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岐阜県「美濃和紙」

「美濃和紙」は、岐阜県・美濃市で主に生産される伝統的工芸品です。
光を通すと美しい輝きを放つ和紙で、「日本三大和紙」の一つです。
 

 

 
[日本三大和紙]
  • 岐阜県の「美濃和紙」
  • 高知県の「土佐和紙」
  • 福井県の「越前和紙」
 
 
平成26(2014)年11月にユネスコ無形文化遺産に
「和紙:日本の手漉和紙技術」が 登録されました。
  • 本美濃紙(岐阜県美濃市)
  • 石州半紙(島根県浜田市)
  • 細川紙 (埼玉県小川町・東秩父村)
 
千三百年の伝統を誇る美濃和紙の中核となる 「本美濃紙」。
清流の産物である「本美濃紙」は、
薄くても強く、きめ細やかで整然と漉き上げられた「本物」であり、
日本の誇る世界の宝物です。
 
 

歴史

 
「美濃和紙」の歴史は古く、
少なくとも8世紀の初めには生産されていた記録が残っています。
正倉院に伝わる大宝2(702)年の
「美濃」「筑前」「豊前」の戸籍用紙です。
 
和紙の生産に必要なものは、
原料である「楮」「三椏」「雁皮」が採れること。
そして「良質の冷たい水」が豊富にあることです。
 
美濃地方はその二つの条件を満たしており、
しかも都にも近かったため、和紙生産地として栄えました。
中世になると、文献に美濃の紙名が頻繁に登場するようになります。
地域によって、多くの紙が生産され、技術も発展していきました。
 
民間でも広く「美濃和紙」が使われるようになったのは、
室町・戦国時代の文明年間(1468~1487年)以後です。
美濃の守護職土岐氏は
製紙を保護奨励し、紙市場を大矢田に開きました。
紙市場は月に六回開かれたので、「六斉市」と呼ばれ、
大いに賑わいました。
そして近江の枝村商人の手で、京都、大阪、伊勢方面へも運ばれ、
美濃の和紙は広く国内に知られることとなります。
 
この大矢田の紙市は、
天文9年(1540年)年には 上有知(美濃町)に移ってきました。
当時は戦乱の世であったため、
上有知(美濃町)より長良川を利用すれば、
一夜にして交易港である桑名の港に到着出来る上、
運送が便利で、危険が少なく、安全であったためです。
 
江戸時代には、
「美濃和紙」は「障子紙」として利用されるようになります。
非常に薄いながらも丈夫、漉きムラが少なく、
日光に当たると白さが増すという特徴があったためです。
「障子紙」として利用されるようになると生産は大きく拡大し、
「美濃判」として障子の規格となりました。
幕府御用の紙としても知られています。
 

 
明治維新により、
それまで紙漉き業に必要だった免許の制限がなくなると、
製紙業が急増、製造戸数が4,700戸程になった時もありました。
国内の需要の高まりや海外市場の進出などもあり、
美濃地方は「紙」と「原料の集積地」として栄えました。
 
大正に入る頃になると、西洋の紙が日本を席巻し、
だんだんと手漉き和紙が苦境に立たされる中で、
生産効率を上げるために「機械抄き」が導入され、
また戦後になると、石油化学製品がドンドン進出来るようになると、
日用品を主とした素材を中心に生産していた美濃地方は打撃を受け、
昭和30年には1200戸あった生産者が、
昭和60年には40戸に減ってしまいました。
 
昭和35(1960)年、伝統的な和紙を生産する業者が
減少し続けることを危惧した地元の有志が、
「本美濃紙」の伝統技術を絶やさず継承していくために、
「本美濃紙在来書院保存会」を結成。
(昭和44(1969)年、現在の「本美濃紙保存会」に改名)
 
そうして長い歴史の中で
伝統の技が受け継がれてきた「本美濃紙」は
昭和44(1969)年、国の重要文化財に指定されました。
 

本美濃紙

 
白く美しい、柔らかく強い。
求められる要素を極めた紙、それが「本美濃紙」です。
陽に透かすと、繊維が整然と美しく絡み合っているのが
よく分かります。
 
美濃和紙の中でも「本美濃紙」と呼ぶことが出来るのは、
重要無形文化財指定の決まった材料、決まった道具を使って
認められた一部の職人が漉いた和紙のみ。
美濃和紙全製品のうちの1割ほどです。
 
長良川の支流・板取川を流れる質の良い豊かな水、
最高級の茨城県産大子那須楮、
道具は、木曽ヒノキと硬い真鍮の漉き桁、竹
のひごをそぎつけした漉き簀などを使います。
漉き方は縦揺りに横揺りを加えた複雑な方法で、
繊維を整然と絡み合わせています。
 
「本美濃紙」を漉くことが出来るのは
重要無形文化財の技術を保持する
「本美濃紙保存会」の会員のみです。
 
 重要無形文化財「本美濃紙」指定要件
  • 名称    :本美濃紙
  • 区分    :重要無形文化財
  • 保持団体  : 本美濃紙保存会(岐阜県)
  • 芸能工芸区分:工芸技術
  • 種別    :手漉和紙(てすきわし)
  • 認定区分  :保持団体認定
  • 指定年月日 :1969年4月15日(昭和44年)
 指定要件
 一、原料はこうぞのみであること。
 二、伝統的な製法と製紙用具によること。
  1. 白皮作業を行い、
    煮熟には草木灰またはソーダ灰を使用すること。
  2. 薬品漂白は行わず、料を紙料に添加しないこと。
  3. 叩解は、手打ちまたはこれに準じた方法で行うこと。
  4.  抄造は、「ねり」にとろろあおいを用い、
    「かぎつけ」または「そぎつけ」の竹簀による
    流漉きであること。
  5. 板干しによる乾燥であること。
 三、伝統的な本美濃紙の色沢、地合等の特質を保持すること。
 
 

美濃和紙

 
「美濃和紙」は機械で漉く和紙を含め、
美濃で作られた和紙全般のことを指します。
コウゾを原料として「溜め漉き法」により作られた紙で、
上品な色合いと、薄くても布のように丈夫で
陽の光に透かした時の優雅な美しさから
江戸時代以来最高級の障子紙として高く評価されてきました。
 
優美な和紙は美術の分野などではもちろん、
耐久性、強靱性を生かして文化財の修復に使用される他、
天然素材の地球環境に優しい製品として、
日本国内のみならず、世界中から和紙への注目が高まっています。
 
「美濃和紙」には、
「本美濃紙」「美濃手すき和紙」「美濃機械すき和紙」の
大きく3種類があり、厳しい品質基準が設けられていて、
その基準に合格した製品のみが新ブランドとして認定されています。
 
本美濃
  • 紙産地 :美濃市で漉かれたもの
  • 生産者 :本美濃紙保存会員
  • 原料  :大子那須楮(白皮)のみ使用
  • 製法  :本美濃紙の指定要件を満たす伝統的な製法で製造
  • 品質証明:統一品質表示の記載・添付、原料、レーサビリティの実施
  • 環境  :地球環境、健康に配慮した素材や原料等の使用及び製造方法で製造
  • 原紙使用:使用する紙は100%本美濃紙とする(包装、説明書等を除く)
 
美濃手すき和紙
  • 産地  :美濃市で漉かれたもの
  • 生産者 :美濃手すき和紙協同組合員
  • 原料  :国内産原料のみ
  • 使用製法:流し漉きにより製造
  • 品質証明:統一品質表示の記載・添付
  • 環境  :地球環境、健康に配慮した素材や原料等の使用及び製造方法で製造
  • 原紙使用:使用する紙のうち、認定基準に適合した手すき和紙の占める割合が
         最も大きいこと
 
美濃機械すき和紙
  • 産地  :岐阜市、美濃市、関市で抄かれたもの
  • 生産者 :美濃和紙ブランド協同組合員
  • 原料  :非木材繊維(楮・三椏・雁皮・マニラ麻・亜麻等)を含む
  • 製法  :手すき和紙に近い光沢、風合い、強靭さが出せるよう抄紙機で製造
  • 品質証明:統一品質表示の記載・添付
  • 環境  :地球環境、健康に配慮した素材や原料等の使用及び製造方法で製造
  • 原紙使用:使用する紙のうち、認定基準に適合した機械すき和紙の占める割合が
         最も大きいこと
 
 

「手漉き」と「機械抄き」の違い

 
「手漉き」は伝統的な「流し漉き」「溜め漉き」の技法を使用し、
職人が一枚一枚丁寧に漉いています。
仕上がった紙には四方に手漉きの特徴である「耳」が出来ます。
また、職人の手作りであるので、一点として全く同じものは存在しません。
 
手漉きの技法には大きく分けて「流し漉き」と「溜め漉き」があります。
「流し漉き」は日本独特の技法で、
靱皮繊維(雁皮・三椏・楮など)の紙料にネリ(植物性粘液)を混ぜ、
簀桁ですくい上げ、全体を揺り動かしながら紙層をつくり、
簀桁を傾けて余分な紙料を流しながら漉きます。
繊維が絡み合うので、横にも縦にも破れにくい紙が出来ます。
 
「溜め漉き」はChina古来の紙漉きの技法で、
日本独自の流し漉きと違い、
ネリを用いずに一枚ごとに簀桁の中の水を簾の間から
自然に落として漉き上げるので、
「機械抄き」では製造出来ない厚さのある紙を造ることが出来ます。
証券や賞状などに用いられる「局紙」は「溜め漉き」で漉かれています。
 
 
一方「機械抄き」は、
和紙の伝統的な製法である「流し漉き」の手法を
機械に置き換えて製造する方法です。
比較的均一な紙を造ることが出来、
洋紙ほどではありませんが大量生産が可能です。
しかし、伝統的な原料から製造しますので
「手漉き」と同様に天然原料の持つ光沢や風合いを活かした
美しく強靭な紙を作れることが出来ます。
「手漉き和紙」こそが「和紙」とされていましたが、
日本古来の「手漉き」が色々な道具や手法を取り入れて進歩し
現在に至ったということを考えると
「機械抄き」も「和紙」の形の一種と考えられます。