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美の壺 いつも傍らに「土瓶と急須」<File 587>

<番組紹介>
初夏には新茶が香る煎茶、夏は喉を潤す麦茶、
冬の寒い日には熱々のほうじ茶。
いつも日本人の傍らにある「土瓶」と「急須」
 
 ▽フランス人を魅了!
  お茶と急須のマリアージュ
 ▽新進気鋭の急須作家に受け継がれる
  常滑の伝統製法
 ▽直火で沸かす土瓶のお茶の味の秘密
 ▽家で作れる絶品!土瓶蒸し
 ▽土瓶の取っ手に生きる
  松江藩の籐細工職人の技
 ▽民藝運動が盛んだった島根で
  50年間作られる人気の土瓶と陶工の神技
 
<初回放送日:令和5(2023)年9月6日>
 
 
 

美の壺1.繊細な味を引き出す魔法の形

 

日本茶と急須
(「青鶴茶舗」フローラン・ヴェーグさん)


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東京・谷中の「青鶴茶舗(あおづるちゃほ)は、
フランス人として初めて
日本茶インストラクターの資格を取得した
フローラン・ヴェーグさんが店主を務める
日本茶と急須の専門店です。
 
フローランさんは、フランスの大学で
日本の美術史を学んだ後、
日本語に磨きをかけるために来日。
ある日、デパートの物産展で「煎茶」飲み、
すっかり日本茶に魅了されます。
 
平成21(2009)年、フランス人初の
日本茶専門店「丸山園本店」で修業後、
平成23(2011)年にはECサイトを、
平成30(2018)年には実店舗を開業しました。
 
美味しいお茶を淹れる一番のポイントは、
「水」です。
また茶葉によって、「茶葉の量」「お湯の量」「お湯の温度」「抽出時間」」が変わってきますので、これも重要なポイントです。
 
 
それからどんな「急須」で淹れるかも
大切なポイントです。
茶葉の種類によって「急須」を変えると、
繊細な味の違いを楽しむことが出来ると
フローランさんはおっしゃいます。
 
 
縦に深い急須よりも、
平べったい形状の急須を選んだ方が、
美味しいお茶を入れることが出来ます。
茶葉の広がって、お湯を効率良く
対流させることが出来るからです。
 
平べったく底に丸みのある「平丸急須」は、
どんな煎茶でも美味しく淹れることが
出来ます。
また大きく開いた口径と丸みのある形の底部は
洗いやすく、手入れがしやすいです。
 
浅く平らな「平型急須」は、
少量の湯でも茶葉が横に広がり、
玉露などに適している急須です。
 
フローランさんによると、最近は、
一人で静かにお茶を飲む人が増えていて、
手のひらにすっぽり入る
小ぶりの急須が人気だそうです。
 
フローランさんは、「急須」はお茶をもっと
深く楽しむ道具だとおっしゃっていました。
 
  • 住所:〒110-0001
    東京都台東区谷中3丁目14−6
    海野ビル 104
  • 電話:
 
※ 余談ですが、私は「日本茶アドバイザー」です。

www.nihoncha-inst.com

 
 

常滑焼の急須
(「急須屋」伊藤雅風さん)


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愛知県の知多半島にある「常滑」(とこなめ)は、焼き物の街としてよく知られた所です。
平安時代末期から「常滑焼」の産地で、
「日本六古窯」(にほんろっこよう)
(瀬戸・常滑・信楽・丹波・備前・越前) のひとつで、
その中でも最大規模の生産地でした。
 
「常滑」の地名の由来は、
「常」は「床」、「滑」は「滑らか」という意味で、
「床」とはつまり地盤のことで、
古くからこの地は粘土層の露出が多く、
その性質が滑らかなため「とこなめ」と呼び、
そうした習俗が地名として定着していったと
考えられています。
 
「常滑焼」を有名にしたのは、
「朱泥」と呼ばれる赤茶色の「朱泥急須」です。
 
 
江戸時代後期頃に常滑で生まれ、
全国に広まりました。
この土は耐水性に長けており、
水を吸わないため「急須」に最適です。
 
また内部表面が多孔質のため、
カテキンを吸着しやすく渋みを少なくします。
更に急須の原料に含まれる「酸化鉄」と
お茶の成分である「タンニン」が反応し
お茶の苦みが取れ、まろやかで美味しい味わいになると言われています。
そのため昔から「美味しく日本茶を飲むなら
常滑焼急須が一番」と言われてきました。
 
「朱泥」の朱色は、原料に含まれる「鉄分」や、陶土に混ぜ込まれた「弁柄」という「酸化鉄」が
発色したものです。
 
近年では、黒色の「黒燻急須」も人気です。
この色は、「朱泥急須」をもう一度
還元焼成することにより、急須表面の鉄分を
黒色に再発色させたものです。
 
 
 
 
伊藤雅風(いとうがふう)さんは、
人間国宝・三代常山の
弟子筆頭の村越風月に学び、
常滑焼伝統の「本朱泥」製法を受継ぐ、
常滑を代表する若手急須作家さんです。
 
伊藤さんは、「常滑焼」の急須が
緻密に作られている点が奥深いと感じ、
急須を専門に制作する「急須屋」さんです。
朱泥の他、多彩な急須を制作しています。
 
常滑焼急須は、蓋・取手・注ぎ口を別々に作り、
それらを繋ぎ合わせて一つの急須を作るため、
高い技術を必要とします。
 
急須の蓋と胴は、焼成前から
ピタリと合うようにしていき、
最後に研磨剤と動力を使って擦り合せる
「蓋合せ」という工程を行います。
これにより、蓋がガタガタいうことなく、
吸いつくようにピタリと治まり、
お茶をしっかり蒸らすことが出来ます。
 
急須の注ぎ口付近に穴を開け、
開けた穴に直接茶漉しをはめ込みます。
目詰まりすることなく、
スムーズに注ぐことが出来るように
絶妙な大きさの穴を開けていきます。
急須内部の空間が広いため、
お湯を注ぐと茶葉が踊り、
旨味や香りをしっかり引き出せます。
 
 
伊藤さんは土作りを自ら行う
数少ない作家さんです。
地元・知多半島で採れる赤土と田土を、
伝統的な水簸(すいひ)で精製して粘土作ります。
これだけで半年から1年を費やし、
更に1年寝かせて、ようやく「本朱泥」と呼ばれる
材料が仕上がります。
これを更に5年間寝かせて、
ようやく轆轤(ろくろ)にかける土の完成です。
半年や1年くらいしか置かない土は、
途中で崩れたり、焼成後に割れたりすることが
あるそうです。
 
伊藤さんが追い求める「急須」とは、
サイズは小さいのに大きく感じるもの、
迫力や品格を兼ね備えたものだそうです。
小さな急須には、お茶のひと時を豊かに変える
力が宿っています。
 
 

美の壺2.火と土が織り成す味わい

 

「土瓶」で煮出すお茶と「土瓶蒸し」
(料理研究家・藤井恵さん)

 
NHKの料理番組でもお馴染みの
料理研究家・藤井恵さんは、
毎日、「土瓶」でお湯を沸かしています。
 
 
藤井さんは、ほうじ茶や番茶は、
直火にかけることが出来る「土瓶」で煮出すと
更に美味しくなるとおっしゃいます。
やかんや電気ポットでもやってみたそうですが、
「土瓶」で沸かした湯が一番まろやかだったので
それ以来、「土瓶」で湯を沸かすのが日課となったそうです。
 
 
「土瓶」は料理でも活躍します。
「土瓶」と言えば「土瓶蒸し」。
「土瓶」に一番だしを注ぎ、
具材を加えて蒸し上げる料理です。
 
藤井さんに一品、紹介いただきました。
「土瓶」の中に、下味のついた鶏肉とエビに、
椎茸、しめじを入れ、出汁を注ぎます。
火にかけること10分で出来上がりです。
 
藤井さんによると、
蒸すようにやさしく加熱すると、
スープがより美味しくなるそうです。
鍋は口径が広いので、
蒸気と一緒に香りが飛んでしまいますが、
口が小さな「土瓶」なら、
ふんわりと優しい香りが残ります。
「土瓶」は、使えば使うほど
まろやかな味わいになるため、
藤井さんの料理には欠かせない存在だ
そうです。
 
 
 

「伊賀焼の土瓶」
(稲葉直人さん)

明治時代から続く「伊賀焼」の窯元5代目、
稲葉直人(いなば なおと)さんは、
食卓で使われることを意識して
地元・伊賀の天然の土を使い、伝統的な手法で
「土瓶」を一点一点制作しています。
 
「伊賀の陶土」は、400万年前に生息していた
生物や植物の遺骸が多く含まれる「古琵琶湖層」
(こびわこそう)と呼ばれる堆積層から産出されます。
日本で採れる陶土で土瓶になるほどの耐火度を
持つのは伊賀の粗土のみです。
またこの陶土を高温で焼成すると、遺骸の部分が燃え尽きて細かな気孔が出来、「呼吸をする土」と言われるほどの粗土になり、遠赤外線効果が高く
保温性も高くなります。
 
稲葉さんに、「土瓶」づくりの作業工程を
見せていただきました。
まず底が割れないように土で叩いて締めた後、
轆轤(ろくろ)で、熱が素早く伝わるように
薄く均等に伸ばして胴体を仕上げていきます。
肝心なのは、丸く膨らませること。
茶葉を対流させるためです。
土瓶の底の熱せられたお湯が上昇して、
また底に向かって降りていきます。
お湯が対流することで、茶葉もジャンピングして旨味が引き出されます。
 
稲葉さんは、土瓶が食卓の主役になるように
大胆な絵付けを施します。
桃山の黒織部を意識したものだそうです。
 
土瓶は、稲葉家のお茶の時間にも活躍します。奥様の聡子さんが、番茶を煮出していました。
5分程煮出すと、まろやかな味になるそうです。
 
「土瓶」を長持ちさせるためには、使う前に
「目止め」(めどめ)をするといいそうです。
 
土鍋や陶器の器を買ったらまず行いたいのが
「目止め」(めどめ)です。
陶製の器には細かなヒビがあり、そこに食材が
入り込むことで変色や臭い移りが起こります。
「目止め」は、表面をでんぷん質の膜で
コーティングすることで、汚れやニオイがつきにくくなる他、ヒビ割れや水漏れを防ぎます。
 
「土瓶」は使い込むとヒビが入り、
お茶の渋もつきますが、
使うほどに深い味わいが出来て、
経年変化を楽しむことも出来ます。
稲葉さんは、今日も、土と対峙しています。
 
 

美の壺3.暮らしにそっと馴染ぬくもり

 

「土瓶の籐の取っ手」
(籐細工作家の山野孝弘さん)

 
「急須」は、胴の横に棒状の持ち手が
付いているのに対し、
「土瓶」は直火にかけられることから、
本体が高温になるため、熱が伝わりにくい
竹や籐などの蔓状の持ち手が胴の上部に
ついています。
 
島根県・松江市の山野孝弘さんは
「出雲民藝紙」の仕事をする傍ら、
「松江藩藤細工」(まつえはんとうざいく)という
江戸末期から続く籐細工の技法を受け継ぎ、
「土瓶の手」(籐の持ち手)を作っています。
 
山野さんの作品には、精巧な編み込みに、
華やかな可愛い花模様の細工が施されています。
 
「松江藩藤細工」(まつえはんとうざいく)は、
文政期(1818~1829)頃、
江戸住まいの下級武士の内職として始まり、
その技術を松江に持ち帰った人々によって、
松江でも籐細工の制作が行わるようになったと
伝わっています。
松江藩の料理人だった長崎家の初代・長崎仲蔵も
江戸へ上った時に技を学んで、それを一子相伝で代々継いできました。
「松江藩籐細工」の代名詞とも言える
籐を編み上げ花びらのような形の「花結」は、
二代目2代目・福太郎が考案したもので、
この一子相伝の高度な技術は、現在、六代目に
受け継がれ、花かごや茶道具の炭斗などに
編まれ、全国的にも珍重されています。
平成16(2004)年に「島根県ふるさと工芸品」に
指定されました。
 
昭和40年代以降、「松江藩藤細工」は
後継者不足から、蔓細工の技術が途絶えようと
していました。
 
そんな中、「松江藩藤細工」の
ワークショップに参加した、
「出雲民藝紙」の紙漉き職人・山野孝弘さんは
蔓の制作に興味を持ち、
直ぐに長崎家6代目の長崎誠さんに師事し、
後継者不足に悩む土瓶の「蔓」の取っ手や
瓶敷の製作技術を習得しました。
 
実は「松江藩藤細工」の「土瓶の手」は、
民藝運動と関わりが深く、
日本民芸館の設立に関わった、陶芸家であり
画家のバーナード・リーチ氏からの依頼を機に
始められた仕事だそうです。
 
山野さんに、「土瓶の手」を作る工程を
拝見させていただきました。
 
まず乾燥させた籐を手で曲げていきます。
これを煉炭で温めて、カーブを固定化させます。
小刀でかえしの部分を削り出します。
留め具も籐で裂いて作ります。
 
山野さんは、手の部分だけが格好良くても、
掛けてみたら格好が良くなかったら意味がない。
独りよがりにならないように、
手がついた土瓶の全体をイメージしながら
作ることが大切だとおっしゃいます。
土瓶としっくり馴染んだ取っ手が出来ました。
 
 

洗練された民藝の土瓶
「森山窯」森山雅夫さん


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かつて、「石見銀山」の外港として栄えた
島根県大田市にある港町・温泉津(ゆのつ)は、
幕末から明治にかけて
「はんど」と呼ばれる大きな水甕を始めとする
日用陶器の産地として発展したところです。
 
 
そんな温泉津には、
柳宗悦とともに民藝運動を牽引した
河井寛次郎の最後の内弟子として
陶芸家の技と心を学び、
多くの若い陶芸家が憧れる陶芸家がいます。
「森山窯」(もりやまがま)
森山雅夫(もりやままさお)さんです。
 
森山さんは、17歳の時に河井寛次郎に学び、
その後は倉敷「堤窯」の武内清二郎の元で修業。
昭和46(1971)年に、やはり河井寛次郎に師事した
荒尾常蔵の誘いで温泉津(ゆのつ)に移り住み、
「森山窯」(もりやまがま)を開窯しました。
 
森山さんは、釉薬の研究家としても
名高かった師・河井寛次郎譲りの
透明感のある呉須釉や瑠璃釉の美しい器を
焼かれます。
そしてそこに描かれた浮かび上がっているのは
優しい「イッチン模様」。
癒しの味わいを感じます。
 
「イッチン」」は、チューブ型もしくはスポイト型の筒のことです。
この中に、粘土を水で熔いたもの「泥漿」(でいしょう)や釉薬を入れて絞り出す入れ物のことです。
「イッチン描き」とは、その筒に入った泥漿を
作品に盛り付ける装飾技法のことです。
 
 
「森山窯」にお邪魔し、森山さんの土瓶づくりに
密着させていただきました。
森山さんの工房には、窯が出来た50年前から
製作している人気の土瓶が並んでいます。
「松江藩藤細工」の山野孝弘さんが作った
取手がかけられた土瓶もあります。
 
森山さんの土瓶は、下に向かって
スッと細くなった洗練した姿をしています。
胴体を膨らませ過ぎないようにするのが、
森山さんの土瓶の特徴です。
 
轆轤で胴体を作り、
少し乾燥させたら、胴体を凹ませて、
ポツポツと穴を開けて茶濾し部分を作ります。
注ぎ口部分は接着面をざくっとフリーハンドで切って合わせます。
ピッタリ合いました!神技です!
 
化粧土で胴の一番膨らんでいる部分に
「イッチン」と呼ばれる一本の線を引きます。
50年前に、風に揺れる一本の草を見て
思いついた線だそうです。
一本の線でも存在感があります。
 
森山さんは、使ってもらって初めて
道具としては役に立つのですが、
使わないでおいてもホッとするような「土瓶」を
日々作っているそうです。
 
 
森山窯
  • 住所:〒699-2501 
    島根県大田市温泉津町温泉津イ3-2
  • 電話:0855-65-2420
 

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