MENU

美の壺「日本の夏 花火」<File 585>

番組紹介>
夏の風物詩、花火
 
▽夜空に大輪を咲かせる打ち上げ花火。
 内閣総理大臣賞を受賞した花火師の職人技
▽長野・軽井沢町の長倉神社花火大会の舞台裏
▽迫力満点!愛知・豊橋の手筒花火。
 竹の切り出しから放揚まで
 手筒花火にかける地元の青年に密着
▽東京・浅草橋の手作りミニ花火大会
▽福岡・みやま市の線香花火の工房。
 火薬の量から巻き方まで、
 線香花火に秘められたこだわりとは?
 
400年続く花火の魅力を再発見!
 
<初回放送日:令和5(2023)年8月9日>
 
 

美の壺1.心躍る一瞬の輝き

 

「打ち上げ花火」
(花火工房「マルゴー」斉木智さん)


www.youtube.com

 
夏の風物詩「打ち上げ花火」には、
色や大きさ、形などによって
様々な種類があります。
 
放射状に飛び散る「菊」や、
大きな輪が広がり流れる「冠」(かむろ)、
絵を描くような「型物」などの
種類があります。
 
 
日本で花火の製造が始まったのは、
鉄砲伝来とほぼ同時期のようです。
強い戦国武将がいた地域では、
戦に用いた狼煙(のろし)や武器として
火薬を多く保有したことから、
今も全国でも有数の花火の産地になりました。
 
 
江戸時代になって戦がなくなると、
「打ち上げ花火」が発展しました。
八代将軍の吉宗が、享保18(1733)年、
慰霊と悪疫退散を祈って
隅田川で水神祭を行った際に、
花火を打ち上げたことをきっかけに、
ちょうどお盆の季節でもあることから、
全国各地に鎮魂を目的に、花火大会が広まり
ました。
山梨県市川三郷町(いちかわみさとちょう)は、
全国でも有数の花火「市川花火」の産地です。
その起源は、戦国時代の武田信玄が戦に用いた狼煙(のろし)に始まるといわれています。
江戸時代には、「常陸の水戸」「三河の吉田」とともに「甲斐の市川」は「日本三大花火」の一つとして数えられていました。
 
 
 
昭和29(1954)年創業の花火工房「マルゴー」は、
令和4(2022)年、秋田県大仙市大曲で行われた全国花火競技大会「大曲の花火」
審査対象となる全3部門のうち、
伝統的な尺玉の「10号玉自由玉の部」と、
音楽に合わせて表現する「創造花火の部」の
2部門で優勝し、同心円の美しさを競う
「10号玉芯入割物(しんいりわりもの)の部」も3位と
総合力で「日本一」と認められました。

www.oomagari-hanabi.com

 
 
マルゴー」の2代目・斉木智(さえき さとし)さんは
これまで様々な「打ち上げ花火」を
考案してきましたが、
どこから見てもまん丸い花火を作るのが
理想的で、一番難しいとおっしゃいます。
 
 
そこで「花火玉」(はなびだま)
どのようにして作られるのかを
見せていただきました。
 
「花火玉」(はなびだま)は、
2.5号玉(直径7.5cm)から10号玉(直径30cm)までありますが、火薬の力を使うと、
約1000倍位の大きさの花火が開きます。
 
「花火玉」の中には、「星」(ほし)と呼ばれる火や煙を出しながら燃える火薬の粒と
「割薬」(わりやく)と呼ばれる
花火玉を破裂させ、「星」を点火・放出する
火薬の粒が詰められています。
「割薬」は籾殻に粉火薬をまぶしたものです。
 
「星」を造る工程を「星掛け」と言います。
星掛け機という回転する釜を使って、
「星」の芯になる掛け星を入れたら、
配合した火薬と水を入れて、
釜を回転させます。
釜が回転するうちに「星」の周りに
水分を含んだ火薬が付着して、
どんどん大きくなります。
 
「星」がある程度大きくなったら乾燥させ、
また「星掛け」をします。
これを必要な大きさになるまで繰り返します。
「星」は全てを同じ大きさに揃えないと
丸い光を描くことが出来ないため、
毎日少しずつ火薬を重ねては乾燥するという
作業を繰り返します。
この作業だけでも2~3カ月は掛かるそうです。
 
次は、球体を半分にした
「玉皮」(たまかわ)の内側に
「星」(ほし)と「割薬」(わりやく)
組み立てていく「玉込め」という作業に
入ります。
球体の片側には導火線を通す
「親道」(おやみち)があります。
そこに工房独自の並べ方で「星」を並べます。
もう片方には「親道」はありませんが、
こちらも同様にして「星」を並べていきます。
 
半球をひとつに合わせ球形になった
「花火玉」の表面に丈夫なクラフト紙を
1層ずつ十分に乾かしながら
何層も貼り重ねていく「玉貼り」です。
何層も紙を張ることで、
強度は勿論、キレイに均等に貼ることで
「割薬」の力が均等に作用し、
キレイな球形の花火が開くことになります。
 
職人の技が集まり、
数か月をかけて1つの花火が出来上がります。
 
マルゴー
  • 住所:〒409-3602
    山梨県西八代郡市川三郷町山保6263
 
 
 

花火大会の現場


www.youtube.com

 
花火工房「マルゴー」さんにとって
令和5年初めての花火大会に密着しました。
長野県軽井沢の「長倉神社」で行われる
「長倉納涼花火大会」です。
この日打ち上げられる花火は1000発、
全て音楽に合わせて打ち上げるそうです。
 
「花火師」さんは、
花火を製造するだけでなく、
造った花火をどう打ち上げるのかを考え、
花火大会の準備や運営といった
裏方の仕事まで務めなくてはなりません。
 
「花火玉」(はなびだま)を「煙火筒」(はなびづつ)と呼ばれる筒に入れたら、導火線に点火して
打ち上げます。
昔は人の手で1つ1つを点火していましたが、
1980年代に電気導火線を引いて離れた位置から操作盤で制御するシステムが導入されました。
そして現在では、コンピューターで
打ち上げのタイミングをプログラミングして
打ち上げを行っています。
 
花火大会当日、現場では、
プログラムしてある点火の順番通りに
「煙火筒」(はなびづつ)を設置して配線。
およそ2時間かけ、全ての準備が整いました。
 
そして夜7時30分、いよいよ
軽井沢の夏を告げる花火大会が始まりました。
音楽に合わせ、まずは菊の花火が上がります。
キレイな円を描いています。
下から見ても、
とてもキレイな円が広がりました。
 
 

美の壺2.30秒にかける情熱

 

「手筒花火」


www.youtube.com

 
愛知県豊橋市にある
創建1000年以上の歴史のある吉田神社では、
7月第3週の金曜日に「豊橋祇園祭」が
行われています。
 
「豊橋祇園祭」は、江戸時代より
「三州吉田の花火祭り」として
全国にその名をうたわれた大花火大会で、
今も、厄除け、疫病、無病息災を願って
「手筒花火」(てづつはなび)が執り行われて
います。
 
「手筒花火」(てづつはなび)とは、
節を抜いた孟宗竹の中に火薬を詰めたもので、
天空に響き渡る豪快な火花が噴出する中、
降り掛かる火の粉の熱さに耐えながら
男性達は竹筒を脇や腹に抱えて打上げます。
 
 
「手筒花火」の原形は、情報伝達手段である「狼煙」(のろし)と言われています。
江戸時代、家康ゆかりの地である岡崎を中心とした三河地方では、徳川幕府が唯一火薬の製造・貯蔵を公式に許可していました。
そのため、花火は昔から三河地方で発達し、
全国に「三河花火」は広まっていきました。
現在でも三河周辺には、
煙火(はなび)の問屋が多く集まっています。
 
準備が始まるのは、本番のおよそ1ヵ月前。
「手筒花火」の最大の特徴は、打げ手が
竹選びから火薬の仕込み、打ち上げまでの
全工程を行うことです。
 
まず、竹を伐採することから始まります。
作業をするのは地元の青年達です。
休日や仕事の終わった夜に行います。
見た目が白い竹はまだ弱いため、
節が黒くて、真っ直ぐに立っている
肉厚のものを選びます。
 
切り出した竹を1mの長さに揃えて切ります。
竹が火薬の勢いで割れないようにするために
隙間なく縄を巻いていきます。
そして、最後に竹に火薬を詰めたら、
「手筒花火」が完成しました。
 
  • 住所:〒440-0891
    愛知県豊橋市関屋町2
 
 
 

「手筒花火」の神前放揚
(「吉田神社」神事長・都築宏亮さん)


www.youtube.com

 
「手筒花火」は、「豊橋祇園祭」の初日、
吉田神社の境内で行われます。
 
本番当日、多くの観客が見守る中、
今年は8つの町内から
およそ250本の「手筒花火」が3時間かけて
神前放揚(しんぜんほうよう)されます。
(「放揚」:花火を揚げる)
 
 
多くの観客が見守る中、30秒で1つの手筒が
次から次へと放揚がされ、
最後に「ハネ」と呼ばれる
筒の底が破裂して物凄く大きな音が鳴ります。
 
 
そして3時間後、最後を飾るのは、
吉田神社の神事長(じんじちょう)の都築宏亮さん
です。
都築さんは、19歳の頃から「手筒花火」に関わり今年で12年になるそうです。
「手筒花火」は大変だけれど、1度上げると
達成感があるので、クセになるとおっしゃ
います。
 
「一瞬で終わるけれど、
 手筒のかかげ方や上げ方を
 自分なりに考えていくと、
 だんだん手筒花火が好きになるので、
 毎年上げている。」
 
 
都築さんは、1ヶ月をかけて自ら作った
「手筒花火」を構えて、僅か30秒後、
最後にシュボッと爆発音が鳴って終わりです。
 
「すごく熱かったが、楽しくてまたやりたい」
豪快な火花は、青年達の情熱のようですね。
 
 
 

美の壺3.五感で感じる

 

「手持ち花火」
(「長谷川商店」3代目店主、
花火コーディネーター 長谷川公章さん)


www.youtube.com

 
東京浅草橋の花火の名店「長谷川商店」は、
夏は「花火コーディネーター」がいる店として
全国から珍しい花火を求めてたくさんの人が
集まって来る夏限定の花火店です。
 
お店には、数え切れない程の多種多様の
花火が並んでいて、「線香花火」だけでも
10種類以上もあります。
 
最近は花火の質は勿論のこと、
パッケージがおしゃれな花火も増え、
大人も楽しめるアイテムも続々誕生している
ようです。
 
その中でも人気のあるのが
手で持って使用するタイプの玩具花火の
「手持ち花火」(てもちはなび)です。
 
「手持ち花火」には、
持つための棒あるいは紐が付いているものや、
全体が筒状(手持ちパイプ)になっているものがあり、大きく「ススキ花火」「スパーク花火」「線香花火」の3タイプがあります。
 


www.youtube.com

 
「ススキ花火」
火薬の入った細長い筒状の紙の管を竹棒に
巻きつけた花火です。
火をつけるとまるでススキの穂のように「シューッ」という大きな音を立てながら、
前方へ明るい光を放ちながら前方に噴き出します。
1本でたくさん色が変化する多変色花火が
多いです。
 
「スパーク花火」
火花の形は「ススキ花火」と違って、
雪の結晶のような形の細い火花が、
四方八方へパチパチと飛び散るのが特徴です。
持ち手が針金のタイプは煙が少ないので、
屋内でケーキやパフェに挿して、誕生日の
お祝いなどの演出によく使われています。
「スパークラー」「スパークル」とも呼ばれます。
 


www.youtube.com

 
3代目店主の長谷川公泰さんは、
「ススキ花火」「スパーク花火」どちらの
手持ち花火も小さなお子さんから年配の方まで誰もが気軽に楽しめるおもしろい遊びだと
おっしゃいます。
 
長谷川さんは、「花火コーディネーター」と
いう肩書きを持つ花火のエキスパートでも
あります。
 
「花火コーディネーター」とは、
参加人数や予算、場所に合わせて
玩具花火を用いて演出するお仕事です。
 
この日も地元の「台東区立育英幼稚園」の
夕涼み会の最後に行う花火大会の
コーディネートしていました。
 
園児のお父さんにも手伝っていただきながら
準備をします。
長谷川さんは、子供から大人まで
1人でも多くの人に花火を感じ、
魅力を知ってもらいたいと考えています。
 
  • 住所:〒111-0052
    東京都台東区柳橋2丁目7−3
  • 電話:03-3851-0151
 
 

「線香花火」
(「筒井時正玩具花火製作所」筒井良太さん)


www.youtube.com

 
「手持ち花火」の中で
最も親しまれているのが「線香花火」です。
「線香花火」は、江戸時代、
藁で出来た花火を香炉に立てた姿が、
線香に似ていることが名前の由来です。
 
 
福岡県みやま市にある、昭和4(1929)年創業の「筒井時正玩具花火製造所」は、
国内では3軒しか残っていない
国産の線香花火メーカーの1つです。
現在は、3代目の筒井良太さん・今日子さん
御夫妻を中心に玩具花火製造をしています。
 
 
作るのは、2種類の「線香花火」です。
西日本で親しまれてきた「スボ手」と
東日本で親しまれてきた「長手」です。
「線香花火」は燃える時の姿から
「牡丹」とも呼ばれることから、
それぞれ「スボ手牡丹」「長手牡丹」と
言います。
 
 
「スボ」は稲藁の芯を意味する
「わらすぼ(わらしべ)」のことで、
その名の通り、西の線香花火は
軸に藁を使っています。
西日本では、元々稲作が盛んだったため、
藁を使った「スボ手」が生まれたのではないかと言われています。
 
一方の「長手牡丹」は、
長い和紙を手で撚る様子から
ついたと言われています。
東日本に「線香花火」が伝わった際に、
関西ほど藁が多くなく、
その一方で紙すきが盛んだったため、
藁の代用品として紙で火薬を包んで
作られたのではないかと言われています。
「長手」は関東地方を中心に親しまれ、
その後、スタンダードな「線香花火」として
全国に広がっていきました。
 
 
筒井さんによると、「長手」は
火薬の量や火薬を和紙に巻きつける作業が
大切なのだそうです。
 
 
「線香花火」は昭和50年代頃まで、
国産のものが主流でしたが、
1990年代に中国から輸入品が
格安で入ってくるようになると、
国産の商品は減少していきます。
「線香花火」の三大産地(信州・三河・福岡)では相次いで、生産を中止。
平成11(1999)年、福岡県八女市にあった
筒井良太さんの親戚が営んでいた製造所の
廃業を最後に姿を消します。
 
 
筒井時正玩具花火製造所」では、元々、
「線香花火」は作っていませんでしたが、
良太さんはこの親戚の所で修行を行い、
今では日本で唯一、ワラスボで出来た
西の「線香花火」を製造する工場となり
ました。
 
 
筒井さんに「線香花火」を楽しむコツを
教えていただきました。
「スボ手」は火のついた方を
上に斜め45度程度の角度で持ちます。
風があった方がキレイになるそうで、
風がない時は息を吹きかけるとよいそうです。
一方「長手」はこよりを持って、
火のついた方を下に垂らします。
 
 
作り手の和紙の撚り方、
遊び手の花火の持ち方、気象条件で、
火花の出方が変わって来るそうです。
目で、耳で楽しみ、火薬のニオイを感じ
五感で夏を愛でるのが「線香花火」です。
 
 
「線香花火」以外にも、
「手持ち花火」など様々な種類の花火を
造っています。
デザイナーと共に新しい花火の開発や
工場併設のショールームの設置などを行い、
また、玩具祭りの企画、
材料となる藁のためのお米作りなど、
国産の花火を後世に繋いでいくために
様々なことに取り組み続けています。
 
 
  • 住所:〒835-0134
    福岡県みやま市高田町飯江596
 
 

<参考> 美の壺「花火」

<初回放送日:平成19(2007)年8月3日>

f:id:linderabella:20210513110059j:plain