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東京くみひも(とうきょうくみひも)

 
「組紐」(くみひも)は、
色とりどりの絹糸を交互に組み上げて作られる
日本の伝統工芸です。
全国で生産される手組みの9割は、
三重県で作られている「伊賀組紐」です。
 

 
なお「東京くみひも」は、
公家社会を背景にした京都の華美な「京くみひも」とは対照的に
武家社会と町人文化の影響を受けた
江戸の「わび・さび」を感じる渋好みの色合いを特徴としています。
 

 
 

1.組紐(くみひも)の歴史

 
日本は世界でも珍しいくらい「紐」(ひも)の発達した国だと言われ、
結ぶは単に物を縛ったり、継いだりするだけでなく、
結び方、結ぶ紐の色結びの配置などにより、
吉凶、性別、身分などを表現するものです。
 
≪参考≫紐の種類
紐は大きく分類して
「組紐」「織紐」「撚紐」の3種類あります。
 
「組紐」(くみひも)
 
数十本合わせた糸の束をいくつかの玉に巻き、
斜に交差させながら組んだもので、伸縮性があります。
和装の帯締めの他、さげ袋の紐や、
お茶道具を包む仕覆と呼ばれる袋物の締め緒など、
非常に多くの場面で使われています。
 
「織紐」(おりひも)
 
縦糸と横糸を直角に合わせ織ったもので、
伸縮はほとんどありません。
この織紐の多くは「真田紐」と呼ばれるものです。
 
「撚紐」(よりひも)
 
糸の束を撚り合わせたもの。
綱引きの縄のように撚りをかけて作られる「撚紐」は、
紐の歴史の上でも一番古いものと言われています。
鳥居にかかる「締め縄」、
不動明王が手にもたれている「五色の撚りひも」、
お相撲さんが腰に締める「まわし」などとして
使われています。
 
 
そんな「紐」(ひも)の歴史は大変古く、
縄文土器に撚り縄を使った紋様が施されていることから、
縄文時代には、既に撚り紐や簡単な組紐(くみひも)が使われていたと
言われています。
 

 
奈良時代には仏教伝来ともに
仏教の伝来に伴い、大陸より組紐技術が伝えられたとされ、
経典や袈裟などに用いられました。
当時の遺品は、法隆寺や正倉院に収蔵されています。
 

 
平安時代に入ると、大陸からの技術に日本人的な洗練さが加わり
色彩・意匠が繊細優美なものとなり、
日本独自の組紐技法が確立したと考えられています。
服飾を飾る平緒(ひらお)や袖括(そでくくり)の緒、
冠の緒、巻物、箱類、楽器、調度などに用いられる様々な紐が作られ、
その用途範囲が極めて広くなりました。
 

 
鎌倉時代に入ると、武士の台頭により、
組紐は武士の鎧兜よろいかぶと縅糸おどしいとや刀の柄巻つかまき、刀を下げる下緒さげおなど
武具に使うことが増え、
戦闘時にも耐え得る、堅牢で実用的な組紐作りの技術が発達しました。
 

 
室町時代になると、茶道の隆盛により、
仕覆しふくの緒や掛軸の啄木たくぼく(掛物の掛緒かけお巻緒まきお)など、
わび・さびの思想から意匠も比較的渋くなり、
桃山・江戸時代には、庶民にも広がりました。
 

 
戦国時代には鎧の縅糸(おどしいと)などに用いられ、
江戸時代は刀剣の下箱の飾り紐として需要が急増しました。
 

 
 

2.「東京くみひも」の歴史

 
「東京くみひも」の起源は江戸時代以前に遡ると言われています。
徳川幕府の開設により、武家の中心地として武具の需要が高まり、
自然と武具装身具の職人も幕府の保護を受けて江戸に居住したことから、
江戸が一番の産地となりました。
 
組紐を作るための様々な組台が作られると組み方も多様になり、
より美しい色彩や模様も考案がされました。
こうした組紐の技術は、
当時の武士の生業として行われていたと言います。
 
≪参考≫くみひもの種類
「組紐」は、紐の形により大きく分けて、
「平組」「丸組」「角組」の三種類があります。
 
「平組」「平打」
  
最も一般的なタイプが、
きしめんのような平たい形状をしています。
帯締めでは幅が広いものほど格式が高いため、
第一礼装にも使用されます。
平らな紐は厚みがあるので締めた時の安定感が高いため
結びやすく、締めやすいのが特徴です。
靴紐やネックレスにも使われています。
 
「丸組」「丸打ち」
  
円筒に組まれた丸い形状なので裏表がなく、
シンプルなタイプでも可愛らしい印象があります。
帯締めでは、「平組」の次に格が高く、
結んだ形を整えやすいため、着付け初心者でも結びやすいです。
他には、巾着袋の紐やブレスレットに多く使用されている組紐です。
 
「角組」「角打ち」
  
紐の断面が四角く、正方形の形状になっています。
「帯締め」では、3種類のうちで最も格式が低いため、
紬などの普段着に用いられます。
ストラップなどに多く用いられている組み方です。
 
「飾り結び」
  
完成した組紐を結んで、花などの形を作ることを言い、
様々な種類があり、込められた意味や用途も異なります。
 
 
中期以降は一般庶民に普及し、
実用的な物から、次第に華美、精巧なものが作られるようになりましたが、
幕府の度重なる「奢侈禁止令」もあってか、
さりげない「粋」を好む気風が生まれ、
「わび」や「さび」の要素を加えた精緻なものへと発展しました。

羽織紐が量産され、
印籠やたばこ入れの紐などにも利用されるようになりました。
小袖が流行してくると、帯や腰紐、
江戸時代末期には女性の帯締めとして使われ、
現在でも帯締めとして広く採用されています。
 

 
しかし明治時代に入り武士の世は終焉。
「廃刀令」が出されたことで需要が激減し、
組紐業界の存続が危ぶまれたことがありました。
そんな折、芸者が「お太鼓結び」と呼ばれる
組紐を使った帯の結び方を考案し、
それが広まっていったことで組紐の需要は復活し、
明治、大正、昭和と、
帯締、和装小物の世界に類のない美しい製品が作られてきました。
 

 
現在、組紐の生産数は減少しつつありますが、
それでも絹糸の心地良い手触りやデザイン性、頑丈さを支持する人は多く、
携帯電話のストラップやスニーカーの紐、犬用のリードなど、
新たな製品も作られています。
人工衛星のパラシュートの紐を作る業者もあるそうです。
また、世界的な居合道ブームにより、
居合道に使用する刀の下緒の需要が多くあるそうです。
 

 
 

3.「東京くみひも」の特徴

「東京くみひも」は、関東地方、東京都の地域ブランドで、
東京都台東区、杉並区などで生産されていて、
東京都により「東京の伝統工芸品」に指定されています。
 

 
糸と糸とが交差する組み目と
「わび・さび」と言われる渋い味わいと気品の高さが
「東京くみひも」の特徴です。
 
 

4.「東京くみひも」の基本的な作業工程

「東京くみひも」は、
まず絹の白糸を色糸に染め上げる「糸染め」をしてから
専用の台に糸をかけて組み上げていきます。
「糸染め」は、「無地染め」「ぼかし染め」「段染め」によると
決められています。
 
(1)糸繰り
染色して乾燥させた絹糸を
「小枠」(こわく)と呼ばれる巻き芯に巻き取っていきます。
 
(2)へきり・糸合わせ
組む紐の太さや重さに合わせて、
(1)「糸繰り」で小枠に取った糸を何本かずつ合わせてまとめる
「糸合わせ」をします。
 
(3)撚り掛け
「糸合わせ」した糸を「八丁」(はっちょう)という機械にかけて
(よ)っていきます。
 
(4)経尺
作成する組紐に応じて、
糸の長さや巻き取る枠の数、束ねる糸の本数を調整します。
きれいな組紐にするには、正しく経尺を行う必要があります。
 
(5)玉付け
経尺して整えた糸を鍾(おもり)のついた「玉」に糸束を巻きつけ、
糸を巻いた「玉」を組み台にセットします。
ここまでの準備が一番重要な仕事
 
(6)組み上げ
模様や組紐の種類によって専用の組み台を使い分け、
職人が一本一本、手作業で紐を組んでいきます。
複雑な柄になると、熟練の職人が集中しても
1時間で数㎝しか組むことが出来ないそうです。
 
(7)組み目をチェック
時々組み上がる組み目を
目が飛んでいないか、ゆがんでいないかなどをチェックします
万一、目が飛んでいたら、その部分まで解いて組み直します。
 
(8)房付け
所定の長さに組み上がった紐の端を絹糸でしっかりくくって留め、
同色の糸で少し房のボリュームを足して房をつけます。
櫛できれいに揃え、蒸気でのばして出来上がり。
 
(9)湯のし
房に水蒸気をあて、縮みやシワを伸ばして整えます。
 
(10)仕上げ
品質表示を取り付けたり、房を保護するセロハンを巻いたりして、
組紐を仕上げます。
 
 
≪参考≫様々な組台
組紐を組み上げるための作業台は、
角台かくだい」「丸台まるだい」「綾竹台あやたけだい」「重打台じゅうちだい」「高台たかだい」「内記台ないき」「篭打台かごうち」の7種類に分類することが出来ます。
現在使用されているのは主に
角台、丸台、綾竹台、重打台、高台です。
 
 
「角台」(かくだい)
角形の鏡(上板)、 台板、組み上げた紐を吊る
滑車等が付けられた構造の組台です。
玉数が少ない紐組みに用いられます。
 
「丸台」(まるだい)
円形の鏡(上板)、足、台板からなる組台です。
鏡中央の穴から組んだ紐を吊り下げる構造になっています。
簡単な組みから複雑な唐組など使用し得る組み台です。
 
「綾竹台」(あやたけだい)
木枠に矢羽根型の棒を掛けた構造の組台で、
経糸(横糸)を掛け、上下の経糸の間に緯糸(縦糸)を入れて、
ヘラで打ち込みながら組み上げます。
平組で多様な柄作りに適した組み台です。
 
「重打台」(じゅうちだい)
平組の玉数が少ないものを組み上げるための
シンプルな構造の台です。
例えば髪の毛を結ぶ際に一般的に三つ編みを施します。
これは三つの糸の束を交差させ組み上げる
「三つ組」という組紐と言えますが、
更に玉数が増えて複雑になったものが重打組です。
 
「高台」(たかだい)
大型の木枠に左右2段に付けられたコマに玉を掛け、
「綾書き」と呼ばれる組み方で、
竹製のヘラで打ち込みながら組み上げます。
上下2段の糸の色を変えて柄出し(柄を描く事)が出来ます。
複雑な柄出しに適しています。
丸台と共に多用される組台です。
 
「内記台」(ないき)
歯車により糸を掛けた木の葉状の板を回転させながら
組み上げます。
江戸後期に開発されたと言われる
半自動的な組み作業が可能な組台ですが、
複雑な構造のため、今日ではほとんど用いられる事が
少なくなりました。
 
 
江戸東京組紐
龍工房体験展示館
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