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イッピン「丈夫さと色の深さと 島根・石州和紙の製品」

<番組紹介>
島根県石見地方の和紙、石州和紙は丈夫さで有名。
赤ちゃんが初めて履く靴、
ファーストステップシューズをこの和紙で作った。
また染料に何度もつけた小銭入れも紹介。
島根県石見地方の伝統の和紙、石州和紙は丈夫なことで有名。
この紙を使って、赤ちゃんが初めて履く靴、
ファーストステップシューズを作った職人がいる。
靴を縫い合わせる糸までが紙。
記念に長くとっておくこの靴に込められた思いとは?
また丈夫なだけでなく、水にも強い。
そこから染料に何度もつけて、
複雑で深みのある色合いがだせる。
しかし、染料は種類によって染まるスピードが異なる。
職人の繊細な技が、そこで披露される。
 
<初回放送日:令和4年(2022)年7月29日>
 
 

 
 
島根県石見地方の浜田市三隅町は、山々が迫る場所で、
傾斜地には人々が苦労して切り開いた棚田などがあります。
その土壌は「楮」(こうぞ)に適していて、
古くから和紙製造を盛んに行ってきました。
「石州和紙」(せきしゅうわし)です。
 
「石州和紙」は「日本一丈夫な和紙」と称されています。
原料に使われている石州で栽培された「楮」(こうぞ)は良質と言われ、
とても強靱な紙が出来、揉んだり折ったりしても
洋紙などとは比較にならなぬ 丈夫さを持っています。
 
 
最盛期には、多くの家々で「石州和紙」を作っていましたが、
現在、担い手不足などの理由から、
「石州和紙」を扱っているのは4軒になり、
その原料となる「楮」を生産する農家さんも減少しています。
楮農家の酒井さんは
「『楮』を盛んに作っていた頃のあることが忘れられない、
 冬に刈り取った『楮』を蒸す作業を家族で行うのが楽しかった」と
おっしゃいます。
 
 
 

1.赤ちゃんのファーストシューズ
「『神の国から』紙のくつ」(手漉き紙工房かわひら・川平勇雄さん)

 
 
4軒しか残っていないユネスコ無形文化遺産・重要無形文化財の
「石州半紙」(せきしゅうばんし)の技術・技法を守る工房のひとつです。
地元産の「楮」(こうぞ)と「トロロアオイ」のネリでつくる手漉き紙を
山の中の一軒屋で作っています。
 


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「『神の国から』紙のくつ」を製作するのは、
石州和紙工房「かわひら」の3代目で、
職人の川平勇雄さんです。
 

 
勇雄さんのお父様、正男さんは「現代の名工」であり、
母の律江さんは和紙で作られた紡ぎ糸で
ストールやコースターなどを製作するなど、
工房を家族で営んでいらっしゃいます。
 
 
「ファーストシューズ」は、
赤ちゃんに初めて買ってあげる屋外用の靴のことです。
日本では、歩き始めたら購入するのが一般的ですが、
欧州では、「ファーストシューズ」を玄関に飾っておくと
幸せが訪れると言い伝えがあり、とても大切にされています。
 
そんな言い伝えもあるこの一品を、
1300年もの歴史を持つ
日本古来の和紙で作って祝いたいという思いから、
「紙のくつ」を製作しています。
 

 
「『神の国から』紙のくつ」は
100%地元産の「楮」(こうぞ)で作られています。
化学的な漂白剤や着色料、糊剤を一切使わず、
かがり糸や靴紐も紙で作られています。
丈夫な石州和紙ですから、勿論、実際に履くことも出来ます。
 
 
川平勇雄さんに「紙の靴」の制作の過程を見せていただきました。
 
他の地方では「甘皮」も取ってしまうのですが、
「石州和紙」は楮の樹皮だけでなく、「甘皮」ごと使用することが特徴です。
そのお蔭で、紙の繊維が長くなり破れにくくなるのです。
日本一丈夫な和紙と呼ばれる所以です。
「石州和紙」は真っ白ではなく、生成り色とか緑っぽい色をしていますが、
これも特徴です。
 
川平さんは、糸までも和紙で作りたいと思いました。
石州地方ではかつて紙で糸を作っていました。
その技術は忘れ去られていましたが、
川平さんのお父様・正男さんは独学でその方法を習得していました。
 
この石州和紙で作った糸が丈夫なのは、
石州和紙の伝統的な漉き技法にその要因がありました。
「石州和紙」の「流し漉き」では、
簀桁(すけた)を縦にしか動かさないため、
楮の繊維が縦に揃い、絡まり合うので縦方向に強くなり、
横から裂こうとしても裂けにくい和紙になるのだそう。
繊維を切らないように和紙を縦に裁断すれば、強い糸になります。
 
この紙の糸を使って「紙の靴」を仕上げていきます。
靴を掴む手に力が入り過ぎると型崩れするため、
優しく手に持ち、一針一針しっかり縫い合わせていきます。
こうして「神の靴」は完成しました。
 
 
代々続く石州和紙の工房に生まれた川平さんですが、
実は40歳近くまで、東京の築地の魚市場で働いていたそうです。
体調を崩して故郷に帰った時には腹はくくっていたそうで、
背水の陣で進むしか無いと考えていたとおっしゃいます。
 
転機は、でじまむワーカーズの商品開発プロデューサー寺本哲子さんとの
出会いでした。
寺本さんから、和紙を今の暮らしに活かすために
ファーストステップシューズを作りたいとの言葉に
川平さんは希望を見出したのです。
 
「使い捨てられることの多い和紙だが、
 いつまでも大切にしてもらえると思いました。」
 
  • 住所:〒699-3225
       島根県浜田市三隅町古市場683-3
  • 電話:0855-32-1166
 
 
 

小銭入れ(石州和紙久保田)

 
丈夫さで知られた「石州和紙」は、文化財の修復に活用されています。
江戸時代に描かれた貴重な障壁画の修復では、
絵の寿命を伸ばすために、
障壁画と壁の間に「下張り」と呼ばれる和紙を貼っていくのですが、
これに「石州和紙」が利用されています。
 
 
「石州和紙」はまた水にも強く、
かつて大阪商人は「石州和紙」を帳簿として利用していました。
火事が起こると、一早く井戸に投げ込んで焼失を免れ、
後で井戸から引き揚げても紙が破れたり溶けることがなく、
乾かすと以前のように使用出来るため、
商売が再開出来たとの逸話が残っているほどです。
 
 
「石州和紙」が丈夫なのは、他の産地では利用されていない
楮の繊維の間にある「甘皮」を利用するところにあります。
「甘皮」を一緒に漉き込むことにより、
「甘皮」が繊維同士を繋いで強度を高めるだけでなく、
水に浸しても簡単に解れません。
 
 
その水に強い性質を活用して生み出された和紙製品があります。
複雑で深みのある色合いの「小銭入れ」です。
「小銭入れ」は、様々な染料に和紙を何度も浸けて染めていく
「浸け染め」という技法で染められています。
飽きが来ず、何年も使用出来ると評判です。
 
作っているのは、久保田さん姉弟。
染料は温度が高いと和紙はよく染まりますが、解れやすくもなります。
ですが「石州和紙」は水にも強いため、大丈夫。
5色を使って色ムラが出来ないように気をつけながら染めていきます。
染料が紙の中まででよく染み込むように、指で押します。
染料によって染み込むスピードが異なるため、
浸す時間を計算ながら染めていきます。
更に、一旦黄色に染めたところに茶色の染料に入れて、
複雑な柄を作ります。
その日の気温や湿度まで計算して作る必要がありますが、
これこそがこの仕事の醍醐味とおっしゃいます。
 
 
 
現在、「石州和紙」の4軒の工房は、共同で楮畑を管理しています。
「自分達で出来ることは、出来るだけやりたい」と
自分達で栽培をしているのです。
 
6月、楮畑では、楮の成長にとって大切な作業が始まりました。
繊維となる樹皮が太く長く剥げるために、
幹の脇から生えてきた脇芽を摘み取る「芽かき」を行うのです。
 
  • 住所:〒699-3225
       島根県浜田市三隅町古市場957-4
  • 電話:0855-32-0353
 

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