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美の壺 「あんこ」<File 473>

 
<番組紹介>
▽小豆の粒の形をきれいに残しつつ、
 皮をやわらかく仕上げた絶品「つぶあん」、
 こだわりの製法に密着!
▽120年の歴史を誇る京都の和菓子店。
 小豆を手作業で徹底的にこし、
▽雑味をなくした“淡雪のような”「こしあん」とは!?
▽五色のカラフルなあんこ、
 色に込められた“もてなし”の心とは!?
▽元テキスタイルデザイナーが
 自由な発想で開発した新たなおはぎの数々!
▽さらに、あの“いちご入りの大福”開発秘話も!
 
<初回放送日:初回放送日:平成31(2019)年04月12日>
 
 
 
古くは室町時代から食べられてきた「あんこ」。
長い年月をかけ研ぎ澄まされてきた味や色、華やかさ。
その奥深い魅力を味わいましょう。
 
 

美の壺1.小豆のおいしさを求め生まれた輝き

 

究極のつぶあん(「億万両本舗」和菓子職人・山田強さん)

 
究極とまで言われる「粒あん」があります。
作っているのは、この道50年の
億万両本舗 和作」の和菓子職人・山田強さんです。
 

 
山田さんは若い時から
宮内庁御用達の老舗和菓子店で修行を積み、
その後、和菓子界の巨匠と呼ばれる
高山石雄の一番弟子として指導を受け、
昭和52(1977)年に横浜市で独立開業しました。
 

 
山田さんは、テレビ東京系列「TVチャンピオン」の
400回記念「和菓子職人チャンピオン大会」で優勝するなど、
高い評価を受けてきた凄腕の職人です。
優勝した時の作品「夢桜」や「いちご桜餅」などの
オリジナル商品を生み出してきました。
「億万両最中」は神奈川県指定銘菓でもある看板商品です。
 

 
 
「小豆の皮をまず柔らかく小豆の粒を崩さないで煮る。
 この技術を私は大事にしています」
 
山田さんが使う小豆は、
粒が大きく形が整った北海道十勝産のものです。
この粒の形を、どこまでキレイに残せるかが勝負です。
 

 
まず小豆から出る黒い渋は捨てて、豆だけを上げます。
カゴに入れて蓋をするのは、
煮た時に豆が踊って皮が破れないようにする工夫です。
圧力釜で1時間、小豆の皮を徹底的に柔らかくします。
あんこの甘味を決める蜜は手作り。
雑味の少ない新潟県津南町の湧き水に氷砂糖を入れます。
氷砂糖の結晶化した糖分は純度が高いため、
スッキリとした甘味になるのだそうです。
 

 
煮上がった小豆を水につけ、
甘味をじっくり染み込ませていきます。
一昼夜置いて、甘味を更に浸透させるために煮詰めて、
甘くした蜜をかけます。
この作業を次の日も繰り返して、
甘味を芯まで染み込ませたらいよいよ総仕上げ。
粒が崩れないように優しく練り混ぜるのも匠の技。
完成を見極めるのは、長年の経験と勘です。
 
「常にあんこの硬さを見ながら、作ってすくって、
 垂れた具合で冷めた時の硬さが分かるんです。」
 

 
光り輝く粒あん。
粒の中から表面まで、
甘味と柔らかさを行き渡らせる努力が生んだ
美しさです。
 

 
 
  • 住所:〒241-0004
       神奈川県横浜市旭区
       中白根1丁目9-13
  • 電話:045-953-8139
 
 

淡雪のようなこしあん(「今西軒」店主・今西正蔵さん)

 
京都の中心部に、評判のおはぎがあります。
たっぷりのあんこですが、意外と甘さは控えめです。
この手間暇掛けられたおはぎを求めて開店時には行列が出来、
午前中には売り切れてしまいます。
 
明治30(1897)年創業の老舗「今西軒」(いまにしけん)という
おはぎの専門店です。
元々は、餅菓子が作られていましたが、
現在の4代目・今西正蔵さんに受け継がれた時、
「おはぎ専門店」になりました。
 

 
 
おはぎは、つぶあん・こしあん・きなこの3種。
一番人気は「こしあん」です。
 
店の4代目・今西正蔵さんは、
祖父がこだわった手作業での「こしあん」作りを
大事に守っています。
 
普通のあんこよりも薄い紫色。
きめ細かな、とろけるような食感は
小豆の皮を濾すことにこだわり抜いたことに
生まれたものです。
小豆の皮の、ごく小さなかけらまで取り除きます。
 
「濾すことに関しては
 全部の作業が大事になってくるんで、
 どこにも手を抜くところはないです。」
 

 
まずは北海道産の小豆を
昔ながらのおくどさん(竈)で3時間程煮て、
皮を柔らかくしてから濾します。
使う竹ざるは、お祖父様が使っていたものと同じ
手作りのものだそうです。
 
「太さがあるでしょ、竹ざるの井桁のね。
 この太さも結構大事なんですよ、
 目が細か過ぎたら落ちひんからね。」
 

 
水にさらした後、上澄みを捨てます。
これを何度も繰り返し、えぐみなどの雑味もなくしていきます。
それでもまだ残る細かな小豆の皮を
とことん見逃さずに徹底的に取り除いていきます。
 
その後、ようやく仕上げに取り掛かります。
砂糖を加えたら、ごくごく弱い火にかけて混ぜて、
納得のいく、いい色を探ります。
 
「火加減を強くすると赤っぽい色になる。
 火加減が弱いときれいな色に上がります。
 ただ弱いとすごい時間がかかります」。
 
膨大な手間をかけて生まれた
薄紫のきめ細かなこしあん。
口に含めば淡雪のようにふわりと溶けて広がり、
小豆の風味を豊かに伝えてくれます。
 
今西軒
  • 住所:〒600-8179
       京都府京都市下京区横諏訪町312
  • 電話:075-351-5825
 
 
 

美の壺2.豊かな色彩がもたらす味わい

 

「色鮮やかなあんこに包まれて」
(「菊壽堂義信」17代目店主・久保昌也さん)

 
大阪・キタのビジネス街の高麗橋。
その通りを少し入った一角に知る人ぞ知る
あんこの名店があります。
大阪屈指の老舗和菓子店「菊寿堂義信」(きくじゅどうよしのぶ)です。
 

 
名物の「高麗餅」(こうらいもち)は、
抹茶あん、つぶあん、こしあん、ごまあん、白あんの
5種類で1セット。
餅米の粉を練った求肥をあんこでギュッと包んであります。
 
「菊寿堂義信」の創業は天保年間で、
現店主は17代目の久保雅也さんです。
ギュッと握ったお菓子「高麗餅」は、昭和34(1959)年頃に先々代が
「うちで使ってるあんこをそのまま食べてもらえるお菓子」と
考案した商品で、
歌舞伎役者の8代目 松本幸四郎(初代 松本白鸚)さんが
その名付け親です。
現・松本白鸚さん、昨年亡くなられた中村吉右衛門さんのお父様です。
そう言えば、「高麗屋」だった。
 

 
「昭和30年代は、
 昔でいう喫茶店ってそんなになかったんですよね。
 5色にしたってのは、
 1種類で5個っていうのは凄くしんどいけれども、
 あんこが全部違えば召し上がれますもんでね」
 
5種類のあんこには、それぞれ様々な手間と工夫が施されています。
「抹茶あん」は京都と宇治の抹茶で色を付けています。
「ごまあん」は色合いの良いゴマを砕いて、
まんべんなくまぶしています。
 
最も手間が掛かるのは、白小豆で作る「白あん」です。
白小豆は色も風味も赤い小豆より繊細なため、
それを損なわないようにしなければなりません。
 
白小豆は2時間程煮ます。
これ以上煮ると色が黄色くなってしまいます。
皮を濾こしたら流水に1時間に浸して、
上澄みが透き通るまで徹底して雑味を取ります。
仕上げにも注意が必要です。
砂糖から出るわずかなアクを
落し蓋を使って丁寧に取り除いていきます。
 
柔らかな色に仕上げられた白あん。
他のあんこの色も引き立てる欠かせない存在です。
 
菊寿堂義信
  • 住所:〒541-0043
       大阪府大阪市中央区高麗橋2-3-1
  • 電話:06-6231-3814
 
 

「目で味わうおはぎ」(「森のおはぎ」店主・森百合子さん)


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大阪府豊中市の岡町商店街の一角に、
朝から絶えず行列が出来ているお店があります。
森のおはぎ」というおはぎ屋さんです。
わずか3坪程の大きさのお店ですが、
何と1日最高3000個を売り上げたこともあるんだとか。
 

 
 
「可愛過ぎて食べるのがもったいない!」と
口コミで評判の「おはぎ」は、まんまるの可愛いフォルムをした
2口で食べ終わってしまうミニサイズ。
使用されている素材の多くは国産で、
合成着色料は使用せず、自然のもので色を出しています。
 
店主の森 百合子さんは、元々は布地や織物をデザインする
テキスタイルのデザイナーでした。
おはぎ好きが高じて、
平成22(2010)年に「森のおはぎ」を開業しました。
こだわりは、目でも味わえるおはぎです。
 
黒い粒あんがベースの「大納言」「深煎きなこ」の他、
白い粒あんをベースにし、
京都の老舗のほうじ茶を細かく砕いて練り込んだ
「ほうじ茶黒米もち」、
博多ジョーキュウ醤油の再仕込醤油で作った
みたらしのたれで包んだ「本醸造みたらし雑穀もち」、
白あんにクルミを混ぜ、
ほんのりピンク色になった「クルミあん」の
5種類が定番のおはぎ。
それに季節のおはぎが3種類と計8種類の「おはぎ」が
水屋たんすの上に木枠で出来たガラスケースの中に並んでいます。
 
 
春、森さんが混ぜているのは、「桜の塩漬け」です。
よく見るトッピングとしてではなく、
森さんは「花弁」だけを摘み取ってあんこの中に混ぜ込みます。
 
「着色してピンクにするのはどうしてもイヤで、
 本来の花弁が入っているピンクがシンプルなのかな」
 
あんこに合わせるのは、淡い緑のよもぎ餅です。
包み方にもこだわりが。
 
「包み過ぎないないようにしています。
 あんと餅が少しずつ見えて、
 全体の見た目の色合いが可愛らしいように包みます。」
 
新たな魅力を与えられた新しい楽しみ方も生み出しているようです。
ピンクと緑の淡い色の組み合わせ。
春満開のおはぎです。
 
「美味しいものって、
 一見、舌で味わっているような気がするじゃないですか。
 でも実は最初って目で、色合いだったりフォルムというか。
 お客様に寄り添ったような
 温かみのある可愛らしさを大切にしています。」
 
ひとつひとつ、自由な発想でつくられたおはぎ。
あんこを愛する心が生んだ、唯一無二の味わいがあります。
 
  • 住所:〒561-0881
       大阪府豊中市中桜塚2-25-10
  • 電話:06-6845-1250
 
 
 

美の壺3.あんこと食材意外な出会い

 

「池波正太郎が愛した老舗のあんこ」
(甘味処「竹むら」社長・堀田正昭さん)


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東京・神田にある、昭和5(1930)年創業の甘味処「竹むら」は、
作家の池波正太郎も通ったことで知られる
「粟ぜんざい」と「揚げまんじゅう」が名物の甘味の老舗です。
 
入母屋造りで木造3階建てですが、
外観では屋根と庇で4層にも見えます。
2階の欄干には職人の手による竹と梅模様が彫られ、
軒下に木製の提灯が下げられています。
東京都選定歴史的建造物に指定されています。
(池波さんは「汁粉屋」と書いていました)
 
池波正太郎のエッセイ
『散歩のとき何か食べたくなって』には、
お酒を飲んだ後に、
「竹むらの座敷に座って『あわせんざい』を食し、
 『揚まんじゅう』をおみやげに包んでもらっていた。」
とあります。
 
漆黒のあんこの下に覗くのは黄色が鮮やかな粟。
池波正太郎は、この「あわぜんざい」の魅力を度々語っていました。
 
「粟ぜんざいの、香ばしく仕上げた粟と
 滑らかに練り上げたあんのコンビネーションは
 依然、私の舌を楽しませてくれる」
「酒後の甘味は体に毒だというが、
 酒飲みにはこの甘味がたまらないのだ」
 
 
竹むらの味を継ぐのは、三代目店主の堀田正昭さんです。
時代が変わり世の中も変化しているので、
創業当時と全く同じ原料を使用することは
難しくなってきましたが、
あんこの作り方は90年前の創業当時から変わっていません。
 
粟はあんこの色にも映える色の良い国産を使用しています。
せいろで蒸した後に手で軽く揉むのは、
ねばりを出し、あんこを絡みやすくするための工夫です。
 
「もちもち感があって、粘りがあって、
 口の中で粟とあんこがふっと溶けていくみたいな感じのことを
 よくおっしゃいますね」
 
竹むら
  • 住所:〒101-0041
       東京都千代田区神田須田町1-19
  • 電話:03-3251-2328
 

 
 

「フルーツとあんこのマリアージュ」
(「大角玉屋 本店」の大角和平さん)


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東京・新宿曙橋にある「大角玉屋本店」は大正元(1912)年に創業し、
1980年代半ばに「いちご大福」を生み出し、一大ブームを作った、
「元祖いちご大福」のお店です。
 
今でこそ「いちご大福」にも様々な種類があり、
搗いた餅ではなく甘い求肥餅を使ったり、
白あんを使ったものもありますが、
大角玉屋本店」のものは伝統的な豆大福でいちごを包んだ
「いちご豆大福」です。
 
 
この「いちご豆大福」を生み出したのは、
大角玉屋本店」の3代目の大角和平さんです。
昭和60(1985)年に豆大福にいちごを入れて、売り出しました。
 
「ヒントはショートケーキでした。
 その頃は、和菓子に生の果物を
 そのまま入れるっていう習慣がなくて・・・」
 
試行錯誤の末目を付けたのが店で出していた「豆大福」でした。
しかし、ただいちごを入れただけの大福は美味しくありませんでした。
個性が強いイチゴの味にあんこが負けてしまうのです。
そこであんこの風味をより強くするため、
普段は捨ててしまう小豆の渋を敢えて使うことにしました。
 
「煮たまんまの煮た汁でもって炊きあげちゃうんです。
 そうするとそのまま小豆の風味がよく残りますから、
 逆にちょっと渋みも残りますが、これが美味しさになるんです。」
『大角玉屋』のいちご豆大福は、
 
甘味を更に引き立たせるため、加える塩の量も増やして、
風味を強くしたあんこが完成。
発売された「いちごの豆大福」は、
一見ミスマッチなあんこといちごの絶妙の相性が受け、
一大ブームを巻き起こしました。
 
「今に比べると、お客様も、例えば初めて見て変わった商品でも
 買って食べてみようという冒険心があったんですよ。
 勿論、昔ながらのお菓子ずっと続けるのもいいんですけれども、
 それプラス自分がいろいろ創作して作っていくというのは
 魅力ですからね」
 
職人の思いと人々の冒険心が響き合い生れた「いちごの大福」。
あんことフルーツの思いがけない組み合わせが
和菓子に新しい風を吹き込みました。
 
  • 住所:〒162-0065
       東京都新宿区住吉町8−25
  • 電話:03-3351-7735
 

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