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美の壺「ワイン」<File 128>

<番組紹介>
優雅で華やかなお酒、ワイン。
「高級すぎて…」とか、
「知識がないと楽しめない」と感じている方も多いのでは? 
そんな敷居の高そうなワインを楽しむツボをお教えします! 
味わいや香りと同じくらい重要とされる「色」。
ワインが宝石色に輝く秘密を醸造工程に探る。
鑑賞性に優れたスパークリングワインの「泡」や、
ボトルに施された装飾的な「ラベル」にも注目。
飲む芸術品「ワイン」の楽しみ方を紹介する。
 
<初回放送日:平成21(2009)年5月1日>
 
 
 
食事のひとときを優雅に演出する「ワイン」の
豊かな香りと味わい、そして何よりも美しい色が
贅沢な時間を作り出してくれます。
 
ブドウを原料にしてつくる「ワイン」の歴史は
八千年前に遡ると言われています。
古代メソポタミアで生産が始まり、その後ヨーロッパに伝わりました。
 
色を決めるのは、ブドウの皮です。
赤ワインの原料の「黒ブドウ」の果肉を皮ごと潰して醸造すると、
皮の色素によって赤く色づきます。
あまり色素が出ないうちに皮を取り除けば「ロゼ」になります。
白ブドウからは「白ワイン」ができます。
 
またブドウを皮ごと潰すことによって、
皮に付着している天然の酵母が果汁をアルコールに変えます。
これを「発酵」と言い、
10日から20日程でワインが出来上がります。
 
日本で本格的なワイン造りが始まったのは明治初め。
その先駆けとなったのが山梨県です。
明治政府は殖産興業の一環として、
山梨で古くから食用として栽培してきた
「甲州」を利用したワイン造りを奨励しました。
やがて「ワイン」は日本人の生活に浸透していきました。
 
 

美の壺1.透明感ある色に宝石の輝き

 

老舗ワイナリー「ルミエール」


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ワインにとって、見た目の美しさは
味や香りと同じくらい重要とされてきました。
美味しいワイン造りに欠かせないのが、
樽の中で寝かせる「熟成」です。
一定の温度の下で長い時間をかけて酸化させ、
旨味を引き出すのです。
熟成することで、ワインの色も変化していきます。
 

 
老舗ワイナリー「ルミエール」の五代目・木田茂樹(きだしげき)さんに、
ワインの見どころを伺いました。
「ワインは、香りとか味わいも非常に大切ですけども、
 その色の輝きですね。
 こういったものも非常に大切でして、
 ワインはいろんな宝石の色に喩えられます。
 ルビーであるとか、ガーネット、
 白ワインであれば、トパーズのようなそういった色にたとえて
 輝きを見ることがあります。
 どれだけキレイに澄んでいるというのが
 ワインにとって非常に大切です。」

「ルミエール」は、日本ワインの発祥地で、
生産量とワイナリー数ともに日本一を誇る山梨県において、
自社農園でのブドウ栽培からワイン醸造、瓶詰め、販売まで、全てを自社で行うワイナリーです。
明治18(1885)年に前身の「降矢醸造場」が
明治政府の殖産興業の一環「ワイン醸造の奨励」を受けて
創業しました。
同じ土地に根差した家族経営のワイナリーとしては、
最古と言われるうちの一つです。
 
 
 

澱(おり)


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造りたてのワインには、
色素やタンニンという渋味の成分が結合した
「澱」(おり)と呼ばれる不純物が浮遊しています。
この「澱」(おり)は、濁りの原因となる一方で、
「旨味」を作り出す作用もあります。
 
「澱」(おり)を沈殿させると、
「旨味」と「透明性」を持つ「上澄み」が出来ます。
 
 
3月、「ルミエールワイナリー」では、
樽の中で半年間寝かせたワインから
「上澄み」と「澱」を分ける作業が行われました。
 

 
まず樽に管を取り付けて、窒素ガスを送り込みます。
気体の圧力で、ワインの上澄みだけが押し出され、
管を通って保存用のタンクへと流れ込む仕組みです。
管には、樽の底に溜まった「澱」が混ざらないようにチェックする
小窓が付いています。
ワインが濁り始める前に、作業を止めなければいけません。
ワインを再び樽に戻して熟成させるため、
樽の底に溜まった「澱」を取り除きます。
こうした作業を繰り返すことで透明感あるワインが出来るのです。
 

 
長い時間と手間を掛けて生み出されるワインの輝き。
ワインは透明感とみずみずしさを湛える、飲む芸術品です。
 

 
 
 

美の壺2.立ち上るきめ細やかな泡

 

スパークリングワインの泡(トップソムリエ・阿部誠さん)


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きめ細やかな泡を伴うスパークリングワイン。
泡の正体は「二酸化炭素」。
フランスでは、この一粒一粒の泡を
「ペルル」=「真珠」という愛称で呼んでいます。
グラスの縁に集まって出来た輪は、
「コリエ」=「首飾り」と呼びます。
呼び方一つをとっても、美しい飲み物です。
 
日本のトップソムリエの一人で、日本ソムリエ協会の常務理事、
令和2(2020)年には「卓越した技能者(現代の名工)」にも選ばれている
阿部誠さんにスパークリングワインの泡の魅力について伺いました。
 
「見ていて飽きないといか、
 ま、海見てて飽きないのと同じかもしんないんですけど、
 やはり他のワインにはないのがこの泡。
 しかも、他のワイン以外でもこのような細かい泡っていうのは
 全くありません。
 シャンパーニュならではの世界ですね」
 
 

スパークリングワインの発酵


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スパークリングワインの発酵は瓶の中で行われます。
泡となる二酸化炭素は、アルコール発酵する時に出来ます。
発酵後の熟成も瓶で行うため、
「澱」(おり)も一緒に閉じ込められています。
 
瓶が逆さまに置かれているのには、ちゃんとした理由があります。
底を少しずつ回し振動を与えて、
「澱」(おり)を瓶の口もとへと集めていくのです。
「澱」のような不純物が混ざっていると、きめ細かい泡は立ちません。
 
瓶から「澱」(おり)だけを取り出すために、
「澱」が集った瓶の口元の部分を冷却装置を使って凍らせます。
栓を抜くと、瓶から外に逃げようとする二酸化炭素の圧力によって、
凍った「澱」が飛び出します。
減った分量のワインを補充したら、スパークリングワインは
完成です。
 

真珠のようなきらめきを持つ泡が次々と立ち上り、
小さな音を立ててはじけるスパークリングワインは、
まさに五感で楽しむ飲み物です。
 

 
 
 

美の壺3.小さなラベルがワインを語る

 

「ワインラベル」(立花峰夫さん)

 
「ワインラベル」という小さなキャンバスには、
個性的で優れたデザインが施されてきました。
 

 
ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」の講師で、
ワイン専門翻訳・執筆の「タチバナ・ペール・エ・フィス」代表、
立花峰夫さんに「ワインラベル」について伺いました。
 
 
 
立花さんは、どのワインを買うか迷った時に、
ラベルのデザインが選ぶ手助けになると言います。
「ワインラベルというのは、
 そのワインの中身を表す視覚的な顔のような役割を果たしています。
 で、単純にデザインが優れているですとか、
 あるいは、棚に並べた時に目立つだけじゃなくって、
 その中身のイメージを飲み手に伝えるということが必要になってきます。」
 
 
 

日本に初めて輸入された「ボージョレ・ヌーヴォー」のワインラベル
(デザイナー・麹谷宏さん)

 
昭和60(1985)年に日本に初めて輸入された「ボージョレ・ヌーヴォー」の
ワインラベルを手掛けたデザイナーの麹谷宏さんは、
新酒を祝うお祭りの賑やかな雰囲気を出そうと、
色とりどりの紙吹雪を散らしたデザインでラベルを描きました。
 
「そのワインが持っている思いっていうのがあるはずなんですよね。
 それを感じ取って、なんとか表現してやろうっていう風に、
 ワインの代わりに僕が何かをしてあげようっていう思いは
 いつもありますね。
 上手くいったかどうかいつも心配だし、それは難しいですけど、
 楽しいですね。」
 
「ワインラベル」は、ボトルに掛けられた小さな絵画。
ワインの思いまでも伝えてくれる顔なのです。
 

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