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美の壺「楽器の王様 パイプオルガン」<File 515>

<番組紹介>
▽パイプオルガンで始まる
 ユーミンの名曲「翳(かげ)りゆく部屋」。
 松任谷正隆さんが、
 45年ぶりに同じ大聖堂で演奏!
▽世界で唯一の、
 回転するパイプオルガンの音色の秘密!
▽世界から「名匠」とたたえられる、
 日本人パイプオルガン製作家の技に密着!
▽徳川頼貞が特注した日本最古のパイプオルガン。
 その秘められた歴史と音色に迫る!
▽ジャズピアニスト・山下洋輔さんによる
 “謎のオルガン弾き”も必見!
 
<初回放送日:令和2(2020)年10月16日>
 
 

 
モーツァルトが「楽器の王様」と称えたパイプオルガン。
最も大きく、多彩な音色を持つ楽器だと言われています。
日本にも様々なパイプオルガンがあります。
その数、何と1000台以上。
日本は実は隠れた「パイプオルガン大国」なのです。
 
パイプオルガンは置く場所に合わせて作られるため、
それぞれが世界に一つしかありません。
ヨーロッパで発展してきた楽器ですが、
日本ならではのモチーフのパイプオルガンもあります。
今回の「美の壺」は、2000年以上に渡り人々を引きつけてきた
パイプオルガンの魅力に迫ります。
 
 

美の壺1.そこにしかない響きを求めて

 

回転するパイプオルガン
(東京芸術劇場オルガニスト・上野学園大学教授・小林英之さん)


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およそ2000人収容の東京芸術劇場コンサートホール。
こちらに、大空間を圧倒的な響きで満たすパイプオルガンがあります。
高さはおよそ10m、パイプの数は9000本、多彩な音色を奏でます。
鍵盤の左右には、
「ストップ」という音色を選択するためのノブがあります。
 
「基本は『プリンシパル』。倍音を重ねていくのが基本ですね。」
「その他に、『クルムホルン』という管楽器の真似をしたストップ
 トランペット・・・・というように、いろんな音色を足すことが出来ます。」
 
パイプオルガンには、パイプの材質や形、太さ細さにより、
フルートやトランペットのような音、弦楽器のような音など
様々な音色があります。
「ストップ」はパイプを切り替えるため装置です。
「ストップ」を変えることによって、
どのパイプの音色を使うのかを選ぶことが出来ます。
更に「ストップ」の中には、
「基準の音(プリンシパル)」に対して、
「1オクターブ上の音」、「1オクターブと5度上の音」、
「2オクターブ上の音」、「2オクターブと3度上の音」を
奏でる「ストップ」もあります。
音程の違うパイプが同時に鳴ると、
それらの音はひとつの音に溶け合い、音の厚みが増し、
強く華やかになります。
 
クルムホルン
 
 
ルネサンス時代に一般的であった、ダブルリードの木管楽器。
円筒管の下部が蝙蝠傘のようにJの字に曲がっており、
リードには唇や舌が直接触れないように、
リードキャップが取り付けられているのが特徴です。
 
 
レバーを切り替えると、調律法と音の高さが変わります。
長い歴史の中で、
調律の方法や基準になる音の高さが少しずつ変わり、
作曲した時代の響きを、
出来るだけ忠実に再現出来るようにしてきました。
 
そして、もっと新しい曲を弾く時は・・・、
何と、パイプオルガン全体が回転し出しました。
まるで大掛かりな舞台セットのように3つのパートに分かれて
それぞれがどんでん返しして、メタリックな外観に早変わりしました。
これは世界で唯一の装置です。
 

『翳りゆく部屋』のパイプオルガン
東京カテドラル聖マリア大聖堂


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昭和51(1976)年、パイプオルガンで始まる
ポップスが登場しました。
ユーミンこと、荒井由実さんの『翳りゆく部屋』という
曲です。
パイプオルガンを使って録音されました。
編曲を担当し、パイプオルガンの演奏をしたのは、
音楽プロデューサーの松任谷正隆さんです。
 
「素晴らしいですね。何か、神の声が聞こえてくるみたい。
 それは、部屋が持つ性格、
 材質だったり、大きさだったり、天井の高さって
 凄く大きいと思いますけど。
 神憑った音を取ってみたいなと思ったんですよ。」
 
松任谷さんはこの響きに魅かれて、録音しました。
 
「『翳りゆく部屋』は、
 教会音楽的は要素が強い曲だったので、
 敢えてそういうものをやってみたかった。」
 
「当時は、クラシックとロックの融合が
 ブームとしてイギリス辺りであって、
 そういうアプローチをやってみたかった」
 
録音から44年・・・、再び、あの響きが蘇ります。
 


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  • 住所:〒112-0014
       東京都文京区関口3丁目16−15
  • 電話:03-3941-3029
 
 
 

美の壺2.風を操り、音を極める

 

オルガネット(鍵盤楽器奏者・武久源造さん)

 
ルネサンス時代の宗教画 
「オルガネット」と呼ばれる
携帯用のパイプオルガンが描かれています。
 
 
この「オルガネット」を今も演奏している人がいます。
鍵盤楽器奏者の武久源造(たけひさげんぞう)さんです。
 
「オルガネット」は、
「ふいご」で風を本体に送り、鍵盤を押すと、
パイプの下の弁が開いて音が出る仕組みになっています。
大きなパイプオルガンと同じ原理です。
 
 
「14世紀に、フランチェスコ・ランディーニという
 やっぱり僕と同じような盲目のオルガニストがいて、
 この人がオルガネットの名手で、
 この人が オルガンを弾くと、
 鳥達が集まってきて、一緒に合奏をしたと。
 それが得も言われぬ美しいものだったということですね。」
 
 
「バルダキンオルガン」という16世紀型のパイプオルガンは、
ふいご手と2人で演奏します。
 
 
 
大航海時代には、宣教師達がこうした楽器を携えて
世界中を布教して回ったと言います。
 


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⇧ 番組に出た「オルガネット」「バルダキンオルガン」の製作者、
  中西光彦さんの映像です。
 
 

パイプオルガンの製作
(横田宗隆オルガン製作研究所・横田宗隆さん)


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神奈川県相模原市に、
世界的なパイプオルガン製作者の工房があります。
横田宗隆さんは、昔ながらのパイプオルガンに魅せられ、
当時の技術にこだわっています。
 
パイプは錫と鉛を溶かした合金で作るのですが、
精錬技術が低かった時代に混ざっていた不純物を調べ、
わざわざそれを加える徹底ぶりです。
更に、パイプの表面には、微妙な凹凸を敢えて残して作ります。
 
横田さんは、日本、ドイツ、アメリカで修業を重ね、
以来、40年近く海外を拠点に活動してきました。
古いパイプオルガンの材料や作り方を徹底的に分析し、
量産技術の発達で途絶えた工法を解明。
欧米でも、名匠と呼ばれるまでになりました。
膨大な手間を掛けてまで昔のやり方にこだわるのには、
理由がありました。
 
「ひと言で言って、古い音はやはり違うんです。
 色々な人間の感情、あるいは人間以外の色々な物を
 表現する力がある。」
 
「具体的に言うと、
 持続音に残る雑音を完全にキレイにするのも良くない。
 ある種の雑音をある程度だけ残すと、非常に心地良い。」
 
風を送る「ふいご」も、
現代のパイプオルガンの多くは電気の力で風を作りますが、
横田さんは 人の力が起こす風のニュアンスにこだわっています。
 
横田宗隆オルガン製作研究所
  • 住所:〒252-0186
       神奈川県相模原市緑区牧野5584
 
 

宮崎県・日本福音ルーテル宮崎教会のパイプオルガン

 
宮崎県宮崎市の「日本福音ルーテル宮崎教会」には、
横田さんが日本に拠点を移してから最初に手掛けた
大型パイプオルガンがあります。
 
パイプオルガンは
置かれている空間全体が一つの楽器となって鳴り響きます。
そのため、音の確認は聴く人のいる場所で行わなくてはなりません。
 
横田さんがここで作ったパイプオルガンは、
バッハが活躍した、18世紀前半のドイツ中部の様式のものです。
こだわりは弦楽器「ビオラ・デ・ガンバ」に似た音を出す
「ストップ」です。
 

 
「この弓のね、最初のガリッという感じが出るんですけど、
 ガリッという発音が入っているガンバはなかなかないんですけど。
 非常に楽しかったですよ、これ 作るの。」
 

 
最終確認は、教会のオルガニストと行います。
横田さんのこだわりが詰まった「ふいご」。
演奏に合わせて踏む力を調節、生きた風を送ります。
 
牧師・富島裕史さん
「普通、教会では、パイプオルガンを入れるのは夢のまた夢。
 実現したのは、恵みの一言です。」
 
いにしえの音色に思いを馳せて、
新しいパイプオルガンに命が吹き込まれました。
 
  • 住所:〒880-0031
       宮崎県宮崎市船塚3丁目40
  • 電話:0985-24-5438
 
 

美の壺3.思いをつなぐ

 

紀州徳川家の徳川頼貞公のパイプオルガン
(東京上野・台東区立旧東京音楽学校奏楽堂)


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明治23年に建てられた、東京・上野にある旧東京音楽学校奏楽堂。
こちらの2階にある日本で一番古い洋式音楽ホールには、
演奏可能なパイプオルガンとしては日本最古のものがあります。
完成してから、今年で100年を迎えます。
 
このオルガンを購入したのは、
楽譜や音楽文献、古楽器類の収集家として知られ、
戦前における西洋音楽のパトロンでもあった、
「音楽の殿様」と呼ばれた、紀州徳川家16代当主の徳川頼貞公です。
 

  

 
自分の音楽堂「南葵楽堂(なんきがくどう)のために特注しました。
5年かけて、ようやくお披露目に漕ぎ着けたのも束の間、
大正12(1923)年9月の関東大震災で楽堂は損壊、
オルガン自体も大変な被害を受け、使用出来なくなってしまいました。
頼貞公はこのまま「南葵楽堂」でオルガンをキープするを諦め、
昭和3(1928)年に東京音楽学校(現・東京藝術大学)に寄贈されました。
それ以来、日本のパイプオルガン教育を支えてきました。
旧式ではあるけれど、今も現役。
すり減った象牙の鍵盤には、100年の歴史が刻み込まれています。
 
このパイプオルガンは、英国アボット・スミス社のものです。
徳川頼貞公は、ケンブリッジ大学留学中に、
新進建築家ブルメル・トーマスが設計する音楽堂に感銘を受け、
日本に本格的な音楽堂「南葵楽堂」を設置することを志し、
アボット・スミス社に7万円のパイプオルガンを発注しました。
当時の日本にはパイプオルガン技師はいなかったため、
英国人技師を招いて組み立てられました。
そこに一人の日本人オルガン技師が設置後の保守管理のため、
助手として招かれ、パイプオルガン建造技術を学びます。
彼はその後も研究を進め、国産初のパイプオルガン建造に成功。
国産パイプオルガン技術の礎となりました。
彼が勤めていた会社が現在のヤマハです。
 
  • 住所:〒110-0007
       東京都台東区上野公園8−43
  • 電話:03-5391-2111
 
 

新潟カトリック教会のドイツ製パイプオルガン


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明治4年に布教を始めた「カトリック新潟教会」に
90年以上愛されてきたパイプオルガンがあります。
国内で最も古い部類に属する歴史あるパイプオルガンに
今年、30年振りに大掛かりな修理が行われました。
 
このパイプオルガンはドイツ製で、
パイプの数はおよそ320本あります。
その全てがきれいに鳴るように、部品を一つ一つ調整していきます。
 
このオルガンを50年間弾き続けてきた中島萬里子さんは、
調子の悪いところを全て記録してきました。
 
今回の修理は、様々な人の思いで実現しました。
昨年亡くなられた神父の三崎良次さんは、
遺産をパイプオルガンの修理に使うようと遺言され、
それに信者からの寄付を足して、修理が実現したのです。
 
修理が終わり、初めてのミサの日を迎えました。
年月を経て、世代が変わっても、同じ場所で、同じ音色を奏でる。
いつまでも愛され続けるパイプオルガンです。
 
  • 住所:〒951-8106
       新潟県新潟市中央区
       東大畑通1番町 656
  • 電話:025-222-5024
 

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