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美の壺「いのち宿る 草木染め」<File 552>

セレクトショップで大人気の草木染めアクセサリー。
作者は瀬戸内の島でほっこり草木染めライフ
 ▽“魅惑の赤”紅花の染料作り。
  30年ものの“熟成糸”を大公開!
 ▽伊勢神宮で秘やかに営まれる、
  草木染めの御神宝制作。
  百年前に神に捧げられた装束を、今回特別に撮影!
 ▽石牟礼道子原作の新作能で、
  自然界の精霊が神秘性をたたえた紫をまとう
 ▽“草木の声を聞く
  ”染織家・志村ふくみさんこん身のメッセージ。
 
 
植物が蓄える色を
糸や布などに染める営み 「草木染め」。
今回は、
草木染めに人生を捧げる染織家。
伊勢神宮の神に奉る草木染めの織物などが紹介されました。
 

美の壺1.恵みをまとう色との暮らし

 

香川県手島(デザイナー・浅田真理子さん)

 
瀬戸内海に浮かぶ豊島(てしま)の小さなアトリエ「Veriteco」。
蔵をリノベーションした空間に
東京のセレクトショップでも大人気のアクセサリーが並んでいます。
全て草木で染めた材料で作られています。
手掛けたのは、「Veriteco」のデザイナー・浅田真理子さんです。
 
浅田さんご夫妻は、東京で活動されてきましたが、
自然のそばで暮らし、色の世界を広げたいと、
平成27(2015)に瀬戸内海にある香川県の豊島に移住。
四季折々の島の自然と寄り添い
野菜や植物の種を蒔き育て営む暮らしをしながら、
本格的な草木染めによるモノ作りを展開しています。
 

 
浅田さんの作品は、全てを豊島の植物で染め、
ひとつひとつ丁寧な手仕事で、植物に仕立てています。
 
「自然の中で、季節毎に授かる恵みで
 色々染めるということで、
 自然そのものの存在が一番大きいから、
 それをそのまま身につけるのが、
 一番つける方にもお守りにもなるし、
 癒やされるんじゃないかなと思っています。」
 

 
染めるのは自宅の庭先です。
草木によって、色の取り出し方は様々。
真理子さんが好きな染料の一つ「赤じそ」はお湯で煮出します。
次に色を定着させるために、「媒染」という工程を行います。
すると、透明感ある赤紫の素材が、青みがかった紫に。
 
草木の色とともにある浅田夫妻の暮らし。
実は2人の服も。
「これ、栗の木で。
 この時期になると、ちょっと風が強いと、
 勝手にこうやって落ちるんですよ。
 古くなったり汚れたりした服も
 草木の色で染め直せば生まれ変わる。」
 
染めて纏って、色と一緒に存在する。
人の命も、草木の命も巡る暮らしのすすめ。
 
 

美の壺2.時の重なりが生む色

 

紅花寒染(草木染織家・山岸幸一さん)


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「紅花紬」(べにばなつむぎ)は、山形県米沢市において
紅花から取れる染料で染めた真綿糸や座繰り糸を用いて織った
絹織物です。
 
天然から採取出来る植物では唯一紅花しかありません。
ところが、紅花から取れる染料の99%が黄色で、
赤色は残りのわずか1%に過ぎず、
一反のきものを紅に染めるには、
90~100万輪もの花が必要だと言われています。
ですから紅花は、
金の10倍、米の100倍と言われるほど高価なもので、
江戸時代、紅は米沢藩の財政を支えるご禁制品でした。
 

 
そんな紅花の色に魅せられているのが、
草木染織家・山岸幸一さんです。
山岸さんは、山形県米沢市赤崩(あかくずれ)という、
最上川上流に位置する、
日本酒にも適した美しい澄んだ水に恵まれた地において、
染めから織りまで一貫して行う、草木染めの作家さんです。
 
山岸さんは、材料全てを自分で作るというこだわりを持っています。
蚕を飼い、糸を作るところから、
紅花を始め、植物も全て自分で育てています。
 

 
満開の紅花の花びらが1~2枚散り始める真夏、
紅花の棘が朝露を含んで柔らかくなる
日の出前の午前4時頃に摘み始めます。
紅の色素は、花弁の白い部分にしっかり保たれていて、
ここから一番いい色素が取れるのだそうです。
 
摘んだ花びらを「花洗い」して水気を切り、
筵に広げて、「花踏み」「花蒸し」をして、
花びらを発酵させながら、ゆっくりゆっくり色を引き出していきます。
 
そして夕方。
臼で搗いて花弁を傷つけて酸化させ、赤みを引き出す
「花搗き」をします。
玉虫色の輝きを見せるようになったら、完成間近。
染料として保存しやすいようにお餅状にしたら乾燥させて
「紅餅」を作ります。
「紅餅」が活躍するのは、しばらく先になります。
 

 
山岸さんは元々、織物業を営む家に生まれ、
「機械織」と「化学染料」に携わっていました。
ある時、祖父の代の手機で織ってみたところ、
手織りの風合いに魅せられ、
以来半世紀、素材を生かし様々な草木の色を生み出してきました。
 
「紅花寒染」という
冷染技法で染めた糸で織り上げた山岸さんの織物には、
「赤崩紬」という名称が付けられています。
山岸さんは、草木染本来の色を出すために必要な「流水」と
「水質がアルカリ性の綺麗な水」の両方が揃った土地を探し続け、
昭和50(1975)年に、現在の「米沢市大字赤崩」に工房を開設しました。
山岸氏の工房には、清流から引き込んだ小川が流れています。
 
「紅花寒染」は、2月の寒の入りと共に開始されます。
それも真夜中の水の綺麗な時間に行われます。
寒中の一番冷えるこの時間帯が、
湿度が少なく、寒く、空気も水も澄んでいて、雑菌が少なく、
染めに適しているのと同時に、無心で作業が出来るのだそうです。
 
まず、紅花の絞り汁に「烏梅」を少量ずつ加えていきます。
染液が綺麗な紅色に変化したところで、
舌で酸味を確認し、状態を整えてから、
新しい糸を取り出しゆっくりと染液に浸けていきます。
糸に染液が充分に染み込むとゆっくり引き上げ、空気にあて、
糸を繰り、満遍なく糸に空気を含ませた後、また染液に浸します。
そして糸を米酢に浸けます。
室内の作業が終わると、次は雪の積もった屋外に出て、
小川の流水で糸を綺麗に洗い、水酸化させて染めは終わります。
 
この作業を冬から春の間に2~3回染め重ね、
次の冬まで糸を休ませる・・・。
これを3年は繰り返し、後は寝かせておきます。
 
糸も自らの手で作ることで、
ゆっくりと芯まで色が染まっていくのだそうです。

「これは10年くらいになってますよね。

 これなんか、ほら真綿でこんな色してるのないよね。

 飴色っていうかね。」
時をかけて熟成させることで 深みを増す色。
 
「天然染料で染めたものは、時間が掛かる。
 掛かるんだけども、出来上がったものが全く生きてるんですよね。
 植物、あるいは素材、それに合わせたやり方をしていくことによって、
 今までにない価値観が感じられたんです、私はね。」
 
自然と時間の力を借りて、山岸さんが目指す色。
人と自然が呼吸を合わせて重ねていく「時」が
まだ見ぬ色を育んでいきます。
 
 

美の壺3.草木の色がうつしだす祈り

 

伊勢神宮・式年遷宮


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伊勢神宮では、20年に一度、
新しく社殿を建て替え、神様にお遷りいただく
「式年遷宮」が行われます。
1300年に渡り続けられてきた重要なお祭りです。
 
作り替えられるのは社殿だけではありません。
神様が使う日用品や武具や楽器など、
1576点にも及ぶ「御神宝」も全て、
「式年遷宮」の度に作り替えられてきました。
 

 
「御神宝」は、古に定められた通りの形と寸法、
伝統的な材料や技法を尊重して制作することが原則です。
制作に携わる職人は、およそ2000人。
そのうち半数が「染織」に関わると言います。
 
織物の染織には従来、
「紅花」「茜」「紫根」「藍」「黄蘗」など、
東北地方から沖縄地方に至る、全国各地の生産地から寄せられた
古代以来の植物染料が尊重されてきました。
 
「裂(きれ)の見本帳」が
紋様や色彩を正確に再現するために「式年遷宮」の度に作られ、
代々、残されてきました。
現存する最古のものは、江戸時代前期。
その時代毎に自然の素材と向き合い、
一番良いものを神様へ捧げようとした
先人達の手業と思いが詰まっています。
 
神様の最も側近くに祀ることから、
御神宝を代表する品目とされる「装束」。
今回、特別にテレビでの撮影が許されました。
 
現存する御神宝の中でも 「最高水準の色」と伝えられるのが
昭和4年の式年遷宮で奉納された織物です。
100年近い時を経て、なお鮮やかな緋色の装束。
鬱金で下染めをした後、紅花で重ね染めをしています。
つがいの鶺鴒(せきれい)の紋様は、鬱金の黄色で織り出されています。
 

 
御神宝の図案も、式年遷宮の度毎に写されてきました。
 
「繧繝」(うんげん)と呼ばれる、グラデーションを表す装束は
高度な手業が求められます。
藍と黄蘗で萌黄色。 蘇芳とヤマモモの皮で茶色。
様々な染料を組み合わせ、無数の色を生み出さなくてはなりません。
こうした織物を全て合わせると、
長さはおよそ14㎞、材料となる植物染料は1tに達すると言います。
装束の中で唯一、糸からではなく、裂(きれ)の状態で染めるもの。
紫根(しこん)や蘇芳(すおう)、藍、木檗(きはだ)などによって、
彩り豊かな花の紋様が表されています。
 

 
こうした御神宝を古式に則り、
草木染めで制作することは容易ではないと言います。
御神宝制作の基盤となる旧来の染織工芸は、
需要と担い手が減少する状況が続いていますが、
このような時代背景の中にあっても、
来る式年遷宮に向けて、その歩みは粛々と進められています。
 
現在、正殿に納められているのは、平成25年の式年遷宮の御神宝です。
ほぼ全ての織物を草木染めで仕上げることが出来たと言います。
四季折々、豊かな表情を見せる日本の風土。
その健やかさを映し出す彩り。
恵みに感謝と祈りを込めて、神様に捧げる草木の色です。
 
 

新作能「沖宮」の衣装(志村ふくみさん 志村洋子さん)


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今年、令和3(2021)年6月12日、京都・金剛能楽堂にて、
石牟礼道子さん原作の新作能「沖宮」(おきのみや)が上演されました。
 
あらすじ 
 
島原の乱の後の天草下島の村。
干ばつに苦しむ村のために、
雨の神である竜神への人身御供として、
亡き天草四郎の乳兄妹の幼い少女あやが選ばれる。
緋の衣をまとったあやは緋の舟に乗せられ、
沖へ流されていく。
舟が沖の彼方に消えようとした瞬間、
稲光とともに雷鳴が鳴り、
あやは海底へ投げ出される。
あやは天青の衣をまとった四郎に手を引かれ、
いのちの母なる神がいるという沖宮へ沈んでいく。
そして、無垢なる少女あやの犠牲によって、
村に恵みの雨が降ってくる。
 
 
草木で染めた水縹色と紅花で染めた緋色の衣が舞台を彩ります。
その衣装を監修したのは、
染織家の人間国宝・志村ふくみさんです。
 

 
草木からいただく色で、豊かな情景を織り上げる志村さん。
これは、むべですよ。
人生をかけて植物の声に耳を傾け、
色の向こうに広がる世界に思いを馳せてきました。
 
「こんな時代になって、植物が一生懸命、
 人間、人類に語りかけてるような気がするのよね。
 それなのに、人間はちっともそれに耳を貸さないで、
 もう全く逆方向に向かって進んでいるのがね、
 たまらないほど悲しいけど、
 でも、草木のそういう本当の声は、
 聞く人には聞こえてくると思う。
 受け止める人は受け止めると思う。
 私は それを信じてます。」
 


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志村さんが思いを託した「沖宮」が 今年 再演されるにあたり、
新しい登場人物が生まれました。
自然界の精霊である竜の女神・大妣君(おおははぎみ)です。
この世ならざる存在には、どのような色が相応しいのか。
志村ふくみさんとともに、監修を務めた娘の洋子さんが中心となり、
制作に取り組みました。
 
選んだのは「紫根」。
古来、高貴な色とされていますが、
少しの温度の違いで濁ってしまう手強い色です。
 

 
大いなる存在 竜の女神・大妣君が纏う衣装は、
市松模様に配置された、存在感のある紫。
その紫を切り裂くように走るのは 、まねぎで染め出した金茶。
雷鳴轟く中、竜の女神が現れた時の稲妻を表現しました。
その稲妻とともに、少女は海へと沈んでゆくのです。
 
「大妣君が悲しみというものを表現する時に、
 その悲しみを引き出す時に色が大変お手伝いをして、
 紫と金色が お互い光り合って、
 金色の涙がはらはらと零れて落ちてるような印象を受けました。
 草木の精霊もそこにいるので、
 それといろんな大いなる魂というのが、そこでまた親和して、
 力を発揮するのではないですかね。
 神様に捧げるということだったので。
 それをいつの間にか忘れてしまって、
 人間が楽しむという方向になってますけど。
 本来は、神様にお捧げするということだと思いますけど。」
 
深淵な命の宇宙に誘う草木の色です。
 
 
(京都本店)
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