<番組紹介>
テーマは「竹」。
▽宮崎県日之影町で、日々の暮らしの中で
使われる竹製道具の数々。
機能性と美しさを兼ね備えた道具には、
伝説の竹細工職人の哲学が!?
▽これも竹!?“自然がデザインした
”不思議な形や模様の竹が続々。
幻の一級品も登場。
竹の個性を生かした美術品は圧巻!
▽伝統工芸、駿河竹千筋細工の技術を
総動員して作った竹の豪華シャンデリア!
繊細な光と影の世界は要注目!
前代未聞の作品に挑んだ職人の奮闘物語も!
<初回放送日:平成29(2017)1月20日>
京都・竹尽くしの宿「炭屋旅館」
古都京都。
街の中心にありながら、静けさをたたえる
数寄屋造りの名旅館「炭屋旅館」(すみやりょかん)。
大正初期の創業、およそ100年の老舗旅館に
一歩入れば静寂に包まれた空間は、
さながら山居のよう、そこかしこに竹が。
2階にある客室
かぐや姫を連想させる一人用の客室
「なよ竹」は、まさに竹づくしです。
真竹が敷き詰められた天井に、
襖の引手も竹の節、
座卓に映るの庭の竹・・・。
心憎い演出です。
古くより「茶の湯の宿」として
全国に名を馳せる「炭屋旅館」。
もてなしの茶の湯の席も竹で彩られています。
抹茶を入れる茶杓(ちゃしゃく)、
お茶を点てる茶筅(ちゃせん)、
「花入れ」も竹の根っこを生かして
作られたもの。
更に、大切な仏像を納める厨子(ずし)。
竹を複雑に組み合わせたシャンデリア。
- 住所:〒604-8075
京都府京都市中京区
麩屋町三条下る白壁町431 - 電話:075-221-2188
美の壺1.竹をだまして美しく
竹細工の名工・廣島一夫さん
宮崎県北部の山間にある
日之影町(ひのかげちょう)で
農作業や生活に欠かせない籠やザルなどの
竹細工を80年に渡って作り続けた
「現代の名工」がいました。
廣島一夫(ひろしま かずお)さんです。
廣島さんは、10代で竹細工職人になり、
様々な苦難の時代を乗り越えて、
平成25(2013)年に98歳でその生涯を終えるまで
80年余り、竹細工一筋、一生を捧げました。
工芸品とも思えるほどの精緻な仕上がりに、
廣島さんの作品を求めて
遠方から訪れて来た人もいましたが、
あくまで暮らしを支える道具として
地元で使われることを強く望み、
決して譲ることはありませんでした。
今も廣島の手による道具が使われています。
穀物などを容器に注ぎ入れるのに使った
「片口じょうけ」。
干し椎茸を選別する「なば通し」。
収穫した農作物を入れる背負い籠の
「かるい」。
廣島の仕事を埋れさせないため、
平成20(2008)年にオープンした
「日之影町竹細工資料館」には
163点の竹細工が展示されている他、
米国の「スミソニアン博物館」や
英国の「大英博物館」に所蔵されています。
およそ80年に渡って暮らしの道具を作り続けた廣島さんは独自の哲学を持っていました。
「竹をだましながら籠にしなす。
竹をだますというのか、
逆に戻したりすることを勝負は勝負。
こういうものが一つものになるということは
だましながらなっていくということだ」
竹と向き合い続けた廣島一夫さんは、
竹を曲げにくい方向に曲げることを
「だます」と表現しました。
- 住所:〒882-0401
宮崎県西臼杵郡日之影町七折3455-47 - 電話:0982-78-1021
竹細工職人・小川鉄平(さん)
廣島一夫の技を受け継ぐ人がいます。
小川鉄平(おがわてっぺい)さんです。
小川さんは、平成13(2001)年、
日之影町独特の背負い籠「かるい」を
自分でも作ってみたいと思い、
「かるい」作りの名人・飯干五男さんに習うため
日之影町に移住してきました。
飯干五男さんは、廣島一夫さんと同じく、
日之影町の竹細工の第一人者でした。
昭和44(1969)年に日本民芸公募展で
飯干さんの「かるい」が伝統技術優秀賞受賞し、
民芸協会の月刊誌の表紙を飾ると、
全国に日之影町の「かるい」が有名になった
だけでなく、世界的にも有名になりました。
平成29(2017)没。
小川さんは、廣島さんとも出会い、
竹のことを一から教わったそうです。
良い竹細工は、良い竹を選ぶことから
始まります。
「竹紐の中では、(竹の)節は出来れば
少ないほうが扱いやすい。
なので高く伸びている竹で
節のところがあまり大きく太っていない竹を
選びます」
竹を取る場所についても
廣島さんならではの教えがありました。
「雑木林の竹がいいと行ってました。
雑木林でない竹は、
竹同士で競争しないので伸びない。
雑木林だとよく伸びるらしいのです」
小川さんの自宅兼仕事場は、
村を一望出来る山の上にあります。
ここで日々竹と向き合い、
日々使う道具を作り続けています。
この日は、魚や野菜などを乗せる「たらし」と呼ばれる水切り籠を作っていました。
まず、竹の皮を剥いで作った竹紐で
底を編みます。
竹の皮は滑りやすく、
網目が固定しにくいため、
細長い竹紐で止めていきます。
「たらし」は料理に使う道具なので、
高度な技で編んでいきます。
「内側はカビが出たりとかしたら
見苦しいのと、
直接食べ物に当たる部分が
皮面の方がキレイなので、
作る側とした大変なんですけど、
こっち向きに立ち上げる」
ポイントは竹を曲げる力加減。
僅か0.3㎜程の細さの竹紐は
無理に曲げると割れてしまうため、
竹を騙して曲げる技術が必要です。
2日かけて編み上げた小川さんの「たらし」は
端正な網目に美しいカーブを描いたフォルム。
四隅の足は底が地につかないための工夫です。
「凄い素材だなと思います。
竹だけで仕上がって行くと
やっぱりそれは凄いことだと思いますし、
やりがいがあるなあと思います。
難しいことはあれこれ考えて
そこからもう叶っているのは
本当楽しいです」
編むことは竹と人の暮らしを繋ぐ営みでした。
美の壺2.竹ならではの個性を味わう
銘竹問屋「竹平商店」(さん)
京都では、既に平安時代の頃から、
Chinaからもたらされた竹が育てられてきたと
言われています。
京都ならではの技法で生産された
京都産の竹のうち、
「白竹 」「胡麻竹 」「図面角竹 」「亀甲竹 」を
「京銘竹」(きょうめいちく)と呼びます。
「京銘竹」は、「茶道」や「華道」の世界観を
趣深く演出してきました。
京銘竹「竹平商店」は、竹を専門に扱う店です。並んでいるのは全て
「銘竹」(めいちく)と呼ばれる一級品の竹です。
四代目店主の利田淳司(かがた じゅんじ)さんが
銘竹の中でも、とりわけ珍しい竹があると
紹介してくれました。
「これが亀甲竹と呼ばれる変竹です。
自然に藪の中から生えてくるんです」
孟宗竹の突然変異により、
亀の甲羅のような形になるので
「亀甲竹」(きっこうちく)と呼ばれています。
火あぶり法で磨き上げられ、
伝統に基づき様々に加工されて、
特に床柱・花器・結界など、
高級竹材として幅広く利用されています。
茶褐色の竹は「煤竹」(すすだけ)です。
茅葺屋根の建材として、
200年以上囲炉裏で燻されたものです。
縄で結ばれていた部分が淡い模様となり
珍重されてきました。
「亀甲竹が造形の美であれは、
煤竹は経年の美。
長い時間しか作れない。
この模様が景色となって、
一本一本の個性となっている銘竹の中でも
最も重みなる竹だと私は感じます」
次に、店に代々伝わる
とっておきの竹を見せてくれました。
鮮明な赤い斑模様が浮き出た
Chinaの「紅斑竹」という竹です。
「楊貴妃の涙が落ちて模様になった」
と言われています。
現在日本では手に入らず、
幻の竹と言われています。
独特な模様は自然が生み出したもの。
煎茶道具などに使われることが多く、
組み合わせると不思議な景色が楽しめます。
- 住所:〒600-8377
京都市下京区大宮通五条上る
上五条町403番地 - 電話:075-841-3803
骨董屋「灯屋」(渋谷新三郎さん)
竹の個性を生かした作品を集めるギャラリーがあります。
時代箪笥・古裂・陶磁器等和骨董を中心に取扱う
東京・渋谷にある骨董店「灯屋」(あかりや)です。
竹の筒についた扉を開けてみると、
中には小さな観音像が祀られています。
竹の根っこを厨子に見立てたこちらの作品は
江戸時代後期に作られたと言います。
「長い時間かかって、風雪に耐えたような
部分を使ってるというのは、
まるであの岩の祠に祀られた仏様のように
古くから時間を経て
そこに神が宿っているというような、
非常に類を見ない代物でございます」
直径5㎝程の孟宗竹をそのまま活かした
「建水」(けんすい)には、籠網の名手、
田辺竹雲斎(たなべ ちくうんさい)の銘が刻まれています。
「竹の魅力を十分に感じながら
仕事をしていて、
竹のままのものを建水という形で
作られたものだと思うんですけれども」
竹の節をどの高さに持ってくるか。
狙いすましたバランスは
竹を熟知した作者なればこそ。
切り口の美しさも名人のなせる業です。
「のし」と名付けられた花活けは、
竹工芸家・本田和明の作品です。
細い煤竹を渦巻きのように曲げ、
水や空気の流れといった目に見えないものを
表現しています。
細い部分は和竹だけを細く裂いたもの。
異なる太さの竹を組み合わせ、
躍動感と繊細さを表現しています。
「人間と自然の素材というものが
どう折り合いをつけて
最終的にどういうものができていくのか
竹という素材が持っている
難解な部分もうまく味方につけながら
自分のオリジナリティーの作品として
作り出しているところが
竹工芸の、他の工芸には見られない
面白さです」
一本一本竹の個性をどう活かすのか。
造り手に問いかけてくるのが
「竹」という素材の難しさであり、魅力です。
- 住所:〒151-0053
東京都渋谷区代々木4-8-1 - 電話:03-3465-5578
美の壺3.竹が生み出す光と影
竹のパーテーションのあるホテル
大分県・別府市にある
竹と椿の宿「花べっぷ」は、
女性目線の人気のホテルです。
畳敷きの玄関ホールを抜けると
別府の伝統工芸「別府竹細工」の
全長15mにもなる竹細工のパーティションが
あります。
総支配人(当時)であった
森 五岳(もり ごがく)さんによると、
15人もの竹職人が集まり、
別府湾に浮かぶ太陽と月、さざ波をイメージし
「やたら編」という技法を用いて作ったもの
だそうです。
「やたら編み」とは、
長さも太さを様々な竹ひごを
不規則な方向から編み込んでいく編み方です。
バランスが取りにくく、独特の編み方のため
「みだれ編み」とも呼ばれます。
編み目を隠しつつ、隙間を埋めるように
きっちりと編み上げていくことで
美しい仕上がりになります。
駿河竹千筋細工
(「みやび行燈製作所」杉山貴英さん)
「駿河竹千筋細工」
(するがたけせんすじざいく)は、
昭和51(1976)年に伝統的工芸品に
指定されている静岡県の竹細工です。
「駿河竹千筋細工」は、
細く丸く削られた竹ひごを
竹の輪に組み込んでゆく技法から
色々な形を生み出すのが特徴。
江戸時代初期に主に武士の内職として始まり、
その技を応用した菓子器や虫かごが
東海道を上り下りする旅人達に好まれました。
「みやび行燈製作所」の杉山貴英さんは、
兄弟三人が力を合わせて
繊細で画期的な駿河竹千筋細工を
次々と生み出しています。
- 住所:〒420-0074
静岡県静岡市葵区四番町11-8 - 電話:054-252-2581
照明作家 谷俊幸さん
杉山貴英さんは、照明作家の
谷 俊幸(たに としゆき)さんと
駿河竹千筋細工の竹のシャンデリアを含む、
「SEN」「HOKORE」というシリーズで
コラボしています。