1891)年、初代「門司駅」が完成。
明治34(1901)年に本州と九州を結ぶ
「関門連絡船」が運行されると利用客が増え、
大正3(1914)年に現在の駅舎が建設されました。
 
左右対称のルネサンス様式、堂々とした佇まいの木造建築です。
大正時代の賑わいを思い起こさせる広々としたロビー。
一等待合室は、現在は切符売り場として利用されています。
2階には大正時代天皇陛下も訪れた貴賓室が残されています。
 
開業当時はまだ珍しかった高級洋食店の「みかど食堂」は
修復工事完了後には「みかど食堂 by NARISAWA」としてオープン。
成澤由浩(なりさわよしひろ)シェフ監修の洋食レストランに生まれ変わりました。
 
歴史を持つ「門司港駅」が大好きだという音楽プロデューサー・向谷実さん。
世界中の鉄道を乗り歩くのが趣味という向谷さんは
鉄道好きが高じて150もの駅の発車メロディーを作曲しました。
終着駅好きな向谷さんは、
「門司港駅」の一つ前の駅で列車の先頭車両に乗り込みます。
鉄道用語で「終端駅」(しゅうたんえき)と呼ばれる
「どんつきの駅」に着くところは少ないそうです。
運転台のすぐ後ろで、かぶりつきで見るのがたまらない、と嬉しそうでした。
 
「門司港駅」に近づいてくると列車は慎重に減速し、止まります。
線路の端には「0(ゼロ)」の印が。
ここを起点に、レールが繋がって行くと思うとたまらないのだそうです。
 

天空の露天風呂「大分駅」

大分県大分市の「大分駅」は、
平成27(2015)年に新しい駅舎に生まれ変わりました。
駅ビルの最上階にあるホテルには、
大分の街を一望出来る「露天風呂 CITY SPA てんくう」があります。
地上80m、大分の豊かな海と山を見渡せる圧倒的な開放感の中で、
天然温泉と高濃度炭酸泉を楽しむことが出来ます。
因みに、天空の露天風呂はホテル宿泊者でなくても利用出来ますよ。
 
 
  • 所在地:〒870-0831
        大分県大分市要町1−番14号
        JR大分駅直結 JRおおいたシティ19F−21F
  • 電 話:097-513-2641
 
 

発車メロディーの作曲「音楽プロデューサー・向谷実さん」

音楽プロデューサーの向谷実さんは
フュージョンバンド「カシオペア」の元キーボード奏者。
昭和60(1985)年に「株式会社 音楽館」を設立しました。
 
鉄道好きが高じて、平成7(1995)年には、
世界初の実写版鉄道シミュレーションゲーム
「Train Simulator」を発売。
以降は本格的な鉄道シミュレータの開発を手掛けるようになり、
現在は、訓練用・展示用のトレインシュミレータも
開発するまでになりました。
 
番組で紹介されていたように、
駅の発車メロディーを150以上も作曲するなど、
鉄道愛に溢れるクリエイターかつ実業家として活躍しています。
 
 

 

美の壺2.駅が作り出す風景

 

駅と海がつくる絶景「下灘駅」

愛媛県伊予市、 瀬戸内海沿いに
香川県の高松と松山宇和島を結ぶ「予讃線」(よさんせん)。
その山間の住宅地にひっそりと佇む小さな駅「下灘駅」(しもなだえき)
その無人の駅舎を通り抜けると、目の前に広がるのはホームと真っ青な海です。
まるで海の上に駅が浮かんでいるかのようです。
絶景のスポットとあって、映画やドラマに登場することもあります。
下灘駅が最も映えるのは夕刻。
駅と海と夕日が作り出す唯一無二の景色が広がります。
 
 

湖の上に浮かぶ駅「奥大井湖上駅」

静岡県榛原郡川根本町は
「大きな水の流れ」という意味を持つ大井川流域の町です。
「株式会社しずおかオンライン」のカメラマン
森島吉直(もりしまよしなお)さんは
「大井川鐵道 井川線」が好きで、よく写真を撮りに来るそうです。
始発駅「千頭駅」(せんずえき)から
少し小さめの赤いトロッコ列車に乗り込みます。
「井川線」は、昭和10(1935)年に
水力発電所の資材運搬用列車として開通しました。
その後、昭和34(1959)年には、旅客鉄道として開業しました。
トンネルが61か所、鉄橋は55か所ある、森林鉄道です。
レトロなトロッコ列車は、
途中、日本一と言われる急勾配を機関車で押し上げながら、
ゆっくりと登っていきます。
千頭駅からおよそ1時間、
降り立ったのは、 ホームと待ち合い所だけの小さな駅
「奥大井湖上駅」(おくおおいこじょうえき)です。
 
駅に降り立った時は分かりませんでしたが、
遠くから眺めるとまるで湖の上に浮かんでいるような駅舎です。
ダム建設によって出来た人工湖の僅かな陸地に造られています。
 
夏は青々とした緑にエメラルドグリーンの湖、
秋は太陽の高さが下がり湖面が輝き、
紅葉と相俟ってまた別の風情を醸し出します。
 
毎回違う絵柄になるからついつい通いたくなる、と森島さん。
自然をすごく感じられるけれども、その中に人の存在も感じられる。
駅があることで、
自然と人との関わりをより実感的に見ることが出来るのも
奥大井湖上駅の魅力だと語っていました。
 
大自然の美しさに加え、駅があるからこそ深みを増す味わい。
列車と駅と人が大自然と共鳴して独特の絶景を生み出しています。
 
 

 

美の壺3.駅は人を結ぶ

 

温泉のある駅「水沼駅」

群馬県桐生市の「わたらせ渓谷線」の「水沼駅」は
ちょっと変わった駅です。
建物全てが温泉施設「水沼駅温泉センター」になっていて、
ホームを降りるとすぐ温泉、という日本でも珍しい駅なのです。
 
わたらせ渓谷線」は明治44(1911)年に
足尾銅山の鉱石の運搬線として開通しました。
その後、一旦は廃止されたのですが、
平成元(1988)年に地元住民の要望で復活しました。
その時、駅に人が集まるようにと、
6km先の猿川の源泉から温泉を引きました。
 
泉質はナトリウム塩化泉です。
週に2回はここにやって来るという立野千万人(たてのちまと)さんは、
毎回、列車の時間に合わせて温泉に浸かり、
しばらく寛いだら、またホームへ向かいます。
 

太宰治ゆかりの駅「芦野公園駅」

青森県五所川原市、雄大な津軽平野を走る「津軽鉄道線」は全長20.7km。
ホームが一つだけの無人駅「芦野公園駅」 (あしのこうえんえき)
桜の駅として知られ、春には多くの観光客が訪れます。
芦野公園駅は、五所川原市出身の文豪・太宰治が
昭和19(1944)年に書いた作品「津軽」の舞台にもなっています。

 

この太宰の小説に登場する小さな駅舎は、
昭和5(1930)年に造られた「旧駅舎」です。
屋根に設けられた腰折れ破風。
「ささら子下見」と呼ばれる板が洋風の意匠に仕立てています。
 
現在、この「旧駅舎」は
喫茶店「駅舎(えきしゃ)」としてなっています。
喫茶店内には駅の名残りがあり、
壁の張板もカウンターも、当時のまま。
一枚板と金網で作られた改札の窓口、
そして、改札を隔ててある当時の出発ロビーと駅事務所は、
今は趣のある客席になっています。
ゆっくりした時が流れ次第にノスタルジックな気分にさせてくれます。
 
喫茶店店長の 栄利有夏(さかりゆか)さんが淹れてくれたコーヒーは
太宰治が高校時代に通った
弘前市にある東北最古の喫茶店・「万茶ン(まんちゃん)」の
オリジナルブレンド。
太宰がよく飲んでいたというコーヒーを復刻したものです。
 
 
開業当時から今も使われている改札用具が残されています。
太宰もこの改札を通って列車に乗ったかもしれません。
喫茶店として、そして現役の駅舎として活躍する芦野公園駅。
これをずっと長く保っていけたら、と栄利さんが語っていました。
 
喫茶店「駅舎(えきしゃ)」
  • 所在地:〒037-0202
        青森県五所川原市金木町芦野84-171
  • 電 話:0173-52-3398
 
  • 所在地:〒036-8182
        青森県弘前市土手町36-6
  • 電 話:0172-55-6888
 
 

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