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美の壺 「粋を極める 男の靴」<File 455>

<番組紹介>
男性のオシャレは足元から!
 ▽アメリカ・イギリス・イタリアの美意識の違いとは?
 ▽世界中から顧客が訪れる、
  フルオーダーメードの工房の技と靴作りの神髄とは?
 ▽イタリアのだて男、パンツェッタ・ジローラモさんが、
  愛用の靴に合わせたカジュアルコーディネートを披露!
 ▽メンズファッションイラスト界の重鎮は、
  靴を育てる楽しみを伝授!
 ▽半世紀前の靴を輝かせる、
  靴磨き世界選手権チャンピオンの技とは?
 
<初回放送日:平成30(2018)年09月07日(金)>
 
 
 
男性の足元を飾るファッションアイテム靴。
中でも革製の靴は、ビジネスだけでなく
カジュアルなオシャレにも欠かせません。
男のオシャレは足元から。
今回の「美の壺」は、男の靴の魅力に迫ります。
 
 

美の壺1.靴の命は細部に宿る

 


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東京神宮前にある靴のセレクトショップ
World Footwear Gallery(ワールド フットウェア ギャラリー)には、
世界中から選りすぐられた靴が並んでいます。
 
一見同じように見えても、革靴には色々なスタイルがあります。
 
プレーントゥ

 
つま先に縫い目や飾りがないシンプルな靴です。
なお、つま先部分に横一文字の線が入っているものは「ストレートチップ」、
アルファベットの「W」のような模様が入っているものは
「ウイングチップ」と呼ばれます。
 
革靴初心者にとっては、
シンプル故に幅広いシーンで着用出来る
「便利な汎用革靴」になります。
一方革靴上級者にとっても、
シンプル故に素材やシルエットにこだわるだけ差が出る
「深みのある靴」になります。
 
プレーントゥの靴の「アッパー」(足の甲を覆う部分)は
外羽根・内羽根・ホールカットの3種類あります。
 
・外羽根プレーントゥ

 「羽根」と呼ばれる靴紐を通す部分の革が
 甲の部分に乗って開いているデザイン。
 活動的なイメージで、ビジネスからカジュアルまで使える
 
・内羽根プレーントゥ

 羽根部分が靴の内側に格納されていて、
 収まりのよい印象のデザインなので、
 上品かつ行儀がよいイメージがあり、
 フォーマル度はかなり高め。
 
・ホールカット

 継ぎ目が踵部分にしか無く、ほぼ一枚の革で構成された革靴。
 カジュアルな柄物よりはシンプルなきれいめスタイルが合う。
 
・モンクストラップ・プレーントゥ

 アルプス地方の修道士=モンクが履いていたサンダル。
 それを原型にした革靴が1930年代にタウンシューズとして登場。
 足の甲を締める仕様になっていて、金属バックルがついています。
 
 
キャップトゥ(Captoe)
つま先に横一文字の縫い目があるタイプです。
つま先にキャップを被せているようにも見えることから
「キャップトゥ(Captoe)」と呼ばれたり、
日本的に「一文字」(いちもんじ)と呼ばれたりしています。
 
フルブローグ(ウイングチップ)

 
つま先が「W」状にブローギング(穴飾り)されており、
「メダリオン」
(革靴のつま先周辺に施された沢山開けられた小さな穴飾り)、
「パーフォレーション」
(靴の縫い目にそって大小の穴を組み合わせた穴飾り)、
「ピンキング」
(ギザギザの切り替え)
のような装飾が施されているものです。
 
スコットランドやアイルランドで
湿地で使う作業用の靴に
重ねた革の通気性と水はけのために付けられた穴が
飾りとして広まったとされ、
靴についた傷をを目立ちにくくする効果もあります。
イギリスでは「フルブローグ」、
アメリカでは「ウイングチップ」と言います。
 
 
靴のスタイルは多種多様ですが、
それぞれに相応しい場面があります。
 
 

服飾ジャーナリスト・飯野高広さんおすすめの靴


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靴に関する著作を多く出している飯野高広さんに
様々なシーンに合う靴の選び方を教えていただきました。
 

 

 
例えば冠婚葬祭にベストなスタイルとは。
「一番相応しい形とされるのは、『キャップトゥ』。
 特に『内羽根式』のものが一番相応しいとされています」。
靴の靴紐を通す穴(はとめ)部分の革のことを
「羽根(レースステイ)」といいます。
 
「紐靴」は、主に「外羽根そとばね式」と「内羽根うちばね式」とに分けられます。
靴紐の穴が開いた羽根が
縫い付けられていて全開しないのが「内羽根式」、
羽根が全開するのが「外羽根式」です。
 
 
【外羽根の特徴】

  • 羽根が甲の革を覆うように縫われている
  • 紐を解くと羽根が開く
  • 脱ぎ履きがしやすい
  • 装飾感があり、アクティブな印象
 
【内羽根の特徴】

  • 羽根が甲の革に縫い込まれている
  • 紐を解いても羽根がピタッと閉じている
  • 脱ぎ履きはしづらい
  • 品があり、スマートな印象
 
最も格式が高いとされるのは、
イギリス王室発祥と言われる「黒の内羽根式キャップトゥ」です。

 
 
「フォーマル」にも「ビジネス」にも使うなら、
「黒の外羽根式プレーントゥ」がおすすめだと飯野さん。

 
「『黒のプレーントゥ』と申しましても、実は様々な形があります。
 国毎に大きな特徴があるんだと思います。」
その違いについて、三つの国で比較してみましょう。
分かりやすいのが「つま先」。
反り返りの高さが違います。
「アメリカの靴は、イギリスの靴に比べると上に反る傾向があります。
 これは作る時に歩きやすさを重視している設計です」

 
歩きやすさなど合理性を追求したアメリカ。
伝統の形を守り続けるイギリス。

 
そしてつま先のそりが一番低いのがイタリア。
「美しさを、歩く時以上にバシッと立っている時。
 その立ち姿の美しさという意図があるのでしょう」
つま先は低く、甲の部分で上昇する洗練されたシルエット。
このラインの美しさはイタリアならではですね。

 

東京千駄ヶ谷にあるフルオーダーメイド靴店
HIRO YANAGIMACHI Workshop

 
東京千駄ヶ谷にある靴専門店
「ビスポーク」(オーダーメイド)で靴を誂えることの出来る
メーカーです。
 
    
 
「ビスポーク(Bespoke)」とは、
「オーダーメイド」のことを指します。
その語源が「Be Spoke」という言葉から来ているように、
履き手と作り手が語り合い、共に一つの靴を作り上げていくことを意味します。
 既製品を意味する「レディーメード(ready made)」の
対になる言葉です。
また、類義語に「スミズーラ(Su misura)」がありますが、
こちらは「あなたのサイズに合わせて」という意味であり、
ビスポークのように客と職人が対話をしながら靴を作り上げることを指してはいません。
 
柳町弘之さんは、昔ながらの伝統的な靴作りの手法で、
一足一足、手作業で靴づくりを行う、
世界中から顧客が訪れる靴職人です。
 
 
「ビスポーク」の靴作りで最初に行うのは「採寸」です。
足の特徴を正確に記録していきます。
それから、「ビスポーク」の靴職人と
どのような靴を作るのかを話し合います。
デザインや革の種類は勿論、
どこに拘りたいのか、どのような場面で履くのか、
履き心地に至るまで徹底的に話し合います。
 

 

 
「靴作り」が始まります。
まずは「沓形」(くつがた)づくり。
採寸を元にして、客の足に合わせた足の立体模型を
数㎜単位で細かく調整しながら制作します。
従来は木で作った「木型」が主流でしたが、
最近は「樹脂製」が多くなっています。
 

 
次に、使う「革」のチェックを行います。
これがなかなか大変作業になります。
「血筋」と呼ばれる血管の痕や「傷」を見つけ、
印をつけます。
そして「血筋」や「傷」を避けながら
一つ一つの「パーツ」を切り出していきます。
 

「血筋」は、革の薄い部分や、血管の太い部分などに現れ、見た目は筋状をしています。
 
 
切り出した「パーツ」を縫い合わせて
「アッパー」と呼ばれる足の甲を覆う靴の上部を作ります。
まず「アッパー」を靴型に被せたら、
その形に合わせながら底に固定していきます。
この作業を「釣り込み」(つりこみ)と言います。
足のカーブに沿って、歪みやシワが出ないように、
専用のハンマーで叩きながら靴の形を作っていきます。
人の足に合わせた靴は左右で微妙に形が違います。
その違和感を感じさせず、美しく仕上げるのが職人の技です。
 

「ウェルト(welt)」と呼ばれる細い帯状の革を
「アッパー」と「アウトソール(靴底)」との境界線に、
靴の外周に沿うような形で1針ずつ縫い合わせます。
 

 
「ウェルト(welt)」には
靴を長持ちさせる大切な役目があります。
靴底はウェルトに縫い付けられ、
この糸を解けば「アッパー」を傷めずに
靴底を繰り返し交換することが出来ます。
 
「ヒール」も革を一枚一枚積み上げて作ります。
最後に革の断面や縁を、鉄ごてと蝋で仕上げ、
全体を磨き上げて完成です。
 

 
細部まで徹底的にこだわることで、
その人の足にフィットする靴は出来上がりますが、
柳町さんは、ただ足に馴染むだけでは満足出来ないと
おっしゃいます。
 
「ここで作っているのは、
 足があって、靴があるという順番になります。
 ですから出来上がった靴というのは、
 足にフィットすることは勿論ですけども、
 気持ちにフィットして
 初めて自分が履きたい靴が出来ると思います。」
 
履く人の気持ちに寄り添い、数ヶ月かけて作った靴。
まるで体の一部のように感じて欲しい。
それが靴職人の願いです。
 
  • 住所:〒151-0051
       東京都渋谷区千駄ケ谷2丁目6-1
       エストリル’93
  • 電話:03-6383-1992
 
 
 

美の壺2.革にくるまれる心地よさ

パンチェッタ・ジローラモさん

 
カメラの前でポーズを決める
イタリアの伊達男パンチェッタ・ジローラモさんは、
ファッション誌の表紙を連続して飾る男性モデルとして
ギネス記録を更新中です。
 
ジローラモさんはファッションリーダーのお一人で、
遊び心のある靴をカジュアルに履きこなしていらっしゃいます。
 
洗練されたシルエットが際立つフランス製の「フルブローグ」には、
スーツをちょっと着崩して合わせます。
「ちょっとデザインが入ってるからキレイです。」
 
 「フルブローグ」はつま先にウイング(羽)のような飾りが
 施された革靴を指します。
 アメリカでは「ウイングチップ」といいます。
 

 
休日によく履くのはスエードの「ローファー」です。
緑と黄色のコントラストが楽しいオフを演出してくれるのだそうです。
「結構ライトグリーンで下にイエローがある。ちょっと崩した感じで」
リラックスしたい休日に最もこだわりたいのが、履き心地です。
 

 
「夏は履きやすい靴。ソールも薄いゴムつけてキレイですね。
 こういう靴だったら裸足で使うと凄い気持ちイイ!
 日本人のサラリーマンとか、やっぱりおススメします!」
 
 

東京神宮前にある靴の専門店「WFG」

東京神宮前にある靴の専門店「WFG」では、
最近はカジュアルな靴にも力を入れています。
その代表が「ローファー」です。
「ローファー」とは、"靴紐がついていない"革靴のことを
指します。
1920年代に英国王室や貴族階級の室内靴としていたもので、
「怠け者」という意味の「ローファー(loafer)」という
名が付けられたそうですが、靴紐がない分、
他の靴と比べて着脱が楽なこと、更にデザインの良さから、
外履き用途で人気を博し、現在、幅広い世代に人気の靴です。
 
また、紐靴に比べるとややカジュアルな位置づけなため、
冠婚葬祭など、フォーマルスタイルが求められる場には
相応しくありませんが、
近年はビジネスシーンで履かれることが一般化しています。
 

 
そんなローファーの中でも、
履き心地の良さにこだわった製法があります。
「『モカシン製法』という靴の製法がありまして、
 靴を袋状に作るもので、
 最初から足当たりがソフトで履きやすい製法です。」
 

 
「モカシン製法」で作られたローファー。
アメリカ先住民の袋状の靴が起源と言われます。
 

 
「モカシン(moccasins)」とは、スリッポン形式になっていて
側部と底部が一枚革で作られ、U字の形をしたアッパーを
「モカシン縫い」で縫合した靴のことです。
「スリッポン」は、「足を滑り込ませる(SLIP-ON)だけで
履ける」という意味から命名された靴です。
「デッキシューズ」は、船の甲板で使用していた靴です。
渇いた状態と変わらない滑りを止める力が発揮出来るように、切れ込みなどがアウトソールに施されてていて、
デッキとソールの間に溜まった水を排泄する仕組みになっています。
 
 

千葉県鎌ヶ谷にある靴工場「世界長ユニオン・千葉工場」


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世界長ユニオン」は、長年、千葉市・鎌ヶ谷の地で
紳士靴を作り続けている老舗メーカーです。
昭和12(1937)年に、
「中小企業の集まりでも力を合わせれば、
 世界の長になれる」ということで
「世界長ゴム株式会社」に商号が変更されました。
 
 
千葉市鎌ヶ谷にある靴を作る工場では、
革のパーツの裁断をコンピューター制御の機械により
行っています。
これにより、コストを抑えながら量産することが出来ます。
 

 
裁断された「ローファー」のパーツを縫い合わせて
「アッパー」を作ります。
「モカシン製法」では、
靴型を下から1枚の皮で包むように釣り込みます。
釣り込んだ後は一旦仮止めし、
甲のパーツを当てて仮止めを外しながら縫い付けていきます。
 

 
一番難しいこの工程をこなすのは、この道45年の荒井健夫さんです。
柔らかい革を使っているため、
機械ではキレイに仕上がらないのです。
荒井さんは、革の縁から1.5㎜ステッチの幅4.5㎜を
目測だけで正確に縫い付けていきます。
しわもよらず、早くて正確です。
機械を超えた職人技です。
縫い終わった「アッパー」はミシンで底付けします。
中を覗くと、中敷きがなく、皮が優しく足を包みます。
いつまでも履いていたい、足に寄り添う「ローファー」です。

 
 
 

美の壺3.履いて育てて自分のものに

 

イラストレーター・綿谷寛さん

 
日本を代表するメンズファッションのイラストレーター
綿谷 寛(わたたに ひろし)さんのお気に入りは
「ホワイトバックス(White Bucks)」です。
 

 
「ホワイトバックス」は、元々はイギリスの上流階級が
スポーツ観戦に好んで履いた靴だそうです。
綿谷さんは、家に帰ったら早速お手入れをします。
 
「ホワイトバックス」シューズとは、
「バックス(Bucks)=牡鹿」の革の表面を削って起毛させた
レンガ色の靴底(「アンツーカーソール」)の靴を言います。
19世紀後半に英国オックスフォード大学の学生達が、
スポーツ観戦の際に履いていた白い短靴に起源を持ちます。
この頃は「オクソニアン・バックス」と呼ばれていました。
それが上流紳士の船遊びや海兵用のスポーツシューズとして
広まっていきました。
当時のテニスコートの多くは、レンガ色の赤土コート
(アンツーカーコート)であったことから、
靴底が著しく汚れることからアンツーカーコートと同色の
ソール(靴底)が作られたようです。
 
 

 
綿谷さんは、昭和54(1979)年に
雑誌「ポパイ」でデビュー以来、今日まで、
日本のメンズファッションのイラストを牽引してきた
お一人です。
古き良きアメリカンスタイルを継承した写実的な作品が
世界的にも高く評価されています。
 
ファッションアイテムの中でも「靴」が大好きと言う
綿谷さん。
イラストに登場する「靴」はどれも精緻に書き込まれています。
時には自分の「靴」を目の前に置いて
徹底的に再現することもあるそうです。
 
靴好きとは言え、
新しい靴を次々に買う訳ではありません。
気に入った「靴」を愛情を込めて長く付き合うのが、
「綿谷流」です。
「ちょっと汚れた具合が、カッコ良かったりする!」
 
 

東京・南青山にある靴磨き専門店「Brift H」(ブリフトアッシュ)
(長谷川裕也さん)


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東京・南青山にある靴磨き専門店「Brift H(ブリフトアッシュ)は、
まるでバーのような空間ですが、並んでいるのは靴のクリームやブラシ。
そう、こちらは靴磨きの店です。
 
 
 
オーナーの長谷川裕也(はせがわ ゆうや)さんは、
高校卒業後、数々の仕事に就いた後、
ある時路上で靴磨きをすることを思いつきます。
休日には路上で靴磨きを継続し、22歳の時に独立。
2年後の平成20(2008)年に、カウンタースタイルにこだわった自身の店
Brift H(ブリフトアッシュ)を青山にオープンしました。
 

 

 
長谷川さんは、平成29(2017)年には、ロンドンで初開催された
「靴磨き職人の世界大会」で見事優勝して世界チャンピオンとなり、
その実力は折り紙つきです。
 
また、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも取り上げられるなど、
靴磨き職人として、今までにない斬新でユニークな活躍が
注目を集めてもいます。
 

 

 
予約していたお客様が、
お父様から譲られたという思い出の靴を持って来店されました。
「父が多分若い頃に履いていた靴だと思います」
 
靴の状態、持ち主の要望、手入れの頻度などにより
方法を変えながら、一時間程で磨き上げます。
ワックスをつけた水を少しだけ付けて磨くと、
更に靴が輝いてきました。
靴底の手入れも専用のオイルで入念に磨くと、
とても50年以上前の靴とは思えません。
これまでも、そしてこれからも思い出の靴をいつまでも大切に。
 

 
Brift H
(ブリフトアッシュ)
  • 住所:〒107-0062
       東京都港区南青山6丁目3-11-204
       PAN南青山
  • 電話:03-3797-0373
  • WEB予約
  • WEB SHOP
 

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